内定式は、新卒社員が一同に会する式典であり、内定者を集めて会社が主催するものです。
希望通りに内定が決まり、社会人としてのスタートを順風満帆に切れるなら、内定式は晴れやかな気持ちの方が多いでしょう。しかし、「内定式に行きたくない」という相談もあります。実際のところ、急な事情があったり、場合によっては他社の選考をあきらめきれないといった会社に言いづらい理由で、内定式を欠席したいと考える人もいます。
今回は、内定式に行けず、欠席したときの問題点について労働問題に強い弁護士が解説します。内定式に必ず行かなければならないのか、欠席したら法律上の不利益があるのか、といった点をよく理解し、損のないよう行動してください。
- 内定式は法律上の制度ではなく、参加しなければならない義務はない
- 欠席に罰則や制裁はないが、事実上の不利益を抑えるための誠意ある対応を取る
- 内定式に参加した後でも、会社に疑問を感じるなら入社しなくてもよい
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
内定式とは
内定式とは、新卒社員を迎え入れるために会社が行う式典のことであり、主に、大学新卒の内定者のために開催されます。
内定式は、労働法をはじめとした法律上の制度ではありません。そのため、会社側に内定式を開催する義務はなく、必ず行われるものではないのです。内定式がない会社もありますが、企業が内定式を行う意図には「内定者を鼓舞し、奮起を促す」といった儀礼的な意味合いがあります。
この目的を果たすため、内定式では内定者に内定書が授与され、入社の意思を最終的に確たるものとします。企業理念を浸透させるために社長や先輩社員からの訓示が行われたり、新卒社員間の親睦を深めるために式の後に内定者懇親会が開かれたりすることもあります。
「採用選考に関する指針」(経団連)には「正式な内定日は、卒業・修了年度の10月1日以降とする」と規定されているため、内定式を10月1日に開催する企業が多いです。
内定式を欠席したらどうなるのか
次に、内定式を欠席したらどうなるのか、法的な観点から解説します。
内定式は儀礼的な側面が強く、法的な制度ではありません。そのため、内定式を軽視し「できれば参加したくない」という方もいるでしょう。内定式を欠席しても法律違反となったり罰則が科されたりするわけではありません。新卒社員だと、授業やゼミ、卒業旅行などを優先したい気持ちは理解できますが、事実上の不利益を見過ごしてはなりません。
内定式に出席する義務はない
もし、内定式への参加が「法的義務」なら、欠席することは法律上の義務違反となります。しかし実際は、たとえ内定者でも、内定式に出席する義務は生じません。
法律上は、内定を通知された時点で労働契約は成立します。しかし、「内定」は「始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれ、すぐに働く義務が生まれるわけではありません。内定が成立しても、労使間に権利義務が発生するのは入社日以降。したがって会社は、入社前の内定式の時点で、出席を命じたり、強制したりする権限がありません。
以上のことから、内定式に欠席しても、法律上の義務違反になることはないのです。内定式のほかにも、入社前研修や勉強会への参加を求める企業もありますが、同様に出席義務はありません。
「入社前研修の違法性」の解説
内定式を忘れてしまったら?
「内定をもらって安心し、内定式の連絡を見過ごしていた」「内定式の日付を勘違いしていた」など、内定式に行くつもりだったのに誤って忘れてしまうケースもあります。この場合でも、内定式に出席する義務はないことから、法的な責任は生じません。
しかし、どのような理由でも、会社からすれば無断欠勤と同じく扱われてしまいます。その結果、人事評価に少なからず影響しますし、同期も悪い印象を抱くでしょう。内定式を忘れ、その後の連絡に返事をしないと、会社から「内定辞退をした」と評価されるおそれもあります。
内定式をバックレるのは?
内定式をわざと欠席するのはよくないことです。忘れていたわけでもないのに、意図して、無許可で欠席するのは常識はずれです。にもかかわらず、内定式をバックレる学生は、毎年います。
志望度の低い会社からの内定だと、そのままにして内定式に行かない人もいます。就活を続け、より志望度の高い会社から内定をもらえるケースが典型例。しかし、社会人として最低限のマナーを守らないと事実上の不利益があります。
自身の評価が下がるのみならず、間接的に出身校の評判を下げる危険もあります。今後社会に出て活躍すれば、どのような縁があるかも分からないので、注意して慎重に対応すべきです。
「会社をバックレるリスク」の解説
内定式に行きたくないときの対処法
次に、内定式にどうしても行きたくないときの労働者側の対処法を解説します。
「内定式が面倒だ…」などは論外ですが、ブラック企業であると発覚したら逃げるべき。悪質な会社の内定式に参加する必要はなく、入社も取り止めにした方がよいでしょう。
法的には「内定式は自由参加」が原則
法律的にいえば、内定式は自由参加です。つまり、内定式を出席するも、欠席するも内定者の自由なのです。内定をもらっているからといって、出席義務があるわけでもありません。裁判例でも、入社前のイベントでは、むしろ会社側が内定者の事情を十分に配慮すべき義務があると判断されています(宣伝会議事件:東京地裁平成17年1月28日判決)。
本事案は、内定者が入社日前の研修について学業を理由に参加を取りやめたケース。
裁判所は、内定取り消しについて「新卒採用に係る内定者の内定段階における生活の本拠は、学生生活にある」と判示し、会社には信義則上参加を免除すべき義務を負うとして、内定取り消しを違法だと判断した。
支障がないなら参加すべき
内定式は自由参加であると解説しました。学生の本分は学業であり、それを怠ってまで内定式に参加するのはおかしいでしょう。とはいえ円滑に働きたいなら、支障のない限り内定式に参加すべきなのは事実です。前章で説明の通り、法的な問題が生じないとしても、事実上の不利益はあり得ます。
学校の授業と重なるなら、教授に公欠扱いにしてもらえないか相談するのも手です。できるだけの努力はして、内定式の欠席は回避した方がよいでしょう。やむをえない場合には式典のみ出席し、懇親会は欠席するといった工夫もできます。
内定式に行けない理由を説明して理解を得る
参加のために様々な手段を講じても、やはり参加できないケースもあります。また、体調不良によってどうしても欠席せざるを得ないこともあります。
内定式に参加できないことが確定した段階で、速やかに連絡をするのが必要な対応です。内定式は、新卒社員を迎え入れるためのもので、会社の準備も大変です。事前に連絡がないと、直前では、準備も無駄になり、印象は悪くなります。やむをえず不参加だとしても、わかった時点ですぐに意思表示しなければなりません。
連絡方法としては、電話で誠意をもって気持ちを伝えると共に、メールを同時に送付することによって記録に残すのが良いでしょう。メール文案も添付しますので参考にしてください。
【発熱を理由とする場合】
件名: 内定式欠席のご連絡
株式会社〇〇
人事部 〇〇様
お世話になっております。10月1日の内定式に参加予定の〇〇大学〇〇学部の〇〇〇〇です。
この度は、大変恐縮ながら、発熱により内定式を欠席させていただきたく、ご連絡申し上げます。昨夜より体調が悪化し、本日病院で診察を受けたところ、発熱のため安静が必要との診断を受けました。
内定式という大切な日にご迷惑をおかけすることとなり、大変申し訳ございません。今後の予定や対応について、何かご指示がございましたらお知らせいただけますと幸いです。
ご理解のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
敬具
【ゼミを理由とする場合】
件名: 内定式欠席のご連絡
株式会社〇〇
人事部 〇〇様
お世話になっております。10月1日の内定式に参加予定の〇〇大学〇〇学部の〇〇〇〇です。
この度は、大変恐縮ながら、大学のゼミの特別講義が急遽開催されることとなり、内定式を欠席させていただきたくご連絡申し上げます。ゼミの指導教授より、この特別講義が今後の研究において非常に重要なものであるとの説明を受け、出席を強く求められております。
内定式という大切な日にご迷惑をおかけすることとなり、大変申し訳ございません。今後の予定や対応について、何かご指示がございましたらお知らせいただけますと幸いです。
ご理解のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
敬具
不参加を申し出るときは、きちんと納得いく説明をするのが重要なポイントです。理由が曖昧だと、「内定式後に辞退するのでは?」と疑われても仕方ありません。
内定式は、内定者にとっても会社にとっても重要な式典です。その重要性を考慮してもなお、十分な理由を説明すれば、事実上の不利益は最小限に抑えられます。
内定式に遅刻してしまったら?
内定式に遅刻してトラブルが発生するエピソードはよく聞きます。
- 「1時間遅刻したら、もう入社しなくてよいと言われた」
- 「遅刻の罰として研修を受けさせられた」
- 「電話口で怒られた」
といったケースです。
確かに、内定式は社会人としてのスタートであり、初めから遅刻してしまえば「学生気分が抜けていない」と評価されても仕方ありません。
しかし、だからといって、遅刻するだけで内定取り消しとするのは、違法の可能性が高いです。内定取り消しは、解雇、つまりクビと同義であり、正当な理由が必要だからです。そもそも、たった一回きりの遅刻では、解雇の理由として不十分です。これから改善が期待できるのであれば、すぐ内定取り消しするのでなく、注意に留めるべきです。
新入社員にとって、遅刻によってショックを受けるかもしれません。しかし、即クビを心配する必要はありません。もし、内定式を遅刻したときも、欠席の場合と同じく、早急に、丁寧に理由の説明をしましょう。
なお、不当解雇の被害に遭ってしまったら、すぐ弁護士に相談してください。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
内定式後の辞退は違法?
内定式に出席をしたものの、その後に辞退することは可能でしょうか。
「内定式は正式なものだから、出席した以上もう辞退できない」という理解は誤りです。なぜなら、内定者には解約の自由(民法627条1項)があるからです。内定式後であっても辞退は可能です。
そもそも法律上は、内定式後はもちろん、入社後だったとしても退職の自由があり、会社はこれを妨げることができません。したがって、入社後に退職できるのと同じく、内定式に参加した後でも辞退はできます。内定式での社長の発言がパワハラだったり根性論だったりと、問題ある会社なら入社はやめた方がよいでしょう。
なお、民法のルールによれば、退職の効果が生じるのは申入れから2週間が経過したときなので、内定式後の辞退の場合にも、入社日の2週間前までに必ず行うようにしましょう。
内定式前後で注意したいトラブルまとめ
最後に、内定式前後という節目のタイミングで起こりがちな法的トラブルを紹介します。
まず、内定をもらったのに、労働条件が通知されないトラブルです。労働条件は、立場の弱い労働者が正当な権利を主張するのに、必ず知らなければなりません。なので、労働契約の締結の際に、労働条件の通知が義務付けられています(労働基準法15条)。内定時に労働契約は結ばれていますから、遅くとも内定式までには労働条件を知らされているべきです。
労働条件が通知されたら、求人とまったく違ったという「求人詐欺」の問題もあります。
内定式の前後は「オワハラ」にも注意。オワハラは、労働者の囲い込みのため、就活の終了を強要することです。更に、内定式の直前で内定取り消しをされてしまうトラブルもあります。内定の取り消しは、解雇と同じく厳しく制限され、正当な理由のない限り無効です。
逆に、労働者が辞めたいのに、辞めさせてくれず内定辞退できないという問題が起こることもあります。
「労働問題の種類と解決策」の解説
まとめ
今回は、内定式を欠席した場合の法律上の問題点について解説しました。
内定式への出席は、法律上の義務ではありません。ただ、円満に働きたいなら、内定式には出るべきであり、欠席すれば目をつけられ、事実上の不利益を負わされるおそれもあります。内定式は社会人生活のスタートであり、評価される場面だと心得てください。
どうしても行けない事情があるなら事前に連絡し、理由を説明しましょう。内定式の欠席だけで直ちにクビにはならないでしょうが、誠意ある対応をしなければマイナス評価は避けられません。
内定式直前は、いわゆる「内定ブルー」な方もいます。内定を受諾した後になって入社を希望しなくなった場合、内定辞退、入社辞退といったリスクの高い対応を取る前に必ず弁護士に相談ください。
- 内定式は法律上の制度ではなく、参加しなければならない義務はない
- 欠席に罰則や制裁はないが、事実上の不利益を抑えるための誠意ある対応を取る
- 内定式に参加した後でも、会社に疑問を感じるなら入社しなくてもよい
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/