看護師として働いていると、残業が当たり前になっている人も多いでしょう。
実際、「患者のために最善を尽くすべき」「始業前の準備は当然」といった価値観から、長時間の残業が当たり前とされる病院も少なくありません。その結果として、看護師の残業時間は、一般労働者の平均に比べても多い傾向にあります。
さらに深刻なのは、残業代が支払われないサービス残業が黙認されることが多い点です。その理由は、病院の慣習が優先されたり、前残業が当然視されたり、人手不足で緊急対応が必要となったりすることが挙げられます。残業代を支払わない病院の言い分を鵜呑みにしていると、法律上認められるはずの賃金を受け取れないおそれもあります。
今回は、看護師の残業時間の実態を踏まえ、残業代が支払われないケースの違法性と、その際の対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 看護師の業務の緊急性・重要性、業界の慣習などが残業代請求の支障となる
- 看護師であっても、労働者である限り残業代請求は労働基準法上の権利
- 交代勤務による引き継ぎや緊急対応、前残業なども労働時間に該当する
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看護師の残業は平均何時間?
はじめに、看護師の残業の実態について、統計をもとに解説します。
「2025年病院看護実態調査」(日本看護協会)によれば、全国の病院を対象に実施したアンケート調査の結果、正規雇用の看護職員1人あたりの月平均超過勤務時間は4.8時間とされています。分布は、1~4時間未満が34.9%で最多、次いで4~7時間未満が22.7%、7~10時間未満が13.7%でした。
しかし一方で、「2025年看護職員実態調査」(日本看護協会)によれば、看護職個人に聞いた調査において、「超過勤務をした」人は80.5%、さらに、実際に行なった超過勤務時間の平均は12.2時間とされています。
病院全体として把握されている残業時間と、看護師個人の自己申告による残業時間に大きな差があることは、実際はサービス残業が多く存在することを示唆しています。なお、「毎月勤労統計調査 2025年分」(厚生労働省)では、事業所規模5人以上の一般労働者平均(全産業)は9.8時間とされており、看護師個人の申告はこれを上回る結果となっています。
看護師の残業が多くなる理由

看護師の残業が多くなる背景には、単なる業務量だけでなく、医療現場特有の働き方や院内の文化などが影響しています。以下では、よく見られる理由について解説します。
前残業・サービス残業がある
看護師の現場では、始業前に患者情報の収集やカルテ確認を行う「前残業」が慣習化しているケースが多くあります。これらの作業は業務に必要不可欠であるにもかかわらず、「自主的な準備」として扱われ、労働時間に含まない扱いとされることも少なくありません。
終業後も、看護記録の作成や申し送り対応が発生し、実際には働いているにもかかわらず残業申請をしにくい雰囲気がある職場では、サービス残業が常態化する傾向があります。
業務量が多く時間内に終わらない
看護師は、患者ケアだけでなく、記録作成、医師の補助、患者の家族への対応など多岐にわたる業務を担います。また、院内研修や勉強会、ミーティングへの参加が必要なこともあります。これらを限られた勤務時間内で完結させるのは難しいため、残業が発生します。特に、電子カルテ入力や報告書作成などの「見えにくい業務」が多いことも、残業が増える要因の一つです。
交代勤務での引き継ぎが生じる
看護師はシフト制・交代勤務が基本であるため、業務の引き継ぎが不可欠です。しかし、患者の状態によっては引き継ぎに時間がかかり、定時を超えてしまうことがあります。患者の健康や生命にかかわるためミスは許されず、丁寧な申し送りが求められ、結果的に残業につながります。
人手不足で緊急対応を強いられる
医療現場では慢性的な人手不足が続いており、急な欠員があったり患者の容態が急変したりしても、限られた人員で対応せざるを得ません。その結果、一人あたりの負担が増え、勤務時間内に業務が終わらなくなります。特に救急対応や重症患者のケアが必要な場面では、予定通りに業務を終えることが難しく、残業が発生しやすいのが実情です。
病院の慣習や風土がある
看護師業の特性だけでなく、病院の慣習や風土も、残業を増やす要因となっています。
「患者の命がかかる場面では、残業は当たり前」「先輩より先に帰りにくい」といった職場の空気があると、残業を断りにくく、かつ、残業代の請求もしにくいことが多いです。このような文化があると、明確な指示がなくても、周囲に合わせて残業せざるを得ない状況となります。
また、残業申請に対して消極的な職場では、実際に働いた時間が正しく申告されず、結果として長時間労働が見えにくくなる問題もあります。
看護師は残業代を請求できる?

結論として、看護師も一般の労働者と同じく、残業すれば残業代を請求できます。
医療現場特有の慣習や病院独自のルールがあるとしても、労働者保護のための「強行法規」である労働基準法が優先されるため、残業代の未払いが正当化されることはありません。以下では、残業代の支払いに関する基本ルールと、違法となるケースについて整理します。
残業代の支払いは労働基準法上の義務
労働基準法37条は、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働をさせた場合、使用者は割増賃金(残業代)を支払う義務があることを定めています。「看護師の残業が多くなる理由」のように残業が多くなりやすく、重要性・緊急性の高い仕事だからこそ、正当な対価を得るべきです。
違法なサービス残業を受け入れれば、他の看護師にも影響し、悪循環となってしまいます。残業代を請求したとしても、病院からの報復は許されません。資格があることで転職の難易度が下がるためか、あきらめて退職する人もいますが、退職後でも未払いの残業代は必ず請求すべきです。
看護師でも残業代が出ない場合は違法
看護師の現場では、「残業代が出ないのは当たり前」といった認識が残っていることもありますが、法的にはそのような扱いは認められていません。看護師の中核業務である患者ケアだけでなく、次のような業務も、残業代の支払い対象となります。
- 院内研修・勉強会
- 看護記録の作成やカルテの確認
- 交代勤務の引き継ぎや申し送り
- 勉強や研究、看護計画の作成
- 緊急時の看護対応
- 緊急事態に備えた待機
いずれも、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」として、労働基準法上の「労働時間」に該当するかがポイントとなります。これには、明示的に業務を指示された場合だけでなく、黙認されていた場合も含みます。使用者が残業の実態を把握している、または把握できたにもかかわらず支払いをしていない場合、違法と判断されます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

看護師の残業代の計算・請求の方法と特有の注意点

次に、看護師の残業代の計算と請求について解説します。
「看護師は残業代を請求できる?」で前述の通り、看護師という業種によって残業代に関する労働基準法のルールは変わるわけではありませんが、特有の注意点を理解しましょう。看護師も、「残業代の計算方法」の通り、残業代は、基礎単価に割増率と残業時間をかけて算出します。
深夜労働・休日出勤に注意する
残業代は、その時間帯や勤務日によって割増率が異なります。
看護師の残業代請求では特に、割増率の高い休日労働、深夜労働が発生しやすい点に注意が必要です。不規則なシフト勤務は心身への負担が大きいだけでなく、どの時間帯に働いた場合に、どのような性質の残業となるかが複雑になりやすいため注意しなければなりません。
主な割増率は、次のようになっています。

- 深夜労働(22時〜翌5時):通常賃金の25%以上の割増
- 時間外労働:25%以上(月60時間を超える残業は50%以上)
- 法定休日労働:35%以上の割増
看護師は夜勤が多いため、これらが重複するケース(深夜かつ残業など)もあり、適切な計算方法を理解しておかないと、本来より少ない金額で処理されるおそれがあります。
前残業も労働時間になる
看護師の業務では、始業前の準備は「自主的」なものと扱われることが多いですが、実態として業務に必要であれば労働時間に該当します。例えば、以下のようなケースです。
- 患者の状態確認が業務上必須である。
- 上司や職場が事実上義務付けている。
- 行わないと業務に支障が出る。
このような場合、前残業も含めて残業代を請求することができます。
緊急時の看護対応も労働時間となる
看護師の仕事は、患者の命を預かるため、緊急事態が多く発生します。
緊急時の看護対応は、当然ながら労働時間に含まれます。その結果、業務時間外に対応せざるを得なかったケースでは、残業代を請求できます。例えば、次のようなケースです。
- 業務時間外だったが、救急搬送者に対応した。
- 終業後に、緊急入院した患者の入所対応を行った。
- 緊急手術の準備を手伝った。
- 患者の体調が悪化したので、応急処置をした。
- 入院患者の家族のクレーム対応をした。
- ナースコール対応中に終業時刻を過ぎてしまった。
待機時間(オンコール)も労働時間になる
オンコールや当直、宿直などの待機時間も、労働時間に該当することがあります。
重要なポイントは「自由に過ごせるかどうか」という点で、「使用者の指揮命令下に置かれている」と判断できる場合は、労働基準法上の労働時間に該当し、残業代支払いの対象となります。例えば、以下のような事情がある場合、労働から解放されているとは言えない可能性があります。
- すぐに対応できるよう携帯電話の携帯が指示されている。
- 外出や私用が許されていない。
- 一定の場所に留まるなど、行動が制限されている。
- ナースコールへの対応が時間内に頻繁に発生する。
看護師の場合、実質的に行動が制限されるケースも多く、たとえ「仮眠時間」が設けられていても、実際は労働時間と評価すべきこともあります。時間内の対応が頻繁に発生する場合には、その対応に要した時間だけでなく、待機していた時間全体が「労働時間」となって、残業代の支払いが必要となります。
「仮眠時間の残業代」の解説

看護師特有の証拠を収集する
残業代請求では「どれだけ働いたか」の証明が非常に重要であり、このことは看護師でも同様です。看護師の場合、以下のような資料が有力な証拠となります。
- タイムカード・勤怠記録
- シフト表・勤務表
- 電子カルテのログイン履歴
- 看護記録や業務日誌
- 上司からの指示メールやチャット
医療現場では、患者のための記録を作成する必要があることから、看護業務の記録は残りやすく、これらを意識して保管すれば、残業代請求時にも証拠として活用できます。
「残業代請求で必要な証拠」の解説

労働基準監督署と弁護士に相談する
未払い残業代が疑われる場合は、労働基準監督署や弁護士に相談するのが有効です。
労働基準監督署は、労働基準法違反を監督、是正する機関で、違法性があれば是正勧告が行われる可能性があります。弁護士は、残業代回収のための交渉や労働審判、訴訟に対応できます。
看護師の場合は特に、病院の独自ルールが強く、職場に直接残業代を請求しにくいことが多いものです。また、給与が高めであったり、残業が相当多かったりすると、まとまった金額の請求が想定されます。したがって、早い段階で専門家に相談するメリットは大きいといえます。
残業代請求は、一般の労働者と同じく、交渉から始め、解決しない場合は、労働審判や訴訟など法的手続きに移行します。

残業代請求の時効は3年なので、経過しないよう注意して、早めに準備しましょう。
「残業代請求に強い弁護士とは?」の解説

看護師の残業代を減らすための対策

残業代請求ができるとはいえ、残業を減らす工夫もしておくべきです。看護師の残業は、個人の努力だけでなく、病院全体の体制にも影響するため、労使双方の協力が必要となります。
人員配置・受け持ちの見直しを行う
残業の大きな原因の一つが、業務量に対して人員が不足していることです。
患者数や重症度に対して看護師の配置が適切でない病院では、一人あたりの負担が過剰になり、無理なシフトを組んだり、サービス残業で対応させたりせざるを得なくなります。そのため、以下のような人員配置の見直しをする必要があります。
- 患者の重症度に応じて受け持ち人数を調整する。
- 忙しい時間帯や病棟への人員配置を強化する。
- 新人・ベテランのバランスを考慮したチーム編成とする。
現場の実態に合った配置に改善するには「どの病棟で、どの時間帯に忙しいか」を見える化する必要があり、看護師側でも現状を経営層に伝えることが、無理な残業を減らすために重要です。
患者ケア以外の業務を棚卸しする
看護師の本来の業務である患者ケア以外にも、様々な付随業務が存在します。
例えば、書類の作成、物品の管理といった雑務が積み重なると、残業の原因になりかねません。そのため、以下のような観点で業務を整理し、見直すことが重要です。
- そもそも不要な業務は廃止・削減できないか。
- 本当に看護師が行うべき業務か。
- 他の職種や事務職と分担できないか。
始業前残業をしない業務設計に変える
始業前の準備が前提となっている職場ほど、サービス残業が当然視されます。
患者の生命を預かり、交代制勤務で対応している以上、申し送りなどを無くすことはできません。しかし、残業を減らすには、就業時間内で完結するよう、短時間で情報を共有できる仕組みを整備し、始業後に引き継ぎや確認の時間を確保することが重要です。
「早く来るのが当たり前」という慣習を見直し、勤務時間内で完結する仕組みに変えることが、根本的な解決につながります。
残業が少ない職場へ転職する
業務改善を求めても状況が変わらない場合、残業なしの病院やクリニックへの転職も有効な対策です。例えば、精神科や透析室、美容クリニックや、当直・宿直のないデイサービスなどを選ぶことで、ワークライフバランスの実現を目指せます。
働く環境を変えることで解決を図るなら、新しい求人を探す際は、基本給や残業手当の有無だけでなく、実際の残業時間や勤務形態の実態をしっかりと確認しておくべきです。
「退職は2週間前」の解説

看護師の残業代請求に関する裁判例

最後に、看護師の残業代請求について判断した裁判例を紹介します。
大阪地裁平成15年4月25日判決(徳洲会事件)
大阪地裁平成15年4月25日判決(徳洲会事件)では、裁判所は、明示の業務命令がなくても、看護業務に期限があって遅滞が許されなかったことを理由に、残業が黙認されていたと判断し、病院に対して106万2,470円の支払いを命じました。
大阪地裁平成22年7月15日判決(医療法人大寿会(割増賃金)事件)
大阪地裁平成22年7月15日判決(医療法人大寿会(割増賃金)事件)は、10名の看護師が原告となって病院に残業代請求をした事案で、裁判所は、所定時刻ではなくタイムカードの打刻を基準として早出や残業を認定した上で、病院に対して228万円の支払いを命じました。
「タイムカードの打刻強制の違法性」の解説

横浜地裁令和3年2月18日判決(アルデバラン事件)
横浜地裁令和3年2月18日判決(アルデバラン事件)は、緊急の看護対応などのための待機時間(オンコール)が労働時間にあたるかは、労働からの解放が保障されるかにあるところ、呼出があれば直ちに駆け付ける義務があり、携帯電話の常時携帯・応答が求められていた状況で、待機時間全体を労働時間と認定し、残業代990万7,484円、付加金783万2,119円の支払いを命じました。
さいたま地裁令和4年7月29日判決(埼玉県立病院機構事件)
さいたま地裁令和4年7月29日判決(埼玉県立病院機構事件)では、時間外等勤務命令簿に記録のない始業前業務について、裁判所は、業務外利用の許されないパソコンのログ履歴から、始業前に業務を開始したことを認め、看護師長も知っていたと認められると判断し、残業代41万9,238円の支払いを命じました。
【まとめ】看護師の残業代

今回は、看護師の残業時間と、残業代に関する基本について解説しました。
看護師の残業時間は、一般の労働者の平均と比べても多い傾向にあり、実際の現場では記録されないサービス残業も多くあると予想されます。特に、人手不足や業務量の多さ、職場の慣習などの理由が重なり、前残業やサービス残業が常態化している病院も見られます。
しかし、本来、業務上必要な残業には残業代が支払われるのが原則であり、未払いのまま放置されている場合は違法となります。たとえ「自主的」と扱われていても、実態として業務に必要であれば、労働基準法上の労働時間と認められます。重要なのは、現状を正しく把握し、証拠を残した上で適切に対応することです。
残業代が未払いである可能性を感じるなら、病院の慣習や業界ルールではなく、法律に基づいて判断すべきであり、弁護士への相談が有益です。
- 看護師の業務の緊急性・重要性、業界の慣習などが残業代請求の支障となる
- 看護師であっても、労働者である限り残業代請求は労働基準法上の権利
- 交代勤務による引き継ぎや緊急対応、前残業なども労働時間に該当する
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