「正社員でないと雇用保険に入れないのでは」と不安に感じる人もいるでしょう。
しかし実際は、アルバイトやパートでも、一定の加入条件を満たせば雇用保険に加入できます。むしろ、要件を満たす労働者を加入させることは会社の義務でもあります。しかし、本来なら対象となるはずのアルバイトやパートが、雇用保険に未加入のまま放置され、退職時に失業保険を受け取れずに不利益を受けてしまうケースは少なくありません。
今回は、アルバイトでも雇用保険に加入できる条件と、会社が手続きをしない場合の具体的な対応策について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 一定の要件を満たせば、アルバイトやパートでも雇用保険に加入できる
- 労働時間などの条件を満たすのに加入できないなら、会社の義務違反である
- 雇用保険に加入していなければ、退職しても失業保険を受け取れない
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アルバイトでも雇用保険への加入は可能

雇用保険に加入できるのは、正社員だけではありません。
アルバイトやパートなどの非正規社員も、法律で定められた要件を満たす場合、雇用保険への加入が義務付けられています。本人の意思や雇用形態にかかわらないので、労働者が希望していなかったり、呼称が「非正規社員」扱いでも、同じことです。
雇用保険制度は、労働者を雇用する全ての事業に強制的に適用されます。そのため、適用事業所に雇用された労働者は、次章で解説する加入条件を満たす限り、雇用保険の被保険者となります。決して、「加入するかどうかを会社や労働者が選べる」わけではない点に注意が必要です。
アルバイト・パートの雇用保険の加入条件

次に、アルバイトやパートが雇用保険に加入するための条件を解説します。
以下の条件を満たす場合、会社はそのアルバイトやパートを雇用保険に加入させる義務があり、正社員と同じく「一般被保険者」となります。
1週間の所定労働時間が20時間以上であること
第一に、1週間の所定労働時間が20時間以上であることが条件となります。
「1週間の所定労働時間」とは、就業規則や雇用契約書などで定める通常の週に勤務すべき時間のことです(残業や休憩時間は除きます)。労働時間の定め方により、次のように計算されます。
- 所定労働時間を月単位で定めている場合
その月の所定労働時間を「12分の52」で割って算出します。 - 所定労働時間を年単位で定めている場合
その年の所定労働時間を「52」で割って算出します。 - 労働時間が周期的に変動する場合
1周期における所定労働時間の平均を算出します。
ただし、所定労働時間が実態とかけ離れている場合、実際の勤務時間を基準とします。なお、シフト制勤務など、1週間の所定労働時間が明確に定まっていないアルバイトやパートは、1ヶ月の労働時間が87時間以上である場合に適用対象とされることがあります。
週によってシフト日数にばらつきがあると、週の所定労働時間が一定になりません。
1週間の労働時間数が一定でない社員の場合、1ヶ月の所定労働時間を計算して雇用保険の加入条件を判断することとなっており、次の計算式から、月の所定労働時間が87時間以上であれば、「週20時間以上」の要件を満たすことになります。
- 1週間の所定労働時間(20時間) × 52週間(1年間) ÷ 12ヶ月 = 86.66…時間
法律の改正により2028年10月から「週10時間以上」に引き下げられる予定です。これにより、加入対象外だった短時間勤務のアルバイトやパートも雇用保険の対象となる見込みです。
31日以上引き続き雇用されることが見込まれること
第二に、31日以上、引き続き雇用されることが見込まれることが条件となります。具体的には、次のような場合が当てはまります。
- 期間の定めがなく雇用される場合
- 雇用期間が31日以上である場合
- 雇用期間が31日未満であっても、契約が更新される可能性がある場合
例えば、試用期間や、1ヶ月限定のトライアル雇用でも、31日の暦日の月であればその1ヶ月で条件を満たします。30日以下の暦日の月でも、契約更新の可能性があれば、雇用見込みがあると判断されます。この場合、「更新後」ではなく「雇入れの当初から」加入が必要となります。
「失業保険の手続きの流れと条件」の解説

雇用保険の適用除外に該当しないこと
昼間に学生の場合には、原則として雇用保険の対象外となります。
学生・生徒
学生や生徒は、雇用保険の対象外となります。
この場合の学生とは、学校教育法1条の定める「幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校」の学生や生徒を指します。大学の夜間学部や高校の夜間・定時制課程の者などを除き、昼間学生は原則として適用除外となります。
ただし、卒業見込みで卒業後も同じ事業所で勤務を継続する場合や、休学中の者などは、その他の要件を満たせば被保険者となることができます。
季節的に雇用される者
季節的に雇用される者は、次のいずれかの条件を満たすと、雇用保険の対象外となります。
- 4ヶ月以内の期間を定めて雇用される者
- 週の所定労働時間が30時間未満の者
季節的な雇用とは、季節的業務について期間を定めて雇われる人のことを指し、例えばスキー場や海の家、農業の繁忙期に雇われる労働者などが該当します。
アルバイトが雇用保険に加入するメリット・デメリット

次に、アルバイトやパートが雇用保険に加入するメリット・デメリットを解説します。
「アルバイト・パートの雇用保険の加入条件」を満たす場合、そもそも「加入するかどうか」を選べるわけではありませんが、労働時間が週20時間に達するかどうかが微妙な場合などは、メリット・デメリットを考慮して選択することが可能です。
加入するメリット
最も重要なメリットは、退職後に失業保険を受給できることです。
失業保険は、転職活動中の無収入期間の生活を支える重要な制度であり、アルバイトでも大きな助けになります。条件を満たせば、育児休業給付金・介護休業給付金も受け取れます。今後も一定期間、アルバイトやパートで働くことを予定する人にとって、長期的なライフプランを立てる際の安心材料となるでしょう。教育訓練給付により、スキルアップや資格取得のための講座費用の一部を国に負担してもらうことも可能です。
雇用保険に加入していることで、会社に対しても正規の手続きで雇用する労働者であることを意識させ、「アルバイトだから」などと軽視されにくくなる事実上のメリットもあります。
加入することのデメリット
雇用保険料は労使で折半されるため、労働者の負担分が発生します。
労働者の負担分は、給与から天引きされるのが通例なので、給与明細を確認しましょう。少額なので「加入するメリット」と比較すれば、「保険料が高いから加入したくない」というのは誤解と考えるべきです。少し手取りが減るとしても、将来の保障とのバランスを考える必要があります。
なお、「雇用保険に加入すると扶養から外れる」と誤解されることもありますが、実際は、扶養については収入が基準となるため、必ずしも雇用保険に加入したことが原因ではありません。
アルバイトが雇用保険に加入する方法

雇用保険の加入手続きは、会社が主導して行い、アルバイト本人の申告は不要です。
加入条件を満たすアルバイトやパートを雇った会社は、ハローワークに資格取得届を提出する義務があります(届出期限は「被保険者となった日の属する月の翌月10日」)。この手続きは、新たに雇った場合だけでなく、労働時間が長くなったりアルバイトから正社員になったりして要件を満たしたタイミングでも必要です。
したがって、会社は、要件を正確に判断し、ハローワークで手続きを行い、保険料を控除する必要があります。アルバイト側ですべきことは、会社の指示にしたがってマイナンバーや雇用保険被保険者証を提出するといった準備です。
なお、雇用保険に正しく加入できているかを確認するには、雇用保険被保険者証を確認するか、マイナンバーカードを持っていれば「マイナポータル」でも閲覧可能です。また、最寄りのハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」を提出することでも、加入状況を確認できます。
一方で、労働法の知識が不足していたり、非正規を軽視したりする会社では、要件を満たすのに加入手続きを怠ったり、「労働者も同意しているから」という理由で加入させなかったりする例もあります。未加入に同意するよう求められたときは、「アルバイトが雇用保険に加入するメリット・デメリット」を参考に、デメリットが強調されすぎていないかをご確認ください。
重要なのは、「条件を満たせば自動的に加入対象になる」という点です。会社が手続きを行っていない場合には、まずは加入状況を確認し、必要に応じて是正を求めることが大切です。
アルバイトで雇用保険に未加入だった場合の対応

次に、アルバイトで雇用保険に未加入だった場合の対応について解説します。
本来であれば加入すべきであった雇用保険に入っていないと、労働者にとって、退職後の失業保険を受け取ることができないという大きな不利益があります。
遡及して加入するよう求める
雇用保険の未加入が発覚した場合、最大2年間遡って加入手続きを行えます。したがって、未加入であることが明らかになったアルバイトやパートでも、勤続年数が長くなければ、速やかに求めれば不利益を解消できる場合があります。
もし、給与明細や源泉徴収票を確認し、既に雇用保険料を天引きされていた場合は、たとえ未加入だったとしても再度保険料を負担させられることはありません。
ハローワークに確認請求をする
アルバイトやパートで、雇用保険に加入していないことが明らかになったとき、会社が加入の手続きを怠っていたとしても、労働者自ら、雇用保険の被保険者資格があったことの確認をハローワークに請求できます。この確認が認められれば、ハローワークから会社に対し、雇用保険の加入手続きを遡って行うよう指導してもらうことができます。
事業主の責任を追及する
さらに、事業主(会社)の責任を追及することも可能です。
正当な理由がないのに雇用保険の加入手続きを怠ることは、労働契約上の債務不履行や不法行為に該当する可能性があるからです。
社会保険に関する裁判例では、事業主の届出義務違反が、労働者の保険給付を受ける権利や、将来の給付を受けるという法律上の利益ないし期待権を侵害するとして、不法行為や債務不履行に基づく損害賠償責任を認めた事例があります(東京地裁平成29年10月11日判決、東京地裁平成26年12月24日判決など)。
なお、正当な理由なく被保険者資格の取得届を提出しない場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象となります。
「雇用保険に未加入だったときすべき対応」の解説

アルバイトの雇用保険のよくある質問
最後に、アルバイトやパートの雇用保険について、よくある質問に回答しておきます。
短時間勤務でも雇用保険に加入できる?
一定の労働時間を超えれば、短時間勤務でも加入できます。
重要なポイントは「正社員よりも労働時間が短いかどうか」ではなく、「週20時間以上働いているかどうか」という点です。
例えば「1日4時間・週5日(週20時間)」「1日5時間・週4日(週20時間)」といったケースは加入対象となります。逆に、週20時間未満であれば原則として対象外で、「1日3時間・週5日(週15時間}といったケースは加入できません。ただし、実際の労働時間が契約よりも長い場合は、実態に即して判断します。
会社に「バイトは加入できない」と言われたら?
「バイトだから」という理由で雇用保険に加入できないと考えるのは誤りです。
会社の法律知識が十分でないこともあるので、加入要件を満たすかを確認し、「加入できない」と説明する理由を質問してください。会社が説明する理由が誤った認識に基づくものなら、法律知識にしたがって反論できます。
加入義務があることを伝えても対応されない場合、ハローワークに相談したり、弁護士に依頼して警告してもらったりといった方法が効果的です。
雇用保険は、会社の裁量で「加入するかどうか」を決められる制度ではないので、失業保険に不利益が生じる前に、早めに対処しましょう。
残業で週20時間を超えた場合の雇用保険の扱いは?
雇用保険の加入は「所定労働時間」で判断するので、残業がどれほど長時間でも、雇用保険に加入できるかどうかには影響しないのが原則です。
ただし、実際の労働時間に乖離がある場合は、実態に即して判断します。
社会保険の通達でも、「残業等を除いた基本となる実際の労働時間が直近2ヶ月において週20時間以上であり、今後も同様の状態が続くと見込まれるとき」は、所定労働時間が週20時間以上であるとみなし、加入手続きが必要という考え方が示されています。
したがって、一時的な残業で週20時間を超えただけでは雇用保険の対象とはなりませんが、人手不足などで残業が常態化し、週20時間以上となる状態が2ヶ月以上続いている場合、雇用保険の加入義務が生じます。
また、アルバイトやパートなのに、当初約束した以上の残業が常にあり、改善が見込めないのであれば、問題のある職場である可能性もあります。
「ブラックバイトの特徴と見分け方」の解説

アルバイトを掛け持ちしている場合の雇用保険は?
複数のアルバイトを掛け持ち(ダブルワーク)する人も少なくありません。
この場合、雇用保険は主たる賃金を受けている一社でのみ手続きを行います。そのため、2つの勤務先での労働時間がいずれも週20時間未満の場合、合計して週20時間を超えたとしても雇用保険に加入できません。
ただし例外として、65歳以上の労働者には「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が適用され、2つの事業所での労働時間を合計して週20時間以上になる場合、本人の申出によって雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)になることが可能です。
【まとめ】アルバイトの雇用保険加入

今回は、雇用保険の加入について誤解の多い、アルバイトやパートのケースを解説しました。
転職活動中の生活費などを補うために、失業保険が重要な役割を果たします。しかし、雇用保険に加入していなければ受給はできません。雇用形態がアルバイトやパートであっても、所定労働時間などの要件を満たせば、雇用保険に加入することができます。非正規社員は軽視されがちですが、雇用保険に全く加入できないわけではありません。
もし加入の要件を満たしているにもかかわらず、会社が手続きを行っていない場合には、放置せずに是正を求めることが重要です。将来の保障を失わないためにも、法的な対応を検討するため、弁護士に相談しておくことも有益です。
- 一定の要件を満たせば、アルバイトやパートでも雇用保険に加入できる
- 労働時間などの条件を満たすのに加入できないなら、会社の義務違反である
- 雇用保険に加入していなければ、退職しても失業保険を受け取れない
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