育児休業(育休)は、仕事と育児の両立に必要不可欠。法律上の条件さえ満たせば、会社に制度がなくても必ず取得できます。
しかし、難癖をつけ、育休を拒否する企業もあります。会社から「育休は取れない」と言われたらどう対応すべきでしょう。大切な育児に支障が出るのは避けたいところ。働きながらの子育てが難しい家庭では、退職を余儀なくされる人もいます。
結論、育休が取れないのは違法です。取得できない例外ケースでない限り、家族の生活を守るため、必ず権利を実現すべき。「1年未満は取れない」と反論されることもありますが、その要件も育児介護休業法に定めがあり、会社の反論が誤っている可能性もあります。違法なのは会社側なら、申出を拒否されてもあきらめないでください。育休に関する法律のルールを理解し、取得できない理由を使用者に問いただしましょう。
今回は、育休は取れないことの違法性と理由、対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
育休は取れないと言われる理由と対処法
育児休業(育休)は、1歳未満の子を育てる社員の申出により取得できる休業。子が1歳に達するまでの期間が原則で、最長2歳まで延長できます(育児介護休業法5条)。
育休は法律上、労働者の権利であり、会社にとっては義務です。なので、正当な理由のない限り、育休が取れないのは違法。「育休は取れない」と断られたなら、理由ごとの対処法があります。
まずは理由をよく聞き、適切に対処してください。
育休を取得できない例外ケースに該当する場合
育児休業(育休)は、家族の生活を守り、ワークライフバランスを保つのに大切。ですが企業の利益も重要で、法律の定める育休の取得条件を満たす必要があります。
そのため、育休が除外される例外的なケースでは、育休は取れません。「育休が取れない」と言われたら、取得条件を満たすか確認しましょう。
会社の知識不足の場合
しかし、労働法の知識が不十分な企業もあります。「育休は取れない」という社長や上司の理解が誤りのケースです。
次の例は、明らかな間違いで、育児休業(育休)を取らせない扱いは違法です。
- 社内に制度がないから、育休は取れない
社内制度がなく過去に前例がなくても、法律に基づき取得できます。むしろ会社は積極的に、社内制度を整備すべきです。 - 人手不足で周囲に迷惑をかけるから、育休は取れない
育休は会社の意思にかかわらず適用され、承諾や同意は不要です。 - 「中小企業だから育休は取れない」と言われた
育休の取得条件に、企業規模は無関係です。 - 「アルバイトだから育休は取れない」と言われた
育休の取得条件に、勤務形態も無関係です。アルバイトやパート、派遣や契約社員も取得できます。 - 「奥さんが育児をするのだから育休を取るな」と言われた
育休を夫婦どちらかしか取れないルールもありません。男性でも育休を取得できます(なお、夫婦同時に取る場合は子が1歳2ヶ月までの期間)。
なお、育児休業(育休)の取得を妨害する発言はハラスメントであり悪質です。
(参考:マタハラの慰謝料の相場)
育児介護休業法25条は育児休業、介護休業などの利用に関する言動で就業環境が害されないようにする措置を講じる義務を会社に課し、休業を取りやすくする環境作りを企業側ですべきと定めます。
育児介護休業法25条
1. 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2. 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
育児介護休業法(e-Gov法令検索)
また、育児介護休業法21条は育休などの制度を労働者に周知させる努力義務を会社に課しています。むしろ企業側で積極的に、育児の際に休める制度があることを社員に知らせねばなりません。
そもそも育休の取得条件は?
育児休業(育休)の取得条件は「1歳に満たない子を養育する労働者」に該当することです。
まず、労働者なのが前提で、役員やフリーランスなどは対象外です。また、日々雇い入れられる者も、除外されます。有期雇用の場合、育休の申出時に、子が1歳6ヶ月に達する日までの間労働契約(更新される場合は更新後の契約)の期間が満了することが明らかでない場合に限られます。
次章で解説の通り、 労使協定で定めた一定の労働者も、育休を取れません。
育休の期間は、出生日から子が1歳に達する日までが原則。その期間内で、労働者が申し出た期間が、休業期間となります。両親ともに育休を取得する場合、原則1歳2ヶ月に達するまでとなります(パパ・ママ育休プラス)。
また、次の条件を満たす場合、1歳6ヶ月、2歳まで延長が可能です。
【1歳6ヶ月までの育休】
子が1歳に達する時点で、次のいずれにも該当する場合
- 労働者本人又は配偶者が育児休業をしている場合
- 保育所に入所できない等、1歳を超えても休業が特に必要と認められる場合
- 1歳6か月までの育児休業をしたことがない場合
【2歳までの育休】
子が1歳6か月に達する時点で、次のいずれにも該当する場合
- 労働者本人又は配偶者が育児休業をしている場合
- 保育所に入所できない等、1歳6か月を超えても休業が特に必要と認められる場合
- 2歳までの育児休業をしたことがない場合
加えて、育児介護休業法改正で、2022年10月から産後パパ育休が新設されました。産後パパ育休は、産後8週間以内に4週間(28日)を限度に、2回に分けて取得できる休業。1歳までの育休とは別に取得でき、男性の育休取得促進を目的とします。
「職場の男女差別」の解説
育休を取れない例外ケースもある
育児休業(育休)は法律上の権利ですが、例外的に、労使協定対象者を限定できます。
- 入社1年未満の労働者
- 申出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
これが「入社1年未満だと育休は取れない」と説明される理由です。転職直後に育休を取得したいときなどには注意しておいてください。
労使協定は、労働者の過半数代表者(または過半数組合)と会社が締結する書類。なお、この協定は、労働基準監督署への届出は不要です。その他に、労使協定で、出生児育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、育児介護のための所定外労働の制限、育児短時間勤務、介護短時間勤務といった他の制度についても対象者を制限できます。
取得条件を満たすのに育休が取れないと言われたら違法!
取得条件を満たすのに、育児休業(育休)が取れないのは違法です。
この違法性は、単に「拒否されて取れない」という明確に違法なケースだけでなく、「取れなくはないが、育休を取ることにリスクやデメリットがある」というケースにもあてはまります。後者の典型例は「育休を取ったことを理由に報復人事された」など、不利益な処分をされるケースです。
会社が育休を拒否できないことは、育児介護休業法にも定めがあります。
育児介護休業法6条1項本文(抜粋)
1. 事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない。
(……以下、略……)
育児介護休業法(e-Gov法令検索)
拒否できるのは、先ほど解説した例外ケースのみです。
違法に拒否し、厚生労働大臣や都道府県労働局長が必要ありと判断すれば、企業に報告を求めたり、行政指導として助言、指導または勧告をすることができます(育児介護休業法56条)。また、勧告に従わなければ企業名公表の対象となります(同法56条の2)。
更に、報告の求めに応じなかったり、虚偽の報告をしたりした事業者には、20万円以下の過料が科されます(同法66条)。
違法な育休の拒否につき、会社に故意または過失がある場合、慰謝料の支払いを命じた裁判例もあります。
有期社員が育児休業(育休)を拒否され、育児しながら就労せざるを得なかった事案。
本件当時(平成14年)の法律は「期間を定めて雇用される」場合、育休の権利を有しないと定めていたが、当該社員は契約更新の手続きなく6年も雇用継続された事情があった。
以上から裁判所は、育児介護休業法の趣旨に照らし、育休の権利を有しない者の範囲は限定的に解すべきで、実質は無期と変わらない場合、育休を請求しうる立場にあると判断。こうした事実を認識しつつ育休を拒否した会社には故意または過失があるとし、40万円の慰謝料の支払いを命じた。
入社1年未満だと育休は取れない?
「入社1年未満」の育児休業(育休)には複雑な法律問題があります。労使協定などの条件を満たせば育休を与えなくてよいのが「入社1年未満」の社員。この点をとらえ、会社から「入社1年未満だから育休は取れない」と言われがちです。
しかし、実際は入社1年未満でも育休を取れるケースもあります。
1年未満でも育休を取得できるのが原則
まず、1年未満の社員でも、育児休業(育休)を取得できるのが原則です。つまり、取得できないのはあくまで労使協定による「例外」というわけです。
労使協定がなければ、1年未満でも育休を取得できる
労使協定で、1年未満の社員は育休を取得できない旨を定めなければ、会社は育休を拒絶できないこととされています(育児介護休業法6条1項ただし書、2項)。つまり、労使協定を締結していない会社にはそもそも拒否権がなく、勤務年数が1年より短くても育休を取得できます。
有期契約でも子が1歳6ヶ月までの間に契約が終了することが明らかでない場合は育休を取得できる
有期契約でも、子が1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない場合は、正社員と同様に育休を取得できます。なお、2022年4月施行の育児介護休業法改正で「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件は削除されました。
会社が拒否しなければ、1年未満でも育休を取得できる
労使協定があっても育休を「拒絶できる」だけです。なので会社が同意するなら、1年未満の社員も育休を取れます。
配慮を求め、説得すれば、勤務年数が短くても育休を取らせてもらえる例もあります。「優秀な人材を確保したい」「離職を防止したい」などの企業側のメリットに触れて交渉すれば、有利な労働環境を勝ち取り、育休を取れる可能性が上がります。
入社から1年の基準時は育休の申出の時点
1年未満の社員は、労使協定によって育児休業(育休)の対象から除外できる。しかし、入社から「1年」の基準時は、育休の申出の時点となります。つまり、妊娠が発覚したタイミングなどで、まだ入社から1年経過していなかったとしても、その後に入社から1年を経過した時点で育休を申し出れば、育休を取得することができます。
育休の申出は、開始日の1ヶ月前までに行う必要があり、子が1歳に達するまで(最長2歳まで)はとれるので、タイミングによっては、育休をあきらめ辞めてしまうのでなく、「ちょっと待つ」ということも選択肢となります。
産休は勤務年数にかかわらず取得できる
産休は、産前休業が6週間、産後休業が8週間となっています(労働基準法65条)。こちらは育児休業(育休)と異なり、勤続年数に制限がありません。したがって、産休は、入社1年未満でも取得できます。
通常、産休が終わった日から育休を開始する方が多いです。しかし、入社1年未満だと、産休から育休の間に空白ができる危険があります。
その間の扱いは会社次第ですが、復帰が難しいなら休みにしてもらえないか交渉しましょう。配慮ある会社なら、法律の要件を超えて、育休としてくれる可能性もあります。
なお、欠勤扱いとされてしまうなら、有給休暇を取得することもできます。
「有給休暇を取得する方法」の解説
育休は取れないと言われたときの対処法
次に、育児休業(育休)を取れない労働者側の対処法を解説します。
社内の話し合いで調整してもらう
まず、話し合いの余地があるなら社内で調整しましょう。交渉し、会社に法知識の誤りを理解させれば改善を期待できます。
育児介護休業法22条1項は、相談窓口の設置を含めた対策を講じる義務を定めます。社内の相談窓口があればそちらに、なければ社長か労務担当者に相談します。労働組合に相談し、同じ立場の人と共に交渉する手もあります。
育児休業(育休)の開始まで余裕あれば、業務引継ぎやマニュアル作成などの対策も可能。業務の属人化を解消し、会社のデメリットを減らせば、育休の要求は受け入れられやすくなります。また、時短勤務など、休業以外の対策も可能です。
労働局に相談する
社内の交渉では受け入れられないとき、社外の窓口への相談も必要です。
育児休業(育休)のトラブルは、各都道府県に設置される労働局へ相談します。育休などのジェンター問題は労働局の「雇用環境・均等部(室)」が扱います(※ 参考:都道府県労働局一覧(厚生労働省))。
行政のサービスなので相談料は無料で、気軽に相談できます。労働局に相談した結果、違法だと判明したら、
- 労働局長による助言、指導または勧告(育児介護休業法52条の4第1項)
- 紛争調整委員会による調停(同法52条の5第1項)
なども利用できます。
労基署が動かないときの対処法も参考にしてください。
弁護士に相談する
ここまで対応しても育児休業(育休)を取れないなら弁護士に相談ください。弁護士が交渉すれば、育休の正確な法律知識をもとに会社を説得しやすいです。
次のトラブルに既に発展した場合は、特に緊急性が高く、早急に相談ください。
育休を取れない会社は、法律を守る意識の低いブラック企業の可能性が高いです。弁護士相談なら、未払い残業代やハラスメントなど他の労働問題もあわせて解決できます。育休について相談するなら、労働問題を専門的に扱う、解決実績の豊富な弁護士のアドバイスを求めるのがポイントです。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
出産・育児に関連する手当・給付金を必ずもらう
育児休業(育休)が取れた方も、残念ながら取れなかった方も知っておくべき、出産・育児に関連してもらうことができる手当や給付金について説明しておきます。
- 出産育児一時金
健康保険及び国民健康保険の被保険者、被扶養者が出産したとき、申請によって支給される金銭で、支給額は50万円(令和5年3月以前は42万円。なお、妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度の対象とならない出産の場合は48.8万円)。 - 出産手当金
健康保険の被保険者が出産のために休み、給料の支払いを受けなかった場合に、出産日(予定日後出産の場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間を対象に支給される金銭。 - 育児休業給付金
雇用保険の被保険者が1歳未満の子を養育するために育休を取得した際に受け取れる金銭。 - 出生時育児休業給付金
2022年10月親切された出生時育児休業(いわゆる「産後パパ育休」)を取得した際に受け取れる金銭。
育休は取れないと言われた場合によくある質問
最後に、育休は取れないと言われた場合によくある質問について回答しておきます。
育休が取れないと保育園には入れる?
様々な事情で育休を取れない場合は、逆に、保育園に入る要件は満たされることになります。
育児休業中は、育休によって育児のために休んでいるので、保育園の入園の対象とならず、復職後の1ヶ月前から保育園に入れるようになります。育休中に入園が決まると、入園月の翌月1日までの復職を条件とされます。なお、保育園に入れなかった場合は、育休は最長で2歳に達する前日まで延長できます。
育休を男性が取れない理由は?
育休は、性別を問わず取得できるので、男性でも育休は取れます。「男性だから」という理由で育休を拒否するのは違法であり、許されません。
一方で、一般に男性の育休の取得率は女性に比べて低いのが現状です。その理由は、男性の方が育休を取りづらい雰囲気があったり、出世に影響するといったキャリア形成への不安があったりといったもの。決して法的に取れないわけではなく、事実上、我慢してしまっているのが現状です。家庭の状況として育休が必要なら、会社の圧に負けず、強く配慮を求めるべきです。
まとめ
今回は、育休を取れずお困りの労働者に向け、理由や対処法を解説しました。
育児休業(育休)は、法律の認める労働者の大切な権利。そのため、会社にルールが存在しなくても当然に認められ、拒否はできません。「育児は女性がする」といった偏見に負けず、男女いずれも積極的に育休を活用できます。企業規模、業種や業界、職種によっても制限はありません。
にもかかわらず「育休は取れない」と断るブラック企業は少なくありません。会社にとっては「育休を取らせず酷使したい」など不当な動機もあるでしょう。しかし、家庭を顧みず、ワークライフバランスを損ねてまで働く必要はありません。
育休の制度を正しく理解していない会社の対応は違法であり、従う必要はありません。取得できない例外ケースに該当するかチェックし、強く請求しましょう。自身での解決が難しいなら、労働問題を専門的に扱う弁護士に相談ください。育児で余裕がなくなる前に、速やかな対応が急務です。