仕事でミスをすると、始末書の提出を命じられることがあります。譴責・戒告といった軽度の懲戒処分の内容として、始末書を書くよう指示されるケースなどです。納得のいかない始末書の強要だと、拒否したいと考える方もいるのではないでしょうか。
なかには、始末書の理由となった事実に誤りがあるケースもあります。それでもなお、始末書を拒否するときは慎重に進める必要があります。会社に逆らって始末書を出さなかったのを理由に、懲戒処分や解雇といった不当な処分を受けてしまう危険があるからです。
一方で、始末書の強要は、違法となるケースもあります。個人の気持ちを強要するのは、たとえ使用者といえども適切ではないからです。
今回は、始末書が拒否できるかと、強要の違法性について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 始末書には、労働者の気持ちが含まれるため、強要は違法
- 気持ちを強要するのは、憲法19条「思想・良心の自由」を侵害する
- 始末書の拒否を理由に、不当な処分を繰り返されないよう、弁護士に警告してもらう
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始末書とは
始末書は、労働者が、仕事でミスしたとき、会社から提出を命じられるものです。問題行為に対する反省文のような意味合いがあります。
懲戒処分の内容として始末書が命じられるとき、譴責という名称の軽度な処分が用いられます。懲戒処分の一環である始末書には、制裁(ペナルティ)としての側面もあります。
始末書に書くべき内容は、次の通りです。
- 問題行為を起こした原因
- 発生した経緯
- 問題行為を起こした理由や動機
- 反省
- 謝罪
- 今後の再発防止策
始末書の提出は、業務命令として命じられるほか、懲戒処分の一内容でもあります。懲戒処分は、企業秩序に違反した労働者への制裁のこと。始末書について、例えば「譴責:始末書を提出させ、将来を戒めること」などと就業規則に定められています。
懲戒処分は、就業規則に定めていなければ下すことができないので、どのような場合に、懲戒処分の内容として始末書を命じられるのかは、就業規則で確認することができます。
「就業規則と雇用契約書が違う時の優先順位」の解説
始末書の強要が違法な理由
始末書は、業務命令ないし懲戒処分として、会社が命じることができるもの。しかし、命じる権利があってもなお、強要するのは違法です。
以下では、始末書の強要が、違法となる理由について解説します。始末書の提出を、懲戒処分による脅しをもって強要するのは、適切な労務管理とはいえません。
思想・良心の自由に反するから
始末書には、「反省」「謝罪」といった労働者の意思が含まれます。たとえ会社と労働者の関係といえど、意思や気持ちといった内心まで強要されるのは不適切です。憲法19条が「思想・良心の自由」を保障しているように、内心の気持ちは各個人の自由なのです。
憲法19条
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
憲法(e-Gov法令検索)
企業秩序に違反するかどうかについても、労働者に考えがあるでしょう。労使の意見が対立するなら、最終的には裁判所で判断してもらうべきことです。最終判断が決まらないうちに、謝罪や反省に意味ある始末書を強要するのは、内心の自由の侵害です。
一事不再理に反するから
次に、始末書の強要が違法となるのは、「一事不再理の原則」も理由となります。一事不再理とは、「同じ事実をもとに、2回処分することは許されない」という意味です。
始末書を命じ、違反したら更に制裁を加えるのでは、一事不再理に反してしまいます。同じ理由で、重ねて懲戒処分をしているに等しいからです。一度ペナルティを受けたら、たとえそれが拒絶されても、重ねて制裁すべきではありません。
1回目の「譴責」という懲戒処分による始末書提出を拒否したことに対して、2回目の懲戒処分をすることは、結果的に同じ問題行為に対して2度制裁(ペナルティ)を下すことと同じではないか、という考え方です。
始末書の強要を受けてしまったときは、速やかに弁護士に相談してください。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
始末書を拒否する方法
以上の通り、始末書の強要が違法ならば、屈してはなりません。会社が、始末書を書くよう強く迫ってきても、徹底して拒否すべきです。
始末書の提出を拒否するときには、証拠に残る形で伝えましょう。会社がしつこいようなら、内容証明により拒否の意思を伝え、証拠に残すことができます。
また、始末書提出を命じられた根拠となる事実に誤りがあるなら、調査を求めましょう。十分な調査なく、懲戒処分をすることは違法の疑いが強いです。当事者の事情聴取、関係者のヒアリングや書証の検討など、必要な調査を尽くしているか、会社に確認するようにしてください。
弁護士名義で警告すれば、強くプレッシャーが伝わり、正しく対応してもらいやすいです。始末書の不提出で、懲戒処分をするのは違法でも、評価を下げたり、嫌がらせをしたりといった事実上の不利益を受けてしまうのを避けなければなりません。
「懲戒処分の種類と違法性の判断基準」「懲戒処分の決定までの期間」の解説
始末書を拒否する時の注意点
最後に、始末書を拒否するときの注意点について解説します。始末書の命令が、不適切ならば、拒否してよいでしょうが、その判断は、最終的には、裁判所がすべきものです。安易な判断で拒否してしまうと、業務命令違反だとして、さらなる懲戒処分を受けるおそれもあり、最悪のケースでは解雇になってしまう危険もあります。
別の違反行為なら、始末書の再提出を命じられる
1つの違反で、始末書を命じ、提出を拒否されたらさらに懲戒処分するのは許されないと説明しました。これは、いわゆる「一事不再理の原則」の結果です。
しかし、違反が別物なら、再度、始末書の提出を命じても、一事不再理には反しません。一度目の違反に、始末書を命じ、違反を繰り返したら、出勤停止など重度の懲戒処分とすることも可能です。
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顛末書は拒否できないケースがある
始末書の強要が許されないのは、個人の気持ちを強要できないから。始末書には、「反省」「謝罪」という意味が含まれます。そのため、始末書を強制すると、「謝罪せよ」という気持ちの強制を含んでしまい、問題があります。
これに対し、始末書とよく似た書面に、顛末書があります。
始末書と顛末書の違いは、その書かれる内容にあります。顛末書は、始末書と異なり「反省」「謝罪」といった気持ちを含まず、事実が中心です。
顛末書の目的は、事実経過を明らかにし、再発を防止することだからです。顛末書の提出を命令、強制しても、少なくとも労働者の「思想・良心の自由」は害しません。なので、顛末書が業務命令として指示されたとき、拒否してはなりません。顛末書まで拒否すると、業務命令違反として、さらなる懲戒処分を受ける危険があります。
なお、懲戒処分は相当性が必要なので、「顛末書の不提出」という違反と、制裁として課される懲戒処分の程度が、バランスがとれている必要があります。
始末書拒否を理由とした不当処分への対応
始末書を強制すると、気持ちの強要となり「思想・良心の自由」に反します。意思表示を強制できないのは、直接の強制はもちろん、間接の強制も同じこと。「命令に従わないと、処分される」というのでは、強要されているに等しいといえるでしょう。
なので、始末書拒否を理由にして、更に不利益な処分をすることも違法です。始末書拒否を理由に、不当処分をされたら、その処分の違法、無効を主張し、争うべきです。特に、労働者の不利益の大きい解雇は、よほどの理由のないかぎり許されません。
「始末書を断った」というだけでは、解雇をする正当な理由には足りないといえるでしょう。
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まとめ
今回は、始末書の拒否と、強制されたときの対処法を解説しました。
懲戒処分となり、始末書の提出を命じられると、強いプレッシャーを感じるでしょう。会社の調査が不足して、事実でない理由に基づくとすれば、拒否したいのもやまやまです。始末書を強要してくる会社には、戦わなければなりません。
懲戒処分となってお悩みの労働者は、ぜひ弁護士に相談してください。
- 始末書には、労働者の気持ちが含まれるため、強要は違法
- 気持ちを強要するのは、憲法19条「思想・良心の自由」を侵害する
- 始末書の拒否を理由に、不当な処分を繰り返されないよう、弁護士に警告してもらう
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