残業したのに残業代が支払われないなら、速やかに請求に着手してください。
働いた時間に応じた残業代を受け取るのは、労働者の正当な権利ですが、会社が支払いに応じない場合、自身で請求手続きを進める必要があります。残業代請求では、はじめに「請求書」「通知書」といった書面を送るのが適切です。内容証明であれば請求した事実を記録に残せますが、証拠になるからこそ、不利にならない内容で作成するよう、書き方には注意しなければなりません。
今回は、残業代を請求する際の書面の書き方について、テンプレートを示し、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 残業代を請求した事実を証拠化するため、請求書を内容証明で送付する
- 請求書には、当事者と債権の内容を特定し、期限を付けて支払いを促す
- 会社との交渉を有利に進めるため、弁護士に依頼して法的手段を示唆する
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残業代の請求書の書き方と必要な記載事項

残業代の請求は、必ず「請求書」という形で書面に残して行いましょう。
口頭で請求しても証拠に残らないため、会社に軽視されるおそれがあるばかりか、支払いを拒絶されたとき、労働審判や訴訟においても証拠を示せなくなってしまいます。
以下では、残業代の請求書の項目ごとに、書き方について解説します。
請求日(書面作成日)
請求書の冒頭に、書面を作成した日付を明記します。
この日付は、請求書が会社に到着する日ではなく、実際に書類を作成した日を記載するのが基本です。また、発送日と一致させるために、作成した当日に送付するのが望ましいです。
【記載例】
「令和6年1月15日」「2026年1月15日」など。
- 西暦・和暦いずれでも問題ありませんが、書面全体で表記を統一しましょう。
請求先企業と代表者名(宛先)
残業代の請求書では、請求の相手方を特定する必要があります。
残業代の請求は、労働契約の相手方、つまり、使用者(会社)に対して行います。そのため、請求書の宛先は、会社の正式名称と所在地、そして代表者の氏名を正確に記載してください。実務では、会社名の後に「御中」は付けず、代表者の氏名の末尾に「殿」を付ける例が多いです。
【記載例】
〒123-4567
東京都◯◯区◯◯1丁目2番3号
株式会社◯◯◯◯
代表取締役 ◯◯◯◯ 殿
- 誤りのないよう、法務局で登記簿を取得し、正式名称・住所・代表者を確認してください。
請求者の氏名・住所・連絡先
次に、請求者本人についての情報を記載します。
請求者(労働者本人)の氏名、住所と共に、電話番号やメールアドレスなどの連絡先を記載します。この記載は、請求先の会社に対して「誰の残業代請求なのか」を明らかにすると共に、今後の交渉における連絡先を指定する意味があります。
交渉を円滑に進めるために、日中つながりやすい電話番号やメールアドレスを併記しておくと丁寧です。社員数の多い企業の場合、入社日や所属部署を記載することで特定しやすくする工夫をするのもよいでしょう。
【記載例】
〒123-4567
東京都◯◯区◯◯1丁目2番3号
営業部 ◯◯◯◯
電話:090-1234-5678
メール:xxxx@example.com
- 職場で通称を使用していた場合には、通称名を記載すべきです。
- 社用の携帯電話番号やアドレスは使用しないようにしてください。
- 書面の末尾に押印を行うと、より正式な文書という印象を出すことができます。なお、電子内容証明の方式で送付する場合は、押印することができません。
請求の意思表示
請求書に、未払い残業代の支払いを求める趣旨を明確に記載します。
残業代を「請求する」という意思をはっきりと記載しなければならず、希望や依頼、願望ではなく請求の意思であることが明確に伝わるようにしてください。
【記載例】
貴社に対し、下記の未払い残業代の支払いを請求します。期日までに必ずご対応いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。
- 強い表現にしたからといって支払われるとは限りませんが、感情的にならず、ただし、毅然とした対応を心がけましょう。
- 曖昧な言い回しは避け、「請求する」と記載するのが重要です。
「残業代請求に強い弁護士に無料相談する方法」の解説

残業代の請求金額・対象期間・計算方法
残業代の請求書では、未払い残業代の総額と、対象となる期間を明記します。
請求額の根拠として、残業時間数やそれを証明する証拠の有無、計算方法の概要(基礎単価や割増率など)についても記載しましょう。実務では、詳細な残業時間数は、エクセルの表などにまとめ、別紙として添付するのが通例です。
【記載例】
対象期間:2024年1月1日〜2025年12月31日
残業時間:合計120時間(タイムカードにて証明可能)
計算方法:時給1,500円 × 1.25(割増率) × 120時間
請求金額:225,000円
- 誤りのないよう、必ず再計算してください。
- 請求内容が特定されていないと、時効を中断する効果が不十分となり、不利益を被るおそれがあります。
- 労働者の手元の証拠が十分でない場合には正確な計算ができないので、タイムカードなどの証拠の開示を求めると共に、請求額は概算で記載するのが適切です。
「残業代の計算方法」の解説

支払期限と支払い方法の指定
残業代の請求書には、いつまでに、どのような方法で支払ってほしいかを記載します。
実務では、支払期限は通常、請求書の到着日から1週間〜2週間程度が目安です。支払期限を区切ることはプレッシャーを強める役に立ちますが、あまりに切迫した期限だと企業側の対応が追いつかず、十分な検討をしてもらえないおそれもあります。
支払い方法は通常の給与支払いに合わせるのが簡便で良いでしょう。銀行振込の場合は、振込先の金融機関の情報を正確に記載してください。なお、未払いであることを証拠化するため、現金での支払いを請求するのはお勧めしません。
【記載例】
本書面到達後、◯日以内に、下記口座までお振込みください(振込手数料は貴社にてご負担ください)。
◯◯銀行 ◯◯支店 普通預金 口座番号:1234567
口座名義:◯◯◯◯
未払いが続く場合の対応方針
請求書の最後の部分に、支払いがない場合の今後の対応方針を記載するのが有効です。
具体的には、非協力的な場合に強い手段に移行することを示すため、「法的措置を検討する」「弁護士と労働基準監督署に相談する」などと記載することで、会社の支払いを促すことができます。
法的措置を講じる場合には、遅延損害金や付加金を請求する旨を記載しておけば、更にプレッシャーを強めることができます。
【記載例】
支払期限までに支払いがなく、誠実な対応をしていただけない場合は、労働基準監督署への申告、弁護士への相談や、法的措置を検討する余地があります。その場合には、遅延損害金と付加金もあわせて請求しますので、あらかじめご承知おきください。
- 過度に強い表現は、脅しとなるおそれもあるので避けるのが無難です。
- 権利行使の意思があることを明確に、毅然とした態度で伝えるようにしてください。
「残業代請求の裁判例」の解説

残業代の請求書のテンプレート
次に、未払い残業代を請求する際にそのまま使えるテンプレートを紹介します。
具体的な書式・文例をもとに、「残業代の請求書の書き方と必要な記載事項」が過不足なく盛り込まれているかどうか、確認してください。
タイムカードなどの証拠が十分にある場合
第一に、労働者の手元に証拠が十分にある場合です。
この場合、タイムカードなどの証拠に基づいて、残業代の金額を具体的に計算して請求することができます。そのため、請求書にも金額と計算方法を明記しましょう。
請求書
2026年1月15日
〒123-4567
東京都◯◯区◯◯1丁目2番3号
株式会社◯◯◯◯
代表取締役 ◯◯◯◯ 殿
〒123-4567
東京都◯◯区◯◯1丁目2番3号
営業部 ◯◯◯◯
電話:090-1234-5678
メール:xxxx@example.com
私、◯◯◯◯は、貴社に対し、本書面の通り、未払い残業代を請求します。
通知人は、2023年4月1日、以下の条件で入社しました。
・雇用形態:正社員
・給料:基本給月30万円
・給料支払:毎月末締め、翌月10日払い
私は貴社において、1日8時間を超える時間外労働、休日労働、午後10時以降の深夜労働などをしましたが、適正な残業代を受領しておりません。
よって、本書面をもって貴社に対し、下記の未払い残業代の支払いを請求します。期日までに必ずご対応いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。
・対象期間:2024年1月1日〜2025年12月31日
・残業時間:合計120時間(タイムカードにて証明可能)
・計算方法:時給1,500円 × 1.25(割増率) × 120時間
・請求金額:225,000円
上記の未払い残業代については、本書面到達後、1週間以内に、下記口座までお振込みください(振込手数料は貴社にてご負担ください)。
◯◯銀行 ◯◯支店 普通預金 口座番号:1234567
口座名義:◯◯◯◯
なお、支払期限までに支払いがなく、誠実な対応をしていただけない場合は、交渉による解決の余地なしと判断せざるを得ず、労働基準監督署への申告、弁護士への相談や、法的措置を検討する余地があります。その場合には、遅延損害金と付加金もあわせて請求しますので、あらかじめご承知おきください。
「残業代請求の証拠」の解説

残業の証拠が手元にない場合
次に、労働者の手元に十分な証拠がない場合です。
労働時間を把握し、管理する義務は会社側にあるので、労働者の手元にタイムカードなどの資料が十分にあるケースの方が、むしろ稀だといってよいでしょう。在職中はもとより、退職後は、更に入手が困難になります。
この場合、残業代の請求書の中で、合わせて、会社に保存されている証拠の開示を求めます。請求額については概算を記載し、会社の証拠開示や反論を待つようにするのが実務的です。
(……中略……)
私は、貴社に対し、20XX年XX月から20XX年XX月分の残業代の全部を請求します。
具体的な金額について、残業代の算出に必要な資料として、タイムカード、賃金台帳、就業規則、賃金規程等、通知人の労働時間及び労働条件が把握できる書面を、本書面到達後7日以内に、私宛に郵送にてご提供ください。
(……中略……)
当事務所の相談例でも、既に退職してしまって証拠が手元にないケースで、会社側にタイムカードの開示を求めた結果、約200万円の未払い残業代を回収できた事例があります。
なお、通知書を送っても証拠が開示されない場合は、労働審判や訴訟などの法的手続きに移行し、裁判所から、必要な証拠を開示するよう強く指導してもらうことができます。
「タイムカードを開示請求する方法」の解説

残業代の請求書は内容証明で送るべき
未払い残業代の請求を確実に進めるには、請求書は内容証明で送付すべきです。
内容証明郵便は、請求書が到達した事実を記録に残すことができると共に、会社にプレッシャーを与える手段となるため、多くの残業代請求のケースで活用されています。
内容証明で送付する手順
内容証明とは、書面の到着日や内容を、日本郵便が証明してくれる郵便形式です。

主に法的な通知や請求に利用され、一定の書式ルール(用紙サイズ、文字数など)があります。具体的な手順としては、同じ書面を3通作成して記名押印し、郵便局の窓口に持参して送付します。なお、「e内容証明」のサービスを利用すれば、オンラインで送信することも可能です。
費用は1通あたり、一般書留の料金に加えて480円(2枚目以降は290円増)となります。
内容証明で送るメリット
内容証明が法的請求によく用いられるのは、次のようなメリットがあるからです。
時効の進行を止められる
残業代の請求権には、3年間の消滅時効がありますが、「催告」(裁判外の請求)を行うことで、時効の完成を6ヶ月間猶予することができます(民法150条)。
このとき重要なのは、催告した証拠を残すことであり、そのために「いつ・どのような内容で請求したか」を記録に残せる内容証明が有効です。
「残業代請求の時効」の解説

会社にプレッシャーをかけられる
内容証明は、一般的な郵便と異なり、形式が特殊で強い印象を与えます。
そのため、会社にプレッシャーを与えることができます。裁判を避けたい企業であれば、内容証明郵便が届いた時点で対応に乗り出す例も多いです。当事務所の事例でも、弁護士名義の請求書を送っただけで、支払いに応じるケースも珍しくありません。
労働審判や訴訟で証拠になる
いざ争いになったとき、請求した事実を証明する証拠として活用できます。
裁判所の審理では、証拠に残らない事実は認められないおそれがあります。口頭での請求だと証拠が残らなくなってしまい、最悪の場合は時効を主張される危険もあります。
実際に、口頭での催促のみを数ヶ月繰り返したが、結局残業代が一切支払われず、弁護士からの通知を送付するに至った相談例もあります。
「裁判で勝つ方法」の解説

内容証明で送るデメリットと注意点
内容証明は強力な手段ですが、デメリットもあるので注意してください。
なお、デメリットはあるものの、メリットと比較すると、基本的には残業代の請求書には内容証明郵便を利用するのがお勧めです。
会社との関係が悪化するおそれがある
内容証明は法的トラブルの前触れと受け取られることが多いです。
会社側が過剰に反応したり、悪質な未払いを繰り返していたりすると、関係性が悪化するおそれがあります。請求後も勤務を継続するなど、職場環境の悪化が気になる方は、まずは口頭やメールなど、より穏便な方法での請求を試すのもよいでしょう。
「会社を訴えるリスク」の解説

書式や提出方法に厳格なルールがある
内容証明には、用紙サイズや文字数、行数などの細かい制限があり、慣れていないと作成に手間取ることがあります。そのため、時間的な余裕を十分に持って準備しましょう。
なお、「e内容証明」であれば、ルールが緩和されており便利です。
送付するのに費用がかかる
通常の郵便よりも高めの送料がかかる点もデメリットです。ただし、残業代の未払い額が大きい場合、請求書の送付にかかる費用を気にするよりも、残業代を確実に回収できる方法を取ることの方を優先すべきです。
請求書を会社に無視や拒否された場合の対応

最後に、請求書を送っても支払いがない場合の対応について解説します。
適切な残業代の請求書を作成し、送付したとしても、必ずしも支払いに応じてもらえるとは限りません。中には、請求を無視したり、理由をつけて支払いを拒絶したりする会社もあります。
しかし、請求書を送って終わりではありません。会社が誠実に対応しない場合でも、労働者には以下の手段が用意されているので、状況に応じて次のステップに進むべきです。
労働基準監督署に申告する
請求書を送付しても会社が対応しない場合、労働基準監督署に申告しましょう。
残業代は、労働基準法に基づく権利なので、労働基準監督署に申告することで調査が開始されたり、是正勧告を行ってもらったりすることが可能です。ただし、労働基準監督署は、残業代を直接回収してくれるわけではありません。あくまでも行政による指導の一環であり、会社が非協力的だと、回収には至らないケースもあります。
「労働基準監督署への通報」の解説

弁護士を窓口にする
会社が請求を無視したり、理不尽な反論を繰り返したりする場合には、弁護士を交渉の窓口にすることを検討すべきです。
残業代請求は労働者自身でも可能ですが、未払い残業代が発生している会社は、いわゆるブラック企業であることも多く、請求書を送っただけでは解決しないケースも少なくありません。また、残業代の請求には、計算方法や証拠の収集など、法的な判断が必要なポイントが多く含まれており、弁護士による専門的なアドバイスが非常に役立ちます。
弁護士が代理人として請求書を送付することは会社にとって大きなプレッシャーになるので、対応が一変することも珍しくありません。弁護士を窓口とする場合、請求書にも「今後、本人への直接連絡は控えてください」などと記載するのが通例です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

労働審判や訴訟を検討する
請求書の送付から始まる交渉が行き詰まったら、労働審判や訴訟といった裁判手続きに進みます。残業代の請求書は、決して「無視されたら終わり」ではなく、交渉が決裂したら法的手続きに移行するという流れを理解し、次の行動に移していきましょう。
労働審判は、原則として3回以内の期日で解決を目指す迅速な手続きで、訴訟に比べて期間が短いため、実務上は残業代請求でも多く利用されています。
「労働問題の種類と解決策」の解説

まとめ

今回は、未払い残業代に悩む労働者に向けて、残業代の請求書の書き方と、すぐに使える請求書・内容証明のテンプレートを紹介しました。
残業代を請求する際は、口頭ではなく書面で通知することが重要です。本解説で紹介したテンプレートを活用すれば、自分でも、法的に有効な形で請求の意思を伝えることができます。特に、内容証明郵便を用いれば、後から「言った・言わない」の水掛け論を防ぐことが可能です。
「残業代を請求したいけれど、自分だけで進めるのは不安だ」「会社とのやり取りにストレスを感じる」とお悩みの労働者は、無理をせず、労働問題に精通した弁護士に相談することをお勧めします。専門家の助けを借りることで、より確実に、かつ迅速に自身の権利を守ることができます。
残業代を徹底して請求するためにも、ぜひ弁護士にお任せください。
- 残業代を請求した事実を証拠化するため、請求書を内容証明で送付する
- 請求書には、当事者と債権の内容を特定し、期限を付けて支払いを促す
- 会社との交渉を有利に進めるため、弁護士に依頼して法的手段を示唆する
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