「セクハラ」と聞くと、異性間の問題をイメージする方が多いかもしれません。
古い価値観の根強い職場だと、「男性が加害者、女性が被害者」という意識がある方もいます。しかし、実際には、同性同士でもセクハラが成立するケースは少なくありません。何気ないボディタッチや冗談のつもりの発言も、受け手にとっては深刻な被害となることがあります。
男女雇用機会均等法でも、被害者の性的指向や性自認によらず、性的な言動がセクハラに該当することが明確化され、企業には防止措置を講じる義務が課されています。労働者も、同性間の言動がどこからセクハラなのかを理解し、被害者・加害者にならないよう注意しなければなりません。
今回は、同性間でもセクハラが成立する具体例と、被害に遭った際の対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 同性間でも、受け手が不快・不利益を感じれば、セクハラが成立し得る
- 同性同士の被害は、身体的接触や性的発言、プライバシー侵害などが主
- 性的指向や性自認に関連した言動は、LGBTに対するセクハラになる
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同性同士でもセクハラは成立する?

結論として、同性同士でもセクハラは成立します。
職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)は、男女雇用機会均等法11条に基づき、異性間だけでなく同性間(男性同士・女性同士)の言動も含まれます。
かつては同法の保護は女性労働者のみが対象でしたが、2007年の法改正で男性労働者も対象となり、その後の指針改正で、被害者の性的指向(恋愛・性愛の対象)や性自認(性別に関する自己意識)にかかわらず、性的な言動であればセクハラに該当することが明確化されました。
セクハラの定義
セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、職場における性的な言動により、労働者に不利益を与えたり、就業環境を害したりする行為を指します(男女雇用機会均等法11条)。
セクハラには、性的な言動に対する労働者の反応により解雇、降格、減給などの不利益を与える「対価型セクハラ」と、性的な言動によって就業環境が害される「環境型セクハラ」があります。「性的な言動」には、身体的接触のある行為だけでなく、発言や態度なども含まれます。
同性間でもセクハラが成立する理由
上記の定義の「労働者」は、女性だけでなく男性も含まれ、同性に対するものも含まれます。
セクハラの成否は、加害者と被害者の性別の組み合わせではなく「性的な言動の有無」で判断されるため、同性同士でも、性的な言動により相手に不利益や不快感を与えれば、セクハラに該当する可能性があります。厚生労働省の指針(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)にも、セクハラが同性間でも成立し得ることが明記されており、「異性間でなければセクハラにならない」という理解は誤りです。
例えば、同性の同僚から繰り返し身体に触れられる、性的な話題を強要される、性的指向を執拗に詮索されるといった行為は、性別に関係なく法的な問題となります。加害者の意図にかかわらず、「冗談」や「からかい」のつもりであったり、悪気がなかったり、相手に対する恋愛感情がなかったりしても、セクハラは成立します。
「セクハラ問題に強い弁護士を探している方へ」の解説

同性同士のセクハラの具体例

同性間でもセクハラは成立しますが、同性であるがゆえに「どのような言動がセクハラか」「どこからが違法か」という判断が曖昧になりがちです。同性間だからこそ、セクハラの具体例を理解し、被害者・加害者にならないよう注意すべきです。
以下では、「男性同士」「女性同士」「LGBT」のケースを具体例で紹介します。
男性同士のセクハラ
男性同士のセクハラでは、肉体的な接触や性的なプライバシーへの干渉が多く見られます。具体例としては次のようなケースが該当します。
- 筋肉を確認する名目で執拗に体に触れる。
- 悪ノリで性器や臀部を何度も触られる。
- 裸芸や宴会芸、飲み会でのゲームを強要される。
- 性的な体験の告白を強要する。
- アダルトビデオの感想を強要する。
- 罰ゲームで女性社員への告白をさせられる。
- 風俗で童貞を捨てるよう命令される。
- 独身男性に「どうして結婚しないの?」としつこく聞く。
男性間特有の「悪ノリ」や「下ネタ」として片付けられがちですが、不快に思う人が多い以上、違法なセクハラになり得ます。加害者がコミュニケーションの一環や冗談と考えていても、受け手が不快感や苦痛を抱けばセクハラが成立します。
「男同士だから問題ない」という誤った認識で被害をエスカレートさせないよう、異性間と同様に厳格な態度で拒絶することが重要です。
女性同士のセクハラ
女性同士のセクハラは、恋愛や結婚、出産に関する過度な干渉が代表例です。具体例としては次のようなケースが該当します。
- 独身であることを執拗に言及する。
- 交際相手の有無を繰り返し尋ねる。
- 身体的な特徴を揶揄する(胸の大きさ、体重など)。
- スキンシップと称して不必要に体に触れる。
- プライベートの性的関係に関する噂を流される。
これらの行為でも、本人が不快に感じればセクハラに該当します。特に、結婚や妊娠、出産など、女性特有の悩みに対する配慮を欠いた発言は、同性であってもプライバシーの侵害となり、職場関係を悪化させる非常に深刻なセクハラです。
女性同士ほど、加害者側はコミュニケーションの一環や「恋愛トーク」であると軽く考えていることも多いため、受け手は苦痛であることを伝え、明確に拒絶する必要があります。
性別の役割分担意識に基づく場合
性別の役割分担意識に基づく言動は、同性間でもよく起こるセクハラの典型例で、「ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)」とも呼ばれます。
例えば、「男のくせに根性がない」「女なのに勝ち気だ」といった発言は、男性・女性という性別に対する誤った役割意識に基づくもので、セクハラの原因となる偏見・固定観念です。時代遅れの価値観を背景としており、解消していくべきです。
性的指向・性自認(LGBT)のケース
性的指向や性自認に関連する言動についても、同性間でセクハラが成立します。LGBTなどのマイノリティは、加害者に悪意がなくても苦痛を感じる場面が少なくありません。一方で、性の多様化(セクシュアル・ダイバーシティ)が進み、職場でも配慮が必要な時代となっています。
例えば、性的指向や性自認に関連するセクハラには、次の例があります。
- 性的指向を勝手に推測して侮辱する。
- 本人の許可なく公表する(アウティング)。
- 性自認に基づかない呼称を強要する。
- 特定の性的指向を揶揄するような発言をする。
- 「ホモ」「オカマ」「ゲイ」「レズ」などの蔑称を用いる。
これらの行為は「性的」という点でセクハラであるだけでなく、人格権を侵害する重大なハラスメントであり、冗談としても許されるものではありません。厚生労働省の指針(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)でも、被害者の性的指向や性自認によらず、セクハラが成立することが明確化されています。
いわゆる「SOGIハラ(性的指向や性自認に関するハラスメント)」もセクハラに含まれ、加害者に悪意がなくても、受け手が苦痛を感じる場合は法的責任を問われます。裁判例でも、トランスジェンダーの労働者に対する女性トイレの使用制限や「もう男に戻ってはどうか」という発言を違法と判断したものがあります(最高裁令和5年7月11日判決)。
「セクハラ発言になる言葉の一覧」の解説

どこからがセクハラ?違法性の判断基準

次に、同性間におけるセクハラがどこから違法なのか、判断基準を解説します。
被害者の平均的な感じ方が基準
セクハラの違法性は、労働者の主観を重視しつつ、客観性も必要となります。
そのため、被害を受けた本人が不快に感じたかどうかという主観的な事情を重視しつつ、社会的な妥当性も加味し、「平均的な感じ方」が基準とされます。例えば、被害者が男性なら「平均的な男性労働者の感じ方」、女性なら「平均的な女性労働者の感じ方」を基準に、同様の状況で一般的に不快や屈辱を感じるレベルかどうかを検討します。
また、行為の様態や継続性も、違法性を左右する重要な要素とされます。一方で、加害者に悪意や性的な意図がなかったとしても、受け手が拒絶の意思を示している中で、優越的な立場を利用して不適切な発言を続ければ、違法なハラスメントとされます。
同性間のセクハラはパワハラに当たる可能性もある
同性間のセクハラの違法性を判断するにあたり、パワハラになる可能性も検討してください。
セクハラは性的な言動ですが、同性間の場合、加害者に性的な意図がなかったり、行動の性的な意味合いが小さかったりすることもあり、「セクハラに該当するか」という側面だけでは、違法なハラスメントを見逃すおそれがあります。性的なものでなくても、被害者が苦痛や不快感を感じる場合には不適切な言動であり、パワハラに該当する可能性があります。
パワハラは、職場における優越的な地位を利用した嫌がらせを指し、男女の性別を問わず成立します。自身が性的マイノリティであることを社内で隠している場合など、同性からの嫌がらせを「セクハラ」と指摘するのが難しいケースでは、パワハラ問題として相談する手も有効です。
「パワハラにあたる言葉一覧」の解説

同性からセクハラ被害を受けたときの対応

次に、同性からのセクハラ被害に遭ったときの対処法を解説します。
同性間だからこそ、速やかに拒絶の意思を示し、断固として対応することで、不快であることを明らかにすることが大切です。同性同士でもセクハラが成立する以上、被害者側が断固として拒絶すべきことは、異性間のセクハラへの対応と共通します。
不快であることを明確に示す
同性間の被害ほど、加害者に自覚や悪意がないケースも多いため、違法なセクハラ行為であることを理解してもらうには、不快であることを明確に示す必要があります。拒絶したことを証拠に残すため、口頭だけでなく、書面やメールなど、記録に残る形で伝えることが大切です。
被害の証拠を収集する
同性からのセクハラも、異性間と同じく、隠れて行われるケースが少なくありません。
今後、裁判手続きで慰謝料を請求するなど、法的トラブルに発展する場合、証拠は欠かせません。さらに、同性からのセクハラは、異性間の被害に比べれば珍しく、社内の窓口に相談する際、証拠がないと被害を信じてもらえないおそれがあります。
セクハラの証拠となるものは、同性間でも異性間でも変わりませんが、隠れて行われるセクハラでは特に、録音を取っておくことが重要です。
「セクハラの証拠」の解説

信頼できる上司や社内の窓口に相談する
同性間のセクハラ被害が軽微なら、信頼できる上司や社内窓口に相談しましょう。同性からのセクハラ被害を信じてもらうには、初期の段階から継続して相談することが重要です。セクハラとなる具体的な言動について頻繁に報告すれば、被害を受けていると理解してもらいやすいです。
ただし、同性からのセクハラは、誤った価値観や偏見に基づいて判断されたり、ネガティブなイメージを抱かれたりするおそれが強いため、社内での解決が難しいこともあります。
「セクハラの二次被害を防ぐ対策」の解説

労働局と弁護士に相談する
社内での解決が難しい場合、社外の専門機関として、労働局と弁護士に相談しましょう。
同性からのセクハラの中でも重度のものや、執拗に継続されるもの、社長が加害者であるケースなどは、社内での解決が困難なこともあります。誤った価値観や偏見が蔓延している職場の場合、同性からのセクハラについて、社内では誠実な対応が期待できないこともあります。
弁護士に相談すれば、同性同士のセクハラについても、正しい法律知識をもとに、深刻な被害であると理解してもらい、アドバイスを受けることができます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

慰謝料の請求を検討する
同性間のセクハラでも、精神的な苦痛を受けた場合は慰謝料の請求が可能です。
加害者本人に対し、不法行為(民法709条)に基づいて慰謝料や損害賠償を請求できます。さらに、会社には労働者の健康と安全に配慮する義務(安全配慮義務)があり、セクハラを防止する義務があるため、これを怠る場合には同義務違反の責任を追及することが可能です。
「セクハラの慰謝料」の解説

会社は同性間のセクハラも防止すべき

会社は、労働者が安心して働ける環境を整える義務があり、その一環としてセクハラの防止措置を講じる義務があります。これは、男女間に限らず、同性間のセクハラについても同様です。
男女雇用機会均等法11条及び厚生労働省の指針(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)によれば、事業主が講じる必要のある措置には次のようなものがあります。
- セクハラ防止に関する方針の明確化と周知
- 相談窓口の設置と適切な対応体制の整備
- 被害申告があった場合の迅速かつ公正な事実調査
- 被害者の保護および再発防止措置
- 加害者に対する適切な処分
重要なのは「同性だから対象外」といった誤った考え方を捨てることで、会社として、同性間のセクハラも許さず、断固として対応する姿勢を示すことが求められます。会社がセクハラ防止義務を十分に果たさず、適切な対応を怠った場合、被害者からの安全配慮義務違反または使用者責任を根拠とする慰謝料や損害賠償の請求を受けるおそれがあります。
セクハラ問題が外部に発覚すれば、企業イメージが低下し、人材流出や採用活動への悪影響といった経営面のリスクも生じます。特に、性の多様化の進む昨今、性的マイノリティに対する被害が報道されると「多様な人材が活躍できない企業」といった悪印象が付くことは避けられません。
同性同士のセクハラに関するよくある質問
最後に、同性からのセクハラに関するよくある質問に回答します。
悪気がなくてもセクハラになる?
セクハラが成立するかどうかは、加害者の主観や意図にはよりません。
特に、同性同士のセクハラの場合、加害者としては親愛の情、コミュニケーション、冗談といった意図のことも多いですが、受け手が不快感を抱き、就業環境が害されているのであればセクハラになります。「親しさの裏返し」として過度な接触をする行為でも、苦痛を感じている事実に変わりはありません。
被害者としては、同性同士だからといって我慢する必要はなく、加害者としても、同性だからといって行き過ぎた行為にならないよう注意しなければなりません。
「冗談」や「コミュニケーション」だと言われたらどうすればよい?
同性に対してセクハラであると指摘し、加害者に「冗談のつもり」や「親睦を深めるためのコミュニケーションだ」と言われ、遠慮してしまう人もいます。
しかし、性的言動によって不快感を感じたなら、被害申告を遠慮してはならず、相手から言い訳をされたとしても、その反論を受け入れる必要はありません。
異性間で許されない行為は、同性間でも許されないため、毅然とした態度で「嫌だ」「やめてほしい」と伝えることが大切です。直接伝えるのが難しい場合は、発言内容や状況を記録し、社内の相談窓口や弁護士に相談してください。
【まとめ】同性同士のセクハラ

今回は、同性同士の言動もセクハラとして認められる場合があることを解説しました。
同性からでも、性的言動によって就業環境が害されたり、不利益を受けたりする場合、違法なセクハラに該当します。重要なのは「加害者の意図」ではなく「受け手の感じ方」であり、同性同士だと特に、「冗談」や「からかい」として済まされやすい傾向があるため注意が必要です。
同性間のセクハラ被害に遭ったら、一人で抱え込まず、証拠を残して社内窓口や外部機関へ早めに相談することが大切です。ただし、社内の労務管理が未整備だと、同性間のセクハラは「気にしすぎだ」と軽視されるおそれがあるため、状況が悪化する前に弁護士へ相談するのが適切です。
セクハラトラブルを扱った経験の豊富な弁護士なら、同性からのセクハラであっても状況を正確に把握し、サポートすることが可能です。
- 同性間でも、受け手が不快・不利益を感じれば、セクハラが成立し得る
- 同性同士の被害は、身体的接触や性的発言、プライバシー侵害などが主
- 性的指向や性自認に関連した言動は、LGBTに対するセクハラになる
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