働き方改革では、「違法な長時間労働の是正」がホットトピックになったように、残業の削減は、社会課題となっています。一方、残業の削減が、違法なケースもあります。残業を勝手に減らされるのが典型例。当然ながら、残業を減らしたとしても、残業代を払わないサービス残業は違法です。
国の主導で労働法違反の是正がはじまったため、「残業削減」をかかげ労務管理を徹底する会社は増えました。しかし、そのなかには「残業禁止」「承認のない残業には残業代を払わない」など、違法性の疑われる企業も残念ながら出現しています。
今回は、残業を勝手に減らされたときの労働者側の対応を、労働問題に強い弁護士が解説します。
残業時間の削減は労働者にもメリットあり
残業時間を減らし、長時間労働とならないようにすることが、社会的にとても重視される時代になりました。
長時間労働は、うつ病や適応障害になったり、最悪は過労死、過労自殺などにつながります。大手広告会社の「電通」で起こった悲痛な事件を、二度と起こしてはなりません。がむしゃらに働かせるばかりでなく、きちんと休息もとらせなければなりません。
働き方改革では、過労死、過労自殺、メンタルヘルスなど、多くの労働問題が注目されました。ワークライフバランスを向上させたり副業を認めたり、多様な働き方が許容されはじめました。現在の傾向からして、長時間労働が蔓延していた会社は、残業時間を減らす必要性に迫られています。
残業時間を削減するため、弁護士や社会保険労務士、コンサルタントを依頼する会社もあります。しかし、残業削減の方法が違法だと、これまた別の労働問題が起こってしまいます。労働者側として、残業の削減に喜ぶばかりでなく、その手法が正しいか、チェックが必要です。
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残業を勝手に減らされるのは違法?
残業時間を減らすのは社会的な関心事であり、重要なのは当然です。しかし、残業を減らしたいなら、まず、残業時間を正しく把握すべきです。残念ながら、問題ある会社には、残業時間が適切に把握できていないケースも少なくありません。
少なくとも、残業が勝手に減らされてしまう事態は、違法のおそれがあります。そして、このとき、払われるはずの残業代がもらえないという深刻な問題が生じます。
勤怠管理の必要性
会社が、労働者の勤怠管理をしなければならない理由は、主に次の2つです。
- 残業時間に相当する適切な残業代を払うため
- 長時間労働による労災問題(過労死、うつ病などの精神疾患)を回避するため
特に、労災問題は、労働者が過労死してはじめて気付くのでは手遅れです。痛ましい労災事故が起こり、厚生労働省のガイドラインで、労働時間の把握が義務となっていました。その後、2019年4月より、労働安全衛生法の改正で、労働時間の把握は法律上の義務とされています。
「労災について弁護士に相談すべき理由」の解説
適切な勤怠管理の方法
会社がすべき、適切な勤怠管理の方法には、次の3つのポイントがあります。労働者の立場でも、働く会社できちんと守られているかどうか、チェックが必要です。
- 客観的な証拠で残業時間を把握する
残業時間の把握は、客観的な証拠による必要がある。タイムカードの打刻が代表例だが、客観的な方法なら、これに限らない。ただし、自己申告や目視による確認は、実際の労働時間と合っているか慎重な確認を要する。 - 「労働時間」を正しく理解する
「労働時間」は「使用者の指揮命令下に置かれた時間」とされる。業務の時間だけでなく、前後の時間も含むとき、その時間も把握しなければならない。例えば、着替え時間、掃除・片付けの時間、移動時間などが労働時間かどうか問題になる。 - 証拠の偽造・改ざんがないか
タイムカード自体に、偽造、改ざんなど違法があるケースもある。残業の証拠に違法な点がないかどうか、管理することもまた、会社の義務となる。
これらの適切な労働時間の把握を怠れば、そもそも残業を減らすための前提を欠いてしまいます。現在の残業時間も把握できていないのに残業を減らそうとするのは、違法となる可能性が高いです。
「タイムカードの改ざんの違法性」の解説
残業が減らされても仕事が減らなければ違法の可能性あり
残業だけ減らされても、仕事が減らないなら、違法の可能性があります。このとき、見た目の残業が減るだけで、実際には残業しているケースがほとんどだからです。その分、業務時間中の労働者の仕事は忙しくなり、時間が短くても強いストレスがかかるといった弊害があります。
残業をなくさせようと早帰りさせる「ジタハラ」のように、嫌がらせ的にされればハラスメントともなります。
「仕事を押し付けられた時の断り方」の解説
残業の削減が違法となるケース
残業についての意識が高い会社だと、残業時間はできるだけ減らそうとします。長時間労働をなくす対策をして、できるだけ残業を削減するのが、現在の社会の流れだからです。
長時間労働を減らし、働きやすい環境にするという目的は良いものです。しかし、サービス残業を放置したまま、「残業代をはじめとした人件費を減らそう」という不当な動機で残業を減らそうとする会社は、悪意あるブラック企業と言わざるを得ません。よくある違法な残業削減策を知り、だまされないよう労働者側で注意しなければなりません。
なお、違法な残業削減に対抗するには、未払い残業代を請求するのが最も有効です。人件費の抑制のみに目を向けた不適切な残業削減は、残業代を請求すれば立ち行かなくなるからです。
残業時間を把握しない
残業時間をきちんと把握しなければ、そもそも残業の削減はできません。にもかかわらず、ブラック企業は、残業を正しく把握しないのに残業を減らそうとします。結局は、その目的は残業代を払わないことにありますから、違法の可能性が高いです。
残業時間をまったく把握しない対応は、たとえ管理職でも違法です。管理職だとしても、深夜労働については残業代が必要ですし、「名ばかり管理職」の危険もあるからです。残業時間を把握しなければ、残業代は払えないでしょうが、そのような削減策が違法なのは明らかです。
労働時間を適切に把握し、正しい残業代を請求するには、残業の証拠を集める必要があります。
「残業の証拠」の解説
自発的な残業を黙認する
「残業禁止」や「残業許可制」といったルールで、残業を削減しようとする会社はとても多いです。
本当に残業しなくてもよくなるならば、とても良い方法です。残業しなくても終わる仕事量なら、この残業削減の方法は有効に機能します。しかし、これまであった業務が減るわけでは決してありません。そのため、業務効率化、業務の再配分といった工夫なく進めれば、違法のおそれもあります。
業務量について対策せず、「残業禁止」だけ押し通すのは問題です。その結果、自発的な残業や休日出勤を招けば、残業代が未払いになっている可能性があるからです。
「残業禁止命令の違法性」の解説
固定残業代を増やす
残業代の一部を、基本給や手当としてあらかじめ支払う方法があります。いわゆる「固定残業代」という、残業削減のための手法です。
しかし、固定残業代は、「無効」と判断される裁判例が多いように、悪用をまねきやすい制度。悪用して残業を減らそうとするのは、間違った使い方です。
固定残業代の金額をさらに増やすのもまた、違法のおそれがあります。残業を削減したいなら、残業代の問題だけでなく、仕事を減らすなどの対応があわせて必要だからです。あらかじめ払われた固定残業代を超えて残業したら、追加の残業代の支払いを要します。
まとめ
今回は、残業削減として会社の取り組むものが、違法ではないかという疑問に回答しました。労働時間を減らし、ワークライフバランスを整えるのは、労働者にとってもメリットがあります。しかし、勝手に残業を減らされたら、不当な損を押し付けられているおそれがあります。
残業時間の削減が、人件費をカットしたいという動機から来るものだと、違法の疑いがあります。違法な残業の減らし方をすれば、未払い残業代が発生している可能性が高いです。
会社の労務管理、特に、残業時間の減らし方に疑問のあるときは、ぜひ一度弁護士に相談ください。
【残業代とは】
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【残業の証拠】
【残業代の相談窓口】
【残業代請求の方法】