「サマータイム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。最近、ニュースなどでも「サマータイム」導入についての話題が取り上げられています。
2020年に行われる東京オリンピック・パラリンピックに向けて、年々厳しくなる酷暑への対策として、政府が「サマータイム」導入を検討していることが報じられました。
政府が具体的に検討している、猛暑対策の「サマータイム」とは、「2時間」のサマータイム、すなわち、時計の針を2時間、前倒しするという内容です。これにより、節電や、余暇の増加による消費活動の増加などのメリットがあるとされています。
しかし、まだ検討段階で、導入はされていません。この「サマータイム」で、長時間労働、残業、過労死など、労働環境に大きな影響を及ぼすのではないか、という指摘が、各所からされており、賛否両論ある状態です。
そこで今回は、話題の「サマータイム」によって、増加する可能性のある労働問題について、労働問題に強い弁護士が解説します。
目次
1. サマータイムとは?
「サマータイム」は、日本語で「夏時間」ともいいます。また、アメリカでは、「DST(デイライト・セービング)」ともいいます。
「デイライト・セービング」という言葉からもわかるとおり、サマータイムの主要な目的は、日照時間の長い夏に、「太陽光(日の光)」を有効活用するための時間制度です。明るい時間を有効活用するわけです。
サマータイムの実施地域、実施時刻は、国と地域によってさまざまですが、主にサマータイムを実施して売る邦は、次のとおりです。
- アメリカ・カナダ・メキシコ
- ヨーロッパ各国
- オーストラリア・ニュージーランド
ただし、サマータイムを実施している国の中でも、一部の州、地域ではサマータイムが行われていないことがあります。
いずれの国でも、おおむね3月~11月の間が、サマータイムの実施時期とされています。主に、夏冬の日照時間が大きく異なる、高い緯度の国で採用されています。
2. 日本におけるサマータイム制度
実は、昔は日本でも、サマータイムが導入されていた時期があります。
第二次世界大戦の終戦直後、GHQの指導のもとに、サマータイムが導入されていた時期があります。しかし、結局、終戦直後に採用されたサマータイムは、日本では廃止となっています。
サマータイムの廃止理由には、労働時間の長時間化、生産効率の低下などの、サマータイムによる労働問題の増加にありました。
また、まだ記憶にあたらしい東日本大震災の直後にも、夏の電力削減(省電力)を目的としたサマータイムの導入が議論されましたが、結局サマータイムの導入は見送られました。
今回、安倍内閣において、サマータイムが再度検討されることとなりましたが、サマータイムに関する法律の制定、サマータイムの導入には、労働問題を含む多くのハードルがあると予想されています。
3. サマータイム制度にともなう労働問題とは?
確かに、サマータイムには、制度導入の目的・メリットがあります。
太陽光を浴びることのできる時間を有効活用でき、冷房の省電力化や、余暇時間(プライベート時間)の活用などが期待できます。
しかし一方で、サマータイム制度に反対する側の意見として、サマータイム制度が労働環境に悪影響を与え、労働問題が増加するのではないか、という点が指摘されています。
サマータイムの導入にともなう労働問題について、弁護士がまとめました。
【サマータイムの労働問題①】結局一番暑い時間は労働時間
今回話題となっている日本の「サマータイム制度」は、オリンピックに向けて、時刻を「2時間」早めるものです。
しかし、朝の2時間のズレだけでは、気温はそれほど変わらず、猛暑対策、熱中症対策としての効果は、それほど見込めないのではないかという指摘があります。
たとえ労働時間の開始を2時間前倒ししたとしても、最も暑い正午~午後3時頃の時間帯が労働時間であることは変わりません。
【サマータイムの労働問題②】労働時間が延長される危険がある
サマータイム制度の導入によって労働時間の開始が2時間早められると、労働時間の終了も2時間早められることが期待できるでしょうか。
労務管理が徹底され、サマータイム制度を積極的に活用する会社では、そのような効果があるかもしれません。
しかし、労働時間の管理がずさんな会社では、始業時刻が早くなったとしても終業時刻はあまり管理されず、結局残業が長引くだけで、労働時間が延長される危険があります。
ブラック企業では、長時間労働の増加により、過労死、過労自殺、メンタルヘルスなどの問題が増加されることが予想されます。
【サマータイムの労働問題③】サービス業の長時間労働
さきほど解説したとおり、サマータイムによって始業時刻が早まっても、結局帰宅時間は同じとなり、労働時間が延びるのではないか、という指摘は、特にサービス業では顕著にあてはまります。
サマータイム制度の導入により、プライベート時間を有効活用できると指摘されていますが、このプライベート時間の消費活動をあてにしたサービス業(飲食業・宿泊業など)では、終業時刻後の残業時間が延びることが予想できます。
特に、「名ばかり管理職」や、裁量のない「裁量労働制」など、これまでも違法に残業代が支払われてこなかった労働者が、さらに長時間酷使されるおそれがあります。
【サマータイムの労働問題④】サマータイム対応のための長時間労働
サマータイムを導入するためには、ITシステムについての調整、改修が必要となります。
時計の針を2時間ずらすだけ、と聞くと簡単にみえますが、実際には、時刻によって管理されているすべてのシステムに、サマータイムを適用する必要があります。
サマータイム対応のために、サマータイム開始時・終了時に、多くの労力がかかるため、この対応に追われる労働者が、長時間労働を余技なくされ、健康被害の犠牲となるおそれがあります。
【サマータイムの労働問題⑤】生活リズムの混乱による健康被害
生活リズムを2時間もずらすことは、非常に苦労をともなうことです。例えば、海外旅行のときの「時差ぼけ」を思い浮かべてみてください。
これまでの習慣が、2時間ずれることにより、生活リズムが乱れ、体調を崩してしまう労働者も増加することが予想されます。
サマータイムの導入に反対する立場からは、サマータイムが自律神経への悪影響を与える結果、労働者がうつ病、適応障害などの精神疾患(メンタルヘルス)にかかる原因になるおそれがあると指摘されています。
4. まとめ
今回は、東京オリンピック・パラリンピックに向けて話題となっている「サマータイム制度」が、労働問題に与える影響について、弁護士が解説しました。
「サマータイム制度」の導入だけで、ゆとりや豊かさが生まれるという過信は禁物です。サマータイムであっても、1日が24時間であることはかわらず、労働問題の根本的な解決なしには、サマータイムの実現は困難です。
サマータイムになったからといって残業代、長時間労働、過労死、熱中症などの問題が解決できるわけではなく、サマータイムの導入にかかわらず、労働環境の改善は、慎重に行う必要があるからです。
劣悪な労働環境、長時間労働などにお悩みの労働者の方は、労働問題に強い弁護士へ、お早めに法律相談ください。