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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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社長が失踪して音信不通のとき、社員はどう対応したらよい?

社長が失踪して音信不通のとき、社員はどう対応したらよいのでしょうか。社長が夜逃げすると、給料すらもらえないこともあります。業績が悪化し、都合が悪くなると逃亡する社長がいます。社内でも連絡がとれないなら、責任転嫁されないよう、適切な対応を理解しておいてください。

社長が失踪して問題化した「はれのひ」騒動が2018年。着物レンタル会社の社長が逃亡し、成人の日に振袖を着られない新成人が続出、大きな話題になりました。

相談者

社長が飛んだので、連絡がとれない

相談者

給料未払いのまま社長に逃げられた

どうしようもなく音信不通になる社長がいる一方、実は計画倒産だったケースもあります。経営の責任は社長にあり、労働者はあくまで指示に従っているに過ぎません。それでも、社長が逃亡し、音信不通になると、対外的な責任追及は社員に向いてしまいます。

このとき、労働者として自分の権利を守るため、必要な労働問題の知識を知っておきましょう。今回は、社長が失踪して音信不通になったとき、社員が取るべき適切な対応について解説します。

この解説のポイント
  • 社長が失踪、逃亡するケースは、業績悪化が理由となることが多い
  • 社長が失踪、逃亡したとき、未払い給料を会社に請求し、証拠を残して退職する
  • 会社の責任を、社員が負う必要はないが、会社の利益を害さないよう慎重に対応する

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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社長が失踪してしまうケースとは

社長が失踪し、逃亡してしまうケースがあります。社長は、経営に関する重責を負っています。悪いことだとはわかっていながらも、経営がうまくいかないと「逃げてしまいたい」「消えてしまいたい」という逃げ腰の考えになってしまう経営者は、思いのほか多いものです。

まだ、すぐに倒産するほど危機ではないとき、「うまくいっているうちにお金を海外に逃してから、失踪しよう」といったように、悪質で計画的なケースもあります。

社長が失踪してしまうケースには、次の例があります。

  • ある日突然、社長が会社に来なくなった
  • 給料を未払いのまま、社長が逃亡した
  • 社長が海外に逃げて、帰ってこなくなった
  • 社長が、会社のお金を持ち逃げして、音信不通になった
  • 社長が一家で夜逃げした
  • 残業代を請求したら、計画倒産された

このとき、経営の責任は社長にあるのであって、労働者にはありません。そして、労働者と会社(法人)は法的に全く別の人格であり、そこで働いているからといって会社の責任や債務を負担させられるいわれはありません。

しかし、社長が逃げると、業績悪化の理由や、現状について、第三者に説明する立場の人がいなくなってしまいます。社外の人にとっては、そこで働く労働者に詰め寄るしかなく、適切に説明し、対応しなければ、社長が失踪したツケを負わされる危険があります。

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給料未払いのまま社長が失踪した時、未払い給料を請求する方法

社長が逃亡し、失踪してしまっても、労働者の給料をもらう権利はなくなりません。労働者に給料を支払う義務は「社長」ではなく「会社」にあるからです。そのため、未払いの給料があるなら、社長がいなくなったとしても、会社に請求することができます。

突然連絡が取れなくなってしまうような無責任な社長のいる会社には勤務し続けたくはないでしょうが、退職するにせよ、未払い給料や残業代は、損なく回収しておきたいところです。

ただ、このとき、会社の財産から払ってもらえる権利があるに過ぎません。給料をもらっていないからといって、勝手に会社にあるお金をとったり、会社の口座からお金を引き出したりすると、横領ないし背任行為として、違法となるおそれがあるので注意してください。

横領を理由とする懲戒解雇」の解説

正しい対応は、法的手続きによって給料請求をすることです。万が一、会社の経営が危機的な状況となって給料が払われそうにないときは、未払賃金立替払制度を利用する手も検討してください。未払賃金立替払制度は、倒産などで未払いとなる給料を国が立て替える、労働者保護のための制度です(ただし、制度の利用には条件があり、全額を払ってもらえるわけではありません)。

なお、社長が逃亡したとき、厳密には倒産していませんが、「事実上の倒産」でも、未払賃金立替払制度を利用できます。

未払い賃金を請求する方法」の解説

社長が失踪し、労働者が、会社の責任を追及されたらどうするか

次に、社長が失踪した後、労働者が、会社の責任を追及されたときの正しい対応を解説します。

労働者が、会社の責任や債務を負担する必要は、法的にはまったくありません。ただ、社長が逃亡したり失踪したりすると、現場には社員しかいません。会社の内情をよく知らない人は、現場にいる社員こそ責任を果たすべきだと要求してくるでしょう。

会社の借金の返済を請求された時の対応

まず、社長の失踪後に最も気をつけておくべきは、会社の借金です。会社を生かすにせよ殺すにせよ、借金の返済が滞ると、倒産せざるを得ないケースもあります。多額の借金で社長が逃げたとき、債務者はすぐ返済を要求してきますから、対応は急を要します。

社長が逃げた理由が「経営の悪化」だと、逃亡後には多額の借金が残されるケースが多いです。事態が悪化していると、社長個人のサラ金や、闇金、反社会的組織など、危ないところからも借金している可能性があり、法的な責任のない労働者にまで厳しい返済要求がされる例もあります。

法的に返す義務のない借金について、断固として拒否してください。暴力や脅迫など、違法な手段で返済を迫られたら、警察に通報するようにします。

なお、例外的に、役員などの重要な役職につき、会社の借金を連帯保証していると返済義務が生じてしまいます。このとき、社長が失踪して借金が返せないなら、自己破産が必要かもしれません。

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お客さんからクレームを受けた時の対応

次に、社長が逃げ出してしまって、お客さんからクレームを受けるケースがあります。社長の人脈、看板で集客していたとき、無責任にも逃げ出してしまえば、クレームは避けられません。

お客さんのクレームに対し、返金や返品といった対応を行うには、会社の決定が必要です。社長に相談する必要があるのですが、その社長が音信不通だと、すぐには対応できません。

このとき、クレームをいうお客さんに、誠実に対応すべきなのに変わりはありません。社長が逃亡する前でも後でも、クレーム対応は、マニュアルに沿って進める必要があります。ただ、「社長が逃げた」という点で会社に否がありますから、まずは謝罪から入るのが筋でしょう。

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取引先から会社の債務の履行を求められた時の対応

社長が逃げてしまったことで、お客さんへの商品提供、取引先へのサービス提供など、会社の債務を履行できなくなってしまったときの対応について説明します。

この場合でも、労働者が会社の債務を代わりに履行する必要はありません。ただし、社長が逃亡前に、倒産させると決断していたとき、会社財産を外に流出させないよう注意を要します。したがって、社長が逃げてしまったという緊急事態でも、会社の業務をしっかりと進めていく必要があるものの、倒産などの場合には対応は慎重にしなければなりません。

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マスコミの取材を求められた時の対応

冒頭の「はれのひ」騒動のように社会的影響の大きい社長の失踪では、マスコミ取材を受ける可能性もあります。このとき、社員として適切に対応しなければ、炎上を招いてしまいます。

社長の「逃げる」という判断は、経営者として不適切であることに違いはありません。それでもなお、マスコミ対応には十分注意してください。不適切な対応は、メディア報道によって拡散されたことで、本来にも増して誇張して捉えられ、取り返しのつかない事態に発展することもあります。

入社時の誓約書や秘密保持契約書などにより、社員は秘密保持義務を負っています。企業秘密を外部に漏らさないと約束しているとき、マスコミの取材で内部事情を漏らす行為は、この約束違反となるおそれがあります。会社として公式発表を検討していたり、責任のとり方を考えていたりするケースでは特に、社員からの情報流出は控えるべきです。

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社長がいなくても退職する方法

責任をとるべき立場にある社長が逃げてしまったら、社員としても「これ以上働いてはいられない」「付き合いきれない」という気持ちになるのが正直なところでしょう。

このとき、退職という選択肢をとるのが最適です。社長が逃げてしまっても、社長がいなくても労働者は会社を退職することができます。「社長がいないと退職できない」ということはないので、安心してください。

ただし、会社をトラブルなくやめるためにも、退職前に、しっかり証拠を集めておきましょう。社内にいないと集められない情報は、今のうちに保存しておかなければ後悔してしまいます。

退職したらやることの順番」の解説

「退職の意思表示をした」という事実を証拠に残すため、退職届を提出する必要があります。社長が失踪してしまったときは、退職届を、内容証明で会社に送るのがお勧めです。

社長の失踪後に退職すると、通常すべき手続きができないこともあります。社長が逃げてしまうと、小さな会社では総務部門すら機能不全になるでしょう。

このとき、必要な手続きは、例えば次のように進めます。会社の実情に応じた対応が必要なので、迷うときは弁護士に相談ください。

退職届の書き方と出し方」「退職届を内容証明で出すべきケース」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、社長が逃亡し、失踪してしまったときの労働者側の対応を解説しました。

経営者である社長が、会社を捨てて逃げてしまうのは、不適切な行為に違いありません。労働者としては、給料ももらえないまま、事後処理に奔走せざるをえなくなります。非常事態に備えて、労働問題の知識をしっかり身につけておいてください。

未払いの給料があったり、退職できなかったり、顧客からの責任追及を受けてしまったりするとき、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

この解説のポイント
  • 社長が失踪、逃亡するケースは、業績悪化が理由となることが多い
  • 社長が失踪、逃亡したとき、未払い給料を会社に請求し、証拠を残して退職する
  • 会社の責任を、社員が負う必要はないが、会社の利益を害さないよう慎重に対応する

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