労働契約の内容となる重要な書類が「就業規則」と「雇用契約書」です。
就業規則も雇用契約書も、労働契約の内容となる点は共通していますが、それぞれ役割があり、定める労働条件が異なる場合があります。就業規則と雇用契約書の内容が異なるとき、どちらのルールに従うべきでしょうか。労働者としては、優先順位を理解しておく必要があります。
結論として、労働者に有利な方が優先されるため、雇用契約書で就業規則よりも有利な取扱いを定めた場合、雇用契約書が優先します。逆に、雇用契約書で、就業規則よりも労働者に不利な定めをすることは許されず、そのような定めは無効となって就業規則に従うこととなります。
今回は、就業規則と雇用契約書の労働条件に違いがある場合の優先順位と、実態が異なる場合の対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 就業規則と雇用契約書は、いずれも労働契約の内容となる点は共通している
- 就業規則と雇用契約書の労働条件が異なるとしても、より有利な方が優先される
- 最も優先されるのは、労働基準法をはじめとした強行法規である
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就業規則と雇用契約書の違い
就業規則も雇用契約書も、労使間の労働契約の内容となる点は共通しています。
労働契約とは、労働者が会社に労務を提供し、代わりに賃金を受け取ることを内容とする契約です。就業規則も雇用契約書も、それぞれ労働契約の内容として、働く際のルールを定めています。例えば、「何時から何時まで働くか」「休日はいつか」「給料がいくら支払われるか」といった約束は、労働基準法などの強行法規に違反しない限り、就業規則や雇用契約書に従います。

以下では、就業規則と雇用契約書の違いについて解説します。
就業規則とは
就業規則は、全社的に適用される社内のルールを定めた規則です。
複数の労働者に一律の労働条件を定めるのに適しており、記載事項は労働基準法89条に定められています。就業規則には、絶対的必要記載事項(必ず定めるべき事項)と、相対的必要記載事項(制度が存在する場合に定めるべき事項)、任意的記載事項の3つがあり、主に、労働時間、賃金、退職、安全衛生、災害補償などが定められるのが通例です。
雇用契約書とは
雇用契約書は、労働者と会社が個別に締結する契約書のことです。
雇用契約書は、特定の労働者に適用されるルールを定め、入社時の労働条件明示義務も果たすことが多いため、労働基準法15条と労働基準法施行規則5条1項に定められた明示事項である契約期間、就業場所、労働時間、休日、賃金、退職、安全衛生、災害補償などを内容とするのが通例です。
労働条件通知書との違い
雇用契約書とよく似た書類に、労働条件通知書があります。
雇用契約書は、会社と労働者の双方が内容を確認し、合意により取り交わす契約書です。一方、労働条件通知書は、会社が労働者に一方的に労働条件を通知する書類という違いがあります。前述の通り、労働基準法15条は、会社は労働者を雇い入れる際、労働条件通知書を交付して労働条件を明示することを義務付けているため、実務上は2つの書類の性質を兼ね備えた「労働条件通知書兼雇用契約書」として、1枚の書面で発行されるケースも多く見られます。
なお、労働条件通知書と雇用契約書が別々の書類で発行され、その内容が異なる場合、作成・交付の時期、説明内容、合意の経緯などを確認し、実際に合意された労働条件がどのようなものかを判断する必要があります。
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就業規則と雇用契約書の労働条件が異なる時の優先順位

次に、就業規則と雇用契約書の労働条件が異なるときの優先順位を解説します。
就業規則と雇用契約書に定められた労働条件が異なるとき、どちらが優先するのか、労働者としてどう対処すべきかを知っておくことは、正当な権利を実現するために非常に重要です。
有利な条件が優先されるのが原則
結論として、就業規則と雇用契約のうち、労働者に有利な方が優先されるのが原則です。
就業規則と雇用契約書の労働条件が異なり、矛盾するときでも、労働者にとって有利な方が適用されます。これを「有利条件優先の原則」と呼びます。労働者としては、自身に有利な方に従って主張することができ、逆に会社は自身に不利な方に従わなければなりません。就業規則も雇用契約書も、会社が定めるものなので、取り決めを守るべきなのは当然です。
なお、条項を比較しても、「そもそもどちらが有利か判断できない」という微妙なケースでは、弁護士の無料相談で疑問を解消するのがおすすめです。
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就業規則が優先される場合
就業規則の方が労働者にとって有利なとき、就業規則が雇用契約書に優先します。
労働契約法12条により、雇用契約書で定めた労働条件が就業規則で定める基準に達しない場合(労働者にとって不利な場合)、その部分は無効となります。そして、無効となった部分については、就業規則で定める基準が適用されます(これを、就業規則の「最低基準効」と呼びます)。
したがって、雇用契約書でどのような約束をしても、就業規則を下回る労働条件は無効となります。なお、無効となるのは就業規則を下回る部分のみであり、その他の部分は有効です。
雇用契約書が優先される場合
雇用契約書で、就業規則で定めた基準を上回る労働条件を合意した場合(労働者にとって有利な場合)、その雇用契約書の内容が優先して適用されます。雇用契約書は、労使の個別の合意なので、有利な部分については、全社的に適用される就業規則の特則として機能します。このことは、労働契約法7条但書に定められています。
雇用契約書に定めがない場合
雇用契約書に個別の合意がない事項は、就業規則の定めが労働契約の内容となります。就業規則には、個別の合意がない部分を補う効力があるためです。ただし、就業規則が労働者に周知されており、その内容が合理的である必要があります。
就業規則と雇用契約書の優先順位を判断する際の注意点
次に、就業規則と雇用契約書の優先順位を判断する際の注意点を解説します。
優先順位を会社が変更することはできない
就業規則と雇用契約書の優先順位は、労働契約法で決められたものです。
そのため、会社が異なる優先順位を主張することは許されません。労務管理に問題のある会社では、就業規則が改定されず、法改正に対応していないことが珍しくありません。この場合でも、古い就業規則を放置した会社には問題があり、より有利な規定を適用する妨げにはなりません。
労働者にとって不利な就業規則、雇用契約書を適用しようとする会社の主張は法的に認められず、労働審判や訴訟などの裁判手続きで争うことができます。就業規則よりも不利な雇用契約書は、たとえ労働者がサインし、同意することを示していても正当化されません。
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就業規則が複数ある場合は適用関係を確認する
就業規則が複数ある会社では、その適用関係を確認する必要があります。
よくあるのが、雇用形態ごとに就業規則を作成する会社です(例:正社員就業規則と契約社員・アルバイト就業規則がある場合など)。どの就業規則が適用されるかは、各規則の冒頭、対象を定める条項などで確認できます。特に、正社員に比べて非正規社員の保護が薄い会社では、どの就業規則が自分に適用されるかを理解しておかなければなりません。
法律が最も優先される
就業規則と雇用契約書よりも、法律が最優先とされることを理解しましょう。法令違反がある場合、就業規則、雇用契約書のいずれの定めも違法であり、無効となる可能性があります。
以下の通り、労働に関するルールの優先順位は、法令・労働協約・就業規則・雇用契約書の順となります(なお、下位のものでも、労働者にとって有利な場合はそちらが優先します)。

法律の中でも、労働基準法は労働者保護のための強い効力を有しており、違反する労働条件は就業規則と雇用契約書のいずれに書かれていても無効となります。そして、無効となった部分については、労働基準法の定めが労働契約の内容となります。これは、労働基準法に「強行法規」としての性質があるからです。強行法規とは、当事者の合意によっても変えられず、たとえ労働者が同意していても違反することが許されない法律の定めを指します。
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労働協約は就業規則よりも優先される
会社に労働組合があり、労働協約が締結されている場合、その優先順位が高いことを理解してください。労働協約は、労働組合と会社の間で結ばれる約束であり、就業規則と雇用契約書より優先される強い効力を持ちます。したがって、就業規則や雇用契約書に書かれた内容でも、労働協約にそれよりも有利な条件が定められていれば、労働協約が優先されます。
民法上の公序良俗に反する内容は無効
「法律が最も優先される」と解説した内容には、労働法だけでなく民法も含まれます。
重要なのが「公序良俗」です(民法90条)。公序良俗とは「公の秩序又は善良の風俗」のことで、社会の一般的な常識や倫理、道徳に反する契約内容は無効となります。例えば、「勝手に辞めるなら違約金を支払うこと」「私生活を制限すること」といった内容は、労働法違反であるだけでなく公序良俗にも反し、たとえ本人が同意しても無効となります。
就業規則と雇用契約書の優先順位に関するよくある質問
最後に、就業規則と雇用契約書の優先順位に関するよくある質問に回答します。
就業規則や雇用契約書が存在しない場合は?
労務管理の未整備な会社では、就業規則や雇用契約書が存在しないことがあります。
雇用契約書がなくても労働契約は成立し、就業規則の規定や口頭で約束した労働条件に基づいて働くこととなります。この場合、労働者は、口頭などで個別に合意した事項が就業規則よりも有利であることを示す証拠を残す必要があります。求人票や労働条件通知書、採用面接時の資料、採用担当者のメールなどが証拠となります。
一方で、就業規則は、常時10名以上の労働者を使用する事業所では届出義務がありますが(労働基準法89条)、それ未満なら必須ではありません。
ただ、雇用契約書に全ての労働条件を定めると、分量が多くなることが予想されます。また、就業規則がないのに雇用契約書が簡素な場合、労働条件に不明確な点がある疑いがあります。この場合にも、雇用契約書がない場合と同じく、労働条件を証拠に残しておく必要があります。
「雇用契約書がない場合」の解説

雇用契約書と実態が違うのは違法?
雇用契約書の内容と勤務の実態が異なることは違法となる可能性が高いです。
前述の通り、労働基準法15条は、入社時に正確な労働条件を明示するよう会社に義務付けており、その内容と異なる場合、労働者は即時に労働契約を解除できます。
入社後に、雇用契約書と実態が違うことに気付いた場合や、契約書と違う仕事をさせられる場合は、会社に説明を求め、改善されない場合は弁護士に相談してください。
「求人内容と違う労働条件の違法性」の解説

雇用契約書と就業規則が違う場合の企業側の対応策は?
企業側としても、雇用契約書と就業規則の内容に齟齬がある場合、原則として労働者に有利な条件が優先されることを認識しておく必要があります。
トラブルを防ぐためにも規程類や契約書を精査し、不一致がないようにする必要があります。書類間の整合性を取るときは、原則として有利な方に合わせることとなります。具体的には、就業規則を最新の法令や勤務実態に合わせて改定する、雇用契約書を就業規則を上回る内容で締結し直すといった対策が有効です。
なお、就業規則を労働者の不利益に変更することは、変更の合理性が認められる場合を除いて、許されません(労働契約法10条)。
「就業規則の変更」の解説

【まとめ】就業規則と雇用契約書の優先順位

今回は、就業規則と雇用契約書の優先順位について解説しました。
就業規則と雇用契約書は、いずれも労働契約の内容となる重要な資料であり、入社時に必ず確認する必要があります。しかし、矛盾や差異がある場合、優先順位を知っておく必要があります。
就業規則の方が有利な場合、それに満たない雇用契約書は無効となります。一方で、雇用契約書の方が有利な場合、就業規則の特則として機能し、就業規則に優先します。労働者としては、「より有利な方に従えばよい」と考えるのが基本となります。また、いずれにしても、労働基準法をはじめとした強行法規に違反する規定は違法・無効となります。
解雇や残業代のトラブルなど、会社に対して労働者としての権利を主張する際、労使間でどのような約束をしているかが重要となります。就業規則や雇用契約書を確認しても疑問が晴れないときは、ぜひ一度弁護士に相談してください。
- 就業規則と雇用契約書は、いずれも労働契約の内容となる点は共通している
- 就業規則と雇用契約書の労働条件が異なるとしても、より有利な方が優先される
- 最も優先されるのは、労働基準法をはじめとした強行法規である
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