パワハラが原因で退職を決断せざるを得ないのは、非常につらいでしょう。パワハラを我慢していると精神的な苦痛が増すおそれがあり、退職するしかない場面もあります。
パワハラが理由であっても、退職の意思を正確に伝えるために、退職届の提出は欠かせません。一方で、いざ退職届を作成しようとすると、「退職理由にパワハラと記載すべきか」「会社都合として扱われる書き方はあるのか」と悩む方も多いのではないでしょうか。パワハラというセンシティブな理由で退職するからこそ、退職届の内容や書き方は、慎重に進めなければなりません。
今回は、パワハラで退職する場合の退職届の例文と、会社都合として扱われる可能性を高める書き方について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- パワハラが原因で退職を決断するなら、退職届の作成は不可欠
- パワハラがあるとき、退職届にどこまで具体的に記載するか慎重に判断する
- パワハラによる退職が会社都合と判断されるため、退職届の書き方に注意する
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
パワハラで退職するときの退職届の例文

はじめに、パワハラで退職するときの退職届の例文を紹介します。
パワハラが原因で退職する場合、退職届の書き方に唯一の正解はありません。状況に応じて、パワハラと明記するか、どの程度記載するかを検討してください。この判断は、証拠の有無や会社との関係性、今後の争い方によっても左右されます。
以下では、実務上よくあるケースごとに、退職届の例文を紹介します。
パワハラを理由として記載した退職届の例文
まず、退職理由がパワハラであることを明記した退職届の例文です。
退職届
私儀
上司からの度重なるパワーハラスメントが原因で、就業の継続が困難となったため、令和○年○月○日をもって退職いたします。
株式会社○○
代表取締役 ○○ 殿
令和○年○月○日
所属部署
氏名 ㊞
退職届では、基本的に事実ベースで簡潔に記載するのがおすすめです。感情的な表現や断定的な非難は避け、最低限の理由にとどめた方が、退職時にトラブルになりにくいからです。
会社都合として扱われることを想定した退職届の例文
パワハラによる退職は、内容次第では会社都合退職と評価されます。重要なのは、労働者が望んで退職するわけではないことを証拠に残すことです。
退職届
私儀
パワーハラスメントにより、労働環境が著しく悪化し、精神的負担が大きく、業務を正常に遂行することが困難な状況のため、令和○年○月○日をもって退職いたします。
株式会社○○
代表取締役 ○○ 殿
令和○年○月○日
所属部署
氏名 ㊞
職場の環境に問題があった結果としてやむを得ず働けない状態であることを、退職届にも示しておく方法です。ただし、退職届の記載のみで会社都合となるわけではなく、最終的な判断はハローワークで行われます。離職票の記載が事実と異なっていたり、自己都合退職と扱われてしまったりするときは、ハローワークへの異議申立てが可能です。
十分な証拠があり責任追及を予定する場合の退職届の例文
録音データやメール、チャット、診断書など、パワハラの証拠が十分にある場合、会社や加害者に慰謝料を請求するなど、責任追及が可能です。
退職届
私儀
社内におけるパワハラ行為が長期間続いており、上司や人事部に相談したものの改善の兆しが見られず、精神的な負担が限界に達しました。
ストレスで体調不良となり、医師からも「うつ病」により就業継続が困難であるとの判断を受けたため、令和○年○月○日をもって退職いたします。
株式会社○○
代表取締役 ○○ 殿
令和○年○月○日
所属部署
氏名 ㊞
なお、責任追及を考えていても、感情的になると退職そのものが拒否されるなど、さらに不適切な対応を受けるおそれもあります。退職届の段階では退職理由を記録に残すにとどめ、感情的な非難や長文は避けるべきです。
トラブルを避けるために最低限の記載とした退職届の例文
最後に、会社との摩擦を避けたい場合の例文です。トラブルを最小限に抑えたい場合や、証拠が十分でないパワハラの場合によくある書き方です。
退職届
私儀
一身上の都合により、令和○年○月○日をもって退職いたします。
株式会社○○
代表取締役 ○○ 殿
令和○年○月○日
所属部署
氏名 ㊞
本当はパワハラが原因でも、「一身上の都合」「諸般の事情」といった表現とし、退職届にはパワハラについて記載しないケースもあります。これでも退職の効力に影響はなく、退職後に「やはりパワハラの責任を争いたい」と考えたときも、決して不利にはなりません。
なお、さらに会社への刺激を抑えるために「退職届」でなく「退職願」とするケースもあります。この場合、一方的な退職の意思表示ではなく、合意退職の申し入れを意味し、会社が承諾してはじめて退職の効力が生じることとなります。
「退職したらやることの順番」の解説

パワハラで退職する際の退職届の書き方のポイント

次に、パワハラを理由に退職する際の退職届の書き方について解説します。
パワハラが原因で退職するにしても、退職届の書き方を誤ると、本来避けられたはずのトラブルを招くおそれがあります。パワハラが退職理由の場合、基本的な項目のほかに、会社都合・自己都合の判断に影響するような事情を記載することがポイントとなります。
退職届に記載すべき基本項目
まず、パワハラでの退職でも、退職届の基本項目は共通します。退職届には、次の事項について正確に記載する必要があります。
- 書面のタイトル
「退職届」と冒頭に明記します。「退職願」としてしまうと、確定的な退職の意思ではないかのように受け取られるおそれがあるため注意してください。 - 退職の意思表示
「退職させていただきたく存じます」などの伺いではなく、「退職いたします」と確定的に記載してください。 - 退職日
退職日を明記します。有給消化を踏まえた最終出社日を併記する例もあります。 - 提出日
退職届に記載する日付は、作成日でなく提出日です。提出日が、退職の意思を正式に表明した時点となるからです。 - 所属部署・氏名・押印
所属部署と退職者のフルネームを書き、末尾に押印をします。 - 宛先(会社名・代表者名)
退職届は通常、会社の代表者宛に提出します。
以上は形式的な要件であり、不備があると退職届の効力が否定されるおそれがあります。パワハラが理由の退職でも、形式を整えることが最優先です。
「退職届の書き方と出し方」の解説

退職理由はどこまで具体的に書くか
退職届において退職理由をどこまで具体的に記載するかは、本人の判断に委ねられます。
特に、パワハラが退職理由である場合、「パワハラが理由」とはっきり記載すべきか、内容をどこまで具体化すべきかが大きな問題になります(なお、退職理由を詳細に書くかどうかによって、退職の効力に影響はありません)。
パワハラが退職理由だとしても、具体的な内容や加害者の氏名、発生日時や回数などを詳細に退職届に記載すると、むしろ会社が反発し、無用なトラブルを招くおそれがあります。そのため、基本は、退職届の退職理由は、事実関係を簡潔に示すにとどめることです。
パワハラを明記するメリット・デメリット
一方で、パワハラの事実を、退職理由として明記するケースもあります。この際、次のメリット・デメリットがあるので、それぞれ比較し、どの程度の記載とするか検討してください。
【パワハラを明記するメリット】
- 退職理由が会社側の問題であることを明確にできる。
- 後の交渉や裁判で、退職理由を裏付ける事情として使える。
【パワハラを明記するデメリット】
- 会社が責任を否定しようとし、労使関係が悪化するおそれがある。
- 退職手続きが円滑に進みにくくなる。
パワハラを明記すると、その有無や程度について会社と争いになることが容易に予想できます。そのため、「パワハラで退職する」と退職届で明らかにするのは、会社の対応が不誠実であったり、今後の責任追及や裁判手続きなどを予定していたりする場面に限るべきです。そして、その場合には、パワハラを証明できる証拠をできる限り収集しておくことが非常に重要です。
「一身上の都合」と記載する例もある
実際の退職理由がパワハラでも、退職届には「一身上の都合」と記載する例もあります。
退職届に記載する退職理由は、労働者がある程度自由に決めてよく、このような記載自体に問題はありません。特に、次のケースでは、この書き方が選択されます。
- 会社との対立を避け、スムーズに退職したい場合
- まずは確実に退職を成立させることを優先したい場合
- パワハラを争う意思は、既に別の書面で明らかにしている場合
「一身上の都合」と記載したからといって、必ず自己都合退職として扱われるわけではありません。自己都合か会社都合かは、退職届の文言だけでなく、退職に至った経緯や事情も踏まえて判断されます。パワハラが立証できるなら、ハローワークに異議申立てをする方法も検討してください。
「パワハラの証拠」の解説

退職届と退職願を使い分ける
パワハラが原因で退職する場合、「退職願」ではなく「退職届」を提出すべきです。
退職願は、退職を「願い出る」書面であり、会社の承諾が前提となっています。これに対し、退職届は退職の意思を一方的に通知する書面であり、会社の同意がなくても退職できます。パワハラが原因だと、会社が退職を拒否したり、執拗に引き留めたり、もみ消しを図ろうとしてきたりする可能性もあるので、退職届を出すことで速やかに辞めるのがおすすめです。
「退職願と退職届の違い」の解説

会社都合退職を見据えた文言を選ぶ
後述「パワハラによる退職を会社都合扱いとするための考え方」の通り、労働者にとって自己都合退職よりも会社都合退職の方が、失業保険において有利です。そのため、パワハラによる退職について、会社都合として扱われる可能性を見据え、退職届の文言選びにも注意が必要です。
例えば、次のような文言・表現を選ぶことで、自主的な退職ではなく、「やむを得ない退職である」ことを示しやすくなります。
- 「就業の継続が困難となった」
- 「就業環境が著しく悪化した」
- 「やむを得ず退職するに至った」
ただし、記載内容だけで会社都合かどうかが決まるわけではありません。
感情的な言葉や断定的な表現は避ける
パワハラが原因でも、退職届では、感情的な言葉、断定的な表現は避けるべきです。
会社との無用な対立を招き、退職の支障となるおそれもあります。気持ちは理解できますが、退職届はあくまで事務的に、冷静に作成すべきです。そして、法的責任の追及については労働審判や訴訟などの別の場面で行うのがおすすめです。
パワハラによる退職を会社都合扱いとするための考え方
次に、パワハラによる退職で、会社都合扱いとしてもらうための考え方を解説します。
「被害者がパワハラだと思ったら、必ず会社都合」というわけではなく、最終的にハローワークが判断するので、その仕組みを理解することが重要です。
会社都合退職と自己都合退職の違い
失業保険の離職理由は、会社都合退職と自己都合退職に分けられます。
会社都合退職とは、倒産や解雇、雇止めのほか、労働環境の悪化やハラスメントなど、労働者に責任のない事情で退職せざるを得なかった場合をいいます。一方、自己都合退職は、労働者が自らの意思で退職したと評価されるケースです。
この区別は失業保険の給付に大きく影響し、会社都合退職と認められれば、給付制限がなく、支給日数も長くなるなど、労働者に有利な扱いとなります。

したがって、パワハラがあると、自分が辞めたくなくても退職を余儀なくされる人も多いでしょう。自主退職の形式を取りながら、その実質は退職勧奨や解雇であることも少なくありません。少しでも不利益を軽減するため、会社都合退職扱いを目指すべきです。
パワハラによる退職が会社都合と判断されるポイント
パワハラが理由でも、退職届の記載だけで会社都合退職になるわけではありません。
会社都合か自己都合かは、退職に至った経緯や職場環境の実態、パワハラの有無や程度、証拠の有無などを総合的に見て判断されます。例えば、強度のパワハラが継続し、改善が見込めず、業務遂行が困難となって退職せざるを得ない状況であれば、会社都合退職と認められるでしょう。
最終的に判断するのはハローワークですが、その際、次の点が重視されます。
- 言動が客観的に見てハラスメントに該当するか。
- パワハラによって就業環境が著しく悪化したか。
- 就業を継続することが困難な状態であったか。
- 相談や改善を試みても状況が改善されなかったか。
これらの状況がある場合、会社が自己都合として扱っても、実質は会社都合と判断される可能性があります。退職届だけで決まるわけではないものの、記載について次の点を意識してください。
- パワハラによる業務への支障を具体的に記載する。
- パワハラの継続性や会社の対応不足を指摘する。
- 客観的な資料や証拠を準備しておく(録音、メモ、メールやチャット、診断書など)。
パワハラで退職したら、離職票が「会社都合」となっているかを確認してください。退職届の記載が不安なら、労働問題に精通した弁護士にアドバイスを求め、添削を受けるのがおすすめです。
「退職を会社都合退職にしてもらう方法」の解説

パワハラで退職する際の退職届の提出方法
退職届は、正しく作成するだけでなく、適切な方法で提出することが重要です。以下では、パワハラで退職する際の退職届の提出方法を解説します。
退職届を提出するタイミング
退職届は、退職の意思が固まった時点で速やかに提出するのが原則です。
期間の定めのない雇用契約(正社員など)の場合、退職の意思表示から2週間が経過すれば労働契約が終了します(民法627条1項)。これは、会社が退職日について協議に応じない場合でも、退職そのものを拒否する場合でも当てはまります。退職は労働者の自由であり、承諾がなくても会社を辞めることができるからです。

就業規則に「1か月前に申し出るように」といった社内ルールが定める会社も多いですが、パワハラを理由とした退職の場合、円満に退職できないことも多いので、必ずしも会社の定めに従う必要はありません(なお、法律に違反する社内ルールは無効です)。
直接手渡しできない場合は郵送でもよい
パワハラが原因の退職だと、社長や上司と直接やり取りが難しいこともあります。
無理に手渡しにこだわると、さらにパワハラ被害を重ねるリスクもあるため、直接会うのが難しい場合は郵送で構いません。実務上、内容証明で送付する方法がよく用いられます。内容証明郵便であれば、退職届が正式に提出されたことと、その内容(特に、退職理由としてパワハラに言及されていること)を証拠に残せます。内容証明は差出人側に控えが残るので、会社が退職届を破棄しても、証拠はなくなりません。

会社が退職届の受領を拒否した場合の対応
パワハラによる退職は特に、会社が退職届の受領を拒否したり、退職届に「パワハラ」の記載があることを理由に「書き直すように」と指示したりするケースがあります。
しかし、会社が退職届を受け取らなくても、退職は可能です。この場合、前章の通り、内容証明で退職届を送付し、民法の定めにしたがって2週間後の退職日になったら会社を辞めるという対応が適切です(有給休暇が残っている場合は、必ずすべて消化しましょう)。
そもそも労働者には退職の自由があり、退職するのに会社の同意や承諾は不要です。書かれている退職理由に争いがあるとしても、会社は退職届の受け取りを拒否できません。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

パワハラで退職する際に注意すべきポイント

最後に、パワハラで退職する人が注意しておくべきポイントを解説します。
パワハラによる退職では、退職届を提出して終わりではありません。退職前後の対応次第で、受け取れる金銭や今後の選択肢が大きく変わります。
有給休暇は必ず消化する
パワハラが原因で退職する場合でも、有給休暇は必ず消化してください。
パワハラを受け続け、「これ以上出社できない」「早く辞めたい」と追い詰められると、退職時期を調整せず、逃げるように辞める人もいます。しかし、有給休暇は労働基準法上の権利であり、取得せずに辞めると失効するため、損してしまいます。
退職の意思を伝える際、「パワハラが理由で退職する」と伝えると共に、「有給休暇が◯日残っているので、その日数を消化した翌日◯月◯日に退職する」と通知してください。有給消化中は出社不要で、業務命令に応じる必要もないため、職場と距離を置きながら退職できます。
「会社の辞め方」の解説

未払い残業代がないか必ず確認する
パワハラが横行する会社は法令を遵守する意識が低く、長時間労働やサービス残業も常態化していることが少なくありません。
そのため、退職前に必ず、未払いの残業代が発生していないかをチェックしてください。パワハラは、職場における優越的な地位を利用して行われるため、萎縮して正当な対価を請求できずにいる人もいますが、残業代を請求しないと損してしまいます。
退職後でもパワハラの責任は追及できる
パワハラがきついとき、まずは自己防衛を優先してください。
パワハラの責任は退職後でも追及可能なので、身の安全を確保し、あらためて「許せない」と感じたら検討するのでも遅くはありません。パワハラの責任は加害者個人だけでなく、防止しなかった会社にも及ぶ可能性があります。会社は労働者を安全で健康な環境で働かせる義務(安全配慮義務)を負い、ハラスメント防止もその一環だからです。
パワハラで精神的苦痛を受けた場合、慰謝料請求などの形で責任追及できます。退職後でも可能なので、「もう辞めたから何もできない」とあきらめてはいけません。なお、請求が認められるには証拠が重要なので、退職前に入手する努力をしておくのがおすすめです。
早めに弁護士に相談する
パワハラによる退職を考えたら、できる限り早期に弁護士に相談してください。
特に、清算条項付きの退職合意書を交わした後は、それ以上の責任追及が困難になるため、退職後では手遅れになるケースも残念ながらあります。また、パワハラの証拠の中には、録音やメモなど、被害の最中にしか入手しにくいものも多々あります。
したがって、退職を思い立った時点で相談することで、退職届の書き方から会社を退職する方法、その後の金銭請求などについて、総合的にアドバイスを受けるのが賢明です。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

【まとめ】パワハラの退職届の例文

今回は、パワハラが原因で退職するときの退職届の例文と書き方を解説しました。
パワハラで辞めざるを得ないとしても、退職届の適切な書き方や提出方法を知っておくことは非常に重要です。退職届には正確な情報を記載するのが基本ですが、パワハラが理由の場合、どこまで具体的に書くべきか、状況に応じて慎重に判断しなければなりません。
パワハラが原因にもかかわらず、退職届の書き方を誤ると、本来は会社都合と評価すべきケースで自己都合退職として扱われ、失業保険で不利益を被りかねません。退職届を受理しない、退職を認めないなどのトラブルが起こり、円満退職の支障となるおそれもあります。
パワハラによる退職で、退職届の書き方に不安がある場合は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
- パワハラが原因で退職を決断するなら、退職届の作成は不可欠
- パワハラがあるとき、退職届にどこまで具体的に記載するか慎重に判断する
- パワハラによる退職が会社都合と判断されるため、退職届の書き方に注意する
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/




