うつ病になり、退職を余儀なくされてしまうケースがあります。とはいえ、そもそも、うつ病は退職しなければならない理由ではありません。
うつ病が、会社の業務による場合には「労災(業務災害)」。そうでなくても、これまで長期に貢献してきたなら、休職できる場合もあります。いずれにせよ、あきらめてすぐ退職するのは間違いです。
ただ、もう働けない、うつ病で退職せざるを得ないということなら、せめて有給消化はしてから辞めましょう。有給休暇は、労働基準法に認められた労働者の権利。退職までに消化しておかなければ、(買い取りしてもらえないと)無駄になってしまいます。
今回は、うつ病で退職するときの有給消化について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- うつ病になると、突然退職せざるを得ないことがあり、有給消化に注意を要する
- うつ病による退職でも、退職日より前でなければ有給消化できない
- うつ病で急に退職し、有給消化できないとき、事後申請、買取請求の交渉をする
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うつ病で退職するとき、有給消化する方法
まず、うつ病で退職する流れになったとき、有給消化する方法を解説します。うつ病を理由に退職することになっても、せめて有給休暇を消化してからにすべきです。
有給休暇の残日数を計算する
まずは、有給休暇の残日数を計算しましょう。労働基準法39条により、年次有給休暇は、入社日から6ヶ月勤務し、出勤率が8割以上の方に付与されます。通常の正社員であれば、入社後半年が経過した時点で10日の有給休暇を取得できます。その後も、継続勤務年数に応じて、次の通りの有給休暇の権利を付与してもらうことができます。
継続勤務年数 | 労働日 |
---|---|
6ヶ月経過 | 10日 |
1年6ヶ月経過 | 11日 |
2年6ヶ月経過 | 12日 |
3年6ヶ月経過 | 14日 |
4年6ヶ月経過 | 16日 |
5年6ヶ月経過 | 18日 |
6年6ヶ月以上 | 20日 |
なお、うつ病が労災(業務災害)ならば、出勤日に含まれることとなっています。そのため、有給休暇の正しい計算方法を知り、まずは残日数を確認してください。
「有給休暇を取得する方法」の解説
退職日前に必ず有給消化する
有給消化で、特に重要なのが、退職日よりも前に必ず取得することです。
有給休暇は、会社との雇用関係があることを前提としています。そのため、退職日までに取得しないと、退職日をもって消滅してしまいます。たとえ、うつ病にかかって退職する場合であっても、このルールは適用されてしまいます。したがって、退職日が到来するより前に、有給休暇を取得しておくよう注意しましょう。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
うつ病になって退職するまでの流れ
うつ病にかかってしまい、退職を考えるとき、その流れを理解してください。
退職時のトラブルを避けるには、医師の診断書を提出することからスタートします。これにより退職の際に「うつ病が原因である」と会社に説明しやすくなるからです。ただ、うつ病とはいえ自ら退職したい人は少ないでしょう。突然の退職となると、有給消化が間に合わない危険があります。
できれば退職したくないとき、労災や休職など、その扱いにより、退職までの流れは異なります。以下では、各ケースで、退職までにどのように有給消化すべきかという点を解説します。
労災だが自主退職する場合
「うつ病は自己責任」というのは誤った考えです。「うつは甘え」と揶揄する方もいますが、会社に責任あるケースも多いもの。このとき、業務による疾病なら、労災(業務災害)に該当します。
労災にあたるうつ病は、上司からの罵詈雑言やパワハラ、職場での長時間労働が原因となるものが典型例です。そして、発症したうつ病が労災ならば、労災保険の給付が受けられます。会社の協力が得られなくても、労働者一人で労働基準監督署を通じて労災申請することもできます。
労災なら、療養のための休業中とその後30日は解雇制限が適用され、自主退職しない限り、会社の意思で辞めさせることはできません。そのため、労災なのであれば、うつ病による退職を遅らせることで有給消化をすることのできる期間的な余裕を確保できます。
「労災の条件と手続き」の解説
休職の末に退職する場合
うつ病になっても、直ちに退職したくはないケースも多いでしょう。この場合は、休職をし、一定期間後に、復職するのが適切です。
休職は、法律に定められた制度ではなく、会社の定めるルールなので、どのような場合に休職できるかは、就業規則を確認してください。休職期間中は無給が基本なので、収入を補うには傷病手当金の申請をします。
休職期間中に、復職できるほどにうつ病が治らないと、退職となります。このようなケースは、休職に入る前に、有給消化を目一杯しきっているのが通常です。そのため、退職直前に、有給の未消化が争いになることはありません。
「復職させてもらえないときの対策」の解説
うつ病を理由に退職勧奨に応じる場合
うつ病になってしまうと、あなたの意思にかかわらず辞めるしかなくなる場面もあります。それが、会社から退職勧奨を受けてしまう場合です。
退職勧奨は、会社が労働者に退職を勧めること。最終的には、労働者自身が退職の意思表示をし、合意で退職することとなります。解雇は厳しい規制があるため、会社は自主退職してリスクを減らしてもらいたいわけです。
労働者としては、応じる義務があるわけではありません。うつ病で退職を受け入れざるをえないとき、できるだけ良い条件を交渉しましょう。少なくとも、有給消化は、必ず退職前にできる条件でなければ、応じてはいけません。
うつ病で退職し、有給消化しそこねた時の対応
では、うつ病が理由で欠勤していて、有給休暇の申請を忘れてしまったら、どのように対処すべきでしょうか。うつ病が退職理由の場合だと、体調が悪化し、的確な対応ができていないこともあります。しかし、有給消化せず、取りそこね、そのまま放置しては損してしまいます。
有給休暇は事後申請できる?
うつ病で退職せざるを得ない状況では、メールや書面で有給休暇を申請できないこともあります。会社に出向いて申請するのはなおさら難しいでしょう。面倒な気持ちはよく理解できます。
しかし、「うつ病による休みを、有給休暇にしてほしい」と要求することはできません。法律上、有給消化は、事前申請が原則だからです。会社側には事後申請による有給休暇の取得を認めなければならない義務はありません。そのため、事前の申請なく会社を休めば、欠勤として扱われます。
ただし、会社の裁量によって、有給休暇の事後申請を認めることも可能です。
うつ病は、風邪などの軽い病気とは違って重大な疾患です。事後申請を全く認めないことは、配慮の足らないブラック企業だと評価されるおそれもあります。
「違法な年休拒否への対応」の解説
有給休暇の買取請求はできる?
うつ病による退職で、有給消化しきれなかった場合、買取請求する手もあります。ただ、事後申請と同様に、買取請求についても会社の義務ではありません。つまり、会社は、有給休暇を買い取らなければならないわけではありません。
在職中に有給休暇を買い取ることは、労働者に不利益なため、労働基準法で禁じられています。ただ、退職時なら、会社が買い取るのは認められています。うつ病による退職ならば、せめてもの配慮として買い取ってもらえないか、要求してみましょう。
「退職の引き継ぎが間に合わない時の対応」の解説
退職届の提出後でも有給消化できる
「退職届を提出したら、有給消化できない」というのは誤解です。しかし、うつ病を敵視する会社が、このように伝え不当な処遇をしようとするケースもあります。
有給休暇は、「労働義務のある日に有給で休む権利」です。そのため、労働者である状態でなければ利用はすることができません。
会社が同意しないときでも、期間の定めのない労働者は、意思表示から2週間で退職できます(民法627条1項)。そして、職届を提出しても、退職日までは、労働者であるままなので、この間は、有給消化をすることが可能です。
「退職は2週間前に申し出るのが原則」「退職を伝えるのが早すぎる」の解説
まとめ
今回は、うつ病になって退職するとき、有給消化で損しないためのポイントを解説しました。
うつ病は業務だけでなく生活にも影響の及ぶおそれがある疾病です。やむを得ず退職しなければならない状況でも、有給休暇は、確実に消化しておくのが重要です。もし事情があって有給消化が間に合わないとき、事後申請や買取請求を試みてください。
退職届を提出した後でも、まだ退職日を過ぎていないなら、有給休暇を取得できます。うつ病にかかって退職間際だと、冷静な判断は難しいこともあります。不明な点や疑問のある方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
- うつ病になると、突然退職せざるを得ないことがあり、有給消化に注意を要する
- うつ病による退職でも、退職日より前でなければ有給休暇をとれない
- うつ病で急に退職し、有給消化できないとき、事後申請、買取請求の交渉をする
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