職場のパワハラに泣き寝入りせず、責任を追及するために、パワハラのメモを作ることから始めましょう。録音などがあればなおよいですが、自身で手書きしたパワハラのメモも、証拠として活用することができます。
パワハラの被害を受けた際にメモを取ることが、証拠集めの第一歩です。メモがあれば、パワハラの状況や加害者の発言を詳細に記録でき、裁判でも有力な証拠となります。ただ、信用性が低くみられるリスクがあるので、時系列に沿って具体的に記録するなど、メモの取り方に工夫を要します。なかには「メモしか証拠がない」という被害者もいますが、効果的なメモがあれば、それだけでも訴えを起こすこともできます。
今回は、パワハラのメモの作り方と、メモをもとに訴える方法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
パワハラのメモが証拠となる理由
パワハラのメモは、パワーハラスメントを受けた際の有力な証拠となります。まず、メモの役割とその重要性について解説します。
パワハラのメモの重要性
パワハラのトラブルは、思いも寄らないタイミングで起こり、録音や目撃証言を入手できない可能性があります。陰湿なパワハラは他人の目に触れにくい状況で行われますし、目撃者がいても、社内の人だと協力を得られないこともあります。録音できても音声が途切れて聞こえづらいなど、十分でないおそれもあり、このようなときこそ、パワハラのメモの重要性が増します。
パワハラのメモには、次の役割があります。
- 事実の記録としての役割
メモによってパワハラが起こった正確な状況を記録できます。継続的なパワハラでは、その頻度や回数、悪化の程度を明確にすることができます。 - 法的証拠としての役割
メモは、労働審判や訴訟といった裁判手続きで証拠となります。時系列で整理され、具体的かつ詳細に記録されたメモは強力な証拠となり、パワハラを立証する助けとなります。パワハラ前後の事情をあわせて立証できる点は、録音や録画などにはない、メモ特有のメリットです。 - 第三者への説明を補助する役割
社内の窓口に相談し、会社が内部調査を進める際にメモがあると、被害者として第三者に状況をスムーズに説明でき、被害の深刻さを理解してもらいやすくなります。
「パワハラの相談先」の解説
手書きのメモでも裁判で証拠になる
民事裁判は、刑事裁判に比べ、幅広い方法による立証が許されます。そのため、手書きのメモだからといって排除されることはなく、証拠として提出できます。注意したいのは、パワハラのメモの信用性は、一般に低いと考えられている点です。ポイントを押さえて作成しなければ、信用性が低い結果、裁判所であまり重視されず、受けた被害の通りの事実認定がされなくなってしまいます。
したがって、手書きのメモも裁判で証拠にはなるものの、「パワハラのメモを効果的に作成する方法」の信用性を高める工夫を理解し、作成時から注意しておきましょう。
なお、被害者にとって、受けたパワハラをメモすれば、パワハラに対抗して行動を起こした実感を得られ、安心感をもって仕事に臨めるという副次的なメリットもあります。パワハラを受け続けるストレスは相当なものでしょうから、すぐに争う決断が付かない場合も、メモに残して感情を整理することで、将来に備えておけます。
「パワハラの証拠」の解説
パワハラのメモを効果的に作成する方法
次に、パワハラのメモを効果的に作成する方法を解説します。
パワハラのメモを作る目的は、会社や裁判所といった第三者に、パワハラの事実を説得的に説明することにあります。労働審判や訴訟といった裁判手続きで役立てるには、信用性を高めるために次の工夫をする必要があります。
事実関係を時系列メモで整理する
パワハラのメモを取る際は、事実関係を時系列で整理することが大切です。記録を取るときに、できるだけ正確な日時を記録し、前後関係が混乱しないよう注意してください。
裁判では、パワハラ行為の内容や態様だけでなく、問題行為に至った経緯もまた重視されます。トラブルになった経緯を知ることは、加害者の責任がどれほど重いか、被害者にも非はないかといった点で、パワハラの責任の程度を決めるのに重要だからです。時系列で事実関係を整理してメモすることで、前後の経緯や流れをよく理解してもらうことができます。
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複数のメモを継続的に積み重ねる
パワハラのメモを信頼のおけるものにするためには、単発のメモではなく、複数のメモを残し、継続的に記録することが重要です。問題行為が起きた瞬間だけを記録するのではなく、日記をつけるなど、習慣的にメモするくせをつけることが、信用性を高める助けになります。
複数のメモが、時系列に沿って一貫性を持っていることも大切です。パワハラ行為は、「無視から暴言、そして暴力へ」というように徐々にエスカレートし、悪化することが多いです。理由なく突然に悪化したり、止んだりといった不自然な流れは、裁判所に信用されない危険があるため、被害の継続性や加害者の行動パターンが、メモを通じて示せるとなおよいです。
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パワハラの詳細を具体的にメモする
パワハラのメモは、詳細な事実を、具体的に記載しましょう。抽象化したり、単語の羅列であったりすると信用されず、「記憶違いではないか」「嘘をついているのでは」と疑われる原因となります。「具体的」とは、少なくとも「5W1H」の情報が含まれている必要があります。そのため、パワハラの加害者、日時、場所、態様などを必ず記載してください。
メモでは感情的な表現を避け、具体的な事実のみを冷静に、かつ、客観的に記述してください。感情的な表現や、個人の評価まで記載すると、「脚色なのではないか」と疑われ、証拠としての信用性を損なう危険があります(例えば、「ひどい暴言」というメモでは、どの程度「ひどい」のかが第三者に伝わらないため、発言そのものを記録するようにします)。
書式に決まりはないですが、企業側のヒアリングシートが参考になります(例:厚生労働省「パワーハラスメント相談記録票)。後で他人が読むことを考え、丁寧な字で書くよう心掛けてください。
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パワハラの直後にメモを作成する
パワハラのメモは、被害を受けた直後に作成しましょう。ハラスメント発生時からメモ作成まで、なるべく時間を空けないようにするのがポイントです。事実があった時点と近い時期に作成された文書の方が真実を表していると考えられ、信用性の高い文書となるからです。直後なら記憶は鮮明で、詳細に書きやすいため、具体性あるメモを作成するのにも繋がります。
裁判例でも、メモの信用性について「本件紛争が発生する前に作成され、日記という継続的な記録の一環として作成されたものであるから、他に特段の事情なき限り、信用性が高いと認められる」と判断した事例があります(福岡高裁平成25年7月30日判決)。
弁護士のサポートを受ける
パワハラの責任を追及する際や、訴訟の提起時に弁護士を依頼すべきなのはもちろん、その準備としてメモを作成する段階でも弁護士のサポートが不可欠です。裁判の経験が豊富な弁護士なら、どのようなメモが裁判所に証拠として評価されるかを理解し、最大限メモを活用するためのアドバイスが期待できます。
パワハラがまだ軽微であるなど、早期の段階で法律相談をしておくことで、あらかじめ争う際の戦略を立てておけます。メモでどのような事実を立証するか、また、メモ以外の証拠と組み合わせてどのように戦うかといった裁判の戦略に基づいた準備が可能です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
メモだけでもパワハラを訴えることができる
パワハラのメモは、被害を訴える際の強力な証拠になるものの、メモしか手元に頼りになるものがないと「訴えることができるのか」「訴えたとして勝てるのか」と不安になるでしょう。
結論として、パワハラの証拠がメモしかなくても訴えることはできますが、勝訴を目指すならメモだけでは心許なく、勝つためには対策を講じておく必要があります。
証拠が不十分でも訴えることはできる
そもそも、証拠がなくても訴えることは可能です。裁判を受ける権利(憲法32条)があり、証拠が不十分だからといって訴えを却下することはできません。訴えた結果、相手が請求を認諾すれば、確定判決と同じ効果が発生しますし、相手が認めた事実(自白)については、必ずしも証拠がなくてもこちらの主張通りの事実認定がされる可能性が高いです。
したがって、パワハラの証拠がメモしかなかったとしても、訴えることは可能ですから、あきらめてはいけません。ただ、証拠の価値は自由心証主義(民事訴訟法247条)に基づいて裁判所の判断によって決まるため、「必ず勝てる」というわけではありません。少しでも勝率を上げたいなら、次章「メモだけでは不十分なケースと対策について」の通り、証言や録音などと組み合わせ、判断資料を充実させる必要があります。
「裁判で勝つ方法」の解説
メモだけでは不十分なケースと対策について
「証拠がなくても訴えることはできる」と解説しましたが、実際にはメモだけでは十分でない場合があります。訴訟で勝てる確率を上げるためにも、メモ以外の証拠や証言と組み合わせることが重要です。残念ながら、メモだけでは不十分なケースには、例えば次の場合があります。
- 信用性の低いメモしかない
内容が曖昧だったり一貫性に欠けていたりすると、メモの証拠価値が低く、それだけでは裁判で思うように認定してもらえないおそれがあります。このような事態を避けるためにも「パワハラのメモを効果的に作成する方法」が重要です。 - 他の証拠と矛盾している
被告となるパワハラ加害者や会社も、自身に有利な証拠を提出します。その結果、労働者の用意したメモが他の証拠と矛盾し、整合しないと、信用性が損なわれます。
このように、メモが証拠として弱い場合には、訴訟で勝つために、録音や録画、目撃証言といった証拠と組み合わせ、補強することが重要です。
被害者や目撃者の証言で補足する
他の被害者や目撃者の証言で補足することが対策となります。メモの内容が証言と一致すれば、信用性を強めることができるからです。自分以外の証言は、自身の利益に沿ってコントロールできないので、特に信用性が高いと考えられます。
誰にでも当たり散らすワンマン社長やブラック上司のパワハラ被害なら、他の被害者との共闘が期待できる事案もあります。社内の立場に配慮した目撃者から、協力を拒否されてしまう場合は、会社の調査で作成されたヒアリングメモなども証拠になります。
録音と併用して証拠を強化する
今からでも録音ができるなら、少しでも多くの録音を取り、メモと併用できるようにしましょう。「事実」はパワハラのメモに記載できますが、表情や声色、口調やニュアンス、声の大きさなどが反映されない端的なものであると、パワハラのひどさが伝わらないおそれがあり、録音との併用が効果を発揮します。
また、パワハラと指導の境界が曖昧なケースでも、録音と組み合わせることで、指導ではあり得ない言い方、人格否定的な発言を証明することができます。
「パワハラの録音」「パワハラと指導の区別」の解説
パワハラのメモについてよくある質問
最後に、パワハラのメモについてのよくある質問に回答しておきます。
パワハラのメモを取るタイミングは?
メモはパワハラの発生直後に取るのが最も効果的です。直後に作成すれば事実を正確にメモに残せるからです。
パワハラを受けながらメモするのが現実的でないときは、終業後や休憩中でも構いませんが、時間が経つと記憶が曖昧になり、メモの信用性も薄れてしまうので、できるだけ早いタイミングで着手してください。
パワハラのメモを取ることで起こるトラブルは?
職場でメモを取ることで、かえってトラブルを増やすリスクもあります。
自分の経験をメモするのは違法ではないものの、加害者にとって記録を残されると不利なので、嫌がらせや報復を受ける危険があります。休憩中や一人の時間に目立たないようメモを取り、パワハラを会社に相談する以前は第三者に見せない、といった注意をしてください。
パワハラのメモだけで訴訟に勝つことができる?
メモはパワハラの重要な証拠となり、それだけでも裁判を起こせると解説しましたが、実際に勝訴するには、他の証拠と組み合わせて証明力を高める必要があります。
裁判官の心証を考慮し、メモなどの証拠を効果的に準備するには、弁護士のサポートが不可欠です。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
まとめ
今回は、パワハラのメモの重要性や作り方について、詳しく解説しました。
パワハラに立ち向かうには、メモを作成するのが非常に役立ちます。加害者や会社の責任を追及する際に必要な証拠のなかでも、パワハラのメモの重要性は高いです。メモを取ることで証言や録音ではカバーできない細かな事実を認定してもらえる可能性がありますし、最悪は、他の資料が集まらなくても、メモだけで裁判を起こすことができます。
パワハラを受けた最中や直後にメモし、被害の詳細を正確に記録することは、社内での解決を図る場合も、訴訟に発展した場合にも有力な証拠となります。裁判で役立つメモとするには、内容を充実させ、具体的なパワハラの事実を記録することで信用性を高める必要があります。メモによる証拠集めは日々の努力の積み重ねなので、いざ訴える決断をしたときの準備のため、パワハラのメモをしっかりと増やしておいてください。
パワハラ被害に耐えられなくなる前に、適切な解決方法について弁護士のアドバイスをお受けください。
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