せっかく採用が決まって入社しても、どうしてもブラック企業すぎて我慢できないときもあります。このようなとき、たとえ短期間でも、退職を検討するしかありません。心身ともに疲弊するまで、頑張りすぎてしまうのはおすすめできません。
短期間で退職してしまうと、まだ貯金もあまりないでしょう。「失業保険をもらえるかどうか」がまさに死活問題となるケースです。
しかし、失業保険をもらうには条件があり、雇用保険に一定期間加入している必要があります。そのため、短期間で退職してしまうと、失業保険をもらえないおそれがあります。失業保険は、雇用保険で運用されるため、短期間しか保険料を払っていない人は受給できないのです。
今回は、「どれくらいの期間、雇用保険に加入したら、失業保険をもらえるのか」、つまり、最低加入期間について労働問題に強い弁護士が解説します。
- 失業保険をもらうには、雇用保険に加入していなければならない
- 雇用保険の最低加入期間は、自己都合なら12ヶ月、会社都合なら6ヶ月が基本
- 最低加入期間未満の退職なら、離職理由を争い、会社都合扱いにしてもらう
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失業保険をもらうための条件とは
失業保険とは、会社を退職して無収入になってしまうときにもらえるお金。次の就職までのつなぎとして、生活保障をするための一定の給付を受けられる、国の制度です。失業保険は、「失業手当」「失業給付」と呼ぶこともあります。
短期間で会社を退職するとき、失業保険を受給できる期間に達しているか、よく検討してください。この検討は、必ず、退職してしまう前に行わなければなりません。
「会社をやめれば、誰でも失業保険をもらえる」というのは誤解です。損しないため、失業保険をもらうことのできる受給要件をよく知っておいてください。
雇用保険への加入が大前提
失業保険は、雇用保険に加入している人が払う保険料の積立で運用されています。そのため、大前提として、雇用保険に加入していなければ失業保険を受け取れません。
「雇われているなら、会社が雇用保険に加入してくれているはず」という甘い考えは危険です。会社には、雇用する労働者を雇用保険に加入させる義務がありますが、社会保険(健康保険と年金)、労働保険(雇用保険と労災保険)について、全て適切に整備している会社ばかりではありません。
中小企業、零細企業には、できるだけ出費を減らすため、保険加入を怠る会社もいます。保険料を徴収しながら、雇用保険にも社会保険にも加入手続きをしない、という悪質な例もあります。「失業保険をもらえるかどうか」の第一歩として、雇用保険に加入しているかチェックしてください。
「パート・アルバイトの雇用保険加入」の解説
雇用保険に加入していない可能性がある時の対応
「雇用保険への加入は当たり前」ではありません。社会保険が完備されて、賃金などの労働条件も好待遇な大企業、かつ、正社員雇用なら、まず間違いなく、雇用保険も加入していると思って問題ないでしょう。
しかし、中小零細企業だったり、短時間の非正規社員だったりといった方は、まずは確認が必要です。実は雇用保険に加入していなかった例には、次のケースがあります。
- 短時間の非正規社員で、雇用保険の要件を満たしていないと考えられていた
- 完全成果報酬制のスタッフとして個人事業主扱いになっていた
- 海外に派遣された際に雇用保険の適用を外され、そのまま帰国後も加入の手続をとっていない
- 取締役として役員扱いで、雇用保険に加入していない
- 給与から天引きされた雇用保険料が、社長に着服されていた
上記のような会社は、雇用保険に入らないのが、さも当たり前だという雰囲気のことすらあります。しかし、ブラック企業が語る「雇用保険加入を回避する方法」は、違法性の高いものである可能性があります。
「雇用保険に未加入だったときの対応」の解説
失業保険をもらうための最低加入期間
雇用保険への加入が確認できたら、次に、最低加入期間について知りましょう。つまり、「最低何か月、雇用保険に加入したら失業保険を受け取れるのか」という問題です。
短期間で転職をするときは特に、求職期間中の生活の糧を得なければなりません。失業保険を確実にもらうためにも、退職時期を慎重に検討しなければなりません(あと少しで失業保険がもらえる、といった最低加入期間ぎりぎりでの退職はNGです)。失業保険をもらうための最低加入期間は、離職理由によって変わります。具体的には、次のとおりです。
どのような退職理由なら自己都合、会社都合となるのか。自己都合と会社都合の内容や、もらえる失業保険の違いについても理解しておいてください(基本的には、会社都合のほうが労働者にとって有利だとお考えください)。
「自己都合と会社都合の違い」の解説
自己都合による退職なら、12ヶ月
自己都合による退職なら、失業保険に12ヶ月以上加入している必要があります。つまり、1年間の加入歴が必要というわけです。「以上」というのは、「12ヶ月ちょうど」を含みます。
自己都合で退職する場合、退職時期を自分でコントロールできます。つまり、いつ辞めるかは、労働者が決めることができます。むしろ、自分で退職時期を決められないような辞め方は、自己都合とはいえません。自分で決めたわけではなく、辞めさせられたのに自己都合となっていたら、不当な扱いの可能性があります。
自己都合での退職は、労働者が自ら決めたものなので、失業保険をもらうための雇用保険の最低加入期間も、比較的長めに設定されています。つまり、退職後に失業保険をもらいたい場合には、「今自主的に退職するのではなく、もう少し勤務したほうが失業保険がもらえるのではないか」という点を注意して、退職時期を慎重に決めなければなりません。
「自己都合でも失業保険をすぐもらう方法」の解説
会社都合による退職なら、6ヶ月
会社都合の退職ならば、失業保険に6ヶ月以上加入していれば、受給が可能です。つまり、1年未満で辞めたとしても、半年間働いていれば、失業保険がもらえるわけです。
会社都合での退職は、会社から一方的に雇用契約を解消されるという意味です。そのため、会社都合退職だと、労働者側で退職時期を選ぶことはできません。
会社都合で退職する労働者は、保護を手厚くする必要があります。自己都合退職に比べて、失業保険をもらうための雇用保険の最低加入期間は、短めで済むのです。とはいえ、自己都合退職でも、12か月以上勤務すれば、失業保険をもらう資格を取得できるので、それほどハードルは高くありません。
「失業保険の手続きと条件」の解説
最低加入期間未満でも、失業保険をもらう方法
失業保険をもらうための雇用保険の最低加入期間よりも短い期間しか勤務していないけれども、早期退職を決断せざるをえないこともあります。このとき、失業保険はもらえないという覚悟が必要です。それでもなお、そのまま会社に居続けて心身を壊してしまうよりはましです。
とはいえ、生活が困窮するのも困るでしょう。最低加入期間よりも短い期間で退職をしてしまっても失業手当をもらう方法を、最後に解説します。
退職理由について争う
失業保険をもらうために必要となる雇用保険の最低加入期間は、離職理由によって違います。
会社都合退職のほうが、自己都合退職よりも労働者を保護すべき必要性が高いことが理由です。そのため、会社都合退職のほうが、必要となる加入期間が短く設定されます。
会社から、自己都合の退職として取り扱われていても(形式上、自主退職でも)、実際は「会社に残ることをあきらめざるを得ない」という思いをしている方もいます。不当な労働条件の低下や、ハラスメントを受けたケースが典型です。
このようなケースでは、離職理由を争い、会社都合としてもらえば、雇用保険の最低加入期間が少なくても、失業保険をもらうことができるようになります。
「退職理由を変更する方法」の解説
加入期間を通算する
現在勤務する会社よりも前の会社でも雇用保険に加入していると、その加入期間を通算できるケースがあります。現在勤め、これから退職する会社では、短期間しか勤務していないときに有効な方法です。このとき、その会社での勤務が少なく、加入期間が少なくても、失業保険をもらえる可能性があります。
前職の会社で、もう6か月勤務しており、そちらでも雇用保険に加入していた場合には、その両方を通算した2年間のうちで12か月間の加入実績があれば、最低加入期間の要件を満たし、失業保険をもらえるのです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
会社を退職したり、転職したりする方にとって、失業保険は生活を支える重要な収入です。できるだけ確実に失業保険をもらえる状態で会社を退職しなければなりません。そのために、雇用保険の加入期間についての法律知識を知っておくのが重要です。
失業保険をもらうための雇用保険の最低加入期間は、退職理由によって異なります。そのため、個別のケースで、果たして自分が失業保険をもらえるのかどうか、判断が難しい場合があります。失業保険の条件を満たすか不安な方は、退職してしまうより前に、弁護士にご相談ください。
- 失業保険をもらうには、雇用保険に加入していなければならない
- 雇用保険の最低加入期間は、自己都合なら12ヶ月、会社都合なら6ヶ月が基本
- 最低加入期間未満の退職なら、離職理由を争い、会社都合扱いにしてもらう
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