性同一性障害の方にとって、これまで健康保険証に記載された氏名が、ストレスの種となるケースが多くありました。
戸籍上の変更をしていない性同一性障害の方の場合、自身の性自認とは異なる性別の名前が健康保険証に記載され、医療機関などではその名前で呼ばれ、他人の視線を気にしなければならないことがあったからです。
医療機関でも、性同一性障害であろうとそうでなかろうと、プライバシー保護の観点もふまえて名前を連呼しないなどの対応をするところもありますが、性同一性障害のマイノリティへの配慮は、まだまだ十分な状況ではありません。
今回は、性同一性障害の方について、すべての健康保険証で「通称名」の仕様が可能になったというニュースについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
1. 性同一性障害とは?
「性同一性障害」とは、生まれ持った生物学上の性別と、自身の性自認とが異なることを意味する疾患名をいいます。
「性同一性障害」の方の多くは、自身の性自認と生物学上の性別が異なることに強い違和感をおぼえ、性自認に近付くための性転換手術などの医療を望むこともあります。
しかし、すべての方が性転換手術をしたり戸籍上の性別を変更したりしているわけではないことから、今回解説するように、健康保険証の氏名によって、自身の性に対する違和感を強く感じてしまう場面が、日常生活の中では多くあります。
2. 健康保険証で「通称名」が使用可能に!
以上のような、性同一性障害の方の、自身の性別への違和感を感じる機会を少しでも少なくするために、今回、会社員向けの健康保険組合や協会けんぽ、後記高齢者の健康保険について、「通称名」を記載。
以前より、自営業者などが加入する国民健康保険については、保険証への通称名の記載が可能でしたが、これで、すべての健康保険証で「通称名」の使用ができるようになりました。
通称名の記載を可能とした目的は、冒頭でも解説しましたとおり、医療機関の受付窓口などにおいて、自身の性自認と異なる氏名で呼ばれることによる精神的苦痛を緩和することにあります。
3. 通称名の記載方法
性同一性障害の方が、保険証への通称名の記載をしたい場合には、まずは本人や家族から希望を出す必要があり、保険者の承認が必要となります。
通称名を記載する際であっても、保険証が本人確認書類として有効に機能するように、裏面には「戸籍上の氏名は○○」というように、戸籍上の氏名を併記することが必要となります。
4. まとめ
今回は、性同一性障害の方について、すべての健康保険証で、通称名を記載することが認められたという発表について、弁護士が解説しました。
性同一性障害の方は、その障害を理由として、職場いじめやパワハラの対象になってしまうことも残念ながら少なくありません。セクハラ問題は、「男性から女性」という1つの類型に限られませんから、性同一性障害のマイノリティの方に対する嫌がらせが、セクハラにあたることもあり得ます。
性同一性障害をお持ちで、職場でのトラブルにお悩みの労働者の方は、労働問題に強い弁護士に、お気軽に法律相談ください。