不当解雇を争う最中でも、生活のために再就職を検討する人は少なくありません。
不当解雇を争っている途中で再就職しても、直ちに不利になるわけではありません。解雇を認めたとは評価されず、地位確認請求を続けることができます。当事務所にも、労働者側から次のような相談が寄せられることがあります。
- 「再就職をすると解雇を認めたことになるのではないかと不安だ」
- 「不利になってバックペイや解決金が減ってしまうのではないか」
- 「生活のために働かないと苦しいが、不利な解決となることは避けたい」
解雇をめぐる争いには一定の期間を要します。交渉から労働審判、訴訟に進めば年単位の期間がかかるケースもあります。その期間を無収入で生活するのは現実的ではなく、再就職を検討するのは当然の判断でしょう。
今回は、不当解雇を争っている間、他社に再就職してもよい理由と、その際の注意点について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 争っている間に他社で働いても、解雇を受け入れたことにはならない
- 再就職先の給料は、4割を上限としてバックペイから控除される
- 転職した結果として復職を希望しないなら、解雇の金銭解決を目指すべき
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
不当解雇を争っていても他社に再就職してよい

不当解雇を争っている最中でも、他社に再就職することは法律上問題ありません。再就職したからといって、直ちに解雇を認めたと評価されるわけでもありません。
以下では、その理由について詳しく解説します。
不当解雇を争っている間でも働ける法的な理由
「解雇は無効である」という主張は、法的には「元の雇用関係が続いている」という意味なので、「他社に再就職するのは矛盾するのではないか」と不安に思うかもしれません。
しかし、再就職したからといって直ちに解雇を認めたことにはなりません。解雇の紛争が長期化すれば、生活維持のために働く必要があることは、裁判実務でも当然の前提されています。仮に再就職が許されないとすれば、生活に困窮した労働者は争いをあきらめざるを得ず、不当解雇をされても泣き寝入りを強いられてしまいます。
労働者には職業選択の自由(憲法22条)があり、いつ、どのような職に就くかは自由に決められます。不当解雇を争っているからといって、この自由が制限されることはありません。
既に解雇されている以上、形式的にも雇用関係は終了しており、再就職しても二重雇用にはなりません(なお、退職後の競業避止義務が問題になるリスクはあるものの、この義務自体が無効と判断されるケースも少なくありません)。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

不当解雇を争っている間の働き方の選択肢
不当解雇を争う間の働き方には次のような選択肢があり、状況に応じて選択可能です。
アルバイト・派遣として一時的に働く場合
当面の生活費を確保するため、アルバイトや派遣といった非正規雇用として一時的に働くケースがあります。このような働き方であれば、元の会社で就労する意思は否定されにくく、解雇無効の主張とも整合しやすいと考えられます。
フルタイムで他社に転職する場合
一方、正社員としてフルタイムで転職する人もいます。
前章の通り、フルタイムで転職しても、それだけで解雇を争えなくなるわけではありません。ただし、転職の経緯や理由によっては、会社や裁判所から「元の職に戻る意思はないのではないか」と疑問視されるおそれがあります。
特に、転職先の給与の方が高い場合など、長期的に働く可能性が高いと考えられると、元の会社での就労意思が失われたと評価されるリスクがあります。
解雇中の再就職と失業保険の関係
解雇中に再就職を考える場合、失業保険との関係も考慮しなければなりません。
というのも、失業保険は「就労していないこと」を前提とした給付なので、アルバイトや派遣などの一時的な就労だとしても、給付が停止されたり調整されたりすることがあるからです。
一切就労せずに失業保険を受給しながら解雇を争うのか、早期に再就職して収入を確保するのかは、人によって正解が異なります。いずれを選ぶにしても、将来の生活設計をシミュレーションした上で、再就職のタイミングを見極める必要があります。
なお、解雇や退職勧奨は、会社都合退職として失業保険を有利な条件で受給できるのが基本となり、争い中は「仮給付」を活用することも可能です。
就労意思を失ったと評価されないための注意点

解雇の争いで注意すべきなのが、元の会社に戻る意思(就労意思)がないと評価されるリスクです。解雇無効を主張する「地位確認請求(労働者としての地位があることを確認する請求)」は、「元の会社に戻って働く意思があること」が前提となっているからです。
そのため、「解雇を認めた」「退職に同意した」と評価される言動は不利になり、争っている間に他社に就労することも、その一要素と見られるおそれがあります。「解雇を認めた」と受け取られ、不利になりかねない言動の例は、次の通りです。
- 「解雇を認める」「退職でかまわない」などの発言をした。
- 退職届や退職合意書にサインした。
- 退職手続きを積極的に進めた(退職金や離職票の受領など)。
- 業務の引き継ぎに協力的であった。
裁判例にも、解雇期間中の行為について、労働者に不利な判断をした事例があります。
- 東京地裁令和元年10月23日判決
解雇の1年2ヶ月後にほぼ同水準の賃金で就労し、役職に就いていたことなどから、再就職の時点で、退職について黙示の合意が成立したと判断された事例 - 東京地裁令和元年8月7日判決
再就職先での試用期間満了時点で雇用状況は一応安定していたとして、その時点で就労の意思が喪失していたと判断された事例
もっとも、生活のために働いただけで「就労意思を喪失した」とは評価されません。解雇紛争の長期化に備えて収入を得るのは合理的な判断だと考えられるからです。裁判実務においても、次のように、労働者にとって有利な判断をした事例もあります。
- 東京高裁平成31年3月14日判決
解雇直後に再就職したものの、転職先の給与が相当低額であること、一貫して職場復帰の意思を示していたことなどから、就労の意思が肯定された事例 - 東京地裁令和3年10月14日判決
再就職先の職種が解雇前とは異なることから、就労の意思が認められた事例
以上のように、就労の意思の有無の判断では、再就職先の賃金水準、再就職先の業務内容についても考慮されるのが近時の傾向となっています。
「不当解雇の裁判の勝率」の解説

解雇中に再就職した場合のバックペイへの影響(控除・調整)
次に、解雇中に再就職した場合のバックペイへの影響について解説します。
不当解雇が無効と判断された場合、解雇されていた期間中も雇用関係が続いていたものとして扱われ、その間の未払い賃金(バックペイ)を請求できます。解雇期間中は実際に働いていなくても、「働かなかった」のではなく「不当解雇により働けなかった」と評価されるため、民法536条2項により、賃金請求権は失われないというのがバックペイの基本的な考え方です。

一方で、解雇を争いながら再就職して給与を得ると、その期間中は二重に収入を得ることになり、バックペイとの調整が必要となります。解雇が無効となった結果、「元の会社の賃金」と「再就職先の賃金」が重なる期間が生じますが、二重取りは認められません。
ただし、再就職先から得た中間収入が全て控除されるわけではありません。実務上は、労働基準法26条が定める休業手当を踏まえると、平均賃金の6割は保障されるべきと考えられ、中間収入の控除は4割を限度とすると考えられています。
再就職先の給与が前職より低い場合の扱い
不当解雇を争う間の再就職は選択肢が少なく、前職より給与が低くなることがあります。
再就職先の給与が低い場合、そもそも控除対象となる金額も限定的ですし、結局元の賃金分は手元に残ることになるため、金銭的な不利益はありません。このとき重要なのは、収入額を正確に記録しておくことです。また、収入の低い就職先であれば、「生活維持のために仕方なく働いた」という説明がしやすくなります。
再就職先の給与が前職より高い場合の扱い
一方で、再就職先の給与が前職より高くなった場合には注意が必要です。
給与が高いからといって直ちにバックペイがゼロになったり、不当解雇の主張が否定されたりするわけではないものの、結果的に控除額が大きくなり、請求できるバックペイは少額になります。また、転職の経緯をしっかり説明しなければ、元の会社に戻る意思(就労意思)はなくなったと判断されるリスクが高まります。
したがって、解雇を争っている間に労働条件の良い転職先が見つかった場合、地位確認請求を続けるか、金銭解決を目指す方針に切り替えるかを、戦略的に判断する必要があります。
「バックペイ」の解説

再就職したことによる他の経済的影響
不当解雇を争っている間に再就職し、他社で収入を得た場合、バックペイ以外にも、その後の解決(和解や判決)に一定の経済的影響が生じることがあります。再就職したからといって直ちに不利になるわけではないものの、戦略を決める判断材料にしてください。
和解による解決への影響
不当解雇のトラブルが和解で解決するケースは非常に多いです。
再就職により生活基盤が安定すれば、元の会社に戻らなければならないという切迫感が薄れ、解決金による早期解決がまとまりやすい傾向があります。
ただし、再就職していることが今後の争いで直ちに不利になるわけではないため、あまりに低い解決金で妥協するのは避けるべきです。会社側も辞めてほしいと考えている場合は、可能な限り時間をかけて増額の交渉をしましょう。
なお、再就職先での収入が多いほど、会社側が提示する解決金の基準も低くなる傾向がある点には留意が必要です。
「解雇の解決金の相場」の解説

判決による解決への影響
一方、交渉が決裂し、判決で解決することとなるケースもあります。
裁判所が解雇が無効であると判断すれば、労働者は復職することとなります。ただし、この場合でも必ず復職しなければならないわけではなく、労働者には退職の自由があるため、形式的に復職した後すぐに退職すれば、再就職先での地位を維持する選択も可能です(この場合、解雇期間中のバックペイは受け取れます)。
したがって、再就職していたこと自体が、判決による救済を否定する理由になるわけではありません。
「解雇を撤回させる方法」の解説

損害賠償や慰謝料への影響
不当解雇によって精神的な苦痛を受けた場合、慰謝料を請求できます。
慰謝料額は、労働者の受けた損害の程度に応じて増減するため、早期に再就職でき、損失が小さいと評価されると、認められる慰謝料額が低くなるおそれがあります。
ただし、そもそも解雇の慰謝料が認められるのは例外的なケースに限られます。原則として、地位の回復やバックペイの支払いによって救済され、それでも補償されない精神的苦痛がある場合に限って慰謝料が請求できると考えられているからです。
「不当解雇の慰謝料」の解説

再就職するまでの無職期間のバックペイの扱い
他社への再就職が元の会社に知られても、再就職するまでの間の無職期間についての未払い賃金(バックペイ)は請求することが可能です。再就職によって就労意思を喪失したと評価された場合でも、無職であった期間のバックペイの請求権まで消滅するわけではありません。
復職を目指すか、再就職先を優先するかの判断基準
解雇を争いながら再就職すると、「復職を目指すか」「再就職先での勤務を優先して目標を切り替えるか」と迷う方は少なくありません。この問題に正解はなく、状況によっても異なりますが、重要なのは、感情や勢いで決めず、客観的な判断基準を持つことです。
以下では、解雇紛争を数多く担当してきた当事務所で、判断基準として質問が寄せられる事情について解説します。
解決にどれくらい期間がかかるか
解雇中に再就職する最大の理由は、生活費の確保にあります。逆に言えば、解雇紛争の解決にかかる期間や貯金・副収入によっては、争い中にあえて働く必要性が低い人もいます。そのため、解雇の争いがどの程度の期間で終わる見込みかによっても取るべき方針は異なります。
解雇の争いは通常、交渉・労働審判・訴訟の順番で進み、目安として、交渉で1ヶ月〜3ヶ月程度、労働審判に3ヶ月〜4ヶ月程度、訴訟には半年〜1年半以上の期間がかかります。

手続きが進むほど長期化するので、交渉や労働審判で短期間に解決できる見通しがあるなら、復職を前提に集中し、再就職しないという判断もあり得ます。一方で、訴訟まで進み、長期化が避けられない場合は、再就職先を検討するのもよいでしょう。
いずれの手続きも、「解決期間を早めたい」と考えるなら、一定の妥協をして和解することで期間を短縮する選択肢もあります。
今後のキャリアをどう考えるか
次に重要なのが、労働者自身の今後のキャリア設計です。
労働問題は、金銭だけが目標ではありません。どのような解決を得られるかにより、キャリアへの重大な影響が生じることもあります。
例えば、前職と再就職先を比べ、「収入が高いかどうか」だけでなく、地位が安定しているか、労働環境の整備状況、将来のキャリアにつながるスキルアップの可能性といった点も検討してください。あくまで生活維持のために再就職したとしても、本来は元の職場でキャリアを形成したいという思いが強い場合、復職を目標とする意味が大きいケースもあります。
元の会社との関係性を立て直せるか
最後に、現実問題として、元の会社との関係性を立て直せるかどうかも重要です。
勝訴すれば形式的には復職できますが、職場の人間関係が著しく悪化していると、戻っても嫌がらせをされたり、再び不当な人事処分を下されたりといった危険があります。小規模な企業では特に、社長との関係性が良好でないケースでは、復職が必ずしも最善とは言い切れません。
こうしたケースでは、復職に固執せず、解決金を最大限受領して金銭解決することを目指す方が、結果的に精神的な負担が軽くなることもあります。
「労働問題の種類と解決策」の解説

不当解雇を争いながら再就職する際の注意点

最後に、不当解雇を争いながら再就職する際の注意点を解説します。
不当解雇を争っていても再就職は可能ですが、その際の対応次第では、転職先との間でも無用なトラブルや誤解を抱えるおそれがあります。
解雇を争っても再就職で不利にならない
不当解雇を争っているという事実が、再就職で不利に扱われることはありません。
転職活動で、「解雇紛争中である」と積極的に伝える必要はなく、退職理由は簡潔に伝えれば足ります。労働審判は非公開であり、転職先に知られることは通常ありません。
仮に経歴に触れる質問があっても、「不当解雇であるため、弁護士に依頼して争っている」と伝えれば、問題社員だから解雇されたという印象はなくせます。
「懲戒解雇が再就職で不利にならない対策」の解説

紛争解決時に口外禁止の合意を取り付ける
前の会社と揉めたことが伝わり、採用の選考に悪影響が出ないように対策を講じることも検討しましょう。弁護士が代理人として対応する場合、話し合いによって和解するときは、会社との間で「本件紛争について第三者に口外しない」といった秘密保持の合意を取り付けるのが通常です。
この合意を結ぶことで、会社側から就職希望先への情報漏洩を未然に防ぐことができます。将来のキャリアへの影響を最小限に抑えるためにも、合意書の作成は弁護士に依頼し、口外禁止の条項を確実に盛り込むことが重要です。
前職とのトラブルは可能な限り防止する
元の職場に戻ることを望む場合、再就職によって対立を深めることは避けるべきです。生活のための再就職だとしても、関係が悪化しないよう、次の点に注意してください。
- 生活のためのやむを得ない再就職であることを前職に伝えておく。
- 再就職にあたって、秘密保持義務・競業避止義務を遵守する。
不当解雇を争っている間は、労働者側が「雇用関係は今も継続している」と主張している状態であるため、労働契約に付随する競業避止義務や誠実義務が及ぶおそれがあります。特に、同業他社への再就職を検討する方は、雇用契約書や就業規則、誓約書などの内容を事前に確認し、不明点がある場合には弁護士へ相談するのがおすすめです。
「誓約書を守らなかった場合」の解説

再就職先を優先して解雇紛争を終了させる選択肢もある
再就職をきっかけに、「元の会社には戻りたくない」と考える人もいます。
この場合、戦略的に考えるのが良いでしょう。「再就職したら解雇争いを止めなければならない」わけではなく、労働者の選択によって結末が異なります。再就職先での勤務を優先して対応するなら、解雇の争いを早期に金銭解決するため、解決金について大幅な譲歩をして決着させる、もしくは、紛争そのものを取り下げることが可能です。
前述の通り、仮に解雇が無効と判断された場合でも、前職に就労せず、バックペイを受け取った上で退職する選択も可能です。
不当解雇を争って復職を目指すか、再就職先を優先するかの判断は、目先の状況だけでなく、今後の働き方やキャリア全体を見据え、長期的な視点で考えることが重要です。
「不当解雇から復職したくない時の対応」の解説

浅野総合法律事務所の不当解雇中の再就職に関する解決事例

当事務所で扱った事例でも、解雇を争う期間中に他社で働いていた事実を労働審判委員会から指摘されながら、最終的に納得のいく金銭解決に至ったケースは数多くあります。
例えば、突然の解雇で生活基盤を失い、労働審判を申し立てた事例では、相談者が生活費を賄うためにアルバイトをしていたことが発覚し、会社側から「他社で働いている以上、元の職場に戻る意思がないことは明らかだ」と反論されました。
しかし、当事務所は、再就職の目的があくまで「当面の生活維持」にあることを主張し、再就職先の勤務形態が一時的なものであること、一貫して職場復帰を希望する発言を続けていたことをアピールして就労意思が消滅していないことを説明しました。
その結果、労働審判委員会も労働者の窮状を理解し、再就職によっても就労意思は否定されないという心証を得ることができ、会社側が解決金を支払う形での和解が成立しました。
どのような働き方を選び、裁判所へどうアピールするかで評価は大きく変わります。リスクを最小限に抑えるためにも、他社で働いていることは弁護士には正直に共有してください。事前に適切な対策を講じることで、不利な判断を回避することが可能です。
【まとめ】不当解雇の争い中の再就職
今回は、不当解雇を争っている間の再就職の可否について解説しました。
解雇の無効を主張する一方で、他社で働くのは矛盾するように見えるかもしれません。しかし、それだけで解雇を認めたことにはならず、地位確認請求を続けることが可能です。解雇の紛争は解決までに長期間を要することもあり、生活のためにも合理的な判断です。
ただし、再就職先で得た給料は、解雇期間中のバックペイと調整され、元の給料の4割を上限として控除されます。働き方にも注意が必要なので、不当解雇を争いながら生活とキャリアを守るには、「どのように再就職するか」まで含めた判断が重要です。
具体的な状況によって適切な対応は異なるため、解雇の争いで不利にならないよう立ち回りたいなら、弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。
- 争っている間に他社で働いても、解雇を受け入れたことにはならない
- 再就職先の給料は、4割を上限としてバックペイから控除される
- 転職した結果として復職を希望しないなら、解雇の金銭解決を目指すべき
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/



