繁忙期や人手不足が理由で、残業が深夜にまで及ぶことも少なくありません。
しかし、夜22時から翌5時までの時間帯に、法定労働時間を超えて働いた場合、単なる残業ではなく「深夜残業」となります。深夜残業の割増率は1.5倍であり、これは深夜労働と時間外労働のそれぞれが重複し、加算される仕組みだからです。法定休日労働と重なった場合には、割増率はさらに重複して算出されます。
深夜残業が常態化すると生活リズムは崩れ、心身への負担が大きくなります。だからこそ、深夜残業は、通常の残業にもまして高い割増率が定められているのです。正しく理解しなければ、本来受け取れた残業代を過小に計算されるおそれがあります。
今回は、深夜残業の定義や割増率の考え方、休日出勤と重なった場合の計算について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 深夜残業は、深夜(午後10時〜午前5時)かつ時間外(1日8時間超)の労働
- 深夜残業の割増率は、通常の賃金の1.5倍(50%割増)を請求できる
- 深夜残業の辛さから、年少者や女性、育児介護をする人は制限される
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深夜残業とは
はじめに、深夜残業の定義と、割増率の基本について解説します。
深夜残業とは深夜労働と時間外労働のこと
深夜労働とは、午後10時から翌午前5時までの深夜時間帯の労働のことであり、深夜残業は深夜時間帯であり、かつ法定時間外労働である部分を指します。その結果、深夜残業では、「深夜」と「時間外」の割増率を重複して計算する必要があります。
深夜残業だと割増率が加算される
法律上の「深夜」は、午後10時から翌午前5時までの時間帯のことです。
深夜時間帯に働いた場合は「深夜労働」となり、通常の賃金に25%を上乗せした「深夜手当」を支払うことが義務付けられています(法定労働時間内でも同様)。

これに加え、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えた場合は「時間外労働」(いわゆる残業)となり、通常の賃金に25%を上乗せした「時間外割増賃金」(いわゆる残業代)を支払うことが義務付けられています。
したがって、深夜残業は、深夜労働(午後10時から翌午前5時までの労働)と時間外労働(1日8時間、1週40時間を超える労働)が重なった状態なので、割増率も重複して計算する必要があり、深夜労働の25%と時間外労働の25%を加算し、合計で50%(1.5倍)の割増率となります。割増率が加算される仕組みを理解しないと、残業代を少なく計算されても気付かないおそれがあります。

深夜残業も時間外労働の一種なので、原則として違法であり、会社が締結した36協定の範囲内で行われ、正しい割増率で残業代が支払われる場合に限り、例外的に適法となります。
実務では、深夜残業について次のような相談が多く寄せられます。
- 深夜残業をしたのに割増賃金が支払われない。
- 割増率が25%で計算されている。
- 固定残業代に含まれていると説明されたが、深夜残業の内訳が不明。
- 休日出勤と重なっているのに割増率が上がらない。
深夜残業は負担の大きい働き方なので、それにもかかわらず給料が変わらない場合、未払い残業代が発生している可能性があります。自身の労働時間と割増率が正しく計算されているか、一度確認しておくべきでしょう。
割増率を用いた深夜残業の計算方法
深夜残業をした場合、通常の残業よりも高い割増率で残業代が計算されます。
しかし、給与明細を見ただけでは割増率が正確に計算されているか判断できないことも多く、深夜残業手当を過少に支払われているケースも少なくありません。基本となる計算式は、通常の残業代と同じですが、深夜残業では「割増率」の判断が重要なポイントとなります。

- 残業代 = 基礎単価(基礎賃金/月平均所定労働時間) × 割増率 × 残業時間
以下では、深夜残業手当に特有の、計算の注意点について解説します。
残業代の基礎単価を計算する
残業代の基礎単価を計算する点については、通常の残業代と同様です。
例えば、月給制の場合には、基本給と手当(除外賃金を除く)を、月平均所定労働時間で割ったものが「基礎単価」となります。基礎単価は、わかりやすく言えば時間に対する対価で、時給に似た考え方と理解してよいでしょう。
「残業代の計算方法」の解説

割増率を計算する
深夜残業の計算では、割増率が非常に重要なポイントとなります。
深夜割増だけでなく、時間外割増や休日割増など、その他の割増率を加算した高い率が適用されることが多いためです。

深夜労働かつ時間外の場合
深夜労働、かつ、時間外労働の場合、割増率は1.5倍(50%割増)です。
深夜割増(25%)と、時間外割増(25%)を加算するためで、この場合を特に「深夜残業」と呼びます。さらに、時間外が月60時間を超える場合の割増率は50%となるため、深夜割増と重複して適用されると75%となります。
深夜労働だが法定労働時間内の場合
一方で、深夜労働でも、法定労働時間内であることもあります。
典型例は、そもそも勤務時間が深夜帯であるケースです。この場合、深夜労働ではあるが残業ではないことになり、適用される割増率は、深夜割増(25%)のみとなります(なお、所定労働時間を超えるが、法定労働時間を超えない部分についての割増率は、会社のルールで決められます)。
深夜労働かつ法定休日労働の場合
法定休日に出勤し、かつ深夜労働の場合、休日割増(35%)と深夜割増(25%)が加算され、割増率は1.6倍(60%割増)となります。休日出勤による割増があっても、その日に深夜労働をすれば、さらに割増率を加算する必要があるのです。
固定残業代のある場合の深夜の残業代の計算
固定残業代やみなし残業制度がある場合、その分だけ残業代が減る可能性があります。
これらの制度は、残業代が事前に支払われていることを意味するためです。ただし、有効となるには、①通常の賃金と残業代部分とが明確に区別され、②固定残業代に相当する時間を超えた残業がある場合には差額を支払う必要があるとするのが裁判例の実務です。これらの要件を満たさない場合、そもそも制度自体が無効となる可能性があります。
また、固定残業代を導入する会社でも、「時間外割増賃金に充当する」と定める例が多く、これだと、深夜残業に相当する対価は支払っていないことになります。この場合、深夜残業があれば、少なくとも深夜割増分(25%)は別途算出して支給すべきと考えられます。
「深夜残業についても固定残業代として支払済みである」と会社から反論されたら、労働者としては次の点を就業規則などで必ず確認してください。
- 固定残業代が「深夜残業の対価として支払う」と明記されているか。
- 複数の割増賃金が含まれる場合、その内訳が明らかにされているか。
- 深夜残業を計算し、固定残業代に相当する時間を超えていないか。
固定残業代があっても深夜残業の対価でなかったり、「深夜手当」などの名称で少額の支給があっても、深夜残業を計算した額を超えていたりする場合、固定残業代が支払われていてもなお、深夜残業の対価を追加で請求できます。
「固定残業代の計算方法」の解説

深夜残業の割増率に関する注意点

深夜残業の割増率は、会社にとっても負担なため、しばしばトラブルとなります。
深夜残業のルールは法律で定められていますが、「管理職だから払われない」「裁量労働制なら対象外だ」といった誤解が少なくありません。以下では、制度ごとの注意点を解説します。
管理職でも深夜残業代は支払われる
「管理職だから残業代は出ない」という説明は、明確な誤りです。
労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(いわゆる管理監督者)に該当する場合、時間外労働の割増賃金(25%)は不要です。しかし、深夜労働の割増賃金(25%)は、たとえ管理監督者に該当しても支払う必要があります。したがって、深夜残業の場合も深夜割増分の25%は、管理監督者でも請求することができます。

さらに、会社が一方的に「管理職扱い」しているだけで、実態として権限や待遇が伴わない場合、いわゆる「名ばかり管理職」として違法になります。
名ばかり管理職となる場合、深夜割増分(25%)だけでなく、時間外割増分(25%)も支払う必要があります。

したがって、深夜残業について、会社から「管理職だから支給しない」と反論されたら、次の手順で違法性がないかをチェックしてください。
- 労働基準法41条2号の管理監督者に該当するか
→ 該当しなければ「名ばかり管理職」であり、残業代を払わないのは違法となります。 - 管理監督者に該当する場合でも、深夜労働分は払われているか
→ 時間外割増分(25%)は不要でも、深夜割増分(25%)は必要です。
なお、役員の場合は、雇用されている「労働者」(労働基準法9条)ではないため、深夜残業の割増は支払われません。ただし、その実態が労働者である場合は、いわゆる「名ばかり役員」として、深夜残業についての残業代を請求できます。
「名ばかり管理職」の解説

裁量労働制でも深夜残業代は支払われる
裁量労働制では、実労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた「みなし労働時間」分だけ働いたものとして扱われます。しかし、この制度に、深夜の割増をなくす効果はありません。
したがって、裁量労働制であっても、深夜労働に対する25%の割増分は、別途支払う必要があります(深夜労働の基本部分100%は支払い済みとされ、割増分25%のみで足りると考えられます)。
フレックスタイム制でも深夜残業代は支払われる
フレックスタイム制でも、深夜に労働した場合は深夜割増(25%)が発生します。
ただし、この制度では、清算期間内で労働時間を調整するため、1日の労働時間が8時間を超えても、直ちに「時間外労働」となるとは限りません。そのため、深夜労働のみの場合は25%の割増、清算期間を超えた時間外が発生した場合にのみ、さらに追加の25%の割増となります。
深夜残業中でも休憩は必要となる
深夜であっても、休憩の付与義務は変わりません。むしろ、疲労を回復するためには、労働者の負担の大きい深夜残業がある場合こそ、休憩が必須といってよいでしょう。
労働基準法34条は、労働時間が6時間を超える場合には45分、8時間を超える場合には1時間の休憩を、労働の途中に与えなければならないと定めています。しかし、深夜残業は心身への負担が特に大きいため、形式的に休憩時間を与えるだけでなく、安全配慮義務の観点から、無理のない労働環境を整備するよう配慮しなければなりません。
なお、会社から「休憩時間」として扱われていても、実際には使用者の指揮命令下にある時間であれば、その名目にかかわらず「労働時間」と評価されます。

仮眠時間が労働時間となることもある
宿直や当直といった宿泊を伴う深夜の労働は、仮眠を前提とする場合が少なくありません。仮眠が満足に取れればよいですが、実際には眠ることができず、仕事をせざるを得ないとき、その時間は「労働時間」であり、深夜残業となります。
仮眠時間として設けられても、自由に過ごすことができず、緊急対応などで業務をせざるを得ないなら「労働時間」と評価されます。その場合、深夜帯であれば深夜割増が適用されます。
「仮眠時間が労働時間にあたるか」の解説

深夜残業が制限されるケース
深夜残業については、その負担の大きさから、制限されるケースがあります。
年少者や妊婦の深夜労働は制限される
満18才に満たない年少者は、労働基準法61条1項によって深夜労働が禁止されます。したがって、未成年の深夜残業は違法です(交替制で満16才以上の男性を使用する場合などの例外あり)。
女性の深夜労働は、平成11年3月までは禁止されていましたが、法改正により平成11年4月以降は可能となっています。ただし、母性に配慮し、労働基準法66条によって、妊娠中や、出産後1年以内の労働者からの請求がある場合、深夜労働させることはできません。
なお、女性を深夜に働かせる場合、次のような配慮を要します。
- 防犯のため、複数名の勤務とする。
- セクハラ防止のため密室に二人きりにさせない。
- 女性専用の休憩室、仮眠室を用意する。
- トイレを男女別にする。
配慮の足りない会社は、労働者の職場環境に配慮し、安全を守るべき義務に反するといえ、残業代以外に、慰謝料請求も検討すべきです(安全配慮義務違反・職場環境配慮義務違反)。
育児や介護を理由に深夜残業を拒否できる
育児や介護と仕事との両立は大変な苦労であり、まして残業が深夜に及ぶケースでは仕事を辞めざるを得ないこともあります。このような事態に備え、育児介護休業法は、育児・介護を理由とした深夜労働の拒否を認めています。
具体的には、小学校就学前の子を養育している場合、要介護状態にある家族を介護している場合、会社に請求し、深夜労働を拒否することができます(育児介護休業法19条、20条)。ただし、雇用期間が1年未満であったり、同居の家族が育児・介護できる場合であったりすると、この条項の対象外のため注意が必要です。
深夜残業についてのよくある質問
最後に、深夜残業についてのよくある質問に回答しておきます。
深夜残業は法定時間外残業になる?
残業のうち、「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超える残業を「法定外残業(法定時間外残業)」、これを超えないが所定労働時間(会社が定める労働時間を超える場合)を「所定時間外労働(法定時間内残業)」を呼びます。
例えば、1日7時間30分労働だと、7時間30分から8時間までが法定内残業、8時間を超える分が法定外残業となります。

深夜残業は、法定内残業、法定外残業のいずれでも発生する可能性があります。
深夜残業は、残業をする時間帯による定義であり、法定労働時間の内外を問わず、午後10時から翌午前5時までの労働は、深夜労働となるからです。
派遣でも深夜残業は発生する?
派遣社員でも、深夜に残業をした場合は深夜残業となり、残業代請求が可能です。深夜残業は、雇用形態を問わず発生するため、正社員に限りません。
深夜残業をしたらタクシー代が出る?
深夜残業で終電を逃しても、タクシー代は出ないのが原則です。
会社近辺で寝泊まりせざるを得ないときのホテル代も同じく自腹が基本です。深夜残業しても、あくまで労働の対価として残業代がもらえるに過ぎません(そもそも労働基準法には、通勤交通費の支払い義務すらありません)。
ただ、深夜残業が常態化し、このような自腹のタクシー代が嵩んでは生活を圧迫してしまいます。違法な残業に付き合うことなく、深夜残業を命令されたら、経費に加算することが可能か、事前に確認しておきましょう。
「仕事で終電に間に合わない時の対応」の解説

【まとめ】深夜残業の割増率

今回は、深夜残業の割増率の考え方と、休日出勤との重複について解説しました。
深夜残業は、22時から翌5時までの深夜時間帯に、法定労働時間を超えて行う労働のことで、この場合の割増率は、時間外労働(25%)と深夜労働(25%)が重複して、合計50%(1.5倍)となります。法定休日労働と重なる場合は、さらに重複して計算する必要があります。
深夜残業が常態化している職場では、労働者の心身への負担は非常に大きくなっています。深夜残業が特に高い割増率となるのは、長時間続くことを抑止するためでもあります。正しい計算方法を理解していないと、深夜残業した分の対価を受け取れずに損してしまいます。
違法な深夜残業で不利益を被らないためにも、自分が働いた時間帯と割増率が正しく計算されているかを確認することが重要です。深夜残業の計算に不安がある方は、弁護士にご相談ください。
- 深夜残業は、深夜(午後10時〜午前5時)かつ時間外(1日8時間超)の労働
- 深夜残業の割増率は、通常の賃金の1.5倍(50%割増)を請求できる
- 深夜残業の辛さから、年少者や女性、育児介護をする人は制限される
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