労働者が、業務によって病気やケガになったとき、労災となります。労災ならば、負傷や病気の療養にかかる費用、休業中の給料の一部を補償してもらうことができます。
労災保険の補償を受けるには、申請し、労災であると認められる必要があり、労災認定がおりるには条件があります。どのようなケガや病気で労災認定がおりるのかを知らないと、労災保険の補償の対象を見逃し、損してしまいます。そのため「労災の条件」について理解してください。
具体的なケースで、判断できるようにするため、まずは労災の条件の知識を知りましょう。実際に労災だと認定されるかは、行政通達、労災保険法と、裁判例の理解も欠かせません。
今回は、どのような要件を満たせば補償されるのか、労災の条件について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 労災の条件を満たせば、労災の認定がおりることで、補償を受けられる
- 労災の認定の条件では、業務起因性、業務遂行性の2つが重要
- 労災の条件を満たすか決めるのは労働基準監督署であり、会社ではない
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労災の条件とは
労災とは、労働者が、業務上の理由で負傷、疾病や傷害、死亡したときの補償のことです。会社には、従業員を健康で安全に働かせる義務(安全配慮義務)があるため、業務による危険が現実化したときは、労働者の被害について補償しなければなりません。しかし、会社が、経済的な理由で、その補償を払いきれないおそれがあるため用意された制度が、労災保険です。
労災による補償は、条件を満たす限り、正社員でなくても受けることができ、契約社員、アルバイトやパート、派遣でも、労災認定がおります。労災には、業務上の災害に対する「業務災害」、通勤途上の災害について「通勤災害」の2つの補償があります。
業務災害、通勤災害のいずれも、条件を満たせば認定を受けられ、補償を受け取ることができます。主な補償には、療養のための医療費を補う「療養(補償)給付」、休業中について欠勤4日目以降の給料80%相当が支給される「休業(補償)給付」などがあります。
他にも、障害が残れば「障害(補償)給付」、死亡したら「遺族(補償)給付」「葬祭料」、治療が1年6か月以上継続する場合には「傷病(補償)給付」、介護を要するなら「介護(補償)給付」が受給できます。
また、業務災害の条件を満たすなら、療養による休業中とその後30日間は、解雇が制限されます(労働基準法19条1項)。
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労災の認定がおりるために満たすべき条件
次に、労災の認定がおりるために、満たすべき条件について解説します。
労災のなかでも特に、業務災害は、労使の対立が激しくなりがちです。会社が否定しても、業務災害として、労災の条件を満たすよう準備しておくことが肝要です。
どのようなケースで労災の条件を満たすか、業務遂行性、業務起因性に分けて解説します。
業務遂行性の条件
労災となるために満たすべき条件の1つ目が、業務遂行性です。
業務遂行性とは、事業主の支配下にある状態で、事故などの被害にあったことです。つまり、会社がコントロールする範囲内で事故が起こる場合に限って、責任を追及できるわけです。
事業主の支配下にある場合とは、次の3つの類型です。
- 事業主の支配下であり、管理下で業務に従事している場合
例:オフィス内での事務作業など - 事業主の支配下で、管理下だが、業務に従事していない場合
例:職場内での休憩、仮眠など(オフィス内にいるが、仕事をしていない場合) - 事業主の支配下だが、管理下を離れて業務に従事する場合
例:外回りの業務、出張など(オフィス外にいるが、仕事をしている場合)
以上の通り、業務遂行性とは、必ずしも「仕事をしている最中」というのと同義ではありません。たとえ仕事をしていなくても、職場内の事故ならこの条件を満たす可能性があります。そして、仕事をしている最中なら、職場外でも労災の条件を満たす場合があります。
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業務起因性の条件
労災となるために満たすべき条件の2つ目が、業務起因性です。
業務起因性とは、労働者の傷病と、業務との間に因果関係があること。つまり、「業務によって」ケガや病気になったといえるための条件を意味しています。労災といえるには、業務に含まれる危険が現実化したと認められなければなりません。
なお、この際の「業務」には、本来の業務だけでなく、付随する次の行為も含まれます。
- 業務に付随する行為
例:掃除、後片付けなど - 準備的な行為
例:着替え、体操、朝礼など - 生理的な行為
例:トイレ休憩、タバコ休憩など - 反射的な行為
例:風でとばされた帽子を拾おうとして事故にあった - 緊急行為
例:病気の同僚を病院に運ぶ途中の事故、災害中の事故など
したがって、本来の業務からくる直接のケガや病気でなくても、労災の条件を満たす場合があります。あわてず、あきらめず、労災の条件にあたるかチェックしてください。専門的な知識が必要な、微妙なケースでは、労災問題の経験が豊富な弁護士に相談するのが有益です。
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条件を満たしても労災認定がおりない「特段の事情」とは
以上の業務遂行性、業務起因性の2つの条件を満たせば、労災の認定がおります。しかし、条件を満たしてもなお、「特段の事情」があると、例外的に労災認定を受けることができません。
労災認定がおりない特段の事情とは、その傷病が業務と無関係に起こったと示す事情です。たとえ職場で起こる事故でも、会社に責任を負わせるのは酷な場合もあるからです。
特段の事情が認められるのは、例えば次のケースです。
- 業務離脱行為
例:業務時間中、職場を離れて通院した際の事故など - 業務逸脱行為
例:業務時間中、仕事に専念せずに起こった事故など
(業務中なのに、私用をしていたケース) - 恣意的行為
例:部下が、上司の命令を聞かずに起こした事故など
(事故や災害を、労働者がわざと発生させようとしたケース) - 私的行為
例:プライベートな恨みで社員同士が暴力をふるって負傷した - 自己保健義務違反
例:会社が通院を命じたのに怠り体調を悪化させた - 天災
例:地震や台風により、会社の対策に不備なく負傷した - その他、通常では発生し得ない事故
これらの事情があると、労災の条件を満たしても、労災認定がおりず、補償を受けられません。
なお、形式的には特段の事情にあたっても、やはり労災認定がおりるケースもあります。事故や、これによる障害が予想されるのに対策しない場合、会社に責任があるからです。例えば、オフィスの地震対策が万全でないために、棚が倒れてケガしてしまった例などです。
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労災の申請から認定がおりるまでの手続きの流れ
以上の通り、労災の条件には、業務遂行性、業務起因性の2つがあります。これらをチェックし、条件を満たしそうなら、労災の申請をしましょう。
労災申請は、労働基準監督署の署長に対して行います。必要な書類を記載して、会社の所在地を管轄する労働基準監督署へ提出し、申請します。会社が協力的ならば、書面の記載や提出は、会社が代わりにしてもらうことができます(非協力的ならば、労働者だけでも申請ができます)。
その後、労働基準監督署で、労災の条件を満たすかがチェックされます。条件を満たす場合には、労災認定がおりることとなり、補償を受けられるようになります。
労災の申請をするには、複雑な書類の作成が必要となります。このとき、労災の条件を満たすことを説得的に説明しないと、納得いく認定はおりません。また、労災にあたるという証拠も必要です。
自分1人で進めるのが難しい、深刻なケースは、弁護士に相談ください。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
労災認定は誰が決めるの?
以上の手続きで、労働基準監督署に申請し、労災認定を受けることができます。労災認定すべきかどうかを決めるのは、労働基準監督書であり、会社が自由に決められる問題ではありません。
会社のなかには、労災を嫌い、「労災だと認定されたくない」ということがありますが、ブラック企業といってよいでしょう。
悪質な会社が、どれほど労災がおりるのを避けようとも、条件を満たせば労災です。この際、会社の同意や承諾などは、一切不要です。
ただ、会社が協力しないと、証拠集めが十分に行えないことがあります。労災の条件を満たしているという証拠がなければ、認定されない危険もあります。会社の協力が得られそうにない場合、「業務による災害であること」の証拠を収集してください。事故や災害にあった直後から、早めに準備をしておくことが大切です。
なお、争いになれば、最終的には裁判となり、裁判所が決めることとなります。裁判に勝つためにも、証拠集めは欠かせません。
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まとめ
今回は、労災のなかでも、業務中の事故によるケガや病気、つまり「業務災害」について、その条件と手続きを解説しました。労災認定を受けるには、その条件を満たさなければなりません。要件を正しく満たせば、労災による補償により、救済を受けることができます。
労災認定がおりるかどうかで、労働者の負担は大きく変わります。労災の条件を知り、かつ、その条件を満たすための証拠の準備が欠かせません。
業務災害にあい、労災認定が降りるよう努力したい方は、ぜひ弁護士に相談ください。弁護士への相談は、治療中でも可能で、早めのアドバイスが有効です。
- 労災の条件を満たせば、労災の認定がおりることで、補償を受けられる
- 労災の認定の条件では、業務起因性、業務遂行性の2つが重要
- 労災の条件を満たすか決めるのは労働基準監督署であり、会社ではない
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