パワハラにより、うつ病などの精神疾患になった場合、労災認定を受けることができます。
この場合、労災として認定されるかどうかは、厚生労働省の策定する「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」に基づいて判断されます。発症前おおむね6ヶ月間に強い心理的負荷が認められる場合、労災として認定されると、療養費や休業の補償を受けることができます。
特に、パワハラは社会問題となっており、法改正によって認定基準が具体化され、心理的負荷として認められる例が具体的に記載されています。
今回は、パワハラによりうつ病を発症してしまった場合の労災認定や損害賠償請求について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- パワハラによるうつ病などの精神疾患は、要件を満たせば労災認定が可能
- 発症前6ヶ月間に業務による強い心理的負荷があることが要件となる
- 心理的負荷が「強」と認定されるパワハラ行為が具体化されている
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パワハラでうつ病になったら労災認定が受けられる

労災(業務災害)とは、業務に起因する病気やケガのことを指します。
労災は、業務による危険が現実化したと評価できることが要件とされています。精神障害が業務上の疾病として労災認定されるには、次の3つの要件を満たす必要があります。
認定基準の対象となる精神障害を発症したこと
まず、認定基準の対象となる精神障害を発症したことが必要です。
具体的には、国際疾病分類(ICD-10)の「精神および行動の障害」に分類される疾病が対象であり、パワハラを原因として起こるものではうつ病や急性ストレス反応などが典型例です。これらの症状があることは、医師の診断書によって医学的に証明することが必須となります。
発症前おおむね6ヶ月間に、業務による強い心理的負荷が認められること
精神障害の労災認定では、発症前6ヶ月間の心理的負荷がポイントとされます。業務による心理的負荷は、負荷評価表に基づき、総合評価が「強」と判定されることが必要となります。
業務以外の心理的負荷や個体側要因による発病とは認められないこと
精神障害の労災認定では、業務以外の要因がないことも重要となります。例えば、離婚や親族の死、天災などの業務外の出来事や、精神障害の既往歴や持病、アルコール依存症などの個体側の要因が発病の主な原因である場合、労災とは認められません。
「労災認定基準」の解説

パワハラが労災認定される基準

次に、職場でのパワハラが労災認定される基準について解説します。
パワハラは業務上の行為であり、暴言や暴力、人格否定的な発言などが悪質な場合、これによる被害は労災として認定される可能性があります。
パワハラとは
パワハラとは、職場における優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、就業環境が害されるものと定義されます(労働施策総合推進法30条の2)。
統計上も、パワハラによる労災認定は年々増加している傾向にあります。
「令和5年度(2023年度)精神障害に関する事案の労災補償状況」(厚生労働省)によれば、精神障害全体の労災請求件数は3,575件、認定件数は883件であり、いずれも過去最多となっています。その中でも、支給決定件数は「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が157件であり、全ての出来事の中で最も多い原因となっています。
パワハラの心理的負荷が「強」と判断される具体的基準
前述の通り、精神障害について労災認定を受けるには、発症前おおむね6ヶ月間に、業務による強い心理的負荷が認められることが必要とされます。
パワハラによる心理的負荷の強度は、「弱」「中」「強」の3段階で評価されます。総合評価が「強」として労災認定されうる具体例としては、次のようなものが挙げられます。
- 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
- 上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた場合
- 上司等による人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない精神的攻撃が執拗に行われた場合
したがって、治療を要するほどの暴行の場合はそれだけで、その程度に至らない身体的・精神的な攻撃でも継続的に行われた場合には、パワハラによって労災認定を受けられます。
また、心理的負荷が「中」程度の攻撃でも、相談しても会社が適切な対応をせず、状況が改善されなかった場合も「強」と判断されます。したがって、労働者としては、パワハラを受けたらすぐに会社の窓口に相談することが大切です。
なお、この判断では、本人がどう受け止めたかという主観だけでなく、職種や立場、経験を踏まえ、平均的な労働者が一般的にどう受け止めるかという客観的な視点から行われます。
「パワハラの相談先」の解説

反復継続するハラスメントの場合
心理的負荷を評価する期間は、原則として発病前のおおむね6ヶ月間とされます。
しかし、パワハラやいじめのように繰り返される行為は、それが6ヶ月より前から始まっていたとしても、発症まで継続していた場合、開始時点から一連の行為として評価されます。パワハラが長期間続くほど、心理的負荷は強いものとなりやすく、労災認定される可能性が高まります。
「労災について弁護士に相談すべき理由」の解説

パワハラで労災認定を得やすくするための注意点

次に、パワハラでうつ病を発症したとき、労災認定を得やすくするための注意点を解説します。実際に、精神障害による労災認定の要件は厳しく、証拠を準備して説得的に主張しなければ、認められないケースもあります。
長時間労働を主張する
言葉による暴力など、肉体的なダメージが見えなくても、労災認定される可能性があります。
しかし、精神的な苦痛と行為との因果関係は、証拠で証明するのが難しいという特徴があり、労災認定を得にくい傾向にあります。
このとき、労災認定を得るために、客観的な証拠に残りやすい「長時間労働」を主張することを検討してください。労働時間は、タイムカードや勤怠データなどで証明可能であり、一定の時間を超えて長く働いた場合、心理的負荷が強いと判断される傾向にあります。
特に、軽度のパワハラなど、それだけでは労災として認定するには足りないと判断されるおそれがあるとき、労働時間の長さを証明するのは有効な手段となります。
「長時間労働の問題点と対策」の解説

労災申請を会社に協力してもらう
「パワハラによってうつ病になったかどうか」は、見た目から判断するのは難しいです。
しかし、会社が協力的で、労災であることを認めてくれるなら、労災認定は格段に得やすくなります。そのため、労災申請の際、事業主証明欄に署名をしてもらうことが非常に重要です。
労災申請では、事故状況を申請書に記載し、事業主の証明を得ます。会社が「パワハラによるうつ病は労災である」と認めるなら、認定される可能性を高めることができます。なお、次章の通り、慰謝料などの責任追及を恐れて事業主証明に協力しない会社もありますが、その場合でも、労災申請すること自体は可能です。
「労災を会社が認めない時の対応」の解説

会社に慰謝料請求する
パワハラによるうつ病が労災認定されたら、あわせて会社に慰謝料を請求できます。
会社は、労働者を安全に働かせる義務(安全配慮義務)があるためです。労災となるパワハラを防止せず、うつ病を発症させてしまったなら、同義務違反となることは明らかです。
労災保険では、精神的苦痛の補償はないため、慰謝料は会社に請求する必要があります。なお、労災認定と安全配慮義務違反は、必ずしも同じ判断基準ではないものの、多くの裁判例では行政の基準を参考とした判断がなされています。
「労災の慰謝料の相場」の解説

パワハラでうつ病になり損害賠償が認められたケース

最後に、パワハラでうつ病などの精神疾患を発症し、慰謝料が認められたケースを解説します。被害に遭ったときの損害賠償請求は、加害者に対して不法行為(民法709条)、会社に対しては使用者責任(民法715条)や安全配慮義務違反を根拠として争われます。
特に、会社が被害の相談を受けていたにもかかわらず、調査や再発防止措置を講じなかった場合、賠償責任が認められる傾向にあります。
東京高裁平成29年10月26日判決(さいたま市事件)
うつ病による休職から復帰した市職員が、指導係からのパワハラで再度休職し、その後に自殺した事案です。裁判所は、既往症のある労働者がパワハラについて相談した際、加害者との隔離や配置転換といった措置を講じず、勤務を継続させたことで症状を悪化させた点を指摘し、市の安全配慮義務違反、違反と自殺の間の相当因果関係を認めました。
大阪高裁平成31年1月31日判決(松原興産事件)
パチンコ店のホールスタッフとして働く従業員に対し、上司が降格的な配置をしたり、「お前もほんまにいらんから帰れ」と発言したり、十分な根拠なく始末書を書かせたり、反抗に対する懲罰として業務上必要のない1時間の立ち番をさせたりした事案です。裁判所は、指導の範囲を超えたパワハラであるとし、休業損害と慰謝料として、1,000万円を超える損害賠償の支払いを命じました。
高松高裁令和2年12月24日判決(池一菜果園事件)
月100時間を超える長時間労働がある中で、取締役からのひどい嫌がらせやいじめ(厳しい口調での改善文書の読み上げなど)が行われた場合、労災認定基準に基づいて心理的負荷が「強」と評価されるとし、精神障害を発症して自殺した場合には業務との因果関係があるとしました。
【まとめ】パワハラでうつ病になったら労災か

今回は、パワハラでうつ病になった場合に、労災認定を受けられるかについて解説しました。
どのような場合に労災認定を受けられるかを知っておけば、労働者として損せず保険給付を受け取り、被害回復を図ることができます。実際、パワハラが社会問題化しており、精神疾患を発症する人も増えているため、労災認定されるケースも増加傾向にあります。
パワハラの被害に遭って精神疾患を発症したとしても、証拠が不十分であったり主張が正しく伝わらなかったりすると、労災として認められないリスクがあります。証拠の収集や労災認定の段階から、労働問題に精通した弁護士のサポートを受けることがおすすめです。
弁護士なら、証拠集めから申請、認定されなかった場合の異議申し立て、会社への損害賠償請求まで、一括してサポートすることができます。
- パワハラによるうつ病などの精神疾患は、要件を満たせば労災認定が可能
- 発症前6ヶ月間に業務による強い心理的負荷があることが要件となる
- 心理的負荷が「強」と認定されるパワハラ行為が具体化されている
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