退職後、「最後の給料は手渡しでしか支払わない」と言われると困ってしまいます。
辞めた後に、わざわざ職場まで取りに行かなければならないのは苦痛でしょう。バイトを飛んだり、人間関係やトラブルで退職したりした人の中には、取りに行けずにあきらめる人もいます。
相談者もう退職したのに、取りに行かないともらえないのは違法では?
相談者辞めたのに、給料だけ取りに行くのは気まずい…嫌がらせでは?
働いた分の給料は、退職後でも必ず支払われるべきで、泣き寝入りしてはいけません。
当事務所でも、取りに行かずに給料を受け取る方法はないかと悩んでいる方からの相談が多く寄せられていますが、弁護士に依頼すれば、代わりに給料を請求することが可能です。無断の退職だと、「取りに来なければ支払わない」といった嫌がらせを受ける例も珍しくありませんが、在職中は振込であったなら、最後の給料だけ手渡しとするのは不当な扱いだと考えるべきです。
今回は、最後の給料を手渡しにすることの違法性と、取りに行きたくない場合の対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 最後の給料支払いが退職後となることはよくあるが、働いた分は必ず受け取る
- 最後の給料を手渡しでないと払わないと言われても、振り込むよう強く求める
- 退職後に会社へ給料を取りに行くときは、危険の回避を最優先とする
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働いた分の給料は退職後でも受け取れる

働いた分の給料は、退職後でも必ず受け取ることができます。
在職中の給料は振込にしていることが多いでしょう。退職する場合、最後の給料の支払いは退職後となることが少なくありません。円満退職ではないときや、退職理由について労働者に責任があると会社が考えているとき、給料を積極的に支払おうとしない会社があります。
しかし、退職理由は、最後の給料を支払うかどうかとは無関係です。どのような理由で辞めても、労働者に責任があっても、過去に労働した分の対価を支払わなくてよい理由にはなりません。業務上のミスや無断欠勤があっても、その責任はさておき、給料は受け取れます。
「最後の給料を手渡しで支払う」と伝える対応には、大きな問題があります。「会社に取りに来なければ支払わない」という圧力や嫌がらせとなるおそれがあるからです。既に労働した分の対価は受け取るべきですが、対面するのはつらい、気まずいといった事情があると、あきらめる方もいます。手渡しにされて給料を受け取れなくなると、正当な権利を侵害されてしまいます。
なお、労働基準法23条1項では、退職後の給料は、労働者が請求があった場合に、7日以内に支払わなければならないことが定められています。
「未払い賃金を請求する方法」の解説

会社が最後の給料を手渡しにするのには理由がある
退職時に、会社が最後の給料を手渡しするのには、会社なりの理由があります。
例えば、制服やパソコン、社員証などの貸与品を確実に返却してもらいたい、離職票などの書類を確実に交付したい、退職に必要な手続きを済ませたいといった事情です。会社によっては、退職時の誓約書にその場でサインさせようとするケースもあります。
規程類に定めがあることも多いため、就業規則や雇用契約書、賃金規程などを確認し、そのような取扱いが定められているかを確認しましょう。他の退職者も同じ扱いであり、事務手続きを完了させる以上の目的がないなら、必ずしも嫌がらせとは限りません。
しかし、在職中の給料は振込なのに、トラブルになった労働者だけ手渡しにしたり、遠方に転居したのを知りながら来社を強制したり、「謝罪しなければ給料を渡さない」といった条件を付けたりするのは、嫌がらせだと考えられます。
前述の通り、退職理由やトラブルの有無にかかわらず、既に働いた分の給料は受け取れます。これを妨げるような社内ルールに合理性はなく、就業規則に定めても無効であり、給料の支払いを事実上拒むことは許されません。
最後の給料が手渡しだが、取りに行きたくないときの対策
退職後に、最後の給料を取りに行きにくいという方も少なくないのではないでしょうか。
社長や上司との人間関係が悪化していたり、嫌がらせ目的が疑われたりする場合、取りに行きたくないのも当然で、振込や郵送などの別の方法を求めるなど、適切な対応を検討すべきです。たとえ就業規則などに定められた会社のルールだとしても、その取扱いが自分にだけ不利益になっていないか、嫌がらせや報復ではないかを検討してください。
給料日の翌日に退職する
給料日の翌日に退職すれば、最後の給料が受け取れなくても損失は比較的軽微です。
社長がパワハラ気質であるなど、「退職後に給料をもらうのは難しそうだ」と感じるなら、退職の時期を見定め、給料日の翌日に退職することでリスクを軽減するのがよいでしょう。
なお、問題ある会社でも、無断で辞めるとリスクが拡大します。退職理由を丁寧に伝え、誠実な対応を心がけるべきです。強く引き止められ、どうしても辞めにくい場合は、「家族の都合」などの無難な理由を伝えて円満退職を目指し、それでも難しい場合は弁護士に相談してください。
「会社の辞め方」の解説

友人・家族に代わりに取りにいってもらう
手渡しでしか支払わないと言われたとき、友人や家族に受け取ってもらう方法があります。
ただし、会社にとっては、給料を労働者に直接支払う義務があり、たとえ友人や家族でも、本人以外に支払ってはならないのが労働法の原則です。これは、他人が代わりに受け取ることを許すと、労働者の手元に届かなかったり、不当に中抜きされたりする危険があるため、賃金の直接払いの原則が定められているからです(労働基準法24条)。
「代理人として受け取る」というのも同じで、友人や家族であっても、「代わりに給料を受け取る」と伝えても、会社に拒否されるおそれがあります。
一方で、「使者として受け取る」という方法があり得ます。法的な性質として「使者」と「代理人」は区別されており、使者であれば本人の意思を伝達する役割にとどまるからです。

使者であれば、労働者自身に渡すのと同じであり、本人でなくても給料を受け取ることができます。ただし、会社の法律知識が十分ではない場合、説得を行う必要があります。会社の協力を得やすいよう、免許証などの本人確認書類、委任状、受領書、本人との関係を示す資料(戸籍など)を持参しておくのがおすすめです。
退職後に現金書留で送るよう要求する
給料を、現金書留で送ってもらうよう要求する方法もあります。給料を郵送することは通常はありませんが、トラブルになっているため、例外的な扱いでも仕方ありません。会社から領収証を求められるケースもありますが、必ず給料の到着を確認してから返送するようにしてください。
振込にするよう強く求め続ける
給料は、会社が労働者に直接支払う義務があると解説しました。
この点、労働者の同意があれば、銀行などの金融機関の口座に振り込む方法は、一般的に広く活用されています。そのため、在職中に振込で受け取っていたなら、退職後も振込をするのが自然です。「取りに来ないと支払わない」という対応には嫌がらせの意図があることもあるため、その場合には、給料を振り込むよう、強く求め続けてください。
このとき、「なぜ振込ができないのか」という点について、書面で記録に残して質問するのがおすすめです。会社が不当な理由で振込を避けようとしていることの証拠が残せるからです。
労働基準監督署に申告する
最後の給料が振り込まれないとき、ただ待っていても受け取れない危険があります。
会社との関係性が悪化し、取りに行くのが難しいケースでは、「取りに来なければ支払わない」というのであれば、給料の未払いに等しい状況です。残業代や基本給などの賃金の未払いは労働基準法違反であるため、労働基準監督署に申告する方法も検討してください。
「労働基準監督署への通報」の解説

弁護士に交渉を依頼する
退職した会社と直接連絡を取るのが不安なとき、弁護士に交渉を依頼することができます。
弁護士に依頼すれば、給料を手渡しではなく振込や現金書留で支払うよう、退職者に代わって強く要求してもらうことができます。社長や上司と直接顔を合わせる必要がないため、精神的な負担を軽減しながら、働いた分の給料を確実に受け取れるのが大きなメリットです。
なお、法律問題に関する交渉は弁護士にしかできないため、民間業者が運営する退職代行サービスでは、給与支払いに関する交渉は対応できません。
最後の給料を取りに行くときの注意点

最後の給料を確実にもらうため、会社に取りに行くときのポイントを解説します。
前章では、「取りに行きたくないときの対策」を解説しましたが、会社に嫌がらせの意図がなかったり、取りに行ってもハラスメントを受けるなどの危険がなかったりする場合、勇気を出して取りに行く方が解決が早いケースもあります。なお、身の危険を回避するため、在職中にセクハラやパワハラがあった場合は、弁護士に対応を任せるのが適切です。
事前に連絡して円満解決を目指す
給料を取りに行くときは、突然訪問するのではなく、事前連絡をしましょう。
会社の対応が不誠実でも、刺激をすればトラブルが拡大しかねません。特に、円満退職でなかったり、会社に迷惑をかけた自覚があったりする人は、伝え方に注意してください。
飛んだ、バックれたといった問題ある辞め方をした場合、給料を取りに行く前に、自分の非を認めて謝罪した方が円満に解決できるケースもあります。「ご迷惑をおかけしました」と謝ったとしても、給料を放棄する意味はなく、受け取る権利がなくなるわけでもありません。むしろ、会社から反論される可能性に事前に備えておくことで、有利に進めることができます。
「退職したらやることの順番」の解説

嫌がらせの危険を回避する
ただし、取りに行く際は、くれぐれも危険に注意してください。
「取りに来ないと給料を支払わない」などと伝えてくる会社は、ブラック企業の可能性があります。少なくとも、労働者の権利に配慮がなく、不当にプレッシャーをかけようとする意思があるでしょう。不用意に給料を取りに行き、ハラスメント被害に遭うのは避けるべきです。
危険が大きいと感じるとき、会社の言うなりになってはいけません。取りに行く決断をした場合も、危険を排除するため、次のポイントを押さえておきましょう。
- 直接社長と対面しないようにする。
- 総務や労務の担当者から受け取れるよう交渉する。
- 日時や場所は労働者側で指定する。
- 他の社員も出社している時間帯(日中・業務時間内)に取りに行く。
- できる限り社外で待ち合わせる。
なお、以上のポイントはあくまで、「嫌な思いはするが、取りに行っても大丈夫だろう」と判断できる場合です。在職中にセクハラやパワハラがあったなど、本当に身の危険を感じるなら、どれほど用心しても取りに行くことはおすすめできず、他の手段を検討してください。
「パワハラの相談先」の解説

友人・家族に同行してもらう
一人で行くと何を言われるか分からず、恐怖や不安が大きいケースもあるでしょう。
この場合、友人や家族に同行してもらう方法があります。代わりに行ってもらうと「本人が来ないのは失礼だ」などと言いがかりを付けてくる社長もいますが、本人が行くなら文句は言えません。複数人で行けば、暴言や暴力、嫌がらせなども抑止できます。
ただし、逆にこちらが脅したと言われないよう注意してください。同行者には黙って近くで見守っていてもらうだけにして、交渉したり報復したりするのは止めるべきです。また、あくまで友人や家族にとどめ、「強面の知人に圧力をかけてもらおう」などとは考えないでください。
退職後、冷静になってから取りに行く
労働トラブルが起こると、労使共に感情的になって、収拾がつかないこともよくあります。
社長や上司が怒鳴ったり罵声を浴びせたり、人格否定をしたりするのはパワハラですが、あなたの側でも口調が強くなったり、不適切な内容を口走ったりしてはいないでしょうか。このようなケースでは、給料を取りに行くのは、少し落ち着いて冷静になってからの方が良いです。
退職したからといってすぐに給料を取りに行き、顔を合わせて喧嘩になれば「売り言葉に買い言葉」でさらに紛争が激化するおそれがあります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

給料手渡しそのものは違法ではない

最後に、給料手渡しそのものの違法性について解説しておきます。
退職時のトラブルで、「取りに来ないと給料は払わない」と言われると、そもそも給料を手渡しにすること自体が違法なのではないかという疑問が生じます。しかし、結論としては、給料を手渡しで支払うこと自体は、必ずしも違法ではありません。
むしろ労働基準法上は、給料の支払いは、手渡しが原則とされます。
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」(労働基準法24条1項)と定められており、このルールは、労働者を保護することを目的とした「賃金支払いの五原則」という非常に重要なものです。
現代は、振込で支払っている企業の方が多いですが、これは労働者の同意を得て行う便宜上の扱いに過ぎません。手渡しが原則とされるのは、それ以外の方法だと、不当に差し引かれるなど、労働者の手元に全額が渡らない危険があるからです。
とはいえ、退職のタイミングでは、むしろ手渡しがプレッシャーになることも多いです。労働者にとって酷な状況になることのないよう、「取りに行きたくないときの対策」と「最後の給料を取りに行くときの注意点」を参考に、慎重に対応してください。
【まとめ】最後の給料の手渡しの違法性

今回は、退職後になって、最後の給料を支払おうとしない会社への対策を解説しました。
「給料を取りに来るように」と言われても、あきらめてはいけません。働いた分の給料を支払わないのは違法であり、最後の給料だけ手渡しにする嫌がらせは、不当な扱いだと考えるべきです。
退職後に会社へ出向くのは苦痛でしょう。辞め方によっては、取りに行くこと自体にハラスメント被害などの危険を伴うおそれもあります。何度請求しても支払いに応じてもらえず、労働者自身での交渉が困難なら、労働審判や訴訟といった裁判手続きを検討することもおすすめです。
最後の給料が支払われず困っている場合は、早めに弁護士にご相談ください。
- 最後の給料支払いが退職後となることはよくあるが、働いた分は必ず受け取る
- 最後の給料を手渡しでないと払わないと言われても、振り込むよう強く求める
- 退職後に会社へ給料を取りに行くときは、危険の回避を最優先とする
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