内容証明郵便を使って退職届を送付するのが有効なケースがあります。
退職届を出したいのに会社が受け取ってくれなかったり、話し合いの機会すら設けてもらえなかったりすると、通常の提出方法では解決できません。退職は労働者の自由であり、会社の承諾がなくても辞められますが、退職届を受理しない、話し合いを拒む、無断欠勤扱いするといった対応を受けると、不利益を被ってしまいます。
内容証明は、紛争予防や証拠確保のために利用されますが、退職をめぐるトラブルでも活用できます。直接手渡しできない時点で、既に労使関係は緊張しているでしょうが、内容証明を使えば対立を深めるおそれもあるため、メリットとデメリットを理解して進めてください。
今回は、退職届を内容証明で出すべきケース、具体的な書き方や出し方、受け取り拒否への対応などを、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 会社の受領拒絶が明らかな場合、退職届を内容証明で送付すべき
- 内容証明を活用すれば、会社への到達日や退職届の内容を証拠化できる
- 会社が内容証明の受け取りを拒否しても、退職することは可能
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
退職届を内容証明で送る前に確認すべきポイント
はじめに、退職届を内容証明で送る前に確認すべきポイントを解説します。
内容証明は強力な手段であり、会社が退職届を受け取ろうとしない場面で活用されますが、常に最適とは限りません。会社との関係性や状況によっては、内容証明までは不要なこともあります。メリットがある反面、デメリットを理解しておくことも不可欠です。
退職届を内容証明で送るメリット
退職届を内容証明で送るメリットは、次の通りです。
これらのメリットがまさに当てはまり、内容証明で送るべき典型例が「会社が退職届を受理してくれない」という場面です。
退職の意思表示を証拠に残せる
内容証明は、「いつ・誰が・どのような内容を送ったか」を証拠に残せるので、「受け取っていない」「聞いていない」という反論を防げるメリットがあります。退職の意思表示は、会社に到達してはじめて効力が生じます(民法97条1項)。そのため、「到達したこと」を証明できる必要があり、労働審判や訴訟でも重要な証拠となります。

退職日を確定できる
内容証明で証拠化すれば、退職日の記載も明確に残すことができます。一方的に退職する場合、会社の承諾や同意は不要であり、期間の定めのない労働契約は、退職届が会社に到達した2週間後に終了します(民法627条1項)。

会社が退職日を延期しようとしても、上記ルールに従った2週間後の退職日を明記し、退職届を内容証明で送ることが対策となります。なお、有給休暇が残っている場合は、最終出社日を定め、有給消化を終えた翌日を退職日とします。
会社側に法的リスクを意識させられる
内容証明は、法的手続きの前段階で使われることが多い手段です。
内容証明には対応期限を設け、末尾に「誠実に対応しなければ裁判手続きも辞さない」などと記載するのが通常です。会社に法的な紛争を意識させれば、「受理しない」「拒否する」などの誤った対応や、パワハラによる報復などを抑止できます。
「退職は2週間前に申し出るのが原則」の解説

退職届を内容証明で送るデメリット
一方で、内容証明で送るデメリットもあるので、全てのケースで最善の方法とは限りません。以下のデメリットが大きすぎないか、状況に応じて検討してください。
会社との関係が悪化する可能性がある
内容証明を送って退職する方法は、通常の退職よりも対立が深まります。
「一方的に送りつけられた」と感じ、感情的な反発を示す会社もあります。関係性が悪化すると、退職手続き(特に、離職票などの必要書類の発行)が遅れるリスクがあります。そのため、まだ円満退職を目指せる段階では、内容証明は早計かもしれません。
費用と手間がかかる
内容証明は、普通郵便に比べて費用がかかり、煩雑な手続きとなります。
内容証明の加算料金は480円(2枚目以降は290円増)であり、郵便局の窓口で出す場合、基本料金・書留料・内容証明料・配達証明料の合計で約1,500円〜2,000円程度が目安です(メリットを活かすには、到達日を記録する配達証明は必須となります)。
また、「内容証明による退職届の書き方」で後述の通り、書式(用紙・文字数・行数など)に制限があります。
一度発送すると修正は困難
内容証明は、一度発送すると証拠になり、その後の修正は困難です。
退職届を内容証明で出すしかないケースでも、不適切な文言や感情的な記載は、労働者の不利に働くおそれがあります。退職届の受け取りが拒否されるケースでは、社長や上司からのパワハラが存在し、記載ミスが大きなトラブルにつながることもあります。
内容証明で送るべきケース・送らなくてよいケース
以上のメリット・デメリットを比較し、ケースに応じて判断してください。
退職届を内容証明で送るべき典型例は、退職届を受け取ってもらえなかったり、退職を拒否されたりするケースです。退職を認めない会社は、労働者が退職の意思表示をした上で出社を取りやめても、無断欠勤やバックレとして扱うおそれもあります。パワハラなどの違法行為があって出社できない場合も、退職届は直接交付ではなく郵送によるのがよいでしょう。
内容証明を使えば、会社からの「退職届が届いていない」「受け取っていない」といった反論を未然に防ぐことができます。
一方、会社が退職を認めている、少し交渉すれば円満退職が見込まれるといった状況であれば、内容証明で出すのはまだ早く、出社が難しい事情があるとしても普通郵便で事足ります。
「会社の辞め方」の解説

内容証明による退職届の書き方

次に、内容証明による退職届の書き方について解説します。
内容証明で出さざるを得ない場面は、労使の対立が深まっていると考えられます。書面の内容を慎重に配慮しなければ、小さなミスが命取りとなるおそれがあります。退職届そのものの記載事項は通常と同じですが、内容証明特有の注意点もあります。記載内容はそのまま証拠になるため、くれぐれも注意してください。
退職届に記載すべき必須の事項
まず、退職届に記載すべき事項は、通常の場合と変わりません。
- 題名・宛名・作成年月日
題名は「退職届」とし、法人名・代表者名を正確に記載します。書面の到達日は内容証明で証拠化できるので、書面には作成日を記載します。 - 退職の意思表示
「退職いたします」と確定的に言い切ってください。会社の同意や承諾を得られない場合に備え、「退職させていただきたい」といった許可を求める書き方は不適切です。 - 退職日
前述のルールに従い、法律上退職可能な日を記載します。実務的には「本書面到達の2週間後」などとする例が多いです。有給消化がある場合は「本書面到達から有給休暇の残日数◯日を消化した翌日」などとします。 - 退職理由
必ずしも説明する義務はなく、「一身上の都合」と記載するので足ります。ただし、パワハラや長時間労働があって退職する場合など、会社都合退職として扱うことを希望する場合は、その旨を退職届に明記する方法もあります。 - 部署名・氏名
自身の部署名と氏名を記載します。退職届を手渡しする場合、末尾に押印することがありますが、内容証明に押印はできないため不要です。
「退職届の書き方と出し方」の解説

内容証明の形式的なルール
退職届を内容証明で出す場合、その形式的なルールを守る必要があります。
例えば、字数・行数について、横書きの場合「1行20字以内、1枚26行以内」「1行13字以内、1枚40行以内」「1行26字以内、1枚20行以内」のいずれかによる必要があります。郵便窓口で出す場合、同じ内容を3通持参する必要があります。
その他、細かいルールについては「内容証明ご利用の条件等」(郵便局)をご参照ください。なお、オンラインで送付するe内容証明(電子内容証明)の方が制限が少ないため、おすすめです。
記載すべきでない言葉やトラブルになりやすい表現
一方で、内容証明で出すからこそ、記載すべきでないこともあります。
そのまま証拠に残るので、労働者に不利になる文言や、トラブルを拡大しかねない表現は避けるべきです。特に、会社に不満があるからといって感情的な言葉で非難すれば、かえって反発を招き、退職がスムーズに進みにくくなってしまいます。
また、退職届を内容証明で送付せざるを得ないケースは、会社が認めなくても一方的に辞める意思を示す場面なので、「退職願」と混同されるような言葉は避けましょう。例えば、「退職させていただきたく存じます」「退職をお願いしたい」といった表現は不適切です。最終出社日や退職日は、具体的な日付で明確に特定すべきであり、曖昧にしてはいけません。
「退職願と退職届の違い」の解説

内容証明退職届の文例(テンプレート)
以上のポイントを踏まえた文例(テンプレート)も参考にしてください。
退職届
株式会社○○
代表取締役 ○○ ○○ 殿
私は、一身上の都合により、令和○年○月○日をもって退職いたします。
なお、令和○年○月○日から退職日までの間は、年次有給休暇を取得いたします。
令和○年○月○日
(部署名・氏名)
内容証明の出し方・送り方の手順

退職届を作成したら、次に、郵便局で発送手続きを行います。
内容証明は、通常の郵便とは異なり、出し方や送り方にも決まりがあります。不備があると窓口で受け付けてもらえないため、事前に手順を確認しておいてください。なお、後のトラブルの証拠を確実に残すため、送る前に必ず、退職届のコピーを取っておきましょう。
郵便局の窓口で出す場合
郵便局の窓口を利用する場合、作成した退職届(内容文書)を3通用意してください。
1通は相手への送付用、1通は郵便局の保管用、もう1通は差出人の控えです。また、差出人と受取人の住所・氏名を記載した封筒を用意します。訂正印として使う印鑑を持参すると便利です。注意点として、窓口で局員が内容を確認するため、封筒は閉じないでください。
なお、内容証明は、集配郵便局や指定された一部の郵便局でのみ扱っているため、最寄りの局で対応が可能か、事前に確認してから向かうようにしてください。
e内容証明(電子内容証明)の場合
窓口に行く時間がない場合は、e内容証明(電子内容証明)が便利です。
インターネット上で手続きが完結するため、24時間いつでも発送可能であり、Wordなどで作成した文書ファイルをアップロードして送付できます。この方法では、文書を3通印刷したり、封筒を用意したりする必要はありません。窓口での待ち時間もなく、忙しい方や誰にも会わずに手続きを済ませたい方に適しています。
ただし、利用には事前の利用者登録(無料)やクレジットカードなどが必要です。
同時に普通郵便で退職届を送付する
退職届を内容証明で送った場合も、同時に普通郵便でも送付しておくべきです。
内容証明には形式的な要件があるため、添え状や添付書類を同封できない、図表などを記載できないといった制限があります。退職手続きでこれらの送付が必要な場合、証拠確保を目的とした内容証明とは別に、普通郵便で送ることがあります。
普通郵便で送付しておけば、万が一内容証明が受け取られなかったときの対策にもなります(内容証明は受け取りを要しますが、普通郵便はポストに投函されるため)。この場合、普通郵便では内容は証明できないものの、特定記録郵便を利用すれば到着日は証明できます。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

会社が内容証明の受け取りを拒否したらどうなる?

内容証明で退職届を送付しても、速やかに受領されるケースばかりではありません。
実際には、受け取りを拒否されたり、不在や宛所不明で戻ってきてしまったりといったケースもあります。しかし、この場合でも、退職できないわけではありません。
受取拒否でも意思表示は到達する
意思表示は、到達すれば効力が発生します(民法97条1項)。
この「到達」とは、相手方が了知可能な状態に置かれていればよく、現実に受領することまでは必要ないと考えられています。受け取り拒否はまさに了知可能な状態と評価できます。民法97条2項でも「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす」と明文化されています。
裁判例でも、受け取ろうと思えば受け取れる機会があった場合には、相手方に届いたものとして扱われています(東京地裁平成10年12月25日判決、東京地裁平成5年5月21日判決など)。
受け取りが拒否されると、郵便物は「受け取りを拒否されました」という付せんとともに差出人に返還されます。したがって、退職届を内容証明で送れば、相手が受領を拒否した事実も証拠として残すことができます。
不在や宛所不明の場合には対策が必要
これに対し、不在や宛所不明の場合には、対策が必要となります。
不在通知を投函後、一定期間(原則7日間)保管の後に差出人に返還されます。転居済みであるなど、記載された住所にいない場合にも郵便物は返還されます。不在や宛所不明で配達できていない場合、了知可能な状態とはいえず、意思表示は到達していないと考えるのが原則です。
ただし、前述の裁判例の通り、不在配達通知書が投函され、差出人や通知の内容を十分に推測でき、さほど困難なく郵便物を受け取れた状況であれば、遅くとも保管期間が満了した時点で意思表示が到達したとみなされることがあります。
また、会社が組織ぐるみで「郵便物を受け取らない」という悪質な対応をしたことで、内容証明が返送されてきてしまう場合、送付物の写しを取った上で、ポスト投函される特定記録郵便を併用することが有効な対策となります。
トラブルになりそうなときは早めに弁護士に相談する
内容証明の受け取りが拒否されると、トラブルとなる可能性が高まります。
会社が退職を認めないとき、退職日を先延ばしされたり、離職票の発行を拒まれたり、最終給与や未払い残業代を支払ってもらえなかったりといった別の労働問題に発展することもあります。さらには、退職を妨害するために損害賠償請求や懲戒処分を示唆するケースもあります。
トラブルの兆しが明らかになったら、弁護士に相談し、法的な見通しを確認しておくことが重要です。弁護士のアドバイスを受けて対応すれば、退職をめぐる不安を解消できます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

退職届を内容証明で出す際のよくある質問
最後に、退職届を内容証明で出す際のよくある質問に回答しておきます。
内容証明と退職代行の違いは?
内容証明は、自分で郵送して退職の意思を証拠化するのに対し、退職代行は、第三者が本人に代わって退職の意思を伝えるサービスです。
いずれも会社が退職を認めない状況で活用できますが、自分で対応する方が費用を安く抑えられる分、会社との直接のやり取りが発生します。
退職代行や弁護士を介して対応すれば、自身で対応する精神的な負担を軽減できるメリットがあります。状況に応じた最適な手段を選択してください。
有期契約でも退職届を内容証明で送ることができる?
有期契約でも、やむを得ない事由がある場合は退職が可能です。
例えば、社長や上司のハラスメントなどが典型例ですが、「やむを得ない事由があるかどうか」について労使の対立が生じ、会社が退職を認めてくれない場面では、本解説のように内容証明で退職届を送付する方法が有効です。
会社側とトラブルになりそうなときは、意思表示の証拠を確実に残すために内容証明での送付を検討してください。
試用期間でも退職届を内容証明で送ることができる?
試用期間中でも退職することは可能であり、会社が退職届を受理しない場合には内容証明で送る方法を検討できます。
特に、試用期間中の退職には会社も慎重になり、「まだ早すぎるのではないか」「もう少し考えてみてもよいのでは」などと引き止めを受けることがあります。会社側がなかなか退職届を受け取ろうとしないなら、紛争回避のためにも証拠化しておくべきです。
「試用期間中でも退職できる」の解説

退職願も内容証明で出すべき?
退職願は、内容証明で出すのは不適切な場面が多いです。
退職届が自主退職(辞職)の意思表示であって会社の承諾や同意を予定しないのに対し、退職願は合意退職の申し入れであり、会社が同意してはじめて退職となります。
つまり、退職願を出すのは、できる限り穏便に済ませたいケースと考えられ、それにもかかわらず内容証明で送付して会社を刺激すべきではありません。
とはいえ、退職届と退職願は、その「名称」「題名」ではなく「内容」で判断されるため、しっかりと区別すべきです。会社が受け取りを拒否する可能性があり、労働者側では確実に退職したいと希望しているなら、「退職願」ではなく「退職届」を出すべきです。
【まとめ】退職届を内容証明で出す方法

今回は、退職届を内容証明で出すべきケースと、その具体的な方法を解説しました。
内容証明による退職届は、退職の意思表示を明確に証拠として残せるために有効な手段です。特に、受理を拒否されたり、話し合いに応じてもらえなかったりする場合、後の交渉を有利に進める上でも、内容証明が大きな意味を持ちます。
ただし、内容証明は、一度発送すれば文面が記録に残るため、書き方を誤っても後から修正するのは困難です。退職届の基本的な事項はもちろん、退職日や有給消化の記載、受け取り拒否への備えなど、内容証明に特有のポイントを踏まえて慎重に対応しなければなりません。
退職届を受理してもらえない状況でも、退職は労働者の自由です。一人で抱え込まず、早めに弁護士へ相談することで、内容証明も含めた適切な方法を選択することができます。
- 会社の受領拒絶が明らかな場合、退職届を内容証明で送付すべき
- 内容証明を活用すれば、会社への到達日や退職届の内容を証拠化できる
- 会社が内容証明の受け取りを拒否しても、退職することは可能
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/




