退職理由が自己都合退職か会社都合退職かという点は、失業保険受給に大きな影響があります。
本来であれば、会社都合退職として扱われるべきケースなのに、会社の無知や悪意によって自己都合退職として手続きを進められてしまうと、労働者にとって、失業保険の受給資格、給付制限、所定給付日数といった点で、不利益を被ってしまうおそれがあります。
労働者としては、どのような場合に会社都合退職として認められるかを理解し、会社から自己都合退職として扱われた場合でも、会社都合退職に変更してもらう方法を知る必要があります。
今回は、退職を会社都合にしてもらうための方法や交渉のポイント、さらに自己都合から会社都合へ変更できるケースについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 失業保険の条件面では、会社都合退職の方が労働者にとって有利に扱われる
- どのような事情があれば会社都合退職となるのかを知り、その証拠を残す
- 会社から自己都合扱いされた後でも、会社都合に変更する方法がある
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会社都合退職として認められる事由

まず、会社都合退職として認められる主な事由がどのようなものかを解説します。
退職理由は、労働者の個人的な事情による「自己都合退職」と、倒産や解雇、退職勧奨といった会社側の事情による「会社都合退職」に区別されます。そして、会社都合退職の方が、失業保険の受給資格、給付制限、所定給付日数などの点で、労働者にとって有利な扱いを受けられます。
正しく理解しておかないと、会社から自己都合退職として扱われたとき、その扱いが不当なものであると気付くことができなくなってしまいます。以下の場合には、雇用保険法上の「特定受給資格者」として、会社都合退職として扱われるのが適切です。
- 倒産・事業所の廃止など
会社の倒産、事業所の廃止、大量離職、事業所の移転による通勤困難などを理由に退職した場合 - 解雇
労働者自身に重大な責任がある場合(重責解雇)を除き、会社から解雇された場合 - 退職勧奨・希望退職への応募
退職勧奨に応じて退職した場合や、人員整理に伴う希望退職募集に応じた場合(恒常的に設けられた早期退職優遇制度に応募した場合を除く) - ハラスメント・いじめ
上司や同僚から著しい嫌がらせや冷遇を受けた場合や、会社がセクハラなどを把握しながら必要な対応をしなかったため退職した場合 - 長時間労働
離職前6ヶ月のうち、3ヶ月連続で月45時間超、1ヶ月で100時間超、または2〜6ヶ月平均で月80時間超の時間外労働があったため退職した場合 - 労働条件の著しい相違
労働契約の締結時に示された賃金、労働時間、業務内容などと、実際の労働条件が著しく異なっていたため退職した場合 - 賃金の未払い・大幅な減額
賃金(退職手当を除く)の3分の1を超える額が、支払期日までに支払われなかった月が連続して2ヶ月以上となったこと、または離職直前6ヶ月間に通算3ヶ月あったことを理由として離職した場合、予想していなかった事情により賃金が従前の85%未満に低下した、または低下することとなったために離職した場合 - 雇止め
有期契約が更新されて3年以上継続勤務していたのに更新されなかった場合や、契約更新が明示されていたにもかかわらず雇止めされた場合 - 妊娠・出産・育児・介護に関する不利益な取扱い
妊娠・出産や育児休業・介護休業などを理由に不利益な扱いを受けたり、制度の利用を不当に制限されたため退職した場合 - 会社都合による長期休業・違法な事業運営
会社の責任による休業が長期間続いた場合や、会社の事業そのものが法令に違反していたため退職した場合
会社が会社都合退職として扱うことを避ける背景には、助成金の不支給・減額事由になり得ること、労働者から退職や解雇について争われるリスクを懸念していることといった理由があります。しかし、いずれも企業側の都合に過ぎず、労働者にとっては、自発的な退職であると評価されると原則として1ヶ月の給付制限が課されたり、所定給付日数が減少したりするデメリットがあります。
一方で、雇用保険上の離職理由は、会社の扱いや労使の合意で決まるわけではなく、ハローワークが、会社と離職者双方の説明や資料を踏まえ、実際の離職経緯に基づいて、特定受給資格者、特定理由離職者などに該当するかを判断します。したがって、離職票に自己都合と記載されても、異議を伝えて判断を求めることができます。
なお、会社の退職金制度によっては、自己都合と会社都合で支給条件や金額が異なる場合があります。ただし、退職金規程上の区分と雇用保険上の離職理由は別に確認する必要があります。
「自己都合と会社都合の違い」の解説

退職を会社都合にしてもらう方法
次に、退職を会社都合にしてもらう方法について解説します。
前述の通り、労働者にとっては、会社都合退職の方が失業保険の受給資格、給付制限、所定給付日数といった点で有利な扱いを受けることができますが、会社から誤った扱いをされたとき、会社との交渉や証拠の確保、ハローワークへの異議申立てなどを行う必要があります。
まずは、会社との交渉で、会社都合にしてもらう方法から試みてください。
退職交渉時に合意する
まず、会社と交渉し、会社都合退職として扱ってもらうことが最善です。
特に、会社から退職勧奨を受けた場合、これに応じて退職するなら「特定受給資格者」に該当して会社都合退職として扱われるのが基本となります。しかし、退職勧奨に応じた退職は、「労働者が自主的に退職したに過ぎない」といった誤解を受け、自己都合として扱われるおそれがあります。そのため、退職勧奨に応じる際には、会社都合退職として扱われることを前提に会社と話し合いを行い、合意を取り付けることで、誤って自己都合として扱われないよう注意しなければなりません。
最終的に、退職勧奨に応じて退職する際の退職合意書に、他の退職条件などとともに「会社都合退職として退職する」といった条項を明記してもらうよう求めましょう。ただし、失業保険における離職理由は、労使の合意によって決まるわけではなく最終的にはハローワークの判断であるため、合意書に「会社都合」と記載するだけでなく、それを裏付ける事情があることが前提となります。
「会社都合にしたくない会社側の理由」の解説

会社都合とすべき証拠を確保する
次に、会社都合退職として扱うべき事情があることを示す証拠を確保しましょう。
「会社都合退職として認められる事由」の通り、倒産や解雇、退職勧奨、法令違反といった会社側の事情が退職の理由となっている場合、会社都合退職扱いとなります。そのため、そのような事情が存在していたことを裏付ける証拠を確保しておけば、会社やハローワークに対し、正しい取扱いをするよう働きかけやすくなります。例えば、解雇通知書や解雇理由書などが証拠として役立ちます。
一方で、誤って自己都合退職として扱われないよう、自発的な退職であることを基礎づけるような証拠は残さない方がよいでしょう。例えば、退職届や退職合意書は、その内容が自己都合退職として扱われるおそれがないかどうか慎重に見極め、安易に署名することは控えてください。
なお、会社の労務管理に問題があって退職せざるを得ない場合は会社都合退職として扱われるため、長時間労働や未払い賃金、ハラスメントなどの証拠を集めることも役立ちます。この場合、失業保険に関する争いだけでなく、これらの労働問題の被害を回復するため、会社の責任を追及することも併せて検討してください。
「残業代請求で必要な証拠」「パワハラの証拠」の解説


会社の責任を追及する
会社に、実態と異なる自己都合退職扱いをされそうなとき、責任追及を検討しましょう。
形式的には退職届を出したとしても、実際は辞めざるを得ない状況であったことを会社に理解してもらうためには、責任追及も辞さない姿勢を示す必要があります。
例えば、労働条件の不利益変更、違法な長時間労働をはじめとした過酷な労働環境、賃金の未払い、セクハラやパワハラなどのハラスメントといった問題が職場に存在していたときは、それが退職理由となったことを書面やメールなどの記録に残る形で伝えるのが有効です。また、これらの労働問題が解消しないまま退職した場合、実際に責任追及を行うことも可能です。
「労働問題の種類と解決策」の解説

自己都合から会社都合に変更する方法

退職時に、会社都合という正当な評価を受けられなかった場合の対処法も解説します。
本来は会社都合退職とすべきなのに、会社の判断で自己都合退職扱いとされてしまうことがあります。特に労使の対立が生じやすいのが、退職勧奨の場面です。勧奨に応じて退職する場合、退職届や退職合意書の提出を求められることがありますが、安易に署名してしまうと、自己都合退職として扱われる原因を作ってしまうおそれがあります(なお、退職勧奨に応じて退職する場合、「会社都合退職として認められる事由」の通り、「特定受給資格者」として会社都合退職となります)。
離職票を作成するのは会社なので、無知や悪意、誤解があるまま作成されると、誤った記載になるおそれがあります。この場合に、会社都合に変更する方法を理解しておきましょう。
その場で署名せず、内容を確認して持ち帰る
まず、退職時に会社から示される書類に、安易に署名してはいけません。
失業保険について誤った扱いを受けるおそれのあるケースでは、会社から退職届や退職合意書を示されたり、自己都合退職の記載のある離職票を渡されたりすることがあります。このとき、その記載を確認せずに署名してしまうと、自己都合退職として扱うことを認めたと評価されるおそれがあるため、まずは持ち帰り、慎重に検討するのが適切です。一人で判断できない場合、労働問題に精通した弁護士に書類を見せ、アドバイスを求めるのがよいでしょう。
離職票の離職理由に異議がある旨を明記する
離職票は、ハローワークに提出される前に、労働者自身が確認します。
会社から交付された雇用保険被保険者離職証明書(離職票)の離職理由欄を確認し、自己都合退職として扱われる欄にチェックが入っていた場合、「離職者本人の判断」欄に異議がある旨を明記すべきです。これにより、離職票の記載が実態と異なるという意思を示すことができます。
会社が、誤ってこのような記載をしていた場合は、この時点で、事実に沿った内容とするよう修正を求めておきましょう。
「離職票のもらい方」の解説

ハローワークで会社都合を主張する
離職票に自己都合退職と記載されても、最終判断を行うのはハローワークです。
離職票の記載が事実と異なり、本来は会社都合退職として扱うべきであった場合、ハローワークでその旨を主張し、事実確認を行ってもらうことで、離職理由の判定をしてもらうことが可能です。例えば、強度のパワハラや長時間労働があるのに、会社がそのことを隠して自己都合として離職票を出したとしても、労働者がハローワークに異議申立てを行えば、調査の結果として会社都合扱いとなり、給付制限なしで受給できるようになります。
ハローワークに異議を述べる場合、会社都合退職であることを証明する証拠が重要な役割を果たします。例えば、労働条件が大幅に変更されたことを示す書類や、ハラスメントを記録したメールや録音、メモなどが証拠として役立ちます。
「失業保険の手続きと条件」の解説

【まとめ】会社都合にしてもらうには

今回は、退職を会社都合にしてもらう方法について解説しました。
労働者にとって、失業保険の受給において有利な扱いを受けられる会社都合退職を勝ち取ることは、退職後の生活を守るために非常に重要です。そのためには、会社都合退職に該当する離職理由を知るとともに、不当に自己都合扱いされたときに変更を求める方法を理解しておきましょう。
実務では、会社としては会社都合退職を敬遠し、本来なら会社都合として扱うべき場面なのに、自己都合とされてしまうことは少なくありません。特に、解雇や退職勧奨など、労使の対立が加速しやすい離職理由では、事実や法解釈の認識が食い違い、労働者から争われるリスクを懸念した会社が、都合の悪い事情を隠すために、自発的な退職として扱おうとする例があります。
離職票の記載に納得いかないとき、まずは会社に訂正を求め、応じてもらえない場合は、ハローワークで異議申立てをして、見直しを求めるようにしてください。離職理由によって、失業保険で不利益を被りそうなときは、ぜひ一度弁護士に相談してください。
- 失業保険の条件面では、会社都合退職の方が労働者にとって有利に扱われる
- どのような事情があれば会社都合退職となるのかを知り、その証拠を残す
- 会社から自己都合扱いされた後でも、会社都合に変更する方法がある
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