部下から突然「それ、パワハラですよ」と言われ、対応に困る管理職は少なくありません。
感情的に怒鳴った覚えはなく、自分としては業務上必要な注意や指導をしただけのつもりでも、「パワハラ」と言われた以上、対処せざるを得ません。会社の調査が不十分だと、部下の言い分が信じられ、評価が下がったり、処分されたりする危険もあります。
近年、指導とパワハラの境界はますます曖昧になっています。世代間ギャップや価値観の差から、少し厳しくしただけでパワハラを指摘されたという相談も増えています。注意するたびに過剰反応し、すぐパワハラと騒ぐ人もいて、むしろ上司や管理職が萎縮して指導を控えてしまい、適切にマネジメントできないケースも少なくありません。
今回は、パワハラと言われたときに取るべき対応を、労働問題に強い弁護士が解説します。上司の側でも、不利益を受けないための防御の方法を理解してください。
- パワハラと言われても感情的に反論せず、事実と証拠をもとに対応する
- 事情聴取では事実と評価を切り分け、必要に応じて書面で説明する
- 会社の対応に不安がある場合は、早期の段階で弁護士に相談しておく
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部下からパワハラと言われる理由とは

自分の意図に反して「パワハラだ」と言われたら、その理由を冷静に整理すべきです。
パワハラ(パワーハラスメント)とは、職場において優越的な関係を背景とした言動であり、業務上必要かつ相当な範囲を超え、労働者の就業環境を害する行為をいいます。上司はまさに優越的な立場にあるため、注意指導のプロセスで起こるパワハラの指摘を、全くゼロにはできません。
上司にとって常識的な指導のつもりが、部下がパワハラ行為と感じるケースは、なぜ認識にズレが生じてしまったのかをよく理解しましょう。「パワハラかどうか」は上司の意図だけでは決まらず、言動の内容や伝え方、人間関係、相手の感じ方などから総合的に判断する必要があります。
どのような理由で指摘されたかを理解すれば、後述する「パワハラと言われたときの適切な対応」も選択しやすくなります。
価値観や環境は変化している
まず、価値観の違いや環境の変化が、パワハラと指摘される背景にあります。
「最近の若い人は…」という言葉が昔から語られるように、世代によって仕事観や指導の受け止め方が異なるのは自然なことです。近年は、ハラスメントの社会問題化や働き方改革など、職場における言動への意識も大きく変化しています。
その結果、上司世代にとってありふれた指導も、若手社員にとっては強いプレッシャーや不当な扱いと感じられる場合があります。
伝え方・場面・頻度が問題視される
指導の内容が正当であっても、その伝え方・場面・頻度が問題視されることもあります。
例えば、人前で強く注意したり、感情的な口調で指摘したり、同じ言葉を何度も繰り返したりといった事情が重なると、受け手としては精神的に苦痛を感じることがあります。パワハラの判断では、「何を言ったか」だけでなく、その伝え方も重要な判断要素となります。上司側が想定していない部分が問題視されるケースも少なくありません。
人事評価や異動に不満がある
被害の訴えは、そのパワハラと言われた言動だけが理由ではないこともあります。
日常的に、人事評価や昇進をめぐる不満、配置転換や異動への不服といった感情が蓄積されていると、その不満が、上司に対するパワハラという指摘として表面化することがあります。これは、上司一人の指導そのものではなく、会社や職場全体への不信感が影響しているケースです。
パワハラと指摘された上司にとって、その一場面だけを切り取ると身に覚えがなくても、部下の置かれた立場や状況を踏まえると、問題の原因が見えてきます。
「パワハラの相談先」の解説

パワハラと言われたときの適切な対応

次に、パワハラと言われた直後に上司が取るべき対応を解説します。
身に覚えがないと否定したくなるでしょうが、対応を誤ると状況を悪化させ、会社から不利益な扱いを受けるおそれがあります。突然会社から呼び出され、「パワハラを受けたと申告があった」「一緒に働けないと言われている」と指摘を受けた場面では、特に慎重に行動してください。
感情的に反論せず、事実関係を整理する
最も重要なのは、事実関係を冷静に整理することです。
パワハラだと言われた直後は、「理不尽だ」などとショックを受ける人が多いです。しかし、感情的に反論したり、自分の価値観を押し付けたりするのは避けるべきです。
パワハラかどうかは、上司の主観ではなく、業務上の必要性や相当性、言動の態様などを踏まえ、客観的に判断されます。そのため、まずは「いつ、どこで、どのような場面であった言動か」を時系列で整理し、部下が問題視している部分を特定してください。

初動の段階では、法的に問題があったかどうかだけでなく、上司として配慮に欠ける言動がなかったかを振り返ることも大切です。発言や態度による軽度のパワハラほど、指導内容そのものよりも、伝え方や言い回しが問題視されることも少なくありません。
冷静に問題点を受け止めないと、この後の会社とのやり取りにおいて「反省がない」「再発する可能性がある」として評価が下がり、減給や降格といった不利益な処分を受けるおそれがあります。
「パワハラと指導の違い」の解説

できる限り早く会社に報告する
次に、パワハラだと言われたら、できる限り早く会社に報告すべきです。
注意や指導、教育は、あくまで会社の業務の一環です。そのため、業務上の必要性に基づいて進めた行動によってパワハラだと言われたら、個人の問題として抱え込むべきではありません。
会社は、社員の労務管理を行うため、パワハラをはじめとした労働問題の知識や、調査に必要な体制を備えています。少なくとも上司個人で対応するよりは、適切な対処が望めるでしょう。顧問弁護士や人事部が関与すれば、法的観点からアドバイスを受けることもできます。
報告が被害申告よりも大幅に遅れると、「放置した」「隠蔽した」と受け取られるおそれがあり、対応が後手に回ることで不利な印象を与えかねません。
パワハラかどうかの判断は、上司個人が行うものではないからこそ、早い段階で会社に情報を共有し、組織として対応してもらうことが重要です。適切な調査が行われれば、問題のない指導であったことが確認され、上司の立場が守られる可能性もあります。
「パワハラ冤罪の対応」の解説

証拠や記録を確保しておく
早い段階で、証拠となる記録を確保しておくことも忘れないでください。
パワハラだと言われたときに意識してほしいのは、「自分は正しい」と主張するのではなく、後になっても事実関係を説明できる状態を作ることです。指摘が言いがかりだとしても、「パワハラだ」と決めつける部下と同じくらい、「自分は正しい」と思い込む上司にも問題があります。
例えば、次のような記録が役に立ちます。
- 業務上の必要性を示す資料
例:業務指示のメールやチャット、業務目標や進捗管理の資料など。 - 改善を目的とすることを示す資料
例:業務日報、評価面談の記録、面談のメモなど
また、当時の録音や録画があれば、一方的な叱責や暴言がないことを証明できます。
注意点として、これらの証拠は「部下に勝つ」ことが目的ではありません。パワハラと言われたことは納得できないでしょうが、重要なのは部下と対立することではなく、会社に事実関係を正確に伝え、公平で適切な対処をしてもらうことです。
会社の調査や事情聴取には協力する
会社から事情聴取やヒアリングを求められた場合は、冷静に協力することが重要です。
被害申告があった場合、会社は事実関係を調査し、再発を防止する義務があります。このとき、上司・部下の一方の言い分のみ信じるのではなく、事情聴取や証拠、必要に応じて目撃者への裏取りなどを通じて、客観的に判断する必要があります。
会社のパワハラ対応は、例えば次のように進みます。
- 被害者からの相談と被害申告
- 会社による事実調査の開始
- 被害者とされる部下への事情聴取
- 加害者とされる上司への事情聴取
- (必要に応じて)目撃者や関係者への裏取り、再聴取
- 収集した証拠と証言をもとに社内で検討
- パワハラ該当性の判断
- 懲戒処分の要否と量定の決定
- 当事者への通知と再発防止策
パワハラと言われた側でも、事実関係を整理し、いつ・どこで・どのような指導を行ったか、具体的に説明しましょう。会社が適切に対処する前提として、正確な事実の提供が不可欠であり、主観的な評価や相手への批判に終始すると、かえって伝わりづらくなってしまいます。
部下から強くパワハラを主張されても、上司個人で直接対抗してはいけません。説得したり、力関係で抑え込んだりすれば、かえって対立が深まり、問題が長期化し、「新たなパワハラ」「二次被害」と言われる危険もあります。
会社は、部下だけでなく、上司を含む全ての労働者に安全配慮義務を負います。
「パワハラ被害者」だけが守られるわけではなく、その事実がなかったり、過大な申告だったりする場合は、上司が負った精神的負担についても想定する必要があります。
調査が適切に行われれば、問題のない指導であったと確認できるケースもあります。事情聴取は、不満を述べる場ではなく、事実関係を正確に伝え、公平な判断を受ける機会として活用することが、自分の立場を守るためにも大切です。
「懲戒処分の決定までの期間」の解説

会社の対応が不安なら弁護士に相談する
中立公平に調査が進めば、パワハラがなかったと認められるケースもあります。
しかし、「被害者」とされた部下の言い分だけを重視したり、事なかれ主義の風土から「声の大きい側の主張を採用する」といった安易な判断をする会社も存在します。会社のために注意指導をしたのに、突然はしごを外された気分でしょう。
当事務所の相談例でも、次の事情が重なると、上司側に不利な判断が下される傾向にあります。
- 以前から「厳しい上司」という評価が社内で共有されていた。
- 同様の指摘や苦情が過去にあった。
- 人事評価や異動をめぐる不満を抱えた部下がいる。
- 過去に一度でも感情的な対応をしてしまったことがある。
このような状況で、十分な検討がされないまま「パワハラ上司」として扱われ、懲戒処分や配置転換、場合によっては解雇といった不利益を受けるおそれも否定できません。しかし、会社がパワハラと認定したとしても、必ずしも法的に正しいとは限りません。調査手続きが不足していたり、法律知識が乏しかったりする場合、会社の対応自体が問題となるケースもあります。
会社の対応が不安なら、早めに労働問題に精通した弁護士に相談することが重要です。専門家の視点から法的なアドバイスを受けると共に、最悪の結果が予想されるケースでは、会社との交渉を代理してもらったり、労働審判や訴訟などの法的手続きを任せたりすることができます。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

パワハラだと騒ぐ部下への注意指導のポイント

注意指導に対して、パワハラだと騒ぎ立てる人がいます。特に「自分は被害者だ」という意識が強く、注意指導そのものを拒絶するタイプの部下には、対応を誤ると問題が長期化します。
上司としては、萎縮して指導を放棄する必要はなく、毅然とした対応をすべきです。ただし、パワハラトラブルを避けるため、他の社員以上に指導方法には配慮しなければなりません。
すぐパワハラと騒ぐ人の特徴
すぐパワハラと騒ぐ人には、次の特徴があります。
このような特徴のある人に注意指導するときは、特に配慮が必要となります。
- 注意指導を区別せず、不快な指摘を全て「パワハラ」と受け取る。
- 注意されるたびに、社内外にパワハラの訴えを繰り返す。
- 「パワハラを受けた」として業務を回避しようとする。
- 労働法やハラスメント制度の知識に詳しく、文脈を無視した権利主張を行う。
- 評価や配置などをめぐり、パワハラ被害を交渉材料に使ってくる。
- 上司に対して反発し、周囲の同僚を巻き込もうとする。
- 社内で受け入れられないと、SNSやネット上で発信しはじめる。
- 気に食わないことがあると「労基に言う」「弁護士に相談する」と言う。
ただ、これらの特徴があるからといって問題社員とは限らず、上司側に問題があるケースもあります。重要なのは、「相手の性格」によって決めつけるのではなく、事実をしっかりと精査して法的な観点から対応方針を決めることです。
パワハラかどうか、適切な対応がどのようなものか判断できないときは、早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
萎縮せず冷静に指導する
パワハラだと繰り返し主張され、萎縮して指導を控えてしまう人もいます。
しかし、指導なしにマネジメントは成り立ちません。むしろ、「パワハラだ」と声高に主張されて指導を止めては、それまでの指導に問題があったことを認めたと受け取られるおそれもあります。したがって、萎縮せず、あくまで冷静に指導を続けるのが適切な対応です。
一方で、「言いがかりだ」「問題社員だ」と感情的に対抗するのも逆効果です。声を荒らげたり、人格を否定したりすれば、それ自体が新たなパワハラと評価されてしまいます。
指導内容を客観化して記録に残す
すぐパワハラと騒ぐ人には特に、上司の主観による指導は避けるべきです。
次のポイントを抑え、指導内容を客観化し、記録に残して進めてください。
- 数値や期限など、客観的な基準で問題点を指摘する。
- 具体的な改善策を提供する。
- 改善が見られた場合には、評価に反映する。
このように指導内容を「見える化」することで、感情論に発展しにくくなり、パワハラと言われるのを避けることができます。また、指導結果が記録に残れば、パワハラだと指摘されても、会社に事実関係をしっかり説明し、指導の正当性を示すことができます。
「部下から上司へのパワハラの違法性」の解説

「仕事に伴う不快」とパワハラの区別を教える
パワハラを叫ぶ部下の中には、「不快=パワハラ」と誤解している人もいます。
しかし、仕事は楽しいことばかりではありません。業務上必要で、かつ相当な範囲の注意指導であれば、それはパワハラにならず、不快だとしても受け止めなければならない場面もあります。
誰しも仕事をしていれば、ミスを指摘され、改善を求められる場面は避けられません。これは、業務遂行はもちろん、個人の成長にも不可欠なものであり、部下の経験が少ないうちほど、「不快だ」という理由で排除できるわけではないことを、上司が丁寧に伝える必要があります。
それでも受け止め方にズレが生じ、パワハラという指摘が止まらない場合は、もはや個人での対応に限界があり、早めに会社に相談すべきです(「できる限り早く会社に報告する」参照)。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

パワハラを指摘された場合の会社への対応のポイント

最後に、身に覚えのないパワハラで会社から呼び出されたときの対応を解説します。
動揺してしまうのも理解できますが、感情的に反発したり、防御的になりすぎたりすると、かえって不利な評価を受けるおそれがあります。
事実と評価は切り分けて説明する
パワハラと言われて否定したいとき、事実と評価を切り分けて考えてください。
自分の考えを理解してもらおうと思うあまり、「自分は悪くない」「相手が大げさなのだ」などと気持ちを伝える人もいます。しかし、本来、評価の判断は会社に委ねるべきです(会社が誤った判断をした場合は裁判所で争うべきです)。重要なのは「何があったのか」を具体的に、かつ正確に伝えることで、「なぜ問題なのか(問題でないのか)」といった評価や推測は加えないでください。
また、全て完璧に説明しようとする必要はありません。焦って間違ったことを言うくらいなら、記憶が曖昧な点や即答できない点は、持ち帰って検討することを伝えてください。
弁明書を作成して提出する
会社から報告書や弁明書の提出を求められた場合は、誠実に応じましょう。
これらの書面の提出は、自分の認識している事実を、感情を交えずに会社に伝える絶好の機会です。そのため、事情聴取での対応と同様、事実のみを簡潔に整理して記載します。
一方で、調査が不十分であるなど、会社に問題があると、判断を委ねていただけでは適切な対処が期待できないおそれがあります。この場合、会社から要求がなかったとしても、弁明書を作成し、提出するという対応をおすすめしています。
反論や否定と謝罪は切り分ける
会社への対応の姿勢で重要なのが、反論や否定と謝罪は区別することです。
身に覚えのないパワハラ指摘なら、無条件に謝罪する必要はありません。かといって、強く否定し過ぎて感情的になってしまうのも得策ではありません。必要なのは、事実関係の誤りを冷静に正した上で、会社に迷惑をかけてしまったことについては冷静に謝罪をする姿勢です。
今後も働き続けるなら、「問題を理解した上で、再発防止に協力している」という姿勢を示す方が、会社の評価を得やすくなります。このような真摯な対応を見せたことによって、会社が不当に重い処分を課してくるのであれば、弁護士への相談も検討してください。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

まとめ

今回は、パワハラだと言われてしまった際の対応について解説しました。
新入社員や若手を中心に、権利意識が高まった結果、指導の受け止め方をめぐって「パワハラだ」と指摘され、トラブルに発展するケースは珍しくありません。しかし、パワハラを恐れて指導を控えれば、上司としての役割を果たせなくなってしまいます。ハラスメントが許されないのは当然ですが、職場の秩序を守り、業務を円滑に進めるには、状況に応じた適切な注意指導が不可欠です。
話し合いで解決できればよいのですが、相手が被害を訴えている以上、説得して収めようとするのは逆効果です。早めに会社へ報告して、組織として対応するのが適切な進め方となります。
会社の対応が不十分で、被害者の言い分だけが信じられ、パワハラ加害者として扱われそうな場合には、事実関係や証拠を整理した上で、弁護士のサポートを受けるのが有効です。
- パワハラと言われても感情的に反論せず、事実と証拠をもとに対応する
- 事情聴取では事実と評価を切り分け、必要に応じて書面で説明する
- 会社の対応に不安がある場合は、早期の段階で弁護士に相談しておく
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