タイムカードは、労働時間を把握する最も有名な方法で、残業の証拠としても活用されます。しかし、タイムカードを設置してもなお管理の雑な会社は珍しくなく、「タイムカードの記載が実際の労働時間と異なる」といった争いが起こるケースは残念ながら多いもの。このとき、労働者側の対策として、タイムカードを手書きで修正する方法があります。
手書きでは証拠にならないといわれ残業代がもらえない
打刻を忘れたら定時の時間を書くように指示された……
会社の勤怠管理が不十分だと、タイムカードを手書きで作成せざるを得ない場面もありますが、手書きのタイムカードも適切に記載されていれば適法で、有効な証拠になります。ただ、手書きの場合、打刻よりも慎重を期す必要があり、ミスをすれば証拠としての価値が落ちてしまいます。特に、会社が手書きするよう指示してきたとき、そのやり方が違法なこともあり、労働者側でも的確な証拠を集める努力をしなければなりません。
今回は、手書きのタイムカードの違法性と、証拠として活用する方法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- タイムカードは手書きをしても違法ではなく、有効な証拠として使える
- 打刻漏れや打刻忘れ、打刻ミスがあるときは手書きで修正する必要がある
- タイムカードの手書きが不正確だと、違法な残業代未払いの被害に遭う危険がある
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タイムカードを手書きすると違法?
タイムカードが手書きでも、それ自体で違法となることはありません。
タイムカード全体が手書きでも、修正が必要な箇所だけが手書きでも、違法ではありません。手書きのタイムカードだけでも、それをもとに残業代を計算し、未払いがあれば残業代請求できます。
ただ、「手書き」というだけで違法にはならなくても、違法な状態が起きやすいのもまた、事実。手書きは、不正がしやすく、会社側に悪用される危険性が高いからです。手書きのタイムカードが引き起こす、最も深刻な労働問題が、未払い残業代のトラブルです。
- タイムカードを手書きで書くとき、残業代が発生しないよう時間を調整させる
- タイムカードに、上司があらかじめ定時を記載しておく
- タイムカードを打刻せず、後からまとめて手書きするよう指示される
- タイムカードを打刻したが、後から勝手に手書きで修正された
なお、これらの問題は、タイムカードを手書きされると起こりやすいものですが、とはいえ、機械的に打刻されていたとしても起こりうる問題です。会社の不正で生じる未払い残業代は、タイムカードが手書きだろうと機械だろうと、注意すべきです。
労働者側でも、正しい時間を手書きするためには、労働問題の法律知識を要します。手書きする時間を誤れば、労働時間が短いと残業代を損してしまいますし、逆に、労働時間が長いと不正に残業代を請求することとなってしまいます。
「残業代請求に強い弁護士への無料相談」の解説
タイムカードが手書きでも、有効な証拠となるケース
次にタイムカードが手書きでも、証拠として残業代請求に活用できる場合について解説します。
タイムカードが残業の重要な証拠になるのは、機械的に打刻されていれば、改ざんが難しいため。なので、タイムカードが手書きだと、どうしても証拠としての価値は落ちてしまいます。とはいえ、手書きのタイムカードでも、証拠として有効に使えるケースは多いです。
タイムカードを押し忘れた場合
タイムカードを押し忘れたとき、そのままだと、その日の労働時間が記録できません。このとき、会社の許しを得て、手書きでタイムカードに記入するのが適切です。押し忘れはないよう注意すべきですが、業務が多忙だと、ミスは誰しもあります。
打刻漏れや打刻ミスがあった場合
タイムカードは、機械ですので、予期せぬ不具合が発生することもあります。自分では押したつもりでも、打刻漏れとなっていたとき、手書きで修正すべきケースがあります。
打刻漏れで、タイムカードを手書きするとき、他に労働時間を記録していないと、正しい時間が書けません。したがって、仮にタイムカードがあっても、労働者としては自分の働いた時間を、それ以外の方法も把握しておくのがお勧めです。
打刻ミスがあったときにも同じく、正しい時間とするために手書きで修正します。タイムカードを勝手に押されたときも、修正が必要です。
「タイムカードを勝手に押されるのは違法」の解説
手書きの勤怠しかない場合
職場によっては、会社がタイムカードを用意していないことがあります。
会社は、労働時間を把握する義務があります。ただ、必ずしも「タイムカードによって把握しなければならない」わけではありません。例えば、タイムカード以外の次のような方法も、労働時間の把握義務を果たしていると考えられます。
- 出勤表を常備し、手書きで記入させる
- 出勤簿にサインさせる
- 日報を提出させ、業務時間を書かせる
- 業務日誌に、手書きで記入させる
- 毎日の労働時間を自己申告させる
- 上司が、目視で確認する
これらの労務管理が、適切に行われるとき、たとえ手書きだったとしても労働時間の証拠になります。したがって、長時間働いていることがわかれば、手書きの資料も、残業の証拠です。ただ、手書きの資料による管理は、タイムカードに比べてミスが起こりやすいです。実労働時間と異なるときには、未払い残業代が発生し、損してしまう危険が高いといえます。
直行直帰の場合
直行直帰だと、会社に置いてあるタイムカードを打刻できません。このとき、タイムカード以外の方法で、労働時間が管理されていればよいですが、タイムカードに反映する形で把握しておいたほうが、後の給料計算が容易だという側面があります。
そのため、直行直帰だと、タイムカードに手書きするよう会社に指示されることがあります。タイムカードに書く労働時間が正しければ、直行直帰という正当な理由がありますから、手書きしてもOK。
ただし、直行直帰だといつからいつまでを労働時間とするか、法律上難しい問題があります。
基本は、直行直帰でも、行き帰りの移動は含めず、実際に労働した時間を書くのが、正しい対応です。
労働者に有利な修正が許される場合
タイムカードの手書きが有効な例に、労働者に有利な修正が許されるケースがあります。
典型例が、会社のルールで「遅延証明を出せば、始業時刻から勤務したとみなしてよい」と定めるケース。このとき、出社してタイムカードを打刻すれば労働時間が短くなってしまうため、会社が許しているなら始業時刻を手書きし、その時点から働いていたこととしてかまいません。
タイムカードに手書きされる時刻は、実際の労働時間とズレますが、労働者に有利な修正なので、正しい手書きの方法といえます。
「遅刻による解雇を争う方法」の解説
タイムカードを手書きする時の書き方
次に、タイムカードを手書きするとき、その書き方について解説します。
手書きで記入する場合の書き方
タイムカードの打刻漏れ、打刻忘れや直行直帰など、そもそもタイムカードの打刻がないときに、手書きで記入するケースでの書き方は、次のように進めてください。
なお、手書きするときの筆記具は、必ず消えないボールペンを用いてください。鉛筆や消えるボールペンなどだと、後から記録が消えてしまったり、偽造、改ざんのおそれがあったりしてトラブルのもとです。
手書きで修正する場合の書き方
タイムカードの打刻にミスがあったときや、正しくない労働時間が打刻されてしまっていたときに、手書きで修正するケースでの書き方は、次のように進めてください。
「残業代の計算方法」の解説
タイムカードを手書きで改ざんしたら違法
タイムカードが手書きでも証拠になる場合があることを解説しました。しかし、これを悪用してタイムカードを改ざんするのは許されません。
会社側で、実際とは異なる労働時間を手書きするよう指示するのは違法。もちろん、労働者側で、誤った労働時間を手書きして残業代をもらおうとするのも違法です。法律にしたがった正しい残業代が払われないなら、労働基準法違反です。
実際と異なる労働時間を書かない
タイムカードを手書きで書かなければならないシーンは多くあります。しかし、前章で解説したとおり、実際の労働時間を間違いなく書かなければなりません。「残業代が発生しないように手書きにさせよう」というブラック企業の思惑にしたがってはいけません。
残業をしているにもかかわらず、残業していないかのような手書きはNG。そのような業務命令は違法であり、したがう必要はありません。タイムカードの改ざんが判明したときは、労働基準監督署に告発する方法も有効です。労基署が調査をし、是正勧告をしてくれれば、残業代の未払いが改善されることが期待できます。
残業代の証拠は、労働者側でも収集する
タイムカードを手書きで、実際の労働時間と異なるように書かせるなら違法です。しかし、このとき、正しい労働時間を書くためには、証拠が必要となります。つまり、労働者側でも、タイムカードやその手書き以外で、証拠を確保しなければなりません。労働者としても、自衛のために備えが必要です。
タイムカード以外で、正しい労働時間を知るには、例えば、次の資料が役立ちます。
- 労働者が作成したメモや手帳
- 労働者のスケジュール帳、カレンダー
- 職場の時計の写真
- パソコンのログ履歴
- メールやチャットの履歴
- 帰宅時に家族に送ったメールやLINE
- 交通系ICカードの使用明細
労働者側で、自分で行える方法で保管しておいた証拠は、有効活用できます。タイムカードが、実際の労働時間と違うと証明できれば、未払いとなっていた残業代を請求できます。
「残業の証拠となる資料」の解説
未払い残業代を請求する
タイムカードが手書きであっても、残業代請求の支障にはなりません。手書きのタイムカードもまた、実際に労働した時間が正確に記録されていれば証拠になります。必ず、コピーをとり、保存しておきましょう。
タイムカードが手書きで、かつ、残念ながら、実際の労働時間とは異なる記録となっているときでも、そのような間違った手書きが会社によって強制されたなら、「残業代はない」と労働者が認めたという意味にはなりません。集めた証拠をもとに残業代を計算し、まずは内容証明で請求書を送付します。交渉では解決しないとき、労働審判や訴訟といった裁判手続きを利用して争うために、お早めに弁護士に相談ください。
「残業代の請求書の書き方」の解説
まとめ
今回は、残業代請求の証拠で不安になる、手書きのタイムカードについて解説しました。
「タイムカードが手書きでも残業代請求できますか?」という相談をよく受けますが、適切な方法で作成されたタイムカードは、たとえ手書きでも法律上問題なく、証拠として活用できます。会社の労働時間把握が十分でなくても、労働者側で事前に対策をし、残業代未払いの損失を回避しましょう。
ただ、タイムカードを手書きせざるを得ないケースは、打刻漏れ、打刻忘れの場合から、そもそも手書きでしか労務管理できていない会社など、必ずしも企業側の対応が十分とはいえない例も多いもの。手書きだからといってすぐ無効ではないものの、ミスが起きやすいため注意を要します。
また、悪質なブラック企業では、タイムカードが手書きだと違法な残業代未払いを隠蔽しやすくなります。労働者側でもしっかりと労働時間の証拠を集め、将来の残業代請求に備えましょう。
- タイムカードは手書きをしても違法ではなく、有効な証拠として使える
- 打刻漏れや打刻忘れ、打刻ミスがあるときは手書きで修正する必要がある
- タイムカードの手書きが不正確だと、違法な残業代未払いの被害に遭う危険がある
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