採用・内定

新型コロナで内定取り消しされたら違法?損害賠償請求できる?

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運営元:弁護士法人浅野総合法律事務所

年度始めころになると毎年、内定取り消しの相談が寄せられます。特に、2020年(令和2年)は、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響による内定取り消しが増加しているとの報道もあり、実際にもそうしたご相談が多く寄せられています。

「新卒」の時期は、基本的に一人に一度しかおとづれません。日本では、企業の多くがいまだに「新卒採用」を原則としており、中途採用は例外的という採用形態を採っているため、新卒での採用を逃すと、この先、中途採用されたとしても内定を受けた会社より良い条件とは限りません。

また、内定をもらっていたために他の会社の内々定を辞退した、応募を辞めたという方にとっては、内定取り消しのダメージは計り知れません。

そこで今回は、新型コロナウイルスを理由とする不況で増加することが予想される「内定取り消し」と戦う方法について、労働問題に強い弁護士が解説します。

「新型コロナウイルスと労働問題」の法律知識まとめ

新型コロナによる内定取り消しとは?

新型コロナウイルス(COVID-19)を理由として、2020年の春に入社予定の会社から入社時期を繰り延べされたり、内定の取り消しを受けている労働者が増加しています。全国の労働局が相談を受けた内定取り消しのケースは、2020年4月30日現在で92人に達しています。

新型コロナウイルスを理由とする内定取り消しの多くは、この感染症禍を理由とする売上低下、業績悪化によるものが多いと予想されますが、このような会社の一方的な都合による取り消しは、限定的に考えられています。

内定取り消しとは?

「内定」とは、法的には、「解約権留保付労働契約」であるとされています。

その意味は、「解約権留保付」とは、会社側(企業側)に労働契約を取り消す権利が保持されていることを意味しています。つまり、内定段階ですでに雇用契約は成立するものの、その後に一定の要件を満たした場合には取り消されることがあらかじめ予定されているわけです。

そして、「内定取り消し」は、会社側(企業側)がこの留保されていた解約権(労働契約を取り消す権利)を行使して、労働契約をその期間がはじまる前に取り消すことを意味しています。

内定取り消しは違法!

内定取り消しが、会社側(企業側)に留保されていた解約権の行使にあたるとしても、自由に解約権を行使することができるわけではありません。

採用内定者は、内定を受けると、その企業への就労を期待するのが当然であり、他企業への就職活動を辞めるのが通例となっています。そのため、このような採用内定者の「期待」は保護されるべきであって、内定取り消しが許されるのは、解雇の場合に準じた限定的なケースのみとされています。

内定取り消しの制限は、解雇の場合よりは緩やかですが、すくなくとも、一方的に会社の都合でおこなうことは許されていません。

内定取り消しについての最初の最高裁判例(大日本印刷事件:最高裁昭和54年7月20日判決)では、裁判所は「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることができないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である」という判断基準を示しています。

したがって、内定取り消しの理由が、客観的に合理的で社会通念上相当と認められる理由でない場合には、採用内定の取り消しは違法であり、無効です。

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内定はいつ成立するの?

このように内定取り消しが違法と判断される可能性が高いですが、その前提として、そもそも「内定」が成立していなければなりません。

では、どのような段階で内定が成立したといえるのでしょうか。

採用内定についての通知を受けて、その通知に対して会社所定の誓約書や承諾書などを提出した時点で、会社と採用内定者との間で内定が成立することは明らかです。

しかし、内定の成立のために必ずしも書面がなければならないわけではなく、内定は口頭でも成立します。少なくとも「内定」という表現は用いていなくても、会社側から、労働の開始時期、労働条件について提示があり、内定者がこれを承諾して会社側に通知したタイミングでは、既に内定は成立していると考えるべきです。

なお、労働条件などのすべてを内定者が具体的に知らなくても「就業規則にしたがう」と承諾していても、内定は成立します。

内定取り消しが認められる理由は限定的!

内定取り消しには、解雇の場合に準じた制限が課されています。これは、いわゆる「解雇権濫用法理」というルールです。つまり、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上の相当性のない解雇は違法、無効となるのと同様、これと同様の内定取り消しもまた、違法、無効となるのです。

この制限によって、内定取り消しが認められる例とは、客観的に合理的な理由であり、かつ、社会通念上相当であるとともに、「採用内定当時知ることができず、また知ることができないような事実」である必要があります。

新型コロナウイルスを理由とする内定取り消しが、相当認められづらいことを理解していただくため、次に、内定取り消しが例外的に認められるケースについて弁護士が解説します。

卒業資格が得られなかった

「卒業資格が得られなかった」「業務遂行に必須となる資格を取得できなかった」という場合は、それらが採用の条件として明示されている場合には、内定取り消しをすることが認められます。

内定を出した時点では卒業資格などを得られる見込みであったのに、その後に得られなくなってしまったということは、内定当時、すくなくとも会社側では知り得ない事実にあたるとともに、それを理由とする内定取消には、客観的に合理的で社会通念上も相当な理由と判断されるからです。

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就労できる健康状態ではなかった

就労することができる健康状態ではなくなった場合にも内定取り消しが有効であると認められます。

ただし、内定の前に健康診断を受けている場合や、内定後でも会社の指示する健康診断を受けており、それらの健康診断では判明していなかった疾病が判明した、健康診断後に負傷したり、発病したといった内定当時とは健康状態が異なる場合に限られます。

内定前と同様の健康状態である場合には、会社側はその健康状態に応じて就労可能性を判断できたはずですから、同じ健康状態を理由に内定を取り消すことは解約権の濫用にあたり、認められません。

解雇理由となる事情が発覚した

正社員として入社した後であっても、「このような事情があったのであれば、解雇されてもしかたない」といった事情が明らかになった場合には、内定取り消しをすることが可能です。

例えば、「履歴書の経歴を詐称した」「犯罪行為が発覚した」「SNSなどに不適切な書き込みをおこなった」など、就業規則に照らして、社員であっても解雇されても相当と認められるような事由が発覚した場合には、会社は内定を取り消すことができます。

経営状況の悪化

経営状況の悪化が深刻な場合にも、内定取り消しが例外的に認められるケースがあります。

ただし、経営状況の悪化を理由とする内定取り消しを有効におこなうためには、正社員についての整理解雇・リストラすら許されるほどの危機的状況でなければなりません。

特に、新型コロナウイルスを理由とする経営状況の悪化は、一時的なものである可能性が高く、政府支援策などを活用した経営努力によって乗り切れる場合には、内定取り消しは違法の可能性が高いです。

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新型コロナによる内定取り消しが「不当解雇」となるときの対応

新型コロナウイルスによる経営状況の悪化を理由として、内定取り消しをおこなうことが認められるケースとは、さきほど解説したとおり、整理解雇・リストラが認められるほどの危機的な状況に至った場合です。

整理解雇・リストラは許されないような場合であっても、会社が経営上の理由によって内定の取り消しや自体を迫ることがあります。しかし、内定者は、労働組合などのサポートもなく、ひとたび新卒の資格を失ってしまえば二度とは手に入らないといった点で、正社員よりも弱い立場にあり、不当解雇でも受け入れてしまいがちです。

そこで、内定取り消しが不当解雇となる場合に、労働者側のとるべき対応方法について弁護士が解説します。

「整理解雇の4要件」を検討する

整理解雇・リストラが認められるためには、次の4つの要件を満たさなければなりません。これを、専門用語で「整理解雇の4要件」と呼びます。

  • 人員削減の必要性
  • 解雇回避努力義務の履行
  • 被解雇者選定の合理性
  • 手続の妥当性

この4つの要件を総合的に考慮したうえで、解約留保権の趣旨・目的に垂らして客観的に合理的で、社会通念上相当と是認することができる場合にだけ、内定取消が認められることとなります。

そこで、内定取り消しを受けてしまったら、はじめに、新型コロナウイルスによってもたらされた不況を理由とすることが、この「整理解雇の4要件」を満たすかどうかについて検討する必要があります。

経営状況が真に悪化しており、事業の縮小、廃止を進めざるを得ない状況では、「人員削減の必要性」は認められます。そして、整理解雇を行う場合に、すでに就労している社員よりも就労前の内定者を選定する点については一定の「被解雇者選定の合理性」が認められます。

しかし、内定取り消しを行う会社の多くは、整理解雇を回避するために十分な経営努力をなしているとはいえず、また、内定者に対して、十分な説明・協議を行い、納得を得られるよう務めるという手続の妥当性についても満たしておらず、新型コロナウイルスに責任転嫁をしているのではないかと疑われるケースが少なくありません。

補償・損害賠償を求める

内定取り消しが、さきほど解説した「整理解雇の4要件」を満たさず、違法と判断される可能性のあるときには、会社に対して、補償や損害賠償を求めることができます。

会社が適切な補償をおこなわないときには、労働審判や訴訟による解決を目指すべきです。

違法な内定取り消しをおこなった会社に請求すべき補償や損害賠償の相場としては、労働審判において金銭解決する際の相場を参考として考えてください。このように考えると、試用期間にあたる3か月程度の給料額が一般的な相場となります。

ただし、事情によっては、内定取り消しがとくに悪質であると判断されて、高額の慰謝料額が認められるケースもあります。こちらについては、のちほど解説します。

社会的な責任を追及する

リーマンショック以降、内定取り消しが社会問題化し、新卒者の内定取り消しについては事前にハローワークと学校長へ通知しなければならないこととされています。

また、悪質な内定取り消しについては、厚生労働大臣が企業名を公表する制裁があります。

要件は、以下のいずれかに該当する場合です。

  • 二年度以上連続して行われた
  • 同一年度内において十名以上の者に対して行われた
    (内定取消しの対象となった新規学卒者の安定した雇用を確保するための措置を講じ、これらの者の安定した雇用を速やかに確保した場合を除く。)
  • 生産量その他事業活動を示す最近の指標、雇用者数その他雇用量を示す最近の指標等にかんがみ、事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないとき
  • 次のいずれかに該当する事実が確認されたもの
    ① 内定取消しの対象となった新規学卒者に対して、内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき
    ② 内定取消しの対象となった新規学卒者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき

特に、新型コロナウイルスを理由とする内定取り消しは話題性が大きいため、ハローワークや学校に相談することで企業名公表へと至る可能性があります。

ただし、内定者自身が匿名掲示板やSNSへ書き込みすることは、たとえ内定取り消しが事実であったとしても、名誉棄損や業務妨害などにあたり違法とされる可能性があるため避けるべきです。

違法な内定取り消しで、高額の損害賠償請求ができるケース

違法な内定取り消しを受けてしまったときには、ここまで解説してきたとおり、慰謝料などの損害賠償請求をおこなうことができます。

請求できる慰謝料額は、内定取り消しの悪質性・違法性に応じて変わります。内定取消における違法性が強い場合、例えば、就職日の直前に内定を取り消した場合や、取消の理由が社会的に相当性を著しく欠く場合などには、慰謝料を含めて高額の賠償額を得ることができる場合があります。

違法な内定取り消しを受けてしまったことを理由に、高額な損害賠償を獲得した事例には、例えば次のものがあります。

札幌地方裁判所令和元年9月17日判決

病院の社会福祉士の採用に応募したが、内定が出た後に、その病院の受診歴で内定者がHIVに感染していたことが判明し、これを理由としておこなわれた内定取り消しの有効性が争われた事件です。

裁判所は、HIV感染に対して社会的偏見・差別が根強く残っている現状では、特段の事情のない限り、採用にあたって応募者がHIV感染の事実を告げる義務はなく、これを理由とする内定取消は、違法であり、かつ、患者の医療情報を、健康管理に必要な範囲を超えて採用活動に利用したことは応募者に対する不法行為にあたると判断して、165万円の支払を命じています。

福井地裁平成26年5月2日判決

中途採用者の内定取り消しに関する事案。内定を受けて前職を退職していたこと、再就職先の給与が前職よりも減額されることなどから、違法性の高い内定取り消しであると判断されました。

裁判所は、この違法な内定取り消しに対して、本来予定されていた就職日から実際に再就職した日の前日までの賃金相当額から受給した失業保険給付額を控除した金額に、内定取り消しの悪質性を考慮した慰謝料を含めて、合計252万8114円の支払いを命じました。

福岡高裁平成23年3月10日判決

内定まで至っていない内々定の取り消しの事案。内々定の状態であったとしても、採用内定通知書の交付日程が決まり、そのわずか数日前に内々定を取り消されたという悪質性を考慮して期待が法的保護に十分に値する程度に高まっていたと裁判所は判断しました。

そして、内定取り消しによって内々定者が得た精神的苦痛に対して慰謝料・弁護士費用として55万円の賠償を命じています。

「労働問題」は、弁護士にお任せください!

今回は、新型コロナウイルスによる経営状況の悪化を理由として、会社から内定取消の対象となってしまったとき、労働者側がどのように対応したらよいかについて弁護士が解説しました。

コロナ不況による倒産や、正社員の整理解雇(リストラ)増大の報道などに触れていると、「正社員の雇用を守る」という目的が優先されて内定取り消しを受け入れてしまう方も少なくありません。しかし、内定取り消しもまた、「不当解雇」と同様、違法・無効となることがあり、許されないケースもあります。

会社として尽くすべき努力をないがしろにして、景気がいいときには内定者を囲い込みつつ、景気が悪くなると真っ先に内定者を犠牲とする会社に対しては、責任追及が必要です。不当な内定取消に対しては、慰謝料を請求することもできます。

新型コロナウイルスをめぐる労働トラブルでお悩みの方は、ぜひ一度、労働問題に強い弁護士に法律相談ください。

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弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区銀座)は、代表弁護士浅野英之(日本弁護士連合会・第一東京弁護士会所属)をはじめ弁護士5名が在籍する弁護士法人。 不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、近年ニュースでも多く報道される労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。 「労働問題弁護士ガイド」は、弁護士法人浅野総合法律事務所が運営し、弁護士が全解説を作成する公式ホームページです。

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