失業保険は、退職によって収入が途絶えた際の生活を維持する重要な制度です。
転職活動の助けになりますが、公的資金で運営されるからこそ、適正な利用が求められます。不正受給が発覚すると厳しい措置が取られ、悪質と判断されれば、受給額の返還に加えていわゆる「3倍返し」の重いペナルティがあります。受給要件を理解しないまま手続きを進めると、意図せず不正受給をしてしまう危険もあります。
相談者受給要件を満たさないのに嘘をついて受給した
相談者就労を開始したのに申告せず、受け取り続けた
このようなケースで不正受給と認定されれば、受給済みの金額の返還だけでなく、追加の納付や、今後の給付停止といった処分を受けるおそれもあります。
今回は、失業保険の不正受給がどのような経緯で発覚するのか、その理由やペナルティの内容、さらに自主返納した場合の扱いについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 虚偽の事実を告げたり隠したりすると、不正受給となるおそれがある
- 失業保険の不正受給が悪質と評価されると、いわゆる3倍返しの制裁がある
- 不正受給をしていることに気付いたら、悪質と評価されないよう自主返納する
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失業保険の不正受給とは

失業保険の不正受給とは、虚偽の申告や隠蔽によって、本来受け取るべきでない給付を受け取ることです。悪意や自覚がなくても、結果的に「不正受給」とされることがあります。
失業保険とは、雇用保険制度に基づく基本手当のことであり、労働者が離職した場合に、再就職までの生活を支え、転職活動に専念することを可能にする公的制度です。
失業保険の仕組み
失業保険は、求職活動の促進を目的とするため、受給には要件があります。
- 雇用保険の被保険者期間が一定以上あること
- 働く意思と能力があること
- 積極的に求職活動を行っていること
重要なのが「失業状態」であり、単に就職していない状態というだけでなく、働く意思と能力があって求職活動をしていることが必要です。この要件に対する誤解が、不正受給を生む原因となっているケースが多く見られます。
失業保険の不正受給の具体例
次に、失業保険の不正受給の具体例について解説します。
「どこからが不正受給なのか分からない」という疑問を解消するためには、典型的なケースを知る必要があります。
重要なポイントは、事実を正確に申告したか、法律上の要件を満たすか、という点です。「少額だから」「みんなやっているから」「どうせ見つからないから」「生活が苦しいから」といった理由で、違法行為を正当化することはできません。
他社での就職やアルバイト就労を隠す
失業保険の不正受給で最も多いのが、他社での就労実績を隠すケースです。
パートやアルバイトなどの短期の就労だと、「少し手伝っただけ」「正式な就職ではない」といった誤解から、申告をせずに失業保険を受け取り続けている人もいます。しかし、これらの理由でも、実際に労務の対価を得ていれば、申告するのが原則です。
内職や副業の収入を申告しない
在宅ワークや業務委託、副業による収入を申告していないケースもあります。
雇用ではなく、業務委託の個人事業主(フリーランス)でも、収入を得たことを隠して失業保険を受け取ると不正受給になるおそれがあり、「雇用契約ではないから大丈夫」という考えは危険です。
次の仕事の就職日を偽る
就職が決まったのに開始日を遅らせて申告するケースも不正受給に該当します。
例えば、月初から勤務しているのに、次の認定日後の日付を申告する、内定を得て既に働いているのに本採用までは申告しない、といった事例です。就職日を意図的にずらす行為は悪質と判断されやすく、転職先の会社が関与しているケースもあります。
なお、前職の会社が、離職票に誤った記載や嘘の記載をすることがありますが、事実と反するのであれば、たとえ労働者に有利であっても応じてはなりません。
求職活動の実績について嘘をつく
失業保険を受給するには、求職活動を継続している必要があります。
実際には全く応募していなかったり、面接の予定もなかったりする場合、虚偽の申告をして失業保険を受け取れば、不正受給となってしまいます。
受給資格を偽る
そもそも受給要件を満たさないのに、事実を隠して申告するケースもあります。
例えば、本来は自己都合退職とすべきところを会社都合退職として申告した、病気などで就労できないのに失業保険を受け取ったなどのケースです。
受給資格そのものを偽るのは意図的であることが多く、悪質であると判断されやすい傾向があります。
「失業保険の手続きの流れと条件」の解説

1日4時間未満の労働でも申告は必須

失業保険において誤解されやすいのが、受給中の労働の扱いです。
特に、「短時間なら申告しなくてもよい」「アルバイトやパート、副業なら、少額の収入を得ていても失業保険は受け取れる」といった誤った自己判断が、不正受給の原因となっています。
受給中の労働は、「1日4時間」が一つの目安とされています。
- 1日4時間以上の労働
→「就職・就労」として扱われます。 - 1日4時間未満の労働
→「内職・手伝い」として扱われます。
重要なのは、いずれの場合も、認定日にハローワークに申告する義務がある点です。上記の区分は給付の取扱いに影響しますが、申告はいずれにせよ必要です。そして、労働時間による区分であって、アルバイトやパート、派遣、見習い、手伝いなど、その名称は関係ありません。また、収入の有無にかかわらず、活動の実績を報告しなければなりません。
1日4時間以上働いた日の基本手当は支給されず、支給日数は繰り越されます。そして、週20時間以上の継続的な勤務に就いた場合、失業状態ではなくなります。1日4時間未満の労働でも、働いた日や収入は正確に報告する必要があります。
これらの報告をもとに、失業保険が減額されることはあるものの、少なくとも正確に申告している限り、不正受給に該当することはありません。
失業保険の不正受給がバレる理由

次に、失業保険の不正受給がバレる理由について解説します。
「黙っていればバレないのではないか」「少額だから大丈夫だろう」と甘く見ている人もいますが、実際には様々な理由で、行政に発覚する可能性は高いと考えるべきです。
マイナンバーや税・社会保険情報との照合
マイナンバー制度が導入され、他の公的情報と照合できる体制が整備されました。
例えば、事業主は従業員に給与を支払うにあたり、税務資料として市区町村に「給与支払報告書」を提出しています。また、一定の要件(週20時間以上など)を満たす雇用を開始する場合、ハローワークへ「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。税や社会保険の支払い情報とのクロスチェックから、いつ・どこで働いたかが判明するおそれがあります。
事業主からの届出や情報提供
事業主からの直接の情報提供も、失業保険の不正受給が発覚する理由となります。
企業は、雇用保険や社会保険、税務関連の手続きで、様々な書類を行政に提出しています。次の転職先における雇用保険の届出、社会保険の資格取得、源泉徴収といった情報を、失業保険の受給状況と照合することによって、就労の事実が判明するケースは少なくありません。
たとえ試用期間でも、既に雇用契約が成立し、給料を支払っている以上、会社は各種届出を行っていると考えられます。
第三者からの通報や聞き取り
書類から発覚する場合だけでなく、第三者からの通報によるケースもあります。
例えば、元同僚や知人が就労を知り、ハローワークに通報するケースが典型例です。正義感が強い人や、場合によっては喧嘩やトラブルとなったことがきっかけとなるケースもあります。通報に基づいてハローワークが事実確認を行い、事業所への照会や本人への聞き取りが実施されます。
労働者自身の不用意な言動
自身の不用意な言動で、失業保険の不正受給がバレる人もいます。
例えば、後ろめたい気持ちがあって知人に相談した、酒に酔って武勇伝として話してしまった、といったケースがあります。近年では、SNS投稿がきっかとなるケースもあります(例:「今日から新しい職場」との投稿、オフィスの写真、副業収入の報告など)。
失業認定における不自然な対応
失業保険の受給には、1ヶ月に1回の認定日に、失業保険認定申告書を提出する必要があります。この書面の記載がきっかけで不正受給が発覚するケースがあります。
例えば、就労日数と求職活動実績が整合しているか、収入状況と矛盾がないか、過去の申告と違いがないかといった点がチェックされ、不自然な点があると調査されます。
事業所の定期的な調査
不正が疑われる場合だけでなく、定期的な調査も行われています。
ハローワークは、不正がないかどうか、事業所を定期的に調査し、監督しています。この調査の際に受給者の情報などが見られ、不正受給がバレるケースがあります。
「労働基準監督署への通報」の解説

失業保険の不正受給が発覚した場合のペナルティ

次に、失業保険の不正受給が発覚したときのペナルティについて解説します。
不正受給は「バレたら返せば済む」という問題ではありません。行政上の制裁に加え、悪質なケースでは刑事責任を問われるおそれもあります。
なお、実務上、不正受給の場合の返還請求権の時効は、2年とされています。東京地裁昭和42年12月21日判決は、不当利得として失業保険金の返還を請求する権利は、失業保険法47条(現雇用保険法74条)にいう保険給付の返還を受ける権利にあたり、時効期間は2年であると判断しており、雇用保険の業務取扱要領にも同様の記載があります。
支給停止
失業保険の不正受給が発覚すると、不正があった日以降の支給が停止されます。「一部だけ不正だったが、残りはもらえる」という保証はありません。
不正受給額の返還命令
不正に受給した金額は、全額返還しなければなりません。
返還は一括払いが原則ですが、事情によっては分割納付を認めてもらえる場合があります。ただし、返還義務はなくならず、支払いを怠ると財産の差押えを受けるおそれがあります。受け取った額を生活費などに充当していても、返還する必要があります。
納付命令(いわゆる3倍返し)
悪質であると判断された場合、不正受給額の最大2倍の金額の納付が命じられます。
この納付命令の結果、返還額(1倍)と納付命令額(最大2倍)を合計して、最大で3倍の負担となることから、「失業保険の不正受給は、3倍返し」と言われます。なお、いくらの納付が命じられるかは、悪質性の程度や事情によって変わるため、「必ず3倍返し」というわけではありません。
例えば、故意に離職票を偽造したり、再就職を意図的に隠したり、虚偽の申告をしたり、要件を満たさないと知りながら受給したりといったケースは、悪質な不正受給と判断されやすい典型例です。
詐欺罪
行政上の制裁だけでなく、悪質な場合は刑事責任を問われるおそれもあります。
虚偽の申告により失業保険をだまし取ったと評価されれば、詐欺罪(刑法246条)が成立する余地があります。詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」と定められ、刑事罰の対象となります。金額が大きい場合や、計画的な不正である場合などは、刑事告発される可能性はゼロではありません。
刑事裁判で有罪判決が確定すれば前科が付き、今後の就職活動への支障は著しいものとなります。社会的な信用も低下し、軽い気持ちでした不正受給が、長期的な不利益となってしまいます。
自主返納したらどうなる?

失業保険の不正受給に気づいたときは、自主返納するのが最善の対応です。
「不正受給に当たるかもしれない」「今から申告しても間に合うのか」と不安に感じる方もいるでしょうが、結論として、早期の自主返納には、非常に重要な意味があります。
自主返納すれば「悪質ではない」と評価されやすい
不正受給について自主返納するメリットは、「悪質ではない」と評価されることです。
調査や通報によって発覚後に認めるのと、自主的に申告するのでは、悪質性の評価が大きく異なります。発覚後では「意図的に隠し続けていた」と評価されるおそれがある一方、自主的に申告すれば、悪質性は低いと判断される余地があるからです。
自主返納をすれば、不正受給分を返還するのは当然です。しかし、いわゆる3倍返しの納付命令については、早期に自主申告をすれば、悪質性が低いと判断され、減額される、あるいは追加納付は課されない(不正受給分の返還のみ)とされるケースが多いです。
ただし、事情によっても異なるので、「自主返納すればペナルティなしだから、バレそうになったら申告しよう」と甘く見ず、できる限り早期の対応が必須となります。
実際に自主返納した事例
当事務所の相談例でも、実際に自主返納をサポートした事例があります。
例えば、短期間のアルバイトを申告し忘れて失業保険を受け取り続けた事例です。
この事例では、不正受給になっていることに気付いてすぐに弁護士に相談し、自主返納をしたことによって、不正受給額の返還のみで済みました。発覚前に速やかに決断したことが、有利な判断を得られた決め手になっています。
状況によりますが、早く動くほど有利に働く可能性が高いため、失業保険の受給について不安があるときは、労働問題に精通した弁護士に相談してください。迷っている間にもリスクが高まるおそれがあるので、要件を満たすかどうかを知るには、無料相談の活用がおすすめです。
ハローワークへの説明を弁護士が代わりに行ったり、同行したりして誠意を伝えることで、悪質であるという判断を受けづらくなります。
「労働問題に強い弁護士」の解説

失業保険の不正受給を防ぐために
失業保険の不正受給は、悪意のあるケースだけでなく、思い込みや勘違いから生じることも少なくありません。トラブルを避けるため、不正受給となる事態を回避しましょう。
第一に、就労したら、必ず申告をすることです。
それがアルバイトやパート、派遣などの短期のものであったり、業務委託やボランティア、試用期間中であったりしても例外はありません。名称や勤務時間、収入にかかわらず、「働いた事実」を申告することが重要です。
第二に、収入があれば必ず記載することです。
副業や内職、業務委託であっても、対価を得たことは正確に伝える必要があります。収入額によっては失業保険が減額されることはあっても、不正受給のペナルティを考えれば、正直に申告した方がよいでしょう。
最後に、疑問や不安があるときは自己判断で進めないことです。
失業保険は、雇用保険法の法律知識や、ハローワークにおける実務運用の知識を知る必要があり、思いの外、複雑な問題だと心得るべきです。
判断に迷う場合の相談先は、ハローワークが基本となります。制度の運用や実務での取扱いについても、丁寧に教えてくれます。既に不正受給をしてしまった方や、自主返納をしたい方は、労働問題に精通した弁護士に早めに相談するのがおすすめです。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

【まとめ】失業保険の不正受給

今回は、失業保険の不正受給について解説しました。
失業保険の不正受給は、法的リスクを伴います。返還だけで済むとは限らず、追加納付を命じられたり、今後の給付制限を課されたりと、生活にも影響を及ぼします。制度の理解不足や思い込み、一時の感情でも、結果として「不正」と評価されるおそれがあるので注意が必要です。
失業保険は、求職活動に専念するための生活保障を意味します。収入が途絶えた状況では、「少しでも受給額を増やしたい」という不安を抱くのも無理はありませんが、その場しのぎで不正受給をしても、後で大きな負担となって返ってきます。
事実を偽ったり、就労の開始を申告しなかったりといった行為は、たとえ軽い気持ちであっても重大な違反です。不安や疑問は、早めに弁護士に相談するようにしてください。
- 虚偽の事実を告げたり隠したりすると、不正受給となるおそれがある
- 失業保険の不正受給が悪質と評価されると、いわゆる3倍返しの制裁がある
- 不正受給をしていることに気付いたら、悪質と評価されないよう自主返納する
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