育児休業(育休)は、仕事と育児を両立するために法律で保障された制度です。
育休は、育児介護休業法に基づくものなので、要件を満たせば、社内に制度がなくても取得できます。しかし、「育休は取れない」といって拒否されたという相談例は少なくありません。会社から育休を拒否されると、育児との両立が難しい方は、退職を余儀なくされてしまいます。
結論として、要件を満たすのに育休が取れないのは違法です。育児介護休業法上の要件を満たすのに、会社の都合や独自のルールに基づいて拒否することは許されません。有期雇用や入社から間もない場合などには例外があるものの、「1年未満は取れない」といった情報だけを鵜呑みにし、正確な知識がないまま拒否している会社もあるため、注意深く確認してください。
会社から育休を拒否されても、あきらめてはいけません。育児介護休業法の定めをもとに、育休の要件を満たすか、会社の対応が違法ではないかを検討してください。
今回は、育休が取れないことの違法性、取得できない場合の対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
育休が取れないのは違法?

結論として、要件を満たすにもかかわらず育休を取得できないのは違法です。
育児休業(育休)は、育児介護休業法によって労働者に保障された法的な権利であり、会社の都合で拒否することはできません。「取れない」と感じる理由は様々ですが、就業規則に制度がなかったり社内に前例がなかったり、多忙で人手不足だったりしても、育休を取得できるのが基本です。
ただし、育児介護休業法で定められた「育休の取得要件」を満たす必要がある上に、「育休を取れない例外的なケースもある」ことから、育休を取れないことが必ず違法になるとは限りません。とはいえ、あくまで例外的な扱いであるため、拒否されたら会社に理由を確認すべきです。
要件を満たすにもかかわらず育休を拒否されたら違法となる
育児休業(育休)は、育児介護休業法で保障された法的な権利であるため、取得できる要件についても同法に定められています。そして、その要件を満たすにもかかわらず、会社が育休の取得を拒否した場合には、違法であると考えることができます。
育休の取得要件
育休の取得要件は「1歳に満たない子を養育する労働者」に該当することです。
「労働者」である必要があるので、役員やフリーランスの個人事業主などは対象外であり、日々雇い入れられる者も除かれます。有期雇用の場合、子が1歳6ヶ月に達する日までに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了し、更新されないことが明らかでないことが必要です。なお、「育休を取れない例外」の通り、一定の労働者は対象外とされます。
育休の期間は、出生日から子が1歳に達する日までが原則とされます。その期間内であれば、労働者が申し出た期間が休業期間となります。両親ともに育休を取得する場合、原則1歳2ヶ月に達するまでが上限となります(パパ・ママ育休プラス)。
また、次の条件を満たす場合、1歳6ヶ月や2歳まで延長が可能です。
【1歳6ヶ月までの育休】
子が1歳に達する時点で、次のいずれにも該当する場合
- 労働者本人又は配偶者が育児休業をしている場合
- 保育所に入所できない等、1歳を超えても休業が特に必要と認められる場合
- 1歳6ヶ月までの育児休業をしたことがない場合
【2歳までの育休】
子が1歳6ヶ月に達する時点で、次のいずれにも該当する場合
- 労働者本人又は配偶者が育児休業をしている場合
- 保育所に入所できない等、1歳6ヶ月を超えても休業が特に必要と認められる場合
- 2歳までの育児休業をしたことがない場合
加えて、育児介護休業法の改正により、2022年10月から産後パパ育休が新設され、産後8週間以内に4週間(28日)を限度とし、2回に分けて取得できるようになりました。1歳までの育休とは別に取得でき、男性の育休取得の促進を目的としています。

要件を満たす育休を拒否するのは違法
「育休の取得要件」を満たすにもかかわらず、会社が育休を拒否するのは違法です。
育児介護休業法6条1項には、明示的に「事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない」と定められています。
会社から明示的に拒否されて取得できない場合はもちろん、育休を取ると不利益があったり、育休を取らせないという無言の圧力があったりする場合も、違法となる可能性が高いです。違法となるケースには、次のような例があります。
- 社長から「育休を取るな」と命令された。
- 育休を取ったことを理由に報復を受けた。
- 育休明けで復帰したら、職場で無視された。
- 他の社員が育休を取ったことで退職させられたのを見た。
育休を拒否し、育児介護休業法違反となる場合、厚生労働大臣や都道府県労働局長は企業に報告を求めたり、行政指導として助言、指導または勧告をし(育児介護休業法56条)、勧告に従わない場合には企業名公表の対象とすることができます(同法56条の2)。さらに、報告の求めに応じなかったり、虚偽の報告をしたりした事業者は「20万円以下の過料」の対象となります(同法66条)。
育児介護休業法10条は、育児休業の申出をしたこと、または育児休業を取得したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁止しています。そのため、報復的な配置転換、無視・孤立化、退職への誘導などは、同法違反として違法となります。
違法な育休の拒否について、会社に故意または過失がある事案で、慰謝料の支払いを命じた裁判例もあります。
有期社員が育休を拒否された事案です。当時(平成14年)の法律は「期間を定めて雇用される」場合、育休の権利を有しないと定めていましたが、当該社員は契約更新の手続きなしに、6年間雇用され続けていました。
裁判所は、育児介護休業法の趣旨に照らし、育休の権利を有しない者の範囲は限定的に解すべきであり、実質は無期と変わらない場合、育休を請求しうる立場にあると判断し、これらの事実を認識しながら育休を拒否した会社には故意または過失があるとして40万円の慰謝料の支払いを命じました。
育休を取れない例外的なケースもある

育児休業(育休)は法律上の制度ではあるものの、例外的に取得できない場合があります。
育児介護休業法では、次の労働者については、労使協定を締結することで育休の対象から除外することができると定められています。
- 入社1年未満の労働者
- 申出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
特に、「転職直後に育休を取得したい」と考える人は注意が必要です。育休の要件を満たさなかったり例外にあてはまったりする場合、会社は育休を拒否することができます。
なお、労使協定とは、労働者の過半数代表者(または過半数組合)と会社の間で締結されるもので、労働基準監督署への届出は不要です。労使協定を締結することで、育休の他に、出生時育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、育児介護のための所定外労働の制限、育児短時間勤務、介護短時間勤務といった制度についても対象者を制限することが認められています。
入社1年未満だと育休は取れない?
前章の通り、労使協定を締結すると、一定の条件を満たす場合に育休の対象者を制限できます。そのため、会社から、「1年未満だから育休は取れない」と説明されることがあります。しかし、入社1年未満だからといって必ず育休が取れないとは限りません。
1年未満でも育休を取得できるのが原則
まず、入社1年未満の労働者でも、育休を取得できるのが原則です。
取得できないのは、「育休を取れない例外的なケース」の通り、労使協定を締結したことによる「例外」であって、その要件を満たすかどうかはよく確認すべきです。
労使協定がなければ入社1年未満でも育休を取得できる
1年未満の社員を育休の対象から除く旨の労使協定が存在しなければ、会社は育休を拒否することはできません。「1年未満なら育休は不要」といった誤解をしている会社もありますが、あくまで労使協定を締結することが前提とされている点に注意してください。
有期契約でも子が1歳6ヶ月までの間に契約が終了することが明らかでない場合は育休を取得できる
有期契約でも、子が1歳6ヶ月までの間に契約が終了することが明らかでない場合、正社員と同様に育休を取得することができます。なお、「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件がありましたが、2022年4月施行の育児介護休業法改正により削除されました。
会社が拒否しなければ、1年未満でも育休を取得できる
労使協定が存在しても、会社が認めるなら1年未満の社員も育休を取得できます。
誠実に対応する会社であり、労使の信頼関係があれば、必要性を説明することで入社1年未満でも育休を取ることができた例も存在します。企業側にも、「優秀な人材を確保したい」「離職を防止したい」といった意図がある場合があります。その場合、勤続年数が1年未満でも、復帰後の貢献をアピールすることで配慮してもらえる可能性は高まります。
入社から1年の基準時は育休の申出時点
入社から1年未満の社員は、労使協定によって育休の対象から除外できると解説しましたが、この「1年」の基準時は、育休の申出の時点とされます。つまり、妊娠の発覚や出産の時点では入社から1年を経過していなくても、入社から1年を経過した後に申し出れば、育休の取得は可能です。
育休の申出は、開始日の1ヶ月前までに行う必要があり、子が1歳に達するまで(最長2歳まで)は取得することができます。そのため、育休の取得そのものをあきらめるのではなく、要件を満たすまで、時間の経過を待つという選択肢もあり得ます。
産休は勤務年数にかかわらず取得できる
育休を取得できない例外があるのに対し、産休については勤務年数にかかわらず取得できます。
産休とは「産前産後休業」の総称であり、産前休業が6週間、産後休業が8週間とされます(労働基準法65条)。勤務年数による制限はないため、産休は入社1年未満でも取得可能です。
産休の終了日から育休を取得する人が多いですが、入社から日が浅いと、産休が終わった時点では入社から1年を経過しておらず、産休と育休の間に空白ができることがあります。この場合の扱いは会社によりますが、現実的に復帰が難しいなら、特別休暇を取得できないか交渉しましょう。配慮ある会社であれば、法律の保障を超えた育休の取得を認めてくれる可能性があります。
なお、欠勤扱いとされる場合は、有給休暇を取得する手もあります。有給休暇も法律上の権利であり、理由を問わずに取得でき、会社は拒否できないのが原則です(例外的に時季変更権を行使できますが、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます)。
「有給休暇を取得する方法」の解説

会社が「育休は取れない」と言う主な理由

「育休は取れない」と言われても、会社の知識不足であるケースもあります。
育児休業(育休)は、育児介護休業法で定められた制度であり、要件を満たす労働者には取得する権利があります。しかし実務では、経営者や管理職に十分な理解がなく、誤った判断をされるケースが少なくありません。小規模な企業ほど、労務管理が不十分であることが多いです。
例えば、次のような誤解をよく聞きます。
- 「社内に育休制度を作っていないから取れない」
- 「人手不足なので、育休を取られたら業務が回らない」
- 「中小企業やアルバイトは対象外だと思っていた」
- 「妻が育児をするなら、育休を取る必要はないだろう」
これらの説明はいずれも誤りであり、違法な育休拒否となります。会社の都合や慣習、経営者の個人的な価値観によって、育休の可否が決まることはありません。
育児介護休業法21条は、制度を周知する努力義務が会社に課されており、「育休を取らせたくないから、育休があることを伝えたくない」というのも不適切です。また、育児介護休業法25条では、育児休業の利用によって就業環境が害されないために雇用管理上必要な措置を講じる義務を会社に課し、休みやすくする環境作りが求められています。
それにもかかわらず、「育休は取れない」と発言したり、育休の取得をためらわせるような否定的な言動を繰り返したりすることは、職場環境を害する行為としてハラスメント問題に発展する可能性があります。特に、出産や育児に関する差別的な言動は、マタハラとして問題視されます。


育休は取れないと言われたときの対処法
次に、どうしても育休が取れない場合に、労働者側が取るべき対処法を解説します。
社内の話し合いで調整してもらう
まず、話し合いの余地があるなら、社内で調整しましょう。
会社が、育休制度のルールについて誤解をしていただけなら、法律に関する誤解を指摘することで改善が期待できます。育児介護休業法22条1項は、相談窓口の設置を含めた対策を講じる義務を定めているため、社内の相談窓口があればそちらに、なければ社長や人事労務の担当者に相談します。労働組合に相談し、同じ立場の社員とともに交渉するという方法もあります。
育休開始まで余裕があれば、引継ぎやマニュアル作成など、業務に支障を与えないための対策も可能であり、円満に解決できるなら、会社に協力してもよいでしょう。
労働局に相談する
社内の交渉では解決できないとき、社外の窓口への相談を検討します。
育休に関するトラブルは、各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます(厚生労働省「都道府県労働局一覧」)。相談料は無料です。労働局に相談した結果、違法であることが明らかになった場合、労働局長による助言、指導または勧告(育児介護休業法52条の4第1項)、紛争調整委員会による調停(同法52条の5第1項)などを求めることが可能です。
弁護士に相談する
以上の対応をしても解決できない場合、最終手段として弁護士に相談しましょう。
弁護士に交渉を依頼すれば、正確な法律知識に基づいて会社を説得できます。「退職を余儀なくされた」「育休を取得したら解雇された」といった不利益が大きい場合、早急な対応が必要です。そもそも、育休を取れないような会社は、法令遵守の意識が低い可能性があります。労働問題に精通した弁護士に相談すれば、育休の問題はもちろんのこと、それだけでなく、未払い残業代やハラスメントなど、他の労働問題についても一括して解決できます。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

出産・育児に関連する手当・給付金を必ずもらう

育児休業(育休)に関連して、出産や育児の際に受け取ることのできる手当や給付金についても理解しておいてください。
- 出産育児一時金
健康保険及び国民健康保険の被保険者、被扶養者が出産したとき、申請によって支給される金銭で、支給額は50万円(令和5年3月以前は42万円。なお、妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度の対象とならない出産の場合は48.8万円)。 - 出産手当金
健康保険の被保険者が出産のために休み、給料の支払いを受けなかった場合に、出産日(予定日後出産の場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間を対象に支給される金銭。 - 育児休業給付金
雇用保険の被保険者が1歳未満の子を養育するために育休を取得した際に受け取れる金銭。 - 出生時育児休業給付金
2022年10月に新設された出生時育児休業(いわゆる「産後パパ育休」)を取得した際に受け取れる金銭。
育休は取れないと言われた場合によくある質問
最後に、育休は取れないと言われた方からのよくある質問に回答しておきます。
男性でも育休を取得することができる?
育休は性別を問わず取得することができ、男性であっても取ることができます。
性別を理由に育休取得を拒否するのは違法ですが、実際には、男性の育休取得率は女性に比べて低いのが実情です。これは、男性が育休を取りにくい雰囲気があったり、出世や昇進に事実上影響したりといった懸念があることが理由となっています。
とはいえ、男性だからといって法的に育休が取得できないわけではないため、遠慮は不要です。強く求めても取得できなかったり、育休取得を理由に不利益な扱いを受けたりするときは、会社と争うため、速やかに弁護士へご相談ください。
非正規(パート・派遣など)でも育休は取れる?
パートタイムや派遣社員などの非正規雇用でも、育休を取得可能です。
育休は、雇用形態にかかわらず、労働者の権利として法律で守られています。ただし、非正規雇用などの有期契約労働者が育休を取得するためには、子供が1歳6ヶ月になるまでの間に、労働契約が満了して更新されないことが明らかでないことが必要です。逆に言えば、この条件を満たしていれば、正社員と同じく育休を申請できます。
過去には「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件がありましたが、法改正により削除されました。そのため、雇用形態を理由に会社から育休を拒否された場合は、契約内容を確認した上で、弁護士へご相談ください。
【まとめ】育休が取れないのは違法

今回は、育休が取れないと言われて悩んでいる方に向けて、その理由と対処法を解説しました。
育児休業(育休)は、育児介護休業法で保障された正当な権利です。会社に制度として存在しなくても、法律上の要件を満たせば当然に認められ、拒否することはできません。また、性別、企業規模、業種や職種を理由に制限されることもありません。
それにもかかわらず「育休は取れない」「1年未満だから無理」などと取得を拒む企業は少なくありません。背景には「育休を取得されると業務に支障が出る」といった不当な理由があることも多いので、違法な扱いではないかと疑ってください。家庭や子供を犠牲にする必要はありません。
育休の要件と、取得できない例外的なケースを正確に確認してください。その上で、違法な拒否であれば従う必要はなく、正当な権利として取得を求めるべきです。
一人では会社との交渉が難しい場合や、さらに不利益な扱いを繰り返されるおそれがある場合は、弁護士に早めに相談することが重要です。



