パートタイマーやアルバイト社員など、通常の正社員に比べて労働時間が短い従業員は、労働時間が短いことを理由として、これまで、健康保険、厚生年金保険に加入することができませんでした。
その基準は、いわゆる「4分の3基準」というもので、通常の正社員の4分の3未満しか労働時間がないものについて、健康保険、厚生年金保険の加入義務の対象とはしてきませんでした。
しかし、平成28年10月1日より、適用対象が拡大されました。
平成28年10月1日から、「4分の3基準」が撤廃されたわけではなく、相変わらず、労働時間による加入制限は残っています
しかし、一定の要件を充足する短時間労働者については、労働時間が正社員の「4分の3基準」未満であっても、健康保険、厚生年金保険の被保険者とされることとなりました。
今回は、パートタイマーやアルバイト社員が厚生年金保険、健康保険に加入できる要件について解説します。
保険の加入を含めた労働条件について、会社の扱いに疑問がある場合には、労働問題に強い弁護士へご相談ください。
目次
1. 保険加入の「4分の3基準」(従来)
従来より短時間労働者は、いわゆる「4分の3基準」により、正社員の4分の3未満の労働時間しか就労していない場合には、健康保険、厚生年金保険の被保険者となることができないとされていました。
「4分の3基準」とは、正確にいうと、次の要件となります。
4分の3基準1日または1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が、通常の就労者と比べて4分の3以上の者を被保険者とする。
なお、ここでいう「通常の就労者」とは、同一の事業所において、同一の業務に従事する正社員のことを指します。
つまり、従来の4分の3基準の場合、「1日または1週の所定労働時間」「1月の所定労働日数」のいずれもが、正社員の4分の3以上でないと被保険者として取り扱われず、また、このいずれかが4分の3未満である場合には、例外なく被保険者とされないこととなっていました。
2. 平成28年10月1日以降の適用拡大
平成28年10月1日以降の変更点は、次の2点です。
- 4分の3基準を満たす労働者について「1日または1週の」を「1週の」と明確化
- 4分の3基準を満たさない労働者について一定の要件を充足すると被保険者とされる
→ 「一般被保険者」の明確化
→ 「短時間被保険者」の新設
まず、「4分の3基準」を満たす労働者については、これまで通り被保険者として扱われるわけですが、この判断の際の要件を「1日又は1週の」と不明確かつ曖昧であったところを「1週の」と明確化しました。
「4分の3基準」を満たす労働者を、今後は「一般被保険者」と呼ぶこととなります。
次に、「4分の3基準」を満たさない労働者についても、一定の要件の充足を条件に被保険者として扱うこととなりました。
これを「短時間被保険者」といい、この短時間被保険者の新設が、大きな適用拡大となります。
労働者(あなた)が会社において健康保険、厚生年金に加入することができるか疑問がある場合には、労働問題に強い弁護士へご相談ください。
3. 短時間被保険者の要件
短時間被保険者と認められるための要件は、次の5つです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 1年以上雇用される見込みがある
- 報酬月額が8万8000円以上
- 学生でない
- 一般被保険者が常時500人超の会社である
「短時間被保険者」の要件の定義について、順に解説していきます。
労働者(あなた)が会社において健康保険、厚生年金に加入することができるか疑問がある場合には、労働問題に強い弁護士へご相談ください。
3.1. 週の所定労働時間が20時間以上
週の「所定労働時間」についての要件ですので、残業時間、休日出勤などの時間外労働や、突発的な労働は加算されません。
あくまでも、就業規則や雇用契約書において約束された所定労働時間が20時間以上ある必要があります。
所定労働時間が付き、年を単位として定められている場合には、1年を52週として次の通り算出します。
- 1か月単位の場合 : 1か月の所定労働時間 × 12 ÷ 52
- 1年単位の場合 : 1年間の所定労働時間÷52
なお、所定労働時間に変動がある場合には、平均時間を算出して要件の該当性を判断します。
3.2. 1年以上雇用される見込みがある
雇用契約書によって合意された雇用期間が1年以上である場合と、雇用期間の定めがない場合が、「1年以上雇用される見込みがある」場合に該当することには争いありません。
問題は、雇用契約において定められた雇用期間が1年未満であった場合です。
雇用契約に定められた雇用期間が1年未満であったとしても、次の要件のいずれにも該当する場合でない限り、1年以上雇用される見込みがあるものと取り扱われます。
- 雇用契約書などの書面において契約更新される旨またはその可能性がある旨が明示されていない。
- その事業所において同様の雇用契約に基づき雇用されている者について、更新などにより1年以上雇用された実績がない。
したがって、「契約更新の可能性がないことが書面で明示されている場合」かつ「同種の業務を行う社員が皆1年未満で雇用を終了している場合」など、ごく限られた場合のみこの要件を満たさないこととなります。
3.3. 報酬月額が8万8000円以上
「標準報酬月額」で判断するわけではない点に注意です。
報酬月額が8万8000円以上であるとして健康保険、厚生年金保険に加入する場合には、改めて標準報酬月額を算定する必要があります。
通常、標準報酬月額の算定の場合、残業手当や通勤手当も加算されるものですが、報酬月額の算定においては、次の報酬は控除して考えます。
報酬月額から控除される報酬は、次の3つです。
- 臨時に支払われる賃金および1月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 所定時間外労働または所定休日労働に対して支払われる賃金、および深夜労働に対して支払われる賃金のうちの割増賃金分
- 最低賃金法において算入しないと定められている精皆勤手当てや通勤手当、家族手当など
例えば、慶弔手当や賞与などは、報酬月額の計算上は、控除されることとなります。
ただ、パート、アルバイト等の雇用形態の場合には、ここで列挙するような控除されるべき報酬が支給されている例は、むしろ多くないのではないでしょうか。
3.4. 学生でない
学生は、その学校の種類によらず、短時間被保険者の適用拡大の対象とはされていません。
ただし、学生であっても、次の学生は短時間被保険者の適用拡大の対象となります。
- 卒業見込み証明書を有し、卒業後もその事業所に勤務する予定の者
- 休学中の者
- 夜間部や定時制課程の者
3.5. 一般被保険者が常時500人超の会社である
一般被保険者、すなわち、4分の3基準を満たす被保険者の人数が、常時500人以下の会社では、短時間被保険者の適用拡大は猶予されています。
この「常時500人」の基準は、事業所単位ではなく、企業単位で算出しますので、全事業所を合算して判断します。
500人を超える月が1年のうち6月以上あると見込まれる場合には、「常時500人を超える」に該当するものとされ、適用事業所の事業主は、「特定適用事業所該当届」を年金事務所へ提出し、また、短時間被保険者の資格取得届を合わせて提出して手続を行う必要があります。
なお、特定適用事業所の一般被保険者が500人以下に減少した場合には、被保険者の4分の3以上の同意を得ることによって、不該当届を提出し、特定適用事業所でなくすることが可能です。