就職活動で「不採用」になると、全人格を否定された気持ちになるでしょう。
就職差別のある会社は、応募者の適性・能力ではなく、性別や出身地といった努力では変えられない事情で、採用において差別をします。内定を取るために全力で励んでも、就職差別という不当な扱いがあると、そのやる気や努力は無に帰することになります。
「社風に合わなかった」「求める能力が足りなかった」など、努力で変えられる問題なら改善の余地があります。しかし、不採用となった理由に差別的な要素がある場合は違法となります。不採用にされた側としても、到底納得いかないことでしょう。
今回は、就活生を苦しめる就職差別の問題と、採用において違法な差別を受けたときの対応策について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 就職差別は、採用において判断基準とすべきでない要素による違法な行為
- 就職差別を禁止する法律は多く、様々な理由での扱いが違法な差別とされる
- 自分の努力で変えられない理由での不採用は、違法な就職差別のおそれがある
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就職差別とは
就職差別は、採用・内定といった労働のスタート地点で起こる違法な差別です。
就職差別とは、労働者の適性・能力とは関係がなく、努力では変えられない性質や特徴によって採否が決められることを指し、「採用差別」「就活差別」と呼ぶこともあります。
採用・内定の段階では、会社には「採用の自由」があります。
つまり、「誰を採用するか(もしくは、採用しないか)」「どのような労働条件を提示するか」といった裁量が会社側に与えられています。その結果として、採用される側の労働者の方が弱い立場に置かれ、虐げられやすくなります。
このような採用場面の特徴から、就職差別の問題が起こりやすくなっています。
しかし、「採用の自由」も無制限ではありません。少数派の排除など、不合理な基準を許せば違法な差別につながってしまいます。そのため、採用の自由といえど一定の制限を受け、就職差別は禁止されます。採用の自由があっても、不当な差別は違法であり、決して許されません。
就職差別が違法である以上、その元となる事情を調査することも同様に違法です。業務上必要不可欠であっても、収集目的を本人に示す必要があります(平成11.11.7労働省告示141号)。
就職差別は法律で禁止されている

採用の自由が制限され、就職差別が違法となることは、採用場面で起こる様々な差別が法律で禁止されることからも明らかです。就職差別を禁止する法律には、以下のものがあります。
憲法
憲法は最も基本となる法律です。労働者側に職業選択の自由(憲法22条)が認められる反面、会社側に採用の自由があります。憲法は思想信条の自由(憲法19条)と法の下の平等(憲法14条)を定めているので、思想信条を理由とする就職差別は憲法違反となります。
労働基準法
労働基準法3条は「均等待遇」を定め、労働条件に関する差別的取扱いを禁止しています。憲法の基本ルールを踏まえ、国籍、信条、社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件に関する差別をすることを禁止しています。また、労働基準法4条は「男女同一賃金の原則」を定め、賃金に関する女性差別を禁止しています。
労働組合法
労働組合法は、労働組合の権利保障を定める法律であり、採用の場面でも、組合員であることを理由とした差別が禁止されています。組合への加入や活動を理由とする差別は、不利益取扱いという不当労働行為(労働組合法7条1号)にあたり、労働組合法違反です。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、労働のあらゆる場面における性別による差別を禁止します。同法5条は、募集及び採用について、性別にかかわりなく均等な機会を与えるべきことを定めています。
職業安定法
職業安定法は、業務の目的の達成にとって必要でない個人情報の収集を禁止しています。就職差別の原因を作らないようにするとともに、労働者の個人情報を保護する意味もあります。
労働施策総合推進法
労働施策総合推進法9条は、募集及び採用について、年齢にかかわりなく均等な機会を確保すべきとして、年齢差別を禁止しています。ただし、定年に関する制限、労働基準法の制限、特定の年齢が相当少ないときなどは、例外的に年齢による差を設けることが許される場合があります。
障害者雇用促進法
障害者雇用促進法は、障害者の雇用安定と、活躍を目指して作られた法律です。同法34条は、募集及び採用について、障害者に均等な機会を与えることを定め、障害者差別を禁止しています。
「障害者の解雇は違法?」の解説

厚生労働省の定めるルール
厚生労働省は、採用選考に関する行政のルールを公表しています。
厚生労働省は、ハローワークを管轄し、就活・採用などの面でも企業を監督する役割を担います。基本的人権の尊重のため、応募者の適性・能力のみを基準に採用選考をしなければならないと定めています。具体的には、「公正な採用選考の基本」に次のような禁止事項を定めます。
<a.本人に責任のない事項の把握>
・本籍・出生地に関すること
(注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)・家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)
(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)・住宅状況に関すること
(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)・生活環境・家庭環境などに関すること
<b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握>
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条に関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
<c.採用選考の方法>
・身元調査などの実施
(注:「現住所の略図」は生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があります)・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
公正な採用選考の基本(厚生労働省)
「圧迫面接の違法性」の解説

違法な就職差別の具体例

では、違法な就職差別として禁止されるのは、どのような行為でしょうか。
採用の自由があっても、企業経営の面から合理性のある基準がなければなりません。そのため、業務の目的を達成するという観点から採用判断を行う必要があります。本人の適性・能力とは無関係な情報を収集し、採用判断の基礎とすることは、就職差別につながるおそれがあります。
気付かないうちに就職差別の被害に遭わないよう、以下の具体例を理解してください。
性別を理由とする就職差別(男女差別)
性別を理由として採用において差別するのは、違法な就職差別です。
「採用するかどうか」の点で差を設けるだけでなく、採用時の条件が男女で異なっていたり、女性だからといって就活セクハラの被害に遭ったりといった行為も違法です。
- 女性は採用しない
例:「男性限定」など - 男女で、採用するときの基準が違う
例:「女性は運転免許を要する」「女性は未婚者のみ」など - 募集で男女別に人数制限する
例:「男性3人、女性1人」「女性は1名限定」など - 募集で男女別に年齢制限する
例:「女性は30才以上」など - 男女いずれかを表す名称で募集する
例:「〜レディ」「〜ウーマン」「ホテルマン」など - 女性に限定して特別な質問をする
例:「結婚する予定があるかどうか」「妊娠・出産しても働く気があるか」など
コンプライアンス意識の低い会社ほど、妊娠・出産や、育児休業(育休)や産前産後休業(産休)の取得といった権利行使に敏感で、性別を理由とした就職差別が起こりやすい環境にあります。男尊女卑の価値観が根強い会社では、入社後も男女差別が懸念されます。
なお、男女の均等が難しい業種や、性別の限定に理由がある場合などは例外的な扱いが認められる場合がありますが、あくまで限定的と考えるべきです。例えば、芸能に関する仕事、警備業、危険な仕事といった限られた職種では、片方の性別を優遇することが認められる場合があります(「芸術・芸能の分野における表現の真実性等の養成から男女のいずれかのみに従事させることが必要である職務」「守衛、警備員等のうち防犯上の要請から男性に従事させることが必要である職務」「宗教上、風紀上、スポーツにおける競技の性質上、そのほかの業務の性質上、男女のいずれかのみに従事させる必要性のある職務」)。
「職場の男女差別」の解説

出身地を理由とする就職差別
出身地を理由に採否を決めるのも就職差別であり、違法となります。採用面接で出身地を質問することは、聞く側にとっては雑談だとしても、禁止される言動と言わざるを得ません。「同郷だった」などと盛り上がって出身地が分かってしまっても、採用の際の判断基準とするのは違法です。
いずれの場合も、出身地は能力や適性には影響しないため、採用とは無関係です。出身地を理由とする就職差別は、社会的マイノリティを排除する危険な行為なのです。出身地差別の中でも、部落差別(部落問題)や在日差別は特に深刻です。
家族・家柄を理由とする就職差別
出身地と同じく、家族や家柄も生まれもってのもので、努力しても変更はできません。したがって、以下のように、家族・家柄を理由とする就職差別も違法です。
- 先祖の家柄が悪いといって不採用にする。
- 先祖の出身地で採用を決める。
- 実家が資産家かどうかを採用基準にする。
- 変わった名前や、キラキラネームで差別する。
思想信条・宗教を理由とする就職差別
思想信条や信仰する宗教は、本人次第で変えることができますが、信教の自由は憲法に定められた基本的な人権であり、採用に配慮して変更する必要はないものです。そのため、思想信条・宗教を理由とした就職差別も許されません。
- 特定の宗教を信仰している人を採用しない。
- 特定の団体への寄付や布教活動への協力を入社の条件とする。
- 尊敬している人物で採用を決める。
業務に無関係な健康状態を理由とする就職差別
業務遂行が不可能な健康状態は、不採用とする理由になりますが、以下のような病気は業務に関係なく、これらを理由として採否を決めるのは違法な就職差別となります。
- HIV(エイズ)、B型肝炎の患者を採用しない。
- うつ病・適応障害の既往歴があるかを質問する。
内定を得られた後になって、健康診断の結果を理由に不採用を告げられたケースでは、健康状態を理由にした違法な就職差別を疑うべきです。
東京地裁平成15年5月28日判決(HIV抗体検査(警視庁警察学校)事件)は、本人の同意なく行ったHIV検査は違法とされ、東京地裁平成15年6月20日判決でも、B型肝炎検査を同意なくして不採用にした事案で、プライバシー侵害にあたり違法であると判断されています。
「うつ病休職は再就職に不利か」の解説

インターネットやAI技術を利用した新たな就職差別
近年は、インターネットやAI技術の導入により採用活動を効率化する企業もあります。しかし、AIの学習データに含まれるバイアスが、就職差別につながるという新たな問題が指摘されています。例えば、ネット上で部落地域とされていたり、性別や人種、学歴に対する偏見がAIを通じて不採用とする基準に反映されてしまったりするケースです。
このような新たな問題は、採用活動の効率化の一方で、見えない形で少数派(マイノリティ)が採用から排除されるおそれがあり、深刻な問題となりかねません。
違法な就職差別を受けたときの対応

最後に、実際に就職差別を受けてしまったときの労働者側の対応策について解説します。
就職差別がなくならないのは、その違法性が認識されていないことが一因です。古い価値観が根強く残る会社ほど、固定観念が強く、偏った考えを押し付ける傾向があります。企業規模によらず、むしろ大企業でもそのような状態が放置されている会社は少なくありません。
不採用の理由を確認する
まず、就職差別を疑う場面に遭遇したら、不採用の理由を確認してください。
就職差別の責任を追及するにあたり、不採用の理由が違法であること、つまり、差別があることは、労働者側で証明する必要があります。会社は、採否の理由を明かさないのが一般的ですが、就職差別が疑われるなら、開示するよう強く要求すべきです。
交渉で解決できず、労働審判や訴訟といった裁判手続きに発展することが予想されるなら、理由開示の要求は内容証明で通知し、証拠に残すのが適切です。
就職差別の証拠を収集する
次に、就職差別があったことの証拠を収集します。
就職差別は、採用面接における会社側の発言で明らかになることが多いため、録音が有力な証拠となります。また、面接時や面接終了後に、担当者の発言を詳細にメモに記録しておきましょう。明示的に差別的な発言をされることは少なくなってきていますが、違法な就職差別につながりかねない発言があったら、指摘し、真意を問いただすのもよいでしょう。
採用の強制は難しい
就職差別で不採用となると、内定や採用を認めてほしいと求める人もいます。しかし、差別的な扱いが違法でも、内定や採用の強制は難しいです。最終的に雇用するかどうかは「契約」の問題で、採用の自由が存在するからです。実務では、慰謝料請求によって責任を追及するのが通常です。
慰謝料を請求する
就職差別するような会社には入社を希望しない人も多いでしょう。
入社を取り止めるのであれば、採用において差別を受けたことで負った精神的苦痛について、慰謝料を請求することを検討してください。就職差別は不法行為(民法709条)に該当し、精神的苦痛について慰謝料を請求できるほか、他の会社の内定を断ったなどの実損が生じている場合には損害賠償請求をすることも可能です。

なお、単に不採用となるだけでなく、一度は得られた内定が就職差別を理由として取り消された場合は、内定取り消しに関する責任追及をすることも可能です。
「内定取り消しの違法性」の解説

【まとめ】就職差別について

今回は、就職差別の意味と、その違法性や対処法について解説しました。
採用時に、努力ではどうにもならない事情で差別するのは、法律上許されないことです。採用で差別を受けてしまったら、その違法性について会社の責任を追及できます。
就職差別が理由で、採用を拒否されたときは、その採用を強制することまではできないものの、「差別されたこと」について慰謝料などの損害賠償を請求できます。就職差別するような問題あるブラック企業に、入社前に気付けてよかったと切り替え、被害回復に努めるべきです。
とはいえ、会社がどのような採用基準で、どのような理由で不採用としたかは明かされないことが多く、労働者一人で就職差別を立証するのはハードルが高いこともあります。就職差別ではないかと疑問を感じたら、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
- 就職差別は、採用において判断基準とすべきでない要素による違法な行為
- 就職差別を禁止する法律は多く、様々な理由での扱いが違法な差別とされる
- 自分の努力で変えられない理由での不採用は、違法な就職差別のおそれがある
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