就活を頑張って、晴れて入社が決まると、身元保証書を出すよう指示されることがあります。入社に必要となる手続き書類のなかでも、身元保証書は特に重視されています。
身元保証書がどのようなものかを理解し、身元保証人を用意しなければなりません。しかし、できれば身元保証書を出したくないという労働者も多いのではないでしょうか。
できるだけ、親に迷惑はかけたくないのだが
身元保証書を、自分で書いたらどうなるの?
身元保証書には、「損害賠償」や「保証」といった言葉が含まれており、驚いてしまう方もいます。よく読んでサインしないと、労働者に不利な内容であることもあるので注意を要します。
今回は、身元保証書を書くよう指示されたら従わなければならないのか、身元保証人を用意できないと不都合があるのかといった問題について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 身元保証書は、労働者保護のため「身元保証に関する法律」の制限を受ける
- 内容が不適切な身元保証書は、拒否しても内定取り消しや解雇の理由にならない
- 身元保証書の提出を強要されたら、入社辞退を含めて対応を検討する
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
身元保証書とは
身元保証書とは、入社時の必要書類のうち、身元保証人として家族や親族の名前を書いて提出する書面です。よくある身元保証書には、次の内容が書かれています。
- 緊急時の連絡先となる
- 会社のルールを守らせるよう監督する
- 会社から労働者への損害賠償請求について、連帯保証する
提出する労働者としては、できれば身元保証人をお願いしたくない、迷惑をかけたくない気持ちが強いでしょう。お願いされる身元保証人側でも、身元保証書の文言はとても不安だと感じてしまいます。できれば身元保証書を提出したくないという気持ちはよく理解できます。
ブラック企業による不当な扱いを許さないよう、身元保証書の内容には法律の制限があります。「身元保証に関する法律」という法律に、次の定めがあります。
- 身元保証書の期間を定めなければ、身元保証の契約は、3年が期限
- 身元保証書の期間を定めても、最長5年が期限
- 期間が満了したら更新してよいが、自動更新は不可
- 身元保証書で責任を追わせる保証額の上限(極度額)を定めなければならない
2020年4月施行の民法改正と共に、同法が改正され、保証額の上限(極度額)が定められていない身元保証書は無効となる点に注意してください。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
身元保証書は拒否できる
会社にとって正当な目的があり、必要性の高い身元保証書。しかし、労働者にとっては不利益が大きく、デメリットを感じてしまいます。入社する労働者側としては、できれば身元保証書を拒否したいでしょう。この点、法律上は、身元保証書の「提出義務」はありません。
したがって、あくまでも会社が労働者に提出するよう指示しているだけで、強要することはできません。労働者としても、身元保証書の提出は、拒否することができます。
特に「身元保証に関する法律」に反した身元保証書にサインさせられるならブラック企業であり、そのような身元保証書を提出する必要はありませんし、入社も辞退した方がよいでしょう。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
身元保証書を出さず、内定取り消しされた時の対応
「採用の自由」から、「どの社員を採用するか」は、会社の自由です。そのため、身元保証書の強制ができなくても、提出しない労働者を採用しないことはできます。このとき、その理由が、身元保証書の不提出にあるのかどうか、知ることができません。
ただし、一旦内定が成立した後は、雇用契約がすでに成立していると評価されます。その後にする内定取り消しは、解雇と同じ制限を受けます。したがって、正当な理由のない内定取り消しは、違法な不当解雇となり、無効です。
心配なときは、採用面接時に、身元保証書について質問しておく手もあります。
「内定取り消しの違法性」の解説
身元保証書を提出しないと解雇するといわれた時の対応
入社後も抵抗しつづけ、身元保証書を提出しないと、解雇を言い渡されることもあります。このとき、解雇は「解雇権濫用法理」で厳しく制限され、合理的な理由を欠き、社会通念上の相当性がないとき、不当解雇として違法、無効になります(労働契約法16条)。
裁判例には、「身元保証書を提出しなかった」ことを理由にした解雇を有効だと判断したものがあります(シティズ事件:東京地裁平成11年12月16日判決)。ただ、どのような場合でも、身元保証書の不提出を理由とした解雇が有効とは限りません。身元保証書の内容が不適切なら、拒否したのを理由に解雇するのは不当と考えられます。
要は、身元保証書が、「身元保証に関する法律」に違反する不適切なものかどうかで、ケースバイケースの判断が必要となります。
「解雇が無効になる例と対応方法」の解説
身元保証書を強要されたときの対応
身元保証書の提出を強要してくる会社に、どのように反論したらよいか解説します。
身元保証書の提出期限を延期してもらう
親元を離れて暮らしていると、親のサインをすぐもらうのは困難なこともあります。
すぐ身元保証書を出すよう迫られても、まず提出期限を確認し、直前なら、延期してもらえないかお願いしましょう。身元保証書のトラブルが、内定取り消しや解雇などの労働問題に発展しないようにするには、誠実に話し合う姿勢が大切です。
身元保証人がいないとき、人事に相談する
天涯孤独の身の方など、身元保証人を頼める人がいないとき、人事に相談しましょう。身元保証人は、両親や親族がなる例が多いものの、家族構成や年齢によっては適切な人がいないこともあります。事情によっては、身元保証人なしでも入社を認めてくれる可能性もあります。
間違っても、自分で書いてはいけません。嘘をついて入社しても、バレれば会社をやめざるをえず、あなたの時間も無駄にしてしまいます。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
身元保証書の内容が適法か確認する
身元保証書の内容が不適切だと、労働者や、その身元保証人にとって大きな不利益です。デメリットが大きいため、よく確認してください。拒否してもなお身元保証書にサインを強要する会社は、不当な内容を盛り込んでいるかもしれません。
身元保証書に極度額を設けるルールは、2020年4月施行の、まだ新しい決まりです。労務管理がずさんで、法改正に対応して身元保証書を変更していなかった会社だと、この点に違反がある可能性があるので注意を要します。
内定辞退する
一度は得た内定を、労働者側の都合でお断りするのを内定辞退といいます。内定辞退は、退職と同じことですから、「退職の自由」に基づいて自由にできます。
会社に損害を与えると賠償請求されるおそれがありますが、不適切な身元保証書にサインを強要されそうになったのが理由なら、適法な内定辞退です。損害賠償の求めにも応じる必要はありません。
身元保証書とともに誓約書、承諾書などを書かされそうなとき、これらの書面にサインする前なら、まだ内定ですらなく、雇用契約も成立していない状態といえる可能性もあります。
身元保証書を自分で書くのは違法
身元保証人を用意できないときや、どうしても協力をお願いできないとき、身元保証書を自分で書いてしまったという方もいますが、あまりおすすめできる方法ではありません。
身元保証書を自分で書くことは通常想定されていません。スムーズに入社したい気持ちはわかりますが、避けるべきでしょう。自分で書いても、入社後にバレる可能性があり、バレたら解雇理由となる危険があります。身元保証書を自分で書いたと発覚してしまうのは、次のタイミングです。
- 身元保証人に、安否確認をされた
- 災害時に、身元保証人に緊急の連絡をされた
- 入社後のミスで、会社から身元保証人に連絡がいった
「経歴詐称を理由とする解雇」の解説
まとめ
今回は、会社が入社時に提出を求めてくる、身元保証書について解説しました。提出する義務があるのか、また、提出しないと不利益があるのかについて、よく理解しておいてください。
身元保証書の提出は慎重に行いましょう。これによって負う義務はとても重いため、法律でも労働者保護のための決まりが定められています。不利な内容になっていると、損害賠償や解雇など、別の労働トラブルに発展してしまいかねません。
会社から見せられた身元保証書が適切か、拒否すべきかお迷いなら、弁護士にご相談ください。
- 身元保証書は、労働者保護のため「身元保証に関する法律」の制限を受ける
- 内容が不適切な身元保証書は、拒否しても内定取り消しや解雇の理由にならない
- 身元保証書の提出を強要されたら、入社辞退を含めて対応を検討する
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/