多くの企業に存在する「就業規則」、社員であれば確認できるのが原則ですが、「名前は聞いたことがあるが、実際に見たことはない」という相談も少なくありません。
就業規則は企業側が作るものですが、その内容には賃金や労働時間など、労働者の労働条件に直結する定めが多く含まれています。そして、就業規則に記載された労働条件は、労使間の合意があるか、合理性がない限り、会社が勝手に変更することはできません。
法改正や経営方針の変更に応じて、就業規則の変更を迫られる場面がありますが、勝手に変更された場合には、労働者として適切な対応を取る必要があります。
今回は、就業規則の変更と労働者側の対応を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 就業規則の変更には労働者の同意か、合理性が必要となる
- 変更について意見聴取をし、変更後の就業規則を周知しなければならない
- 就業規則を勝手に変更されて不満がある場合は、異議を申し立てて争う
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就業規則の変更は勝手にできる?

はじめに、就業規則の変更が自由ではないことについて、理由と共に解説します。
企業が定める就業規則は、労働者が業務を遂行する上で従うべき「社内ルール」です。企業は、就業規則を作成、変更できますが、その内容には重要な労働条件(賃金・労働時間など)が含まれるため、変更には一定の制限が設けられています。
就業規則の変更は自由ではない
企業は、必要に応じて就業規則を変更できますが、その権限は無制限ではありません。
労働基準法は、常時10人以上の従業員を使用する事業場において、就業規則の作成を義務付けています。また、内容として「始業・終業の時刻」「賃金の決定、計算および支払方法」など、重要な労働条件を盛り込まなければなりません。したがって、会社において作成が義務付けられている一方で、労働者にとっても非常に重要な文書です。
合理的な内容の就業規則が労働者に周知されれば、それは労働契約の一部として取り扱われます。更に、就業規則の基準に達しない労働条件で個別契約を締結しても、その部分は無効となり、就業規則の内容が優先されます。例えば、就業規則で労働時間を「1日7時間30分」と規定したのに対し、個別契約で「8時間」とした場合、就業規則の方が優先的に適用されます。
このように、就業規則は大きな効力を有するので、労働基準法や労働契約法といった法律によって厳しく規制されています。
「就業規則と雇用契約書の優先順位」の解説

会社が就業規則を変更する際のルール
就業規則に法的効力を持たせるには、労働者への周知が必要です。
周知とは、労働者がいつでも就業規則の内容にアクセスできるようにすることを指します。方法としては、会社の掲示板や、イントラネット上に掲示する方法などがあります。更に、常時10人以上の労働者を雇用する場合、変更後の就業規則を労働基準監督署に届け出る義務があります。届出の際は、過半数労組または過半数代表者から取得した意見書を添付します。労働条件の変更を伴う就業規則の変更では、トラブルを未然に防ぐためにも、その影響を受ける労働者に説明を行い、書面で個別の同意を得るプロセスも重要となります。
就業規則を変更する場合、その変更が合理的でなければなりません。特に、労働者に不利益となる変更が施される場合、合理性のない変更は無効となります。就業規則変更の合理性は、次の4つの観点から総合的に判断されます。
- 労働者が受ける不利益の程度
基本給の大幅な削減など、労働者に甚大な不利益をもたらす場合、合理性がないと判断される可能性が高いです。 - 労働条件変更の必要性
賃金など労働者にとって重要な労働条件を不利益に変更する場合、高度の必要性が求められます。 - 変更後の就業規則の相当性
変更後の規則が法令に違反する場合、内容の相当性が欠如していると判断されます。労働者の不利益を和らげる経過措置の有無、同種事項についての社会一般の状況なども考慮されます。 - 労働組合などとの交渉状況
交渉可能な状況にもかかわらず、労働組合などと全く交渉していない場合、合理性がないと判断されやすくなります。
これらの合理性判断について、変更後の就業規則が不当であるとして労働者が争った場合、最終的には裁判所が行うこととなります。
「労働条件の不利益変更」の解説

労働者の同意が必要なケースと不要なケースの違い

就業規則の変更によって労働契約の内容である労働条件を改定する場合、その変更が労働者に不利益をもたらすものであれば、原則として労働者の同意が必要となります(労働契約法8条)。
代表的な例としては、基本給の引き下げが挙げられます。賃金は労働者の生活を支える根幹であり、特に基本給は継続的に支給されるものであることから、その引き下げは重大な不利益であると評価され、労働者の同意が不可欠となります。そのほか、手当の廃止、労働時間の延長なども同じく、労働者の不利益となるため、同意が求められます。
一方で、労働者にとって不利益とならない変更については、必ずしも同意が必要ではありません。例えば、新たに手当制度を導入するなど、労働者に経済的な利益をもたらす変更であれば、不利益変更には該当しないため同意は不要です。
これに対して、就業規則の変更が合理的であり、その内容が労働者に周知された場合、その規則は労働契約の一部として扱われます。この場合には、労働者の同意なく変更したとしても、その不利益な変更も有効となります(労働契約法10条)。
ただし、労働者の同意なく就業規則を変更すると、労使間の信頼関係に悪影響を及ぼす危険があります。会社に対する不信感は、モチベーションの低下や、離職・転職を検討する要因にもなります。そのため、企業側としては、たとえ「合理性がある」と考えていても、給与や労働時間、福利厚生や休暇など、重要な労働条件の変更には慎重になるべきであり、できる限り労働者の理解と同意を取り付けるよう努力しなければなりません。
「退職したらやることの順番」の解説

就業規則を勝手に変更されたときの労働者側の対処法

最後に、会社が就業規則を一方的に変更した際、労働者はどう対応すべきかを解説します。
就業規則変更の手続きが適切か確認する
まず、企業が実施した就業規則変更の手続きが適切であるか、確認することが重要です。特に、法律に定められた手続きを守っていない場合、それだけで変更後の就業規則が無効となる可能性があります。
具体的な変更手続きは、主に次の通りです。
- 就業規則の変更案を社内に周知する。
- 変更案について対象者に個別に説明を行う。
- 過半数労組または過半数代表者の意見を聴取する。
- 変更後の就業規則、意見書、変更届を労働基準監督署に提出する。
労働者は、これらのステップがしっかりと実施されているか、特に、意見聴取や労働基準監督署への届出の手続きに不備がないかを確認する必要があります。
過半数代表者の意見書を確認する
就業規則を変更する際、過半数労組が存在する場合にはその組合、存在しない場合は過半数代表者から意見を聴かなければなりません。過半数代表者は、全労働者の意思を反映して選出され、就業規則変更について意見を表明したり、36協定を締結したりする役割を担います。したがって、企業側の意向による選出は許されず、公平な方法で選ばれる必要があります。
届出の際は、変更された就業規則と共に、意見書が添付されます。そのため、一方的に就業規則を変更されたときは、労働者側の意見がどのように記載されているかを確認すべきです。
「労働者の過半数代表者」の解説

会社に異議を申し立てる
就業規則の変更に不服があるときは、会社に異議を申し立てましょう。
まず、人事や総務、社長に対し、口頭で意見を伝えるのがよいでしょう。ただ、口頭やメールで異議を伝えても、単なる一従業員の意見では放置されるおそれもあり、そのような場合は正式に書面で企業に通知するのが有効です。弁護士名義で送付し、法的に就業規則の変更が無効になり得ることを記載すれば、会社にプレッシャーを与えて適切な対応を迫ることができます。
多くの社員で団結して戦う
就業規則が一方的に変更されることは、その企業の社員全体に影響します。
このような状況では、不満を持つ多くの従業員が団結し、共同で意見を表明することが有効です。就業規則の変更に異議がある社員が複数いるときは、連名で書面を提出する手もあります。複数の労働者が団結することで、個別で対応するよりも大きな効果を得られます。企業から見ても、単独の意見であれば無視できても、多くの従業員からの意見は放置できません。
労働者同士が協力することで、証拠の収集や確認を共同で行えるメリットもあります。
適切な相談先に相談する
状況に応じて、適切な相談先に相談することも考慮すべきです。
就業規則の変更は、大きな労働問題に発展するおそれがあります。労働者一人の力では対抗できないとき、専門知識を持つ相談先のサポートを受けることが重要です。
労働組合に相談する
労働組合は、労働者の味方となって、労働条件などについて企業と交渉する組織です。就業規則の変更に納得がいかないとき、適切な相談先の一つとなります。労働組合に相談した場合には、会社との団体交渉で解決を図ることができます。
「労働組合がない会社での相談先」の解説

労働基準監督署に申告する
社外の相談先としては、労働基準監督署が最適です。
労働基準監督署は、企業が労働法を遵守しているかを監督する行政機関であり、就業規則の変更に伴うルール違反があるときは、指導を求めることができます。
「労働基準監督署への通報」の解説

弁護士に相談する
最後に、法律の専門家である弁護士に相談することも一つの方法です。
もし身近に弁護士がいない場合には、相談に適した法律事務所を探さなければなりません。法律事務所ごとに、取り扱う案件が特化していることもあるので、就業規則の変更に関する相談は、労働問題に精通した弁護士を選びましょう。
「労働問題に強い弁護士」の解説

まとめ

今回は、企業が就業規則を勝手に変更したときの、労働者の対処法を解説しました。
労働者の権利を保護するには、証拠を確保するなど、事前準備が重要です。ただし、弱い立場に置かれやすい労働者側では、一人で立ち向かうのも限界があります。労働問題の被害に遭ってしまわないために、弁護士に相談して、法律知識に基づいたサポートを受けるべきです。
就業規則の変更に反対し、企業に対して異議を唱える場合にも、対応の必要があることを強く主張しなければなりません。弁護士名義で警告を送ることが、労働者側の本気度を伝える役に立ちます。
また、万が一、違法な変更を勝手に進められてしまいそうなら、労働審判や訴訟など、法的手段も視野に入れて検討しなければならず、労働問題に詳しい弁護士に相談するのが賢明です。
- 就業規則の変更には労働者の同意か、合理性が必要となる
- 変更について意見聴取をし、変更後の就業規則を周知しなければならない
- 就業規則を勝手に変更されて不満がある場合は、異議を申し立てて争う
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