逮捕されると、出社はできなくなります。家族に頼んで「病欠」と偽っても、残念ながら逮捕がバレて、解雇されてしまうこともあります。
よほどの信頼関係がない限り、逮捕された人を雇いたい企業はありません。不運にも逮捕されたら、解雇されても仕方ないのでしょうか。軽微な犯罪や、冤罪での誤認逮捕のケースもあり、一時の過ちで、これまで築き上げた功績を全て失うのも納得のいかないことでしょう。
逮捕されても、適切な刑事弁護の末に、不起訴を勝ち取ることができるケースもあります。決して許されたわけではないですが、処罰されないなら業務に支障は生じないので、すぐに解雇されてしまうのは、不当解雇の疑いがあります。
今回は、逮捕を理由とした解雇について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 逮捕による解雇は、無罪、誤認逮捕、軽微な犯罪などなら、不当解雇の可能性あり
- 逮捕されても、起訴されず、判決が確定していないなら無罪が推定される
- 逮捕による解雇が、不当解雇なら、撤回を求めて会社と争うべき
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逮捕による解雇とは
逮捕されると、それを理由に、会社から解雇されることがあります。
解雇には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3種類があります。普通解雇は、信頼関係破壊を理由とするもの、懲戒解雇は、企業秩序違反を理由とするもの、整理解雇は、会社の業績悪化などを理由とするものです。このうち、逮捕を解雇理由とする場合、懲戒解雇が選ばれます。無断欠勤が続いたことを理由にするなら、普通解雇となるケースもあります。
懲戒解雇のデメリットは、解雇の3種類のなかでも特に大きく、厳しい制限があります。解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な場合でなければ、違法な「不当解雇」として無効になります(労働契約法16条)。
逮捕を理由に解雇されたときにも、その解雇が違法なのではないか、つまり、不当解雇だと主張して争うことができないか、問題となります。
なお、解雇されたことは、会社に必ず知られるとは限りません。むしろ、刑事弁護をしっかりすれば、逮捕されたとバレずに解決できるケースもあります。
少なくとも、社内の犯罪などでない限り、警察が会社に連絡することはありません。ただ、重大犯罪だと報道されたり、無断欠勤が続けばバレたりするケースはあります。
「逮捕されたことは会社にバレる?」の解説
逮捕による解雇が違法なケース
次に、逮捕による解雇が、違法となるケースについて解説します。
解雇が違法ならば、すなわち、不当解雇。労働審判や訴訟といった裁判手続きを通じて争い、不当解雇であると認められれば、その解雇は無効となります。
懲戒解雇理由として定められていない場合
懲戒解雇とするには、就業規則に定めがなければなりません。労働契約を結んでいるだけでは、懲戒権は与えられず、契約上の根拠を要するからです。
多くの会社は、「有罪判決を受けたこと」を懲戒解雇理由と定めていますが、これに対して、「逮捕されたこと」が懲戒解雇理由として記載されていないなら、逮捕を理由とした解雇は違法であり、不当解雇となります。なお、「その他の不適切な行為」などの一般条項に該当するかどうか、慎重な検討を要します。少なくとも次章の通り、重大性がなければ一般条項にも当たらないでしょう。
「就業規則と雇用契約書が違う時の優先順位」の解説
冤罪の場合
冤罪とは、本当はしていない犯罪について疑われることをいいます。逮捕されても、冤罪ならば、労働者は悪いことはしていません。単に不運だったともいえます。冤罪だったならば、逮捕されたからといって解雇するのは違法であり、不当解雇となるのは明らかです。
ただ、会社からすれば、真実を見抜くのは難しいことも多いでしょう。冤罪の場合には、警察ですら真実を見極められなかったわけですから、まして、捜査権限のない会社が、無実であると見抜かなければならないというのは無理があります。
とはいえ、少なくとも労働者の言い分を聞くため、面会して事情聴取すべきです。冤罪とわかったらすぐ撤回されるならば、慰謝料請求などは認められません。
誤認逮捕の場合
残念ながら、誤って逮捕されてしまうこともあります。警察とて、完璧ではありません。このような、間違いの逮捕のことを、誤認逮捕といいます。誤認逮捕もまた、冤罪の場合と同じく、解雇理由にはなりません。
きわめて軽微な犯罪の場合
解雇には、社会的相当性が必要です。つまり、解雇するに足るほど重大な理由がなければ、不当解雇となります。逮捕された犯罪がきわめて軽微だと、それを理由とする解雇も違法のおそれがあります。
そもそもプライベートの問題は、解雇理由にならないのが基本です。逮捕もまた、私生活での犯罪行為なら、解雇理由にはならないのが原則です。いわゆる「私生活上の非行」は、懲戒の対象にならないのが基本であり、例外的に、業務に大きな支障を与える場合に限って処分することが許されるに過ぎません。
例外的に、会社の名誉信用を傷つけるなど、影響があれば、解雇できる場合があります。ただし、当然ながら、労働者保護のため限定的に考えるべきです。
したがって、少なくとも、会社に影響のないきわめて軽微な犯罪なら、逮捕を理由とした解雇は、違法な「不当解雇」として無効になる可能性が高いといえるでしょう。
「会社のプライベート干渉の違法性」の解説
逮捕後、不起訴になった場合
きわめて軽微な犯罪の典型が、逮捕後、不起訴になるケースです。
逮捕されたケースの全てが起訴され、前科がつくわけではありません。違法性が軽微だったり、示談が成立したりなどといったことが考慮され、不起訴処分となることもあります。
逮捕後に不起訴になったにもかかわらず解雇するのは、許されない場合もあります。このとき、罪と処分のバランスが合わず、不当解雇となります。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
逮捕だけなら「無罪推定」がはたらき、不当解雇を主張できる
逮捕された事実が知られ、不幸にも解雇されても、まだあきらめてはいけません。逮捕による不当解雇と戦うには、「無罪推定の原則」というルールを知る必要があります。
「無罪推定」とは、証明のない限り、無罪だと扱うという意味です。無罪か有罪かは、起訴され、判決が確定してはじめて決まるもので、裁判所が判断すべきものです。なので、逮捕されてもまだ起訴されず、判決も決まっていないなら無罪だというわけです。少なくとも、逮捕段階ではまだ「犯罪者」ではありませんから、不当な処遇を我慢すべきではありません。
日本の刑事司法では、有罪率99.9%といわれます。これは、起訴された場合に、有罪になる確率が非常に高いということ。
一方で、まだ逮捕されただけなら、軽微な罪なら起訴されないこともあります。不起訴になれば、前科はつかず、有罪ともなりません。
不起訴は、お目こぼし的な意味合いもあり、必ずしも「まったく悪くない」ケースばかりではないものの、すぐに解雇されれば、不当解雇となるケースも少なくないものといえます。
「不当解雇に強い弁護士への相談」の解説
逮捕を理由に解雇された時の対処法
次に、逮捕されたのを理由に、実際に解雇されてしまった時の対処法を解説します。
すぐに解雇されるケースから、一定のプロセスをたどる場合まで、会社の対応は様々ですが、ありうる会社の判断ごとに、労働者がすべき正しい対応を解説します。
面会で退職勧奨されても拒否する
すぐクビにすれば不当解雇のリスクがあるため、退職勧奨してくる会社があります。退職勧奨は、あくまで「お勧め」であり、強要することはできません。そのため、退職したくないなら、断じて応じず、拒否するようにしてください。
しかし、逮捕されると後ろめたく、つい勧奨に応じてしまう労働者もいます。例えば、社長が逮捕されている警察署に面会に来るケースでは、その場で、「会社に迷惑をかけるから退職してもらえないか」と情に訴えかけられる例もあります。
退職勧奨そのものは、違法ではありません。とはいえ、退職の自由があるから、退職するかを決めるのは労働者自身です。退職強要が違法なのは、たとえ逮捕を理由にしても同じことです。
「退職強要の対処法」の解説
起訴休職を利用する
起訴休職とは、起訴された場合に利用できる休職制度です。
前章の通り、起訴されても、判決が出るまでは無罪であり、その間解雇は留保されるべき。しかし、逮捕されて拘束されれば仕事はできません。そのために、会社を休ませる、起訴休職が設けられるのです。勤務する会社に、起訴休職の制度があるかは、逮捕されたら確認しておきましょう。起訴休職が利用できれば、その期間中は、解雇を猶予してもらうことができます。
逮捕後すぐに解雇されたら、異議を述べる
逮捕後すぐに解雇されたら、不当解雇の可能性があります。逮捕されたからといって必ず最悪のケースに陥るとは限らず、早期に釈放されたり、不起訴になったり、無罪になったりする場合もあるからです。
このような場合、逮捕を理由とした解雇は、不当解雇だと主張して争いましょう。不当解雇を争うには、次の3つの対応を、即座にしてください。
解雇直後、間もないうちにするのがポイントです。このとき、逮捕され、身柄拘束されてしまっていると自由に動くことができないので、刑事弁護と共に、労働問題の対応もまた、弁護士に任せるべきです。逮捕直後の解雇は、会社においても検討が足らず、不適切な処分の疑いは強いです。不当解雇ならば、必ず争うのが基本です。
「解雇を撤回させる方法」の解説
解雇されないため、早期釈放に向けた弁護が必要
万が一に逮捕されたとき、解雇を避けるには、早期釈放が不可欠です。早期釈放されれば、解雇のリスクは格段に下がります。早く釈放されることで、幸いにして会社にバレない可能性もあります。
逮捕されると、そこから72時間の身柄拘束(警察:48時間、検察24時間)を受けます。その後に勾留されると、更に最大20日間(最初の勾留が10日間、延長が最大10日間)も拘束されます。
このように身柄拘束が続いてしまう間に解雇されてしまわないために、行っておくべき釈放に向けた弁護活動は、主に次のとおりです。
- 被害者と示談する
被害者のいる犯罪では、最も重要な情状となり、釈放につながります。示談し、告訴や被害届を取り下げてもらうとともに、嘆願書を取得します。 - 身元引受人を用意する
逮捕されるのは、逃亡、証拠隠滅のおそれがあるからです。身元引受人が、日常の監督を誓えば、その可能性を下げ、逮捕の必要性をなくすことができます。再犯の防止にも効果的です。 - 弁護士の意見書を提出する
弁護士に、法律の観点から、意見書を作成してもらいます。逮捕の必要性のないことを説得的に主張し、釈放につなげます。
まだ逮捕されていないなら、自首するのも有効です。自ら罪を認め、反省、謝罪の姿勢を見せれば、逮捕される可能性を下げられるからです。自首が成立するには、犯罪、犯人が発覚する前に、自ら出頭する必要があります。自首の際に、逮捕の可能性を少しでも下げるため、弁護士を同伴しての出頭がお勧めです。
これらの弁護活動には、逮捕のリスクを軽減するだけでなく、あわせて、今後科される刑罰を軽くする効果もあります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
今回は、逮捕されて解雇されても、不当解雇として争えるのかどうか、解説しました。
罪を犯し、逮捕されると、解雇されるケースが少なくありません。まずは逮捕されない対策と、万一逮捕されても、早期釈放に向けた弁護が大切です。刑事弁護を依頼すれば、会社に伝言するなど、解雇のリスクを軽減することにも繋がります。
実際は犯罪をしていない、冤罪の場合は特に、解雇はどうしても避けたいでしょう。逮捕だけでもダメージが大きいですが、せめて解雇されないよう、対策は必須です。
- 逮捕による解雇は、無罪、誤認逮捕、軽微な犯罪などなら、不当解雇の可能性あり
- 逮捕されても、起訴されず、判決が確定していないなら無罪が推定される
- 逮捕による解雇が、不当解雇なら、撤回を求めて会社と争うべき
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