職場でパワハラが見過ごされると、労働者が我慢を強いられてしまいます。
加害者に責任があるのは当然ですが、パワハラを見過ごした会社にも法的責任が生じます。会社には、労働者が安全に働ける環境を整える義務があり、見て見ぬふりは許されません。相談しても対応してくれないのは「黙認した」ものと評価される可能性があります。パワハラの黙認は許されず、相談したのに適切な調査や再発防止策が講じられなければ違法となります。
上司や管理職が「見て見ぬふり」をする場合や、相談窓口が機能していない場合は、パワハラ防止法違反であり、安全配慮義務違反にもなりかねません。
今回は、パワハラを黙認し、見過ごすことの違法性と、会社が対応してくれない場合に取るべき行動について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- パワハラを相談されても適切に対応しない会社は「黙認した」と見られる
- パワハラを黙認する会社には、安全配慮義務違反を理由に慰謝料請求できる
- パワハラに会社が対応してくれない場合は、社外への相談を検討する
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パワハラの黙認とは

まず、パワハラの黙認とはどのような状態を指すのかについて解説します。
黙認とは、実態を把握しているのに放置し、見過ごすことです。「知らなかった場合」とは区別されるので、労働者としては「知らなかった」と反論されないよう、パワハラの被害を受けたら、速やかに会社に相談する必要があります。
パワハラの黙認に当たる具体例
会社にはパワハラを防止する義務があるため、知りながら防がなかったり、相談に対応しなかったりした結果、被害を拡大させれば、「黙認」と評価できます。
例えば、黙認にあたる具体例は、次のようなケースです。
- 社長が上司の暴言を認識しながら、注意や指導を行わない。
- 部下から相談を受けたが、事実確認や調査をしない。
- 明らかに違法なのに、加害者の言い分を鵜呑みにしてパワハラだと認めない。
- 「部長は昔からパワハラ気質だから」などと容認する。
- パワハラ被害を訴えた社員を異動させ、加害者は処分しない。
- 社内アンケートや通報で実態を把握しながら、再発防止策を講じない。
労務管理を遂行する役割は、上司や管理職が担います。職場にパワハラがあることを知った場合、社長や人事に報告して対処するのが適切です。上司や管理職が放置した結果、パワハラに対応されなければ、会社として黙認したのと同じことです。
社内の空気がパワハラの黙認につながる場合もある
特定の加害者や管理職の問題だけでなく、会社全体がパワハラを容認している場合もあります。例えば、古い体質や業界慣習、企業文化などを理由として、「この程度の言動ではパワハラにならない」という空気を作り、組織ぐるみでパワハラを当然視しているケースです。
しかし、パワハラが違法であることは、企業規模や業種、業界を問わないため、ハラスメント行為を正当化する理由にはなりません。
黙認と「知らなかった場合」を区別するために相談が重要
黙認は、文字通り「黙って認めたこと」であり、その責任は重大です。これに対し、「知らなかった場合」には、会社は被害を防止することができなくても仕方ありません。
そのため、会社に対して黙認したことの責任を問うには、その前提として、事前に相談しておくことが重要となります。本来、労務管理を適切に行い、労働者からの相談がなくても職場のパワハラに気付くのが理想ですが、ハラスメント被害は隠れて生じることも多いものです。
パワハラを黙認する会社の責任

結論として、パワハラを黙認する会社には、法的な責任があります。以下では、その法的責任の具体的な内容について解説します。
会社にはパワハラを防止する義務がある
会社は、労働者を安全で健康に働ける職場環境を整える義務(安全配慮義務)を負います。
パワハラは心身の健康を害するため、「パワハラのない環境で働かせる」ことも同義務の一環となります。パワハラを放置することは、この義務に反し、慰謝料請求の対象となります。また、働きやすい職場環境を維持する義務(職場環境配慮義務)があるため、パワハラの相談があったにもかかわらず調査や確認を怠った場合、同義務違反の責任が問われます。
会社は使用者としての責任を負う
従業員が「事業の執行」に関して他人に損害を与えた場合、会社も不法行為の使用者責任(民法715条)に基づいて損害賠償責任を負います。
パワハラは業務に付随して行われることが多いため、使用者責任が認められる可能性が高いです。また、パワハラを認識しながら放置したり、調査が不十分であったことで被害が拡大したりした場合、会社の対応そのものが不法行為(民法709条)と評価されることもあります。
裁判例でも、被害者が「仕事したの?」と聞かれることに拒絶反応を示したのに、その社員を咎めることなく同調して質問した事案で、共同不法行為であるとした事案があります(東京地裁令和3年6月30日判決)。
パワハラ防止法上の措置義務違反となる
労働施策総合推進法30条の2(いわゆるパワハラ防止法)により、ハラスメントを防止する措置を講じる義務が会社に課されています。同法は、義務違反の企業に助言指導や勧告をし、勧告に従わないときは企業名公表をするといった厳しい制裁を定めています。
「安全配慮義務」の解説

黙認した上司個人の責任が認められることもある
パワハラを黙認した上司個人の責任が認められる場合もあります。
上司は、いわゆる管理監督者として労務管理を行う役割を担います。その権限に基づいて企業の秩序を維持する必要があり、知りながらパワハラを防止しなかった場合は責任が生じます。事実確認や調査をしたり、関係者に事情を聞いたり、必要に応じて社長や人事に報告したりなど、職務を適切に遂行していれば防止できたのであれば、黙認の責任は重大です。
パワハラを知りながら隠蔽したり黙認したりした上司は、懲戒処分の対象となります。ただし、直接の加害者でない場合、黙認の責任は減給や出勤停止程度にとどまることが多く、解雇は重すぎるでしょう。管理職に不適格であると判断されれば、人事処分としての降格も考えられます。
ただし、単に職場にパワハラがあったというだけで上司個人の責任が認められるわけではなく、「監督責任を果たさなかった」「管理不行き届きである」といえる必要があります。
「管理職と管理監督者の違い」の解説

パワハラを黙認されたときに取るべき対応

次に、パワハラを黙認されたときに、労働者が取るべき行動について解説します。
会社が適切に対応してくれるのが最善ですが、黙認されてしまっているとき、労働者自身で行動を起こさなければなりません。
パワハラの証拠を確保する
最優先すべきなのが、パワハラの証拠の確保です。
会社が黙認しているケースでは、後から「パワハラはなかった」と否定される可能性が大いにあります。具体的には、次のような記録を収集しましょう。
- 暴言や叱責の録音データ
- メールやチャットのスクリーンショット
- パワハラの日時・内容・場所・同席者を記したメモ
メモは、できる限りパワハラ直後に作成し、継続的に残すことが重要です。黙認されるケースほど、証拠の有無が、その後の交渉や法的手続きの結果を左右します。
「パワハラの証拠」の解説

社内で相談して記録に残す
次に、社内の相談窓口に申出をしましょう。
この際、「相談したこと」の記録を確保するため、書面やメールで相談したり、面談の録音を取っておいたりすることが重要です。これにより、会社としても「相談を受けた事実」を否定できないようにしておきます。
会社が把握していないと、対処しなくても「黙認」とはいえず、責任を問えなくなるリスクがあります。「どうせ相談しても対応されないだろう」と諦めてはいけません。対応してくれない場合に責任を問うためにも、事前の相談は必須となります。
パワハラそのものの証拠を残すのが難しい場合でも、「会社に相談したのに、対応してくれなかった」という証拠を残すことができ、これによって会社の責任を追及していくことが可能です。
弁護士に相談する
社内で相談しても動きがない場合、早めに弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談すれば、そもそもパワハラに該当するか、証拠として有効なものは何か、このまま放置され、黙認された場合にどのように対応していけばよいかといった点について、法的な観点からアドバイスを得ることができます。
必ずしもすぐに裁判に発展するわけでなくても、法的な見通しを早めに把握しておくことで、正しい行動を選択することができます。
「労働問題に強い弁護士」の解説

労働審判や訴訟で責任追及を行う
ここまでの対応で、会社がパワハラを黙認することが明らかになったら、その責任を法的手段を通じて追及することを検討してください。
主な手段としては、労働審判と訴訟があります。
労働審判は、労働者保護のために、簡易、迅速かつ柔軟な解決を目指す制度であり、3回以内の期日で終了し、早期解決が期待できます。ただし、会社の責任と同時に加害者の責任も追及したいときは、労働審判ではなく訴訟が適切です。
会社がパワハラを黙認し、安全配慮義務に違反していたと認められれば、慰謝料などの損害賠償が認められる可能性があります。

労災の申請を行う
パワハラを黙認するという会社の行為によって、うつ病や適応障害といった精神疾患を発症した場合、労災申請を検討することも可能です。労災は、会社が協力的でない場合には労働者自身で申請することも可能です。
会社が対応してくれないときの相談先

会社がパワハラに対応してくれない場合、社外の相談先も含めて検討しましょう。
社内の窓口が複数ある場合は、社長や人事部など、より上位の窓口で対応してもらえないか検討してください。ただ、会社全体として対応しない、黙認するといった姿勢の場合には、社内で穏便に解決することは難しい場合もあるでしょう。
社外の窓口としては、労働局、労働基準監督署、弁護士が考えられます。
労働局の総合労働相談コーナーでは、話し合いによる解決を目指すあっせん制度を利用できますが、強制力がない点がデメリットとなります。労働基準監督署は、労働基準法違反を監督する機関なので、パワハラに加え、労働時間や賃金などの法違反がある場合に適しています。
法的責任を具体的に検討したい場合や、会社が明らかに黙認していると感じる場合には、早い段階で弁護士に相談することで見通しが立ちやすくなります。
「パワハラの相談先」の解説

報復人事や不利益な取扱いに注意する
パワハラを黙認するような会社では、報復や不利益な取扱いの危険もあります。
パワハラを相談したことを理由に、減給や降格、不当な配置転換や退職勧奨といった不利益な取扱いをすることは許されません。パワハラ防止法では、相談や通報をしたことを理由として不利益を与えることを明確に禁止しています。
もし報復が疑われるような扱いを受けたら、処分の通知や評価資料などを証拠として確保し、弁護士に相談してください。この際、経緯を時系列で整理しておくと、「黙認されていたパワハラを訴えたから、不利益な扱いをされた」という因果関係を説明することができます。
会社ぐるみでパワハラを容認する雰囲気がある職場ほど、「相談したら不利になるのでは」と不安に感じる方は少なくありませんが、法的には保護される立場であることを理解しましょう。
「報復人事」の解説

【まとめ】パワハラの黙認は会社の責任

今回は、パワハラの黙認について、対応してくれない会社の責任を解説しました。
会社にはパワハラを防止する義務があり、実態を把握しているのに対策を講じない場合、パワハラを黙認したと評価されます。パワハラを知りながら放置するのは、安全配慮義務に違反する行為です。そのため、加害者だけでなく、会社の責任を追及することができます。
パワハラに加担してはならないのは当然、見て見ぬふりも不適切です。パワハラの態様は様々ですが、知りながら放置すれば、法的な責任は免れません。
パワハラに会社が対応してくれないとき、社外での解決を模索すべきです。会社の責任を追及する際は、労使の紛争解決手段である労働審判を利用するのが適切です。法的手続きを検討している方は、ぜひ一度弁護士に相談してください。
- パワハラを相談されても適切に対応しない会社は「黙認した」と見られる
- パワハラを黙認する会社には、安全配慮義務違反を理由に慰謝料請求できる
- パワハラに会社が対応してくれない場合は、社外への相談を検討する
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