「不当解雇ではないか」と感じても、すぐに行動へ移せない人も多いです。
裁判に抵抗がある、転職活動への影響が心配といった理由で、何もできずに時間が過ぎ、泣き寝入りしてしまう人もいます。では、解雇から期間が経過した場合でも、不当解雇を訴えることはできるか、ここで問題になるのが「不当解雇の時効」です。
結論として、不当解雇の訴えに時効はありません。時間が経過しても、過去の解雇の有効性を争うことができます。ただし、何もせずに長期間経つと、事実上不利になることがあります。また、解雇に伴って請求すべき未払い賃金や残業代、退職金、解雇予告手当、慰謝料といった金銭請求にはそれぞれ時効が定められています。
今回は、不当解雇の時効について、労働問題に強い弁護士が解説します。不当解雇が疑われるなら、直後に争うのが最善です。
- 解雇の無効を主張すること自体には時効はなく、いつでも争うことが可能
- 不当解雇に関する請求の時効は、請求内容によって時効期間が異なる
- 長期間放置していると事実上不利になるため、解雇直後に争うのが原則
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不当解雇の訴えに時効はない

結論として、不当解雇の訴えには時効がありません。
解雇の有効性を争うにあたって特に期限はなく、何年前の解雇でも、理論上は争うことが可能です。解雇直後は気が動転し、すぐに争う意思を示せない人も少なくありません。人間関係に配慮して一度は我慢したものの、後から「やはり解雇は納得できない」と思い立つ人もいます。
ただし、「時効がない」というのは、「いつでも大丈夫」という意味ではありません。むしろ、解雇をめぐる争いを放置することには大きなリスクがあります。解雇が不当であることの証拠は、会社が保管していることが多く、時間が経過すると消えてしまうリスクがあります。また、異議を述べない状態が続くと、「解雇を認めていた」と評価されるおそれもあります。
したがって、法律上の時効の定めがないとしても、「納得のできない解雇は、できる限り速やかに争う」というのが基本方針となります。
不当解雇の訴えに時効がない理由
なぜ不当解雇の訴えに時効がないのか、その理由を法的に解説します。
前提として、解雇は法律で制限され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、不当解雇として無効になります(労働契約法16条)。

解雇トラブルでは、労働者は「不当解雇として無効なので、現在も社員の地位にあることを確認してほしい」と請求します(いわゆる地位確認請求)。この地位確認請求に、法律上の時効は定められていません。そして、不当解雇として無効であれば、解雇時点から現在に至るまで、労働者としての地位が継続していたこととなります。
不当解雇であると認められると、解雇は撤回され、労働者の地位が継続していたことになりますが、一方で、労使の話し合いの結果、退職を前提とした金銭解決となるケースもあります。この場合も、労使の合意による金銭支払いである解決金に、時効はありません。
「不当解雇の解決金」の解説

解雇に関連する金銭請求には時効がある

不当解雇そのもの(解雇無効の主張)に時効がなくても、解雇に関連して請求する金銭には、それぞれ時効が定められています。解雇を争う場合、不当に侵害された権利を同時に請求すべきケースが多く、その時効を知っておかないと、交渉で不利になってしまいます。
未払い賃金(バックペイ)の時効
不当解雇として無効になると、解雇されていた期間中も労働者であったこととなり、その間に未払いとなっていた給料(バックペイ)を請求できます。
未払い賃金(バックペイ)の時効は3年が原則です。ただし、法改正により、2020年3月31日までの支払日の賃金の時効は2年、2020年4月1日以降の支払日の賃金の時効は5年(経過措置により当面は3年)とされます(労働基準法115条、同法附則143条3項)。
残業代請求の時効
残業代も「賃金」の性質を有するので、時効は3年が原則です。
不当解雇をする会社は法令遵守の意識を欠く可能性があるので、残業代に未払いがないか、確認する必要があります。未払い残業代があった場合、解雇を争っている間に時効が進行しないよう、同時に請求する必要があります。
「残業代請求に強い弁護士への無料相談」の解説

退職金請求の時効
退職金の時効は5年です(労働基準法115条)。
退職金は、就業規則や退職金規程に基づいて支払われるので、支払日や支給要件は会社の規程を確認する必要があります。なお、懲戒解雇の場合に不支給または減額とする定めも見られますが、少なくとも一部の支払いを命じた裁判例があるので、あきらめてはなりません。
「退職金がもらえないケース」の解説

解雇予告手当の時効
解雇予告手当の時効は2年です。労働基準法115条上、「賃金」ではなく「その他の請求権」に該当するためです。解雇は、少なくとも30日前に予告するか、不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う必要があります(労働基準法20条)。
なお、解雇予告または解雇予告手当は、解雇が有効な場合にも必要となります。
「解雇予告手当の請求方法」の解説

慰謝料請求の時効
不当解雇が悪質なときは、慰謝料を請求するケースもあります。慰謝料請求の時効は、以下の通り、法的根拠によって異なります。

不法行為を根拠とする場合
不当解雇は、不法行為(民法709条)に該当する可能性があります。
不法行為の時効は、損害及び加害者を知った時から3年(生命または身体の侵害の場合は5年)、不法行為の時から20年とされます(民法724条)。不当解雇を受けた時点で、損害と加害者は明らかなので、解雇時を起算点とするケースが多いでしょう。
安全配慮義務違反(債務不履行)を根拠とする場合
会社は、労働者を健康で安全に働かせる義務(安全配慮義務)を負います。
悪質な解雇によって労働環境を悪化させる行為は、安全配慮義務違反に該当する余地があります。これは、労働契約上の債務不履行となるので、債権の時効に従い、権利を行使することができることを知った時から5年、もしくは、権利を行使することができる時から10年(生命または身体の侵害の場合は20年)が時効期間となります。
「不当解雇の慰謝料の相場」の解説

不当解雇の訴えに時効がなくても早く争うべき理由

「不当解雇の訴えに時効はない」と解説しましたが、それでも早く争うべきです。
時効がないからといって「急がなくてよい」という意味ではありません。むしろ実務上は、時間が経つほど不利になる可能性があります。
解雇を争うための証拠が失われる
解雇トラブルを有利に進めるには、不当解雇であることを示す証拠が重要です。
しかし、時間が経過すると、不当解雇を争うための証拠は失われてしまいます。労働問題では、重要な証拠の多くは会社に保管されており、次のように状況は変化するからです。
- 就業規則や賃金規程などの規程類が変更される。
- タイムカードが改ざんされた。
- 社内のメールやチャットの履歴が削除された。
- 退職者の評価資料や人事記録が破棄されてしまった。
- 有利な事情を証言できる同僚が退職した。
期間が経過してから争った結果、「解雇理由を後付けされた」「社長が社内に圧力をかけ、虚偽の証言をされてしまった」といったケースもあります。会社に悪意がなくても、用意周到に準備させることにメリットはありません。
なお、労働基準法109条は、労働関係書類の保存期間を5年(当面は3年)と定めています。
「不当解雇の証拠」の解説

解雇を黙認したと評価される
時間の経過は、証拠だけでなく法的評価にも影響します。
解雇は会社からの一方的な意思表示で、労働者の同意は不要です。しかし、解雇後に異議を述べずに放置すると、「解雇を受け入れた」「争う意思はない」と評価されるおそれがあります。
黙っていたとしても直ちに解雇が有効になるわけではありません。しかし、裁判所では当事者の態度が総合的に考慮されるため、「解雇に不服なのに、すぐに争わないのは不自然である」とされ、異議を述べていないことが事実上不利に働く可能性は否めません。
裁判例においても、次のような事例があります。
- 最高裁昭和36年4月27日判決(八幡製鉄事件)
退職金を受領し、約2年数ヶ月後に提訴した事案で、当事者間に解雇の効力について異議を述べない旨の「暗黙の合意」が成立した、あるいは、そのような状況下で解雇の無効を主張するのは「信義則に反し許されない」と判断しました。 - 大阪高裁昭和45年4月30日判決(大映事件)
解雇予告手当や退職金を受領し、約7年後に提訴した事案で、裁判所は、解雇の効力を争わない意思を表明したものと解釈するのが相当であると判断しました。
さらに、退職届を出した、退職合意書や誓約書にサインした、退職手続きを協力的に進めたといった事情があると、「解雇」ではなく「合意退職」であると主張されるおそれもあります。
経営が悪化するおそれがある
整理解雇やリストラのケースは特に、会社の業績が悪化する懸念もあります。
解雇トラブルは、金銭による解決を目指したり、賃金や残業代をあわせて請求したりします、経営状況が悪化して資力が乏しくなると、金銭の回収が困難になる危険があります。最悪の場合は倒産して、もはや労働問題について会社と争えなくなることもあります。
生活再建の支障になる
不当解雇の争いは単なる法律問題ではなく、労働者の生活にも関わります。
解雇を争う間も、生活を維持するために再就職せざるを得ない人は多いですが、将来復職を求め続けるか、金銭解決を目指すかといった戦略の選択に影響します。解雇から長期間が経過すると、復職よりも金銭解決を目指すしかなくなり、選択の幅が狭まるおそれがあります。
会社側の事情としても、何年も経過すると、組織体制の変更や人事異動などで、復職が現実的でない状況となることもあります。
時効が迫っている場合の対処法
解雇に時効がなくても「解雇に関連する金銭請求には時効がある」と解説しました。
実務的には、関連する金銭請求は、解雇と同時に争う方が交渉上有利です。会社にとって解雇が無効になるリスクは非常に大きく、労働者が退職に同意するなら、金銭請求については交換条件として譲歩を引き出せる可能性があるからです。
そのため、金銭請求の時効が迫る場合、解雇トラブルも含めて速やかに対処する必要があります。具体的な流れは、以下の通りです。
まず、内容証明で解雇の無効を主張します。
この書面で、解雇の撤回を求めるとともに、未払い賃金や残業代、慰謝料といった金銭を請求する意思を明示します。この意思表示は「催告」にあたり、6ヶ月の間、時効の完成を猶予させることができます(民法150条)。
なお、時効が迫っている場合ほど、内容証明による請求から労働審判、訴訟まで、速やかに進めるために、弁護士に相談するのがおすすめです。
「不当解雇に強い弁護士への相談」の解説

不当解雇の時効に関するよくある質問
最後に、不当解雇の時効に関するよくある質問に回答しておきます。
解雇から3年以上経っていても争える?
解雇から3年経過していても、その無効を主張して争うことは可能です。
本解説の通り、解雇の争いに時効はなく、理論上は何年後でも争えるからです。ただし、解雇に伴う未払い賃金(バックペイ)や残業代は、原則として3年で時効にかかるため、3年を超える前に、時効完成を防ぐ措置を講じなければ、勝訴した際に得られる金銭が減ってしまうおそれがあります。
会社が倒産した後でも争える?
会社が倒産した後は、残念ながら解雇の有効性を争うことは困難です。
そもそも請求の相手方である会社の法人格が消滅し、復職すべき職場も存在しません。未払い賃金をはじめとした債権は、破産手続きの中で配当を受けるか、未払賃金立替払制度による救済を受けることとなります。
解雇された元勤務先の倒産が予想される場合、手遅れになる前に、早急に弁護士へご相談ください。
「会社が倒産したら解雇される?」の解説

合意書にサインしていても争える?
退職勧奨を受け、退職の合意書にサインした後は、争うことが困難になります。リスクを軽減するため、解雇なのに合意書に署名させようとする会社もあります。
一方で、会社から無理やり署名するよう強要された場合、その合意は取り消すことができます。また、形式が退職勧奨でも、一方的に辞めさせられた場合、その実質は解雇であり、無効を主張して争うことが可能です。
「退職勧奨と解雇の違い」の解説

【まとめ】不当解雇の時効

今回は、不当解雇はいつまで争えるか、つまり「不当解雇の時効」を解説しました。
解雇の無効を主張することに時効はなく、過去の解雇であっても法的に争う余地は残されています。ただ、時間が経つほど、証拠が散逸したり、異議を述べなかったことが「解雇を認めた」などと不利に評価されたりするおそれがあります。納得のいかない解雇を受けた場合、できる限り早期に対応することが、より良い解決につながります。
また、未払い賃金や残業代、退職金、解雇予告手当、慰謝料といった、解雇に関連した金銭請求には、それぞれ時効があります。これらの時効が間近に迫っている場合には、内容証明による請求などの対策を講じて、時効の完成を防ぐ必要があります。
解雇トラブルは、「時効がないから安心」と放置してはいけません。解雇直後から適切な対応をすることが、労働者の権利を守る上で大切です。
- 解雇の無効を主張すること自体には時効はなく、いつでも争うことが可能
- 不当解雇に関する請求の時効は、請求内容によって時効期間が異なる
- 長期間放置していると事実上不利になるため、解雇直後に争うのが原則
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