日本は、夏から秋にかけて台風の季節となります。台風が直撃する地域では、強い風雨で出社もままならないこともしばしば。公共交通機関がストップすれば、通勤が難しい労働者も多いでしょう。
台風が直撃して会社が休みになったとき、給料がもらえるのか、心配でしょう。台風を理由とした休みでも、無給にされてしまうのでしょうか。台風とはいえ仕事はできそうなら、休業や欠勤扱いにされて給料が払われないのでは困ってしまいます。
早いうちに帰宅するよう労働者に命じるホワイトな企業もある一方で、果たして有給扱いとなるのかが心配で、休むことができない人もいるでしょう。逆に「台風がどれだけ危険でも出社しろ」というブラック企業も、非常に問題です。
今回は、台風の影響で仕事ができないときに、労働法ではどのように扱われるのかについて、弁護士が解説します。
- 台風による休みは、ノーワーク・ノーペイの原則で給料をもらえないのが基本
- 台風が理由でも「使用者の責めに帰すべき事由」があれば6割の給料が保障される
- 台風の危険があるのに出社を強要されたら、安全配慮義務違反の責任がある
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台風による休みにもノーワークノーペイの原則が適用される
天災地変は、労働者・会社の双方いずれの責任でもありません。両者に「帰責事由」のない事情による休業は、ノーワーク・ノーペイの原則により判断されます。
ノーワーク・ノーペイの原則は、働いていない時間については対価である給与が発生しないというルールです。
つまり、労使いずれの責任でもない台風などの災害の場合、原則に立ち返り、労働しかなった時間分の給料は支払われないこととなります。したがって、台風による休みで仕事をしなければ、給料はもらえないのが基本です。
ただし、台風によって休業にした会社が、本当に責任を負わないのか、よく検討する必要があります。注意しないと、本来ならもらえた給料を損してしまいます。例えば、台風の程度が軽度なのに、念のために仕事を休みにした場合には、会社の判断による休業命令であり、つまりは会社に責任があると評価できる場合があります。要は、休みにしたことが「台風」を原因とするのか、それとも「会社の判断」なのかがポイント。会社に帰責事由なしといえるのは、例えば次の場合です。
- 台風の直撃により、家から外に出ることすらできない
- 公共交通機関が終日ストップし、交通手段がない
- 公共交通機関の遅れがひどく、会社にたどり着けない
- 通勤中にケガする可能性が高く、危険がある
このような場合、その休みは「台風」が原因といえるので、給料は払われません。これに対して、多少の強風や雨ならば出社は可能であり、仕事ができる場合もあります。交通機関といっても地下鉄などは台風に強く、動き続けていることも多いもの。この場合は休業を決断するなら会社の責任と負担ですべきで、出社して仕事ができたのに休みにされたり早く返されたりしたなら、その分の給料を請求すべきです。
判断に悩む場合には、労働問題に精通した弁護士への相談が有益です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
台風による休みで休業手当をもらえるケース
労働基準法では、「使用者の責めに帰すべき事由」によって休業となった場合には、会社は労働者に対して休業手当を払う義務を負います。この休業手当は、平均賃金の6割に相当する額として計算されます。労働基準法26条の定めは次の通りです。
労働基準法26条
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
労働基準法(e-Gov法令検索)
そのため、会社側の都合で休業するなら、平均賃金の6割は保障してもらうことができます。労働者としても、勝手に仕事がなくなって、給料すらもらえなくなるのでは困るからです。
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台風による休みに、有給休暇を充当されてしまったら?
会社のなかには、台風が来たら、(それほど危険でなくても)休みにしたいこともあるでしょう。以下の例をイメージしてみてください。
例えば、台風で客足が遠のく接客業や店舗、ホテルなどのケースは、台風なのに無理にスタッフを出社させたところで、お客さんが来ず仕事は少ないでしょう。また、台風なのに無理に出社させても、事実上、仕事がなかなか進まないこともあります。
現実問題として早く帰らせなければならないと、まとまった労働時間は確保できないこともあります。その反面で、「休業にすれば、給料を払わなくても済む」といった会社側の思惑もあります。
悪質な会社は、休業手当の支払いを回避するため、有給休暇を充当させようとすることもあります。しかし、台風による休みだとしても、有給休暇を勝手に充てることは許されません。有給休暇は、勤続の功労に対して与えられる労働者の権利であり、取得するには労働者の申請が必要です。権利とはいえ、勝手に行使させられるのは違法で間違いありません。そのため、会社が労働者に無断で、一方的に有給休暇を使わせるのは、たとえ台風という事情があってもおかしいことです。
なお、労働者が、台風の不都合を回避すべく有給休暇を申請することはできます。例えば、次のケースでは、有給休暇を検討してもよいでしょう。
- 他の社員は出社できるが、自分の地域は特に台風がひどい
- 普段利用している交通機関が、台風でストップしてしまった
- 台風で学校が休みになったので子どもの面倒をみなければならない
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【ケース別】台風による休業中の給料がもらえる?もらえない?
以上が、休業と給料についての基本的な考え方です。しかし、実際に台風が来て仕事が休みになったときには、ケースに応じた検討を要します。そこで、具体的な事例に即して、どのような場合に給料がもらえるのか(あるいは、もらえないのか)を解説します。
交通機関が止まって通勤できない場合
台風を理由に交通機関が完全にストップすれば、そもそも通勤すること自体できません。この場合、労働者が働けない理由は、「使用者の責めに帰すべき事由」ではなく、台風の直撃など、自然現象による不可抗力で欠勤せざるを得なかったと考えられます。したがって、基本に戻ってノーワーク・ノーペイの原則にしたがい、給料はもらえないことになります。
屋外の業務で進めるのが困難な場合
建設業のように、屋外作業を必要とする業務では、台風が来ると仕事はできないでしょう。台風などの自然現象で、業務遂行がそもそも不可能な場合も、「使用者の責めに帰すべき事由」ではありません。この場合もまた、ノーワーク・ノーペイの原則にしたがって給料はもらえません。
会社の判断で休業とした場合
これに対し、交通機関は一応動いていれば、出社はできるでしょう。台風の勢いも、生命に危険が及ぶほど強風でなければ、仕事をするのが原則となります。このような場合に、会社の判断で休業とするなら「使用者の責めに帰すべき事由」であり、仕事が休みの理由が台風など自然災害でも、少なくとも給料の6割が、休業手当として保障されます。
「休業手当の計算と請求方法」の解説
台風による客足減少が理由で休業した場合
台風が直撃すると、お客さんが少なくなる可能性が高い業種もあります。例えば、ホテルや飲食店、レジャー施設などのケースです。
街中を往来する人の数も減り、台風が直撃した日の繁華街は、「開店休業」状態かもしれません。しかし、客足減少を理由とした休業もまた「使用者の責めに帰すべき事由」といえます。したがって、労働者は最低でも、給料の6割を休業手当として保障してもらう権利があります。
出社を命じられたが台風で行けなかった場合
業種によっては、台風の直撃によって緊急対応が必要なこともあります。例えば、病院や工事現場などでは、台風への対策は必須といえるでしょう。むしろ、台風が来ることによって多忙になる業種もあります。台風が直撃した状況で、出勤できるにもかかわらず、「出勤を命じられたが労働者が大事をとって休んだ」という場合は、通常の欠勤と同様にノーワーク・ノーペイの原則が適用され、賃金は支払われません。
月給制であり欠勤控除がない場合(完全月給制)
以上の基本的な考えによらず、働いた時間にかかわらず給料を控除されない労働者もいます。いわゆる「完全月給制」の労働契約のケースです。この場合、台風が理由でもそれ以外の理由でも、そもそも欠勤したからといって給料を控除されることはありません。
完全月給制は、正社員で多く採用されます。正社員では月の給料が決められるだけで、遅刻、欠勤では給料が変わらないケースがあるのです。これに対し、日給制ならノーワーク・ノーペイの原則にしたがい、休んだ日の給料は控除されます。また、月給制のなかにも、欠勤控除は行うという給料形態(日給月給制など)もあります。
「遅刻を理由とする解雇」の解説
台風でも出社するよう命じられた時の対応
台風で外がとても危険な状態なのに休みにならず、出社を命じられるケースもります。従業員の危険をかえりみず、会社の利益だけを追及して無理やり出社させ働かせようとするなら、ブラック企業で間違いありません。「台風なのに休みにならないのはおかしいのでは?」という疑問を有する状況では、会社に従うべきではないことがあります。
あまりに危険が大きい台風なら、会社の命令に応じて出社するのは止めましょう。出社の命令に応じなかったとして給料を控除されるおそれがあっても、安全と引き換えにはできません。断ってもなお無理に出社させようとして脅したり、圧力をかけたりするのは、違法なパワハラです。
危険が明らかなら、欠勤しても労働者の責任ではありません。理由ある欠勤なのに責任を追及されて処分されれば不当処分。最悪は、欠勤を理由に解雇されたとしても、違法な不当解雇であり、無効です。解雇には、正当な解雇理由を要するところ、「台風が危険なので、出社できなかった」というのは、解雇の理由として不適切です。
更に、会社には、労働者を健康的で安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)があります。台風で外が危険な状態なのに出社を強要したり、家に帰れない危険があるのにオフィスに留まらせたりといった扱いは、安全配慮義務違反となります(この場合、被った損害について、慰謝料をはじめとした損害賠償請求をすることで会社の責任を追及できます)。
まとめ
今回は、台風で会社が休みになったり、仕事を休んでしまったりしたときの対応を解説しました。
台風は天災の一種であり、労働者にはコントロールすることができません。台風が原因で会社に行けなかったり、仕事を休まざるを得なかったりしたのは、誰の責任にもできないでしょう。しかし、台風をはじめとした天災が原因となって仕事ができないとき、給料の支払いに関するルールは法律で決められています。
本来もらえたはずの給料を請求せず損しないために、本解説をよく理解してください。なお、安全はお金では変えませんから、台風が危険なのに、安全配慮義務に違反するような出社命令を受けたときは、出社を拒絶するのが正しい対応です。
- 台風による休みは、ノーワーク・ノーペイの原則で給料をもらえないのが基本
- 台風が理由でも「使用者の責めに帰すべき事由」があれば6割の給料が保障される
- 台風の危険があるのに出社を強要されたら、安全配慮義務違反の責任がある
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