「髭(ひげ)」を理由に、不当解雇されてしまった労働者の方からのご相談です。
※ご相談内容は架空のケースです。労働問題に強い弁護士は、法律相談の秘密は必ず守ります。
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- 私は、東京都内にあるベンチャーのIT企業に、中途で入社し、プログラマとして働いている30代の男性です。
私は、大学時代にプログラミングに興味を持ち、新卒でIT企業に就職して以降、何度か転職をしましたが、プログラマとしてスキルを磨いてきました。
プログラマーの仕事は、時間の裁量がある程度まかされているため自由がききますが、その分、長時間労働となることもあるといわれています。
私は、「好きな仕事を好きなときにできる。」というプログラマーのワークスタイルが非常に好きで、今後もプログラマーとして生きていくつもりです。
さて、プログラマーをはじめ、ベンチャーのIT企業では、大企業などのお堅い仕事に比べて、自由な服装で出勤しているところが多いのではないかと思います。
私も、これまで、仕事中の服装や、私の見た目について会社から文句をいわれたことはありませんでした。プログラマーとしてしっかりとプログラミングの仕事をしていれば、「外見に文句を言われる筋合いはない!」と思っていました。
しかし、この度、私が長年はやし続けてきた「ヒゲ(髭)」を剃ってくるようにと、会社の上司から命令されました。
私のひげは、「願掛け」であり、調子のよいときは絶対にヒゲは剃らないと決めていました。ポリシーがありますから、髭(ひげ)を剃ることには、社長命令であっても承知できません。
私が、「ヒゲをそりたくない。」と強く伝えたところ、上司を通じて、突然、「明日から来なくてよい。」と伝えられました。
あわてて、「それは解雇ということですか?」とたずねたところ、「そのように理解してもらっても構わない。とにかく、髭(ヒゲ)の生えた社員はいらない。」とのことでした。
解雇になるくらいであれば、ポリシーを曲げて髭(ヒゲ)を剃ることも考えましたが、突然のことで、すでに「問題社員」として目を付けられてしまったことは明らかでした。
違法な「不当解雇」にあたるのではないか、労働法に詳しい弁護士の法律相談を希望します。
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「ヒゲ(髭)」を理由に解雇できるかどうか、という質問に対する回答は、ケースバイケースといわざるをえません。
ただ、ヒゲをはやすかどうかは、原則としては個人の自由ですから、解雇をすることは、基本的には困難な場合の方が多いといってよいでしょう。
まずは、会社で、「ひげを生やすこと」が禁止されているかどうか、就業規則などの会社のルールを確認してください。
その上で、会社のルールで明確に禁止されていたとしても、その理由次第では、「ひげ禁止」ルール自体が無効と判断される場合も多くあります。
例えば、業務に全く支障がないのであれば、「ひげ禁止」のルール自体が無効となる可能性が高いといえます。
- 私は、東京都内にあるベンチャーのIT企業に、中途で入社し、プログラマとして働いている30代の男性です。
1. 会社のルールで「ヒゲ」が禁止されているか?
「ヒゲ(髭)」をはじめとした、外見を理由として解雇をされてしまったという法律相談があります。
外見を理由に解雇をできるかどうかは、まず、その解雇が労働者(従業員)にとって不意打ちでないかどうかを検討してください。
つまり、会社のルールで、あらかじめ「ヒゲ禁止」と定められていて、労働者(従業員)にもきちんと知らされていれば、少なくとも不意打ちにはならないです。
会社のルールを決めている、次のようなものを確認し、お勤めの会社で、「ヒゲ(髭)」が禁止されているかどうか確認しましょう。
- 就業規則
- 雇用契約書
- 採用時の説明
- その他、社長や上司からの注意、指示を示すもの
会社の側でも、有効に「ヒゲ」を禁止したいのであれば、これら全てに「ヒゲ禁止」のルールを明記して、労働者(従業員)に伝えるべきです。
会社が決めたルールに違反していた場合には、「会社の秩序を乱す」として、次のような懲戒処分がされるおそれがあります。その最も重い処分が、懲戒解雇です。
- けん責
- 戒告
- 出勤停止
- 降格
- 懲戒解雇
2. 「ひげ禁止」のルールは有効か?
次に、会社のルールで「ひげ禁止」と定められていたとしても、そのルール自体が有効であるかどうか、を検討してください。
そもそも会社の定めた「ひげ禁止」ルール自体が無効であれば、これに違反したからといって、懲戒処分とすることはできませんから、解雇とされた場合、争うことができるわけです。
そして、憲法において、個人は、自分の外見を決める権利(「自己決定権」といいます。)が認められていますから、原則として「ヒゲをはやすかどうか。」は自由です。
この自由は、労働者(従業員)が会社と労働契約(雇用契約)を結んでいるという関係から、「必要な範囲内でのみ」制限することができます。
つまり、「業務に支障がある場合」という限られた場合にのみ、「ヒゲをはやすかどうか。」を会社が指示することができるわけです。
ヒゲをはやすことが、業務に支障がある場合とは、例えば次のようなケースです。
- 飲食店ではたらいていて、不衛生なヒゲの生やし方のため、お客様からクレームが入っている。
- 他の従業員を不愉快にさせるほど非常識なヒゲを生やしている。
- ヒゲを生やすことが不自然な業界の会社に勤務している。
これらの例からもわかるとおり、ヒゲを禁止できるかどうかに大きく関わってくるのが、勤めている会社の業種や、労働者(従業員)の業務内容です。
憲法という重要な法律で、原則としては労働者(従業員)の自由であるとされていることを念頭において、「それでもヒゲ禁止の意味があるのか?」をよく考えてみてください。
3. まとめ
「ヒゲ禁止のルールに違反したため、解雇された。」という法律相談についての回答は、「不当解雇とされる可能性が高い。」といえます。
不当解雇されてしまった労働者(従業員)側として、ブラック企業と戦うために検討して頂きたいポイントは、次の3点です。
- 憲法上の原則として「自己決定権」があり、ヒゲ(髭)をはやすことは労働者(従業員)の自由
- 業務上の支障がある場合には、例外的に、会社はヒゲ(髭)を禁止にすることができる
- 会社がヒゲ(髭)を禁止し、解雇する場合であっても、事前に労働者(従業員)に伝える必要がある
これらのことを守らない、不当な解雇に対しては、労働審判、裁判などの方法によって争うことができます。
ヒゲ(髭)を理由に不当な解雇をされてしまった労働者(従業員)の方は、労働問題に強い弁護士へ、お気軽に法律相談ください。