サービス残業を我慢すべきではなく、ブラック企業に残業代を未払いにされたら、すぐに弁護士にご相談ください。ただ、残業代を請求するには「どれだけ働いたか」の証拠が必要です。
証拠がないとあきらめる前に、「パソコンのログは残業の証拠となる」という点を理解しましょう。特に、オフィスでデスクワークに従事する労働者は、PCログを証拠に残業代請求できる可能性が高いです。パソコンのログを証拠とする方法は、手元に全く証拠がない場合だけでなく、会社に不正な勤怠の改ざんがあった場合にも、正しい残業時間を証明するための対抗策となります。
今回は、残業の証拠として重要な「パソコンのログ」の入手方法と、活用の仕方について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- パソコンのログは、事務作業などデスクワーク中心なら労働時間の証拠となる
- パソコンのログで残業を正確に証明するには、ログの保存方法に注意する
- ログの保存と共に他のデータを移動させると、情報漏えいを疑われるリスクあり
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パソコンのログは残業の証拠になる
まず、パソコンのログが証拠になる理由と、有効活用するための注意点を解説します。パソコンのログは残業の証拠に使えるので、残業代請求を考えるなら、早めに取得しておくのが大切です。
パソコンのログを残業の証拠とする理由
残業時間を証明する責任は、労働者にあります。最重要の証拠がタイムカードですが、会社の準備する勤怠管理方法にはいくつかの難点があります。それは、手書きの勤怠管理が不正確だったり、悪質な偽造や改ざんをされたりといった理由で、実労働時間と一致しないリスクがある点です。
パソコンのログなら、会社の勤怠管理に比べて労働時間の記録を正確に行うことができます。デスクワークが中心なら、「少なくともパソコンのログが残っている時間は労働時間であろう」と推認できます。PCログの精度が高い理由は、自動的に、かつ、リアルタイムでデータが記録されるからです。タイムカードに比べて、事後の改ざんも困難です。
パソコンのログは、準備が不足して他に証拠を用意できなかった場合の最終手段としてはもちろん、他の証拠を補強して信用性を高めたり、会社の反論の誤りを指摘して再反論したりといった場面でも役立ちます。パソコンのログが、労働時間の証拠になることは、次の通り、裁判例でも認められています(東京地裁平成28年11月10日判決など)。
東京地裁平成28年11月10日判決
デスクワークをする人間が、通常、パソコンの立ち上げと立ち下げをするのは出勤と退勤の直後と直前であることを経験的に推認できるので、他に客観的な時間管理資料がない以上、当該記録を参照するのが相当(……略……)
東京地裁平成28年11月10日判決
「残業の証拠」の解説
勤怠の証拠となるログの種類
パソコンのログは、ユーザーがコンピューターを操作する際に自動的に記録されるデータです。ログには様々な種類がありますが、残業代請求で勤怠の証拠となる情報は、次の3つです。
- ログイン・ログアウト時間
パソコンを利用している労働者が、ログインした時間、ログアウトした時間を記録することで、労働時間の開始と終了を確認することができます。 - アプリの利用履歴
チャットツールなど業務に必須となるアプリ、システムがあるなら、アプリの起動や使用時間の記録は、労働者がどれだけ働いたかを把握する役に立ちます。 - ファイルの編集・保存時間
ワードやエクセルなどのファイルでビジネス文書を作成するとき、そのファイルがいつ編集され、保存されたかの記録は、その時間に業務が行われたことを示す重要な証拠です。
パソコンのログで正確に残業を証明するための注意点
パソコンのログは、あくまで最終手段であり、タイムカードなど、より正確な証拠があるに越したことはありません。「労働時間」とは使用者の指揮命令下に置かれた時間を指すものとされ、必ずしもオフィスでパソコンに向かって作業をしている時間だけでなく、その前後の準備時間も含みます。そのため、パソコンのログだけで、労働時間の全ての証拠として十分なわけではありません。
とはいえ他に証拠がないなら、パソコンのログによって正確に残業を証明し、残業代で損をしないためにも、「パソコンのログの残っている時間」を、できる限り「実際に労働した時間」と近づける努力が重要です。残業代請求を検討するなら、PCログについて次の点に注意して行動してください。
- 出社したらすぐにパソコンの電源をオンにする
- 退社する直前にパソコンの電源をオフにする
- パソコン作業以外の仕事があるとき、ログ以外の方法で記録する
(例:オフィス外の作業や出張をスケジュール帳に記載するなど) - パソコンのログを消去しない
「労働時間の定義」の解説
パソコンのログを入手する方法
次に、パソコンのログを入手する方法について解説します。
WindowsでもMacでも、パソコンが動くときは、PC上の挙動についてログが保存されます。Windowsであればイベントビュアー、Macであればコンソールといった場所に記録されるのが通例です。なお、本解説は、ログの証拠価値についての法的な説明をするもので、パソコンの専門知識を提供するものではない点にご留意ください。
社内パソコンのログの取得と証拠保全
オフィス内のパソコンを使用しているときは、ログの取得は会社の目を盗んで進めます。ログを収集していることが発覚すると、残業代請求を計画していることがバレて、目をつけられてパワハラされたり、職場いじめの標的となったりする危険もあるので、できるだけ隠れて行いましょう。
ログの削除や改ざんが予想されるなど、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」のある場合、証拠保全の手続きを利用して、訴訟における本来の証拠調べに先立って裁判所に証拠を調べ、その結果を保全してもらうことができます(民事訴訟法234条)。
「残業代を取り戻す方法」の解説
会社貸与のパソコンのログの取得
会社貸与のパソコンを自宅に持ち帰ることが許されている会社なら、家に持ち帰ってログを取得するのがよいでしょう。
会社貸与のパソコンの所有権は、あくまで企業にあり、労働者は利用が許されるに過ぎません。いつ会社にログを消されるかわからないので、こまめに保存し、バックアップを取得するのが適切です。私用のデータや、プライバシーに関わる情報をパソコン内に保存していても、会社が調査することを止められないおそれがあるため、「業務用にしか利用しない」というのが正しい態度です。
「持ち物検査の違法性」の解説
私物パソコンのログの取得
私物PCを使用している場合、つまり、BYODのケースでは、ログの取得は容易です。自分のパソコンですから、分析には十分な時間をかけられますし、そのままパソコン内に保存しても、会社に勝手に削除されるおそれはありません。
ただ、パソコンが壊れてしまったり、購入し直したりしたときに誤ってログを保存しないまま捨ててしまわないよう注意してください。定期的にログを保存し、USBや外部のストレージに保存する習慣を付けておきましょう。
弁護士はパソコンの専門家ではないものの、残業代トラブルの経験が豊富なら、有効な証拠を取得するためのログの集め方についてアドバイスできます。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
パソコンのログを入手後に証拠するための方法と注意点
パソコンのログ履歴を保存できたら、最後に、残業代請求までにやるべきことを解説しておきます。パソコンのログの取得は、あくまで残業の証明の第一歩に過ぎません。PCログを保存して満足するのでなく、残業代請求で証拠として活用する方法や注意点を理解しておきましょう。
会社に削除されないよう保存する
パソコンのログを入手したら、会社に削除されないように保存しましょう。オフィス内のパソコンを利用しているとき、パソコン内に保存しただけでは、突然に解雇されるなどしてパソコンにアクセスできなくなると、保存したログが見られなくなってしまいます。残業代請求を恐れる会社が、あなたの請求の意思を察知してパソコンを初期化してしまう危険もあります。
そのため、保存したPCログは、自身のパソコンに転送し、定期的にバックアップを取得し、USBや外部ストレージに保存するなど、会社に証拠隠滅されたり、誤って削除してしまったりしないための対策を何重にも講じておいてください。
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情報漏洩や不正を指摘されないよう注意する
会社のパソコンには、重要な企業秘密が詰まっています。そのため、会社のパソコンから情報を移動する行為は、情報漏洩や不正であると指摘され、責任追及を受けてしまう危険があります。「バレなければよい」と甘く見る人もいますが、フォレンジック調査などで詳しく解析すれば、USBに移動させたデータ、メールの送信履歴などは詳細に知ることができます。
セキュリティ意識の高い会社のなかには、社員の退職時に必ず、使用したパソコンの調査・解析をしている企業もあります。残業代という正当な権利の実現のためとはいえ、企業の秘密を漏らして損害を与えれば、問題視されても仕方ないでしょう。ログを証拠として集めるときは、必要最低限のログ情報のみを保存するようにしましょう。また、データを移動するのではなく、ログ履歴を写真撮影して記録するという原始的な方法も有効です。
「退職後の呼び出しの違法性」の解説
ログから出退勤を記録して残業代を計算する
ログから出退勤を記録したら、残業代を計算します。
取得したパソコンのログは、あくまでPCの挙動を示したものに過ぎません。そのため、そのログの内容が、法的にはどのような意味があり、なぜ労働時間の開始と終了を意味するのかについて、分析しなければなりません。
パソコンの起動時間を記録するログが労働の開始を、パソコンの利用終了を記録するログを労働の終了を表すと考えるのが基本ですが、場合によっては、その前後にも労働時間と評価できる時間がある可能性もあります。この場合、そのことを基礎づける労働者作成のメモなど、その他の証拠で補強しながら、自身にとって最も有利な主張を考える必要があります。
「残業代の計算方法」の解説
ログを証拠化して裁判所に提出する
最後に、残業代請求の裁判では、パソコンのログは、証拠の形で裁判所に提出します。このとき、裁判所で評価されやすい形式とするため、電子データのまま提出するのではなく、その内容をプリントアウトした紙媒体にして証拠提出するのが実務です。改ざんは許されませんが、重要な部分にマーカーを引いたり、必要な注意書きを記載したりする程度は認められます。
どのログが証拠として効果的かについては、弁護士にアドバイスを求め、協力してもらうのがお勧めです。労働問題に精通した弁護士なら、パソコンのログを証拠として残業代を請求した経験も豊富にあるからです。
「残業代請求に強い弁護士に無料相談する方法」の解説
まとめ
今回は、残業代請求のための証拠のうち、「パソコンのログ」について解説しました。パソコンのログを取得し、活用できれば、残業時間を証明する有用な証拠となります。
残業代請求では、残業時間の証明は労働者側でしなければなりません。正しいタイムカードがあればよいですが、不正や改ざんをされたり、タイムカードの存在しない会社であったりすると、十分な証拠が確保できません。これに対し、オフィスでのデスクワークなら「パソコンを使っていた時間は働いていただろう」と推測できます。そして、パソコンのログの改ざんは、相当困難です。
証拠価値の高いログを取得するには、裁判例でPCのログがどのように評価されるかを知り、慎重に収集する必要があります。既に貸与パソコンを返却してしまった方や、情報管理に厳しい会社に勤務している場合には、ログの取得も困難を窮めるケースもあります。
残業代請求を思い立ったら、早めに証拠収集をするために、弁護士にご相談ください。
- パソコンのログは、事務作業などデスクワーク中心なら労働時間の証拠となる
- パソコンのログで残業を正確に証明するには、ログの保存方法に注意する
- ログの保存と共に他のデータを移動させると、情報漏えいを疑われるリスクあり
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